天体観測

二〇〇七年十月二五日──

「おい、大ニュースだぞ!」
 学食で朝食をとる佳奈多とクドリャフカの前に、勇平が声を荒げながら定食のお盆を置く。
「朝からうるさいわね。何があったっていうの?」
「昨日の深夜から今日の明け方にかけて、ホームズ彗星が突然アウトバーストを起こしたらしい」
「わふっ、ホームズ彗星とは今年の五月に太陽の近日点を通過した短周期彗星のことでしょうか」
「そうだクド、そいつが十七等級から二等級まで増光したんだよ」
「ちょっと、専門用語ばかりで二人が何を話しているのか分からないわ」
 佳奈多が顔をしかめると、クドリャフカが「わふ、ごめんなさい」と呟きながら解説を始める。
「ホームズ彗星というのはおよそ七年で太陽の周りを回っている彗星で、百年以上前にも突然明るくなったという記録が残っているのです」
「そいつがまた明るくなったんだ。二等級っていったら多少目が悪くても裸眼で見えるほどの明るさだぞ。ニッキでもしっかり見えるはずだ」
 佳奈多はふぅん、と一言だけ漏らしお茶をすする。
「よし、今夜は屋上で観測会を開くぞ」
 勇平の提案にクドリャフカが自信なさげに疑問を呈す。
「あの、確か満月が明日ですし、天体観測には少し条件が悪いのではないでしょうか」
「流石に二等級の明るさなら満月でも見えるだろうし、ついでに月見も兼ねちまえばいいだろ。よし、クドとニッキも参加な」
「何よ、強制参加? まったく唐突ね、棗先輩の影響を受けすぎなんじゃないのかしら」
 湯呑みを置いて溜息を漏らす佳奈多とは対照的に、クドリャフカは目を輝かせる。
「十月二四日といえば、ボレリー彗星の核撮影に成功したアメリカのディープ・スペース一号が打ち上げに成功した日なのです、まさに運命なのです!」
「おっ流石クド、分かってんな。授業が終わったらさっそく天文部で準備するぞ」
最終更新:2013年10月07日 03:24