「これがカメラですか?」
「何でもライカとか言う会社の製品らしい。レトロな作りだが精度は高くてね。今では過去の遺産だよ」
そう言って
ニルソンは、フェブラリーに古ぼけたフィルムカメラを渡した。
カメラといえばデジタルカメラが当たり前のこの時代にフィルムカメラといえば希少性が高く、愛好家たちの間で高値で取引される品物だ。
初めて見るフィルムカメラをフェブラリーは慎重な手つきで弄り回した。
傷だらけで塗装も所々剥げ落ちているものの、各部はよく手入れがされており、作動部の動きは滑らかだ。
構えて覗いてみると視界には一点の曇りも無く、端までくっきりと像が写る。
「どうだろう、そのカメラを使って皆を撮って見る気はないかね?」
「私がですか?」
「ああ。普段何気ない日常も写真に撮っておくことで、いつかは何物にも代えがたい財産になるんだよ。
幸運なことに未使用のフィルムが手に入ったし、君ならこういう物の扱いにすぐ慣れるだろうから、適任だと思ってね」
「なんだか楽しそうですね。ニルソン様がそう言うならやってみます」
「そうか、では頼んだよ。フェブラリー」
改めてフェブラリーはこの古めかしいカメラを改めて見た。
レンズに照明の光が反射し、このカメラが久しぶりに使えてもらえるからか嬉しがっているように見えた。
「何してるの?」
カメラを構えて何かを撮っていたフェブラリーに
マーチは後ろから話しかけた。
朝から古くさい機械を首から提げ、にんまりとしていた事にマーチはずっと気にしていたのだ。
「よくぞ聞いてくれたわ。マーチ、これはフィルムカメラって言うのよ」
「フィルムカメラ? そんなガラクタで何撮ってるの?」
「普段の日常ってやつかしら。今日は休みだし、運よく皆は家にいるから、それも撮るつもりだけど」
「ふぅん」
マーチはあまり関心も持たず、興味をなくして去っていった。その後姿をフェブラリーはこっそりと撮るのを忘れない。
フェブラリーは新たな被写体を求めてマルチアーノ家を歩き回ることにした。
休みの日は大体いつも誰かがいるので被写体には事欠かないということで、最初に行ったのは1階のリビング。
そこではちょうど
ジュライが、何かの雑誌を読んでいる真っ最中であった。
ジュライはカメラを構えているフェブラリーを一瞥すると、カメラに向かって微笑んだ。
こちらの意図を理解してくれたことに感謝しつつ、しっかりと腕で構えてフレームに収めるとフェブラリーはシャッターを切った。
そうこうしていると、庭から賑やかな声が聞こえてきた。
庭に出て、賑やかな声がする方へと向かうとメイが「」にプロレス技をかけ、
オクト、ノヴェ、
ディッセがその正面に座って、はやし立てていた。
「どうだ、あたしのコブラツイストは!?」
「いでででで! ギブ、ギブ!」
「メイお姉ちゃん。次はパロスペシャルやって~!」
「フロッグ・スプラッシュも~!」
「次は私たちの番~!」
苦痛に悶える「」と嬉々として次々とプロレス技をかけるメイ。それを見て一緒に笑いあっているオクト、ノヴェ、ディッセ。
フェブラリーを見つけた「」が助けの声を上げるのを、笑顔で無視しつつフェブはシャッターを切っていった。。
するとシャッター音に気が付いたノヴェが、カメラを持つフェブラリーヘ興味津々にやってきた。
「フェブお姉ちゃん何してるの?」
「フィルムカメラでみんなの写真を撮ってるのよ。それよりノヴェ、他のみんなは何処にいるか知ってる?」
「
エイプリルお姉ちゃんならテラスで本読んでて、セプお姉ちゃんは
ジューンお姉ちゃんと洗濯物干してるよ。他は知らない」
「ありがとう」
教えてくれたノヴェの頭を撫でて、「」が断末魔の絶叫を上げるのを尻目にテラスへと向かった。
テラスではエイプリルが紅茶を啜りながら何かの本を読みふけっていた。
優雅な物腰と柔らかな雰囲気は画になるが、本の表紙にでかでかと【戦争論】と書かれているのは台無しよねとフェブラリーは心の隅で思った。
近くまで寄ってシャッター音で彼女の一時を邪魔するのは気が引けるので、少し離れた距離からズームして撮影した。
テラスに隣接した物干し場に行くと、真っ白に洗われた数枚のシーツが風に揺れ、セプとジューンがみんなの服を次々と干していた。
手馴れた様子で干していくセプを手伝う形でジューンがいるのだが、ふとジューンの手が止まった。
手には「」のトランクスが握られており、初めて見る男物の下着の扱いに戸惑っているようだ。
その横ではセプが対照的に「」の服らしきものを鼻歌を歌いながら、一つ一つ丁寧に皺を伸ばして干して行く。
二人の対照的な姿をそれぞれ写真に収め、その場を去った。
家の中に戻って、残る
ジャニアリーと
オーガストを探そうと廊下を歩き回ると、キッチンから甘い匂いが漂ってきた。
何だろうと疑問に思い、キッチンを訪れるとジャニアリーとオーガストが何かを作っているようだった。
「二人とも何を作っているの?」
「クッキーを焼いているのですわ」
「ジャニお姉ちゃん。「」に食べさせるからって作りすぎだよ」
「フェブ、貴方が持っているそのぼろそうな機械は何ですの」
ジャニアリーは、フェブラリーの首に掛かったフィルムカメラを物珍しそうに見つめた。
「フィルムカメラっていうの。これでみんなの写真を撮ろうと思って」
「カメラで撮影ですって!? どうしましょう早く化粧をしてこないと!」
「別にする必要は無いんじゃ……」
「大有りですわ! 華麗な私の写真を「」さんの懐に忍ばせるのが、私の夢ですのに!」
「大げさだよジャニお姉ちゃん。フェブお姉ちゃん、気にしなくていいからね」
「でも、どうせ映るならきれいな方がいいかもね。ほら、オーガストも可愛く撮ってあげるからポーズとって」
「こ、こう?」
おすまし顔でオーガストはポーズをとった。ぎこちないが逆にそれが初々しく見えて可愛らしい。
フェブラリーはグッジョブと親指を立てて、写真を撮った。
一方ジャニアリーはどのポーズが一番見栄えがいいのか、いろいろなポーズをしながら思案していた。
待っているのも面倒なので、ジャニアリーが適当なポーズをしたところでシャッターを切った。
「あああ、フェブ! まだ決めていないのに撮るなんて残酷ですわぁ!」