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(1)CRRモデル
コックスとロスとルービンシュタイン(CRR)は、二項モデルを前提に基本となる三つの変数を次のように設定した。

u = e^{\sigma \sqrt{dt}}
d = e^{-\sigma \sqrt{dt}}
p = \frac{e^{\mu dt} -d}{u-d}

この項ではどのようにしてこれらの変数が生まれてきたのかを説明しよう。突然このように与えられるといっても納得がいかないところもあろうし、連続モデルでの測度変換における理解に役に立つものとも思われるからである。ただし説明の内容は決してCRRのレポート書き写しているものではないので、そこは誤解なきようにされたい。

(2)確率の設定
まず期間は1期間として、現在0時点と将来1時点を考えよう。二項モデルであるから、1時点での不確実性は二通りであって、上昇(uS)もしくは下落(dS)である。この収益率の期待値をとろう。S0=S、v=S1/Sとすれば、

E[v]=pu+(1-p)d
故に、p=(E[v]-d)/(u-d)

これは自然確率で考えているので、同様のことをリスク中立確率qで行えば、安全利子率をrとして、

S=e-r(quS+(1-q)dS)
故に、q=(er-d)/(u-d)

CRRはこの自然確率とリスク中立確率の関係から、

E[v]=eμ
p=(eμ-d)/(u-d)

とした。これは至極当然な条件設定であろう。近似では、E[S1/S]=eμ=1+μ であって、これは資産の収益率としてふつうに設定される条件である。

(3)変動率の設定
次に変動率の設定に進むが、期間を明確にするためにdtという幅で考えよう。すなわち、dt期間後の期待収益率はいつものとおり

E[v]=eμdt

である。したがって近似を許せば、次が成り立つ。

E[v]=pu+(1-p)d=eμdt=1+μdt

期待収益率の分散V[v]は公式どおり計算をすると、

V[v]=(u+d)eμdt-ud-e2μdt

となる。CRRはこの期待収益率の分散の値を、σ2dt とおいた。すなわち、

(u+d)eμdt-ud-e2μdt=σ2dt

この条件もファイナンスではふつうに利用されるものであろう。そしてさらに上昇して下落したものと、下落して上昇したものが同じ値となるように、

ud=1

を付け加えた。分散の式とud=1 は2元連立方程式となるので、u、d を求めることができる。その解は、

u=exp(σ√(dt))  (根号はdtにかかる。以下同様。)
d=exp(-σ√(dt))

となる。

まとめてしまえば、CRRは、期待収益率をμ、その分散をσ2dtと置き、二項モデルの整合性を確実とするために ud=1 としただけで冒頭の条件設定にたどりついたのであって、他に複雑な制約をおいているわけではない。しかもこの設定ではud=1が効くために変動率にμは含まれてこないことに注意しよう。

(4)CRRモデルの含意と測度変換
CRRモデルの興味深い点は、株価の変動率に定常的な上昇のパラメータ、すなわち連続モデルでいうドリフト(μあるいはr)が含まれていないことである。変動率はσだけであるので、現時点から将来を見たとき、株価は現在の株価水準の回りに(正規)分布することを示しており、現在の株価水準よりいくらか上昇(ドリフト)した値の回りに分布するのではない。われわれはリスクのある資産にはリスクプレミアムが間違いなく伴っていることを教えられてきた。ではリスクプレミアムはどこにあるのであろうか。あるいは含まれていないのであろうか。いや含まれていないことはない。なぜなら期待収益率はいつものように、μ となっている。

CRRモデルのリスクプレミアムを支えるドリフトは、実は自然確率pに含まれているのである。後に説明されるブラック・ショールズは自然確率をp=1/2 として切り離し、リスクプレミアムを明示的に変動率の中にドリフトとして設定した。しかしCRRは、自然確率をあくまでも自然確率らしくさせるために、確率の中にリスクプレミアムを含めたのである。

少し先走った話しをすると、オプション価格を求めるときにもっとも問題になるリスクプレミアムは、ドリフトとして変動率に明示的に設定されてもよいし、確率の中に埋め込むことも可能であることを意味する。言い換えれば、ドリフトとして明示的に設定されたリスクプレミアムを、確率を操作することで消失させることができることになる。このことが測度変換という手法につながることになるのだが、この項はここまでとしよう。ドリフトは変動率でも、確率においても設定できることを記憶しておいてもらえればよい。


最終更新:2012年08月23日 01:57