- 187 :名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 11:17:59 ID:Fdzp/EDN
- 「お母さん……」
晩御飯の献立を考えていた私に、娘の香織が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「私に…料理を…教えて欲しいの」
…本当に珍しい。香織が自分から物を教わりに来るなんて。
「いいわよ。でもどうしたの?急にそんな事を言うなんて」
「う、うん。実は…」
私は娘の発言を手を挙げて遮り、台所へと向かった。
長くなりそうな話の御供へお茶とあるものを準備するために。
「永井、母さんの具合どうなんだ?」
「お陰さまでな。なんとか手術は成功した」
「良かったな!!退院はいつ頃なんだ?」
「う~ん、あと半月だろうと医者は。でもなぁ、もっと早くなんねぇかな…」
「無茶言うなよ。無事だっただけ有難く思わなきゃ」
「分かってるさ…でも実際俺の食生活も分かってくれよ…」
香織の話を聞いた私は一旦整理するため、口に出して香織に確認を取る。
「クラスメートの子、永井くんのお母さんが入院して、今永井くんは家で一人と…」
「うん、お父さんは単身赴任中だって」
「年頃の男の子だから料理はできず、食事は大体外食なのね?」
「う、うん。でも…」
「お金がかかるから最近は出来合いのお弁当が朝昼晩と続いている…か」
食べ盛りの子がそれではきついに違いない。
「その永井くんには嫌いな物はあるの?」
「特に…ないみたい」
- 188 :名無しさん@ピンキー:2008/05/05(月) 11:20:10 ID:Fdzp/EDN
- 「そう。…で」
私は気になる点(とは言え分かりきった答えだが)を香織に聞く。
「香織は永井くんの事が好きなのね?」
ベフーッ
盛大にお茶を吹き出す我が娘。…人前ではやらないでね。
「おおおお母さん!!」
「別に隠さなくてもいいじゃない。違うの?」
「うう~」
そんな顔してもだめ。そんな状況で料理を習おうなんて、余程母性のある子かその男の子を好きな子でしかない。
香織は…明らかに後者の方だ。顔は真っ赤だし。
「ならいい料理があるわよ。男の子の心をがっちり掴む、お母さん必殺メニューが」
「ひ、必殺!?」
「これを食べればあら不思議な事に、作った女の子へベタボレ」
「だから…そうじゃないってば…」
だから、真っ赤な顔だと説得力ないわよ、香織。
「だってお母さんもお父さんをゲットした料理だもんね~」
「そ、そうなの!?」
「ええ。それが…このページに」
私はお茶と一緒に持ってきた、レシピノートを開きあるページを指差す。
「……勇気シチュー?」
もちろん、名前がオリジナルなだけで普通のビーフシチューだ。
「作り方にコツがあるのよ。お母さんもお婆ちゃんから教わった、由緒ある料理よ」
「…作りたい…かも」
なら決まりだ。
「じゃあ、今日作ってみましょう。香織、手伝って貰うわよ」
あれから二ヶ月。
「行ってきます、帰りは永井くんの家に寄ってくるから」
「あんまり遅くならないようにね」
「うん…行ってきます」
香織と永井くんの交際は順調のようだ。
あのシチューを作って持っていった香織は、どうやらその日に告白されたらしい。
泣きながら帰ってきた時は、真剣に心配したが。
なんでも「こんなに旨いシチューは食ったことがない」とひどく感動してくれたらしい。
あのシチューには特別な秘密はない。ただ、女の子が好きな人の為にじっくり愛情を込めて、
丁寧に作った物だ。
不味い訳はない。
「今日……作ろうかな」
香織は遅いだろう、久しぶりに夫婦二人でシチューも悪くない。
早く帰って来てね、あなた…いや亮太くん。
最終更新:2009年10月25日 17:44