「ここが「」さんのお宅ですわね」
ある日の早朝、ジャニアリーは「」の家の前に来ていた。
せっかくの休日をたまには違う趣向で楽しむためであり、あわよくば「」との関係をより親密なものとする目的で、
彼女はいつもより早起きしてここまで来たのである。
自分に邪魔立てする者がいないかと、きょろきょろと周りを見回して警戒しつつ、インターホンに近づいていく。
傍から見ると挙動不審すぎて警官から職質されそうなことに関しては、悲しいかな彼女にはその自覚が無い。
大きく深呼吸して、彼女はインターホンを押した。
「……………」
「……あら?」
返ってくるはずの声が無い。
もう一回押してみる。今度も返事が無い。
何度も押してみたものの、結局返事は返ってこなかった。
「おかしいですわね。この前お話したら今日は休日で朝から自宅にいると仰っていらしたのに。……はっ! まさか!?」
疑問が不安が変わった瞬間、彼女の思考がフル回転を始めた。
もしや、「」の身に危険な事態が差し迫っていて、返事ができないのか。
自分の知らぬ間に「」が病気や怪我を患ってしまい、動けなくて困っているのでないだろうか。
もしくは、「」に対して歪んだ感情を持った者が押し込んできて、まだ「」に自分がしたことも無いあーんなことやこーんなことを
「」に強要している真っ最中なのであろうか!
思考がピークに達し、彼女はP-90をその手に取った。
「「」さん! 今助けに参りますわぁぁ!」
両手に構えた2丁のP-90を玄関のドアに向け発射した。
毎分900発の連射で銃口から吐き出された5.7mm×28弾は、数秒でドアを破砕した。
ドアだった物を踏み越えて、ずかずかと家に押し入り、一部屋一部屋をドアを蹴飛ばして「」はいないかと探し回る。
「「」さぁん、何処ですのぉぉ!? 無事でしたら『ジャニアリー、愛しているよ』と言ってくださいまし!」
「あのさ、ジャニアリーさん何してるの?」
「おおぅ! 「」さん何処にいらしたの!?」
「さっきからここにいたけど、こんな朝早くから何か用でもあるの?」
「そのご様子から見ると無事でいらしたのね。よかったですわ!」
「無事も何も今起きたばっかりなんだけど」
「あら?」
それを聞いたジャニアリーは呆気にとられた顔したが、すぐにニヤリと笑い、
「そうですか。ならまだ放送禁止的なことはまだされておりませんのね。なら、ちゅーしますわ。ちゅー」
瞳を閉じて、唇を「」に差し出した。
「できるか!」
「うう、残念ですわ。恋人同士の感動の再開だというのに」
「全く感動しないし、残念じゃないってば」
「そうですの。それより「」さん、本日は休日でしたわよね? なら私と一日付き合ってくださいな」
「まぁ、今日は予定とか無いしなぁ。別に構わないよ」
「ありがとうございます「」さん! では私が特別に朝食を用意して差し上げますわ。早く着替えてきて下さいまし」
どこから取り出したのかエプロンを身につけ、キッチンへ向かったジャニアリーを見つつ、瓦礫にされたドアはどうすればいいんだと
「」は頭を抱えた。
時折、鼻歌を歌いながら喜々とした表情で、ジャニアリーは「」と街の繁華街を歩いていた。
通りに面した様々なブティックで様々な洋服を二人で選んだり、昼過ぎになるまで馴染みの喫茶店で昼食を食べつつ
最近のことを話し合った。
「ジャニアリーさん。今度は一体何処へ行こうか?」
「」の質問に答えるかのように、ジャニアリーは懐から2枚のチケットを取り出した。
そして、そのうちの一枚を「」に手渡す。
書かれた内容に目を通すと、それは最近上映され始めた恋愛物の映画だった。
なかなかの好評らしく、よくCMや広告で見ていたので、その映画には見覚えがあった。
「えーと、もしかしてこの映画を見に行くって事?」
「そうですわ。お母様が余ったチケットを私たちにくれたのですけど、一人で見に行くのも何ですので「」さんと見に行こうと
思い立ったのですわ」
「ふぅん、マルチアーノさんがねぇ」
「ええ、もうあまり上映まで時間が無さそうですし、少し急ぎましょうか」
ジャニアリーは「」の手をとり、小走り程度の速さで映画館へと向かった。
しかし、ジャニアリーが引っ張っている形のため、彼女には見えていないだろうが常人を超える握力で「」の手を握っているため、
「」が苦悶に満ちた顔をしているのことに気がついていない。
「」の顔を見た周りの通行人の反応にも、もちろん気がついてない。
休日にもかかわらず、その映画館には客があまりいなかった。
上映する少し前についた二人は、ちょうど中央付近の席に並んで座った。
恋愛物の映画ということもあってか、周りを見ると客の大半がカップルらしい。
映画が始まるとジャニアリーは無言でスクリーンを見つめていた。
移り変わるシーンによって表情がころころ変わったり、
登場人物の台詞に共感するのがあったのかうんうん頷いたりと、
横から見てると結構面白い。
映画の方は、なかなかの先が読めない展開だったり、所々に伏線が張ってあったりと「」でも面白いと言えるものだった。
ふと何気なく肘掛に乗せた手に暖かな何かが触れた。
何だと思い暗がりの中でよく見ると、自分の手にジャニアリーの手が重ねられていた。
驚いてジャニアリーを見ると、顔を赤らめて俯いている。
「駄目ですの?」
「ううん。全然」
映画はクライマックスに近づいてくると、今度は指を絡めてきた。手から伝わる暖かさが心地よい。
結局、肝心のクライマックスは全く頭に入ってこないまま、映画は終わってしまった。
空はすっかり暗くなり、二人は家路をのんびり歩いていた。
「なんか、今日はあっという間だったね」
「そうですの? 私はとても充実した一日でしたわよ」
「あはは、それはよかったね」
「ええ、そしてこれからもずっと続いてゆきますわ」
「え?」
意味深な言葉を残しジャニアリーは「」と別れ、自分の家へと帰っていった。
あの笑みの意味は何なのか考えているうちに家の前に付いた。しかし何故か、マルチアーノと12姉妹の面々がそこに立っている。
「マルチアーノさん、こんなところでどうしたんですか?」
「貴方、最近家にいても狭いし一人で寂しいとぼやいていたわね」
「ええ、そうですけど」
「つまり、広くてたくさん人がいればいいのね」
それだけいうとマルチアーノと12姉妹はニヤリと笑った。
「我が家に来なさい「」。つか、来い」
「ちょ、何でまた……ウギャ!」
反論する暇もなく「」の意識はフェードアウトしていった。背後には刀を持った
ジュライの姿。
早朝からジャニアリーが「」を連れ出していったのは、うれしい誤算だった。
おかげで「」の知らぬ間に、家財道具をマルチアーノ家に運び出しておくことが出来たのだ。
これで12姉妹が少しは幸せになるのなら安いものだ。全ては私の計画通り。
マルチアーノがにやけている後ろで、12姉妹が誰が「」と一緒の部屋になる権利を得るか延々と言い争っていた。
最終更新:2007年03月04日 19:53