「ただいま」
青年は帰宅した。
会議があるので帰りが遅くなると、妻には言ってある。
「…………?」
しかし、彼女が出迎えてくれる様子はない。
どうしたのかと思って、台所へと向かった。
そこには。
「……、……、……」
ぜえぜえと肩で息をしながら、包丁を手にした妻の姿があった。
夕日が彼女を正面から照らしている。
「…………」
声を掛けがたい雰囲気だが、彼は覚悟を決めた。
「どうしたの?」
彼女はバッと振り返った。
勿論、包丁を持ったまま。
彼女はひとつのことに集中するとなかなか周りが見えないのだ。
道具を手放すことなんて考えもつかないのだろう。
「あっ、お帰りなさい!」
まだ彼女は包丁を放さない。
彼は少し怖くなった。
「聞いて下さいよ、先生ぇ~!」
包丁を持ったまま、彼女は彼に走り寄った。
俎の上には、上手く切れなかったカボチャが丸々ひとつ、載っていた。
教師東西南北曰く。
「殺されるかと思いました」
これもどこかの因果応報なのだろう。