『attend attend ストーム小隊、UNIT.α・β・Γ各ポイント配備完了。スタンバイ』
『状況了解。突入許可。対象是非の確認不要、種族判別不要、エリア内における生体反応への発砲を許可。オペレーションDCを開始せよ Over』
『Move mooooveee!!!!!』『Go Go Go Go !!』
◆◆◆
————アントラクス城————
————最後の囚人は青い鳥を追って鳥かごを出た。そして誰もいなくなった筈の廃屋。
戦士が集い、運命が束なって紅月を撃ち落としたあの一夜から半年が経過。
そこを知るごく限られた人物は、彼女らがどこへ向かったのか尋ねる『荷物は受け取ってくれて居る』と答えた。その証言を裏付けるようにして、玄関には未開封のダンボールが整頓され積み上げられていた
北館3階通路。黒衣の復讐鬼と蒼炎の銀狼が拳を交えた痕跡はそのままに、中央には焼けただれた鉄筋が節々に見える大穴が天井から床にかけて口を開けて居る。
木漏れ日が差し込むそこには、人影など存在しなかったが刹那的に、ノイズのようなひずみが迸り、それは電流を纏って瞬く間に一つ、二つと人影を形作った
黒衣の兵士達「ジジッ……ジッ…… トッ(———光学迷彩へ身を潜ませた、黒一色で統一された装備に顔を含む全身を固めた姿を晒し、天井の大穴からロープを垂らしそれを伝って次々と館内へ降り立つ)UNIT.α突入。敵影なし(その数10名弱。それなりの幅はある廊下を瞬く間に埋め尽くし、最前線に立つ兵士が耳に手を添え、無線らしき装備を取り出さず機械的に告げる)
『UNIT.β 同じく敵影なし』『UNIT.Γ 同じく敵え”ヴォッ ゴボゴボ……ゴ ガッ 』
黒衣の兵士「UNIT.Γ?……何があった!……… くそっ UNIT.αから本部へ、UNIT.Γとの通信謝絶。本部……
『こちら本部。撤退は認めない、UNIT.Γには一足早く解散していただいた。諸君等も今日をもって自由だ。バカンスを楽しみたまえ。生憎片道切符だが』
『こちらUNIT.β!! ブッ ブツ ユニ ブッ ルファ! 応答してくれッ!なんなんだここは” ブッ ブツッ…………』
黒衣の兵士「UNIT.β!? どうした、何があった! くそッ……! UNIT.αより本部へ!応答願いま”ッ…… トンッ
カチッ
黒衣の兵士「きさッ————————
┣¨ゥ ッツ ッ
◆◆◆
————かつて悪魔城と呼ばれたその洋館の有り様は大きく変容していた。窓という窓から絶えず黒煙が登り空の青に溶ける様は、城等倍の大きさの天然ストーブのようだった。鼻がいいものなら、そこから人体の油分が臭うことに気づいただろう
クイント「カチッ カチッカチッ (燃え盛る悪魔城を森林地帯より頭一つ突き出した高台から眺め、ノック式のボールペンを繰り返し鳴らし、頬杖をついてあくびを一つかました)うっわーこっわ……。ガチのバトルフィールドでどんどんパチパチするとこんなんねずみ花火程度のものなんでしょうけど、こういうのどかな原風景の中で炊き上げちゃうとあれね、芸術は爆発だって感じよね。今の私、ピカソを超える自信あるわ ふわーっふ
シェン「そりゃありがたいんだけどそこは作家にしてくんないかなー、あれ印税入って長期的に安定すんのよね(傍に泊めてあるアイスクリームショップのロゴを印刷したデコトラの運転席から腕を垂らし、同じく燃え盛る悪魔城だった火葬場を遠目に眺める)しっかしあれが7年間暮らした我が家の成れの果てって思うとなんかやるせないわよね。荷物全部ぶち込んだルカらまぁ失うもんは特段ないんだけどさーぁ?
クイント「私はジミヘンコレクションが生き残ってればどこでも極楽浄土ですよ、住めば都ってね(後ろ手を組んで軽快にスキップを踏んで助手席まで淡々と歩を運んで、勢いよく背をシートに預け後頭部に後ろ手を組んだ)あとあれ、アンプを設置するスペースっしょ?防音設備っしょ?キングサイズのベッドっしょ?個室にバスタブトイレキッチン、これが揃ってればもう言うことなしっすよね
シェン「—————うん、それ普通に贅沢な部類だね。はーい出発進行しまーす。あーあ、これが南の島へバカンスだったらいいのに。ボインのお姉ちゃんがたくさんいてサーァ? お姫様だっけ?ボインだったらいーなー
◆◆◆
——某国某所 荒野を行く道路——
リズ「————(時折見える酪農の家やガソリンスタンド、イートインを除けば赤茶色の大地が果てまで続く荒野、それを両断しするアスファルトを行く一台のtラクターから、車窓を眺めつつ、リムジンと見間違えるスペースが確保された車内でティーセット一式を手に取り、日課を飲み干して喉を潤す)————
ジゼル、今日のコレなんだが(伏して閉じていた目を薄く開き顔を上げ、向かい側に座る彼女へ一瞥をやる)
ジゼル「—————(対し『はて?』とでも言わんばかりに肩を竦め小首を傾げる)お気に触ることでも。以前にご所望されておりました『黄昏の紅茶』が入荷しておりましたので、これを期にと……
リズ「いや、ああ………まぁ……(思ったよりもまずい……別段飲めないというほどでもないが、いやしかし頼んだ手前何も言うまい……)フフッ、サンレスガーデンでは扱っていないだろうな……。結構、いつも通りだ、何も差し支えはない(およそ童の顔には似つかわしくない艶美な笑みを保ったまま、ティーセットを卓上に添え起き)——————さて、私が日課を終え、移動中はすることがないからとUNOを提案すると言う頃合いだが、この時間帯……何かあったような、なかったような(トントンと空になったティーカップに指を添え起き、軽くノックを繰り返す)
ジゼル「————ええ、頃合いですね。そろそろです(両手を重ね席を立ち、一寸の狂いなく90度で礼をすると、運転席へ続く自動ドアの前へ踵を返し)オートメーションはやや行儀がよすぎる。私は私で、羽目を外し獣臭いドライブに興じます故、お嬢様もどうかごゆるりとお楽しみください(と、言い残すと自動ドアの奥へ姿を消した)
リズ「————ああ、存分に狂え、村娘<私の可愛い
ジゼル>(顎に拳を当て、ひらりと手を振ってその背を見送る)————————。——————————………(背もたれに体重を預け、空になったティーカップと向かい合うようにして目を閉じる。沈黙が時を刻むこと早10秒 ——————)
——————キュ オン (コンマ0.001秒だろうか、刹那的に、シートに風穴が開くと言う刹那的現象の後に遅れて鉛玉が耳元をかすめる残響が過り)——————ヒュガガガガガガガガガガッ!!(無数の人魂、蛍火のように発光する『弾丸』が、『機関銃の弾が』車体を瞬く間に虫食いにし、リズを目掛け降り注いだ)
リズ「————— ト ッ (最初の一発が耳元を掠める刹那、それは水中を金魚が泳ぐかのように退屈に目視できた。目を付したまま涼しい顔でそれをやり過ごすと、足を振り上げテーブル裏からティーカップを蹴り上げ) グ ォ ン !! (重力という概念から解き放たれたかのように、予備動作なくシートから腰を浮かし、ティーカップを蹴り上げた勢いそのままにサマーソルトを決め飛び上がり、車内という限られた範囲の中で、自らを抱くように腕を交差させ、時が深海の底に落ち方のようになだらかに錯覚する最中、絶えず向かってくる弾丸を錐揉み回転し、正確に、かつ器用に、不敵に悉くを回避して見せ————)
リズ「—————— グジゥゥゥ……ギュオッ パシッ(頭部が地に向かうと同時に、ティーカップから真紅の水柱が直線路に登り、それを鷲掴みにすると、液体は瞬く間に個体へ、片刃つるぎの形を成した) キ ィ ン (靴底が天井に触れると、無数の閃光がほとばしり、染み渡るようにして斬光が広がり、屋根を細切れにして彼女の体は社外まで跳ね上がり) ┣¨ッ (巨大トラクターの車体上に腰を屈め、片膝と左手を地に着け着地)
リズ「クンッ ガガガガガガッッ!!!(手首を一捻りし、一振りに”見える”斬撃を振るうと、無数のひらめきが瞬く間に機関銃を両断し、水中を舞う砂塵が如く、それらの一つ一つを一瞬の内に一瞥し———— )パチンッ バァァァ……(指を一つ鳴らす。時の速度は多くが感じる正常なものに戻り、砂絵のように流される弾丸の残骸をバッグに、走行中のトラクターの上で犬歯を見せて笑み、これを宣戦布告の代わりとした)—————いけない子だ。調教は髑髏になってからにしてやる
黒服の兵士達「ッ—————!!(並行して走行する対戦車用にチューニングされた黒塗りのジープの上。一人は弾を吐き尽くし煙を散らすだけの設置型機関銃に手を添えたまま、マスク越しにもわかる歯噛みをし、もう一人が”抵抗”を試みようとアサルトライフルを取り出そうとするが—————)
リズ「そのシュガースティックは取っておけ。さもなくば……——————(手にした刃が、その瞬きの余り昼夜の陽光が翳り、夜が降りてきたと錯覚する光量の赤雷を纏い、彼女の血濡れた瞳はより一層、赤みを帯びて光悦に満ちた笑みを浮かべた)—————墓標の替えが!効かなくなる故なッ!!!!!
————————————カッ———————————————————
◆◆◆
———————かつてそこには『対戦車』を想定された、次世代型の戦術輸送車が存在したかもしれない。異能者を想定した機関銃が装填されていたかもしれない。ただ、それは安易な妄想に過ぎなかった、希望的観測に過ぎなかったのではないか?そんな疑問を抱かずにはいられない程度には無残な、ただの炭の塊に成り果てたスクラップが広大な荒野の真ん中に転がっていた
リズ「—————(対し、客間スペースだった部位のみ風穴が空いた巨大トラクターと、慎ましく佇む従者を背に、西風に丈が長い黒衣を靡かせ童の鬼は佇む。物言わぬ残骸、その一歩手前まで崩れ落ちた兵士達を前に、与える言葉一つなく)
黒衣の兵士「—————。————。……。…・・・・・・・・・ ・・ ・ ・ と モ ………
『一の火種が尽きようと、百の鬼火は蘇り、千の業火が焼き尽くす』
リズ「――――― ザグッ (うわ言のように誓いを繰り返す兵士の口に切っ先を突き立て、そこにあらぬ全ての『何者か』へ告げるように、囁く)―――――我が静寂が、そのことごとくを明けぬ夜へ葬り去ろう、犬共<hound of the Baskervilles> 」
ジゼル「——————(そのなれの果てに『そうなったかもしれない自身』を重ね、目を伏せる)————車体に異常はありません。半径100km圏内に敵影なし。いつでも動かせます
リズ「—————『革命の姫君』には見せられたものではない、多少は行儀よく己を律する練習を要するか(刃を払い、血を拭うとそれを溶かして液体に戻すと、踵を返し従者と足の元へ舞い戻った)行こう、『サンレス・ガーデン』へ
{――――時はまさに現在。悪魔城の伝説は南へ舞台を移す。我なき歯車が紡ぎ出す虚偽の太陽へ、夜をもたらし新たな朝を迎えるために
}
To be continued……
最終更新:2018年12月21日 21:38