秘封☆ 09から 書き起こし

  09 「西行妖」


妖怪 「お嬢さん…… あのさぁ…… ギャー!」
 メリー「はっと、我に返る
     長い間、意識がぼおっとしていたようだ
     目の前にあるのは、友達の亡骸
     生者の魂を求めて呻いている
     呻いている何かは幽々子ではない
     死してなお、その力だけは残っていたのだ
     なるほど、力は精神のみに依存するものだと考えていたが
     肉体にも、その残りカスが染み付いていたらしい」
メリー「私、友人には優しいですけど、赤の他人には厳しいのですのよ」
多数の魔法SE
 メリー「結界を幾重にも重ね、力を抑えこむ
     それから彼女の亡骸を、西行寺に縁のある
     この桜の木の下に埋めた
     この地中に潜む地脈と、名に縁のあるもので封印を施すことにしたのだ」
多数の魔法SEと打撃音、そして妖怪の断末魔
 メリー「主の居なくなった屋敷で一息つく
     なにやら、頬が冷たかった
     はぁ……、まだわたしは涙を流せる程度には人間なのだな
     ふと背後より、ゾクリとする殺気を感じた」
剣SE
 メリー「いきなり男が刀を抜いて切りかかってきたのだ」
魔法SE
メリー「礼儀のなっていない殿方は、嫌われますわよ」
妖忌 「貴様が、お嬢達を殺したのか!」
メリー「何か勘違いをしているようね、あなた」

 メリー「私は大方の成り行きを全て彼に話した
     この男、この家縁の従者らしい
     実家の家長が病で倒れ、お暇を貰い、帰省していたそうだ
     それによって、ここしばらくの難を逃れたのであろう」
 メリー「彼女の封印を見守る必要があった」
メリー「西行寺幽々子、数少ないお友達
    彼女は長い年月をかけ、復活をすると思うわ
    特殊な結界をして、封印をしたとはいえ、私はここから離れてしまう
    術者がその場にいなければ、その抑える力は徐々に弱まる
    それと反比例して、彼女の力は少しづつ膨らんでいる
    幽々子の力が封印の力を上回れば、彼女はまたここに現れるわ
    それを見守る者が必要なの、あなたにそれをお願いしても構わないかしら?」
妖忌 「私は義清様、幽々子様に付き従う者
    この身でできることがあれば、それに従うのみ」
メリー「人の身では無理ね。幽々子が現世に戻る前にあなたが寿命で居ないもの」
妖忌 「ならば、どうすればいい?自分にできることなら、なんでもしよう」
メリー「その言葉に、嘘、偽はない?」
妖忌 「もちろんだ」
メリー「そう……。わかったわ」
 メリー「彼の名は魂魄妖忌。私は彼の肉体と精神を人ならざるものに変えた」


  10 「摩耗した魂」


 メリー「あれからどれだけの年月を無為に過ごしてきたのだろうか?」
チクタクチクタク
 メリー「どれだけ多くの人間や妖怪が、戦で死に絶えたものだろうか?
     私にとって、単なる記号でしかない
     歴史の移り変わりを見届けたことだろうか?
     正直、私は、この世界に飽きてしまっていた
     気付けば長い歴史の中で、妖怪にも沢山の友人ができた
     妖怪はこのままでは人類に殺されてしまう
     そのための幻想郷を創り上げることに助力した事もある
     だが所詮は、心の拠り所には成り得なかった
     いつしか自身の心が、風化してきていることに気づいてしまった
     魂が摩耗し、人間としての精神は持ち合わせていないのではないのだろうか?
     正直、私はもう、この現実に疲れてしまったのだ
     この右目の彼女だけでは、私はもう、耐えられないのだ
     私は彼女に、会いたくて会いたくて、仕方がないのだ
     毎夜、あの大学構内でも会合を夢見たことか
     ただ、彼女と一緒に居たかっただけなのに
     それは叶わないのだろうか?
     私は今宵も、もう何万回も見てきた、あの夢を、見る」


  11 「大学のカフェテラス③」


メリー「いつものカフェテラスで、いつもの何気ないひととき」
店員男「いらっしゃいませ。ご注文は?」
蓮子 「アイスコーヒー!砂糖、ミルクアリアリで!メリーは?」
メリー「私はアイスココア」
店員男「かしこまりました」
蓮子 「うーん、うーん!今日もいい天気!」
メリー「ほんと……」
蓮子 「どうしたの、メリー?なんだか元気ないみたいだけど」
メリー「んーん、なんでもない」
蓮子 「なんでもないって言う時は、大抵メリーは隠し事をしている時なんだよねぇ」
メリー「お見通しかぁ……」 
蓮子 「そりゃあ、長い付き合いだからねぇ、私たち」
メリー「ふふっ、そうね」
蓮子 「大船に乗ったつもりでこの蓮子様に話してみなさい」
メリー「大船は大船でも、あなたの大船は泥船のイメージ」
蓮子 「そうだね、でも泥は、美容にいいんだよ」
メリー「意味がわからないわ、蓮子」
 メリー「私は近頃、毎夜見る夢の話を彼女に語った
     私の持つ境界が見える能力が、境界を操る能力に変化したこと
     蓮子が大型トラックに撥ねられてしまうこと
     あまりのショックで現在と過去が曖昧となり、大昔の日本にいた事
     記憶喪失になってしまったこと、妖怪となってしまったこと
     全ては、断片的な夢。だけど、感覚がとてもリアルなのだ」
蓮子 「面白いね、その話。ちゃんとした作家さんに書かせたら
    物語として完成したものに成るんじゃない?」
メリー「そうかしら?」 
蓮子 「中途半端な作家が書いたら、言いたいことだけ先走って
    グダグダな話になりそうだけどね」
メリー「そうねぇ……。本当にそう」
 メリー「そういう類の物語は愛読する文芸誌に山ほど投稿されている
     自分の書きたいことだけを、好きなだけ書き連ね
     展開や流れを無視し、肝心な読み手側をないがしろにする
     若い書き手にはありがちなことなのだ」
 メリー「日が暮れ始めてきた。夕暮れの空はとても綺麗で、太陽はとても真っ赤だ
     まるで血に染まったような、鮮やかな赤
     美味しそうな色、と私は思ってしまった」

店員男「アイスコーヒーがお1つ、アイスココアがお一つ
    お会計495円になります。」注:アイスココアは264円
 レジスターの開く音
蓮子 「ごちそうさまっ!」
メリー「また来るわ」
店員男「ありがとうございました」

蓮子 「あっそういえば、駅前に新しいブティックがオープンしたらしいよ」
メリー「そうなの?」
蓮子 「せっかくだから見に行こう?」
メリー「勝手ねぇ……」
蓮子 「ほぉらっ!メリー!はやくはやく!」
メリー「待ってよ、蓮子ぉー」
SE
 メリー「デジャブ。前にも経験した事のある、この既視感
     私は、夢で見たその出来事が現実になる恐怖を感じた
     体が動かなかった
     まるで、この後に起こる出来事を全て受け入れなければいけないかのように」
メリー「やめて、やめてよ!誰か助けてっ!もう嫌!いやー!」
ニチャ
 メリー「ぷつんと、糸が切れるような音がした
     体が勝手に動く。自分の意志とは無関係に
     まるで、体に意思があるかのように
     私は走りだしていた
 紫&メリー「そして、私は蓮子の手を掴んだ」
掴む音
蓮子 「どうしたの、メリー?」
メリー「なんでもない、一人で先に行かないで、って思っただけ」
蓮子 「あら、可愛い
    おてて繋いで行きましょうか?」
メリー「ええ」
蓮子 「よっぽどさっき話していた夢が応えているのねぇ」
メリー「本当に、酷い夢だったから……」
蓮子 「あまり、気にしない方がいいよ」
メリー「そうね
    ねえ、蓮子?」
蓮子 「んっ?」
メリー「本当に、蓮子なのよね?」
蓮子 「んっ?何当たり前のこと聞いてるのさ?」
メリー「そうよね……」
蓮子 「どうしたの、急に?大丈夫?」
メリー「わたくし、嬉しくて」
蓮子 「ふふふっ、何よそれ?」
メリー「ずいぶんと久しぶりに蓮子と会った気がして」
蓮子 「変なメリー」
メリー「ごめんなさいね、蓮子?」
蓮子 「じゃぁ、一緒に行こうか?メリー?」
メリー「ええ、蓮子?」


  12 「終章」


 メリー「気づけば私は、どこかわからない平野に居た
     気づけば私はどこかわからない平野に居た
     周りには何もない。ここはどこなんだろう
     頭が痛い。ここがどこなのか、自分は誰なのか
     今まで何をしていたのか
     それら全てがあやふやで曖昧な意識の中
     私は、満天の夜空を見上げた」
SE
 メリー「午前2時58分15秒
     もうすぐ、草木も眠る丑三つ時ね」
チクタクチクタク
 メリー「蓮子……」
SE

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年02月01日 02:25