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「……ううん、………ん?」
 エイプリルがこの日最初に目にしたのは、シートの上で分解された愛用のルガーP08だった。
どうやら椅子に座り、机に突っ伏した状態で寝ていたらしい。
 眠気の残る目を擦りながら、彼女はあたりを見渡した。
 調度類の少ない部屋の窓には朝日が差し込み、目覚まし代わりのステレオはラジオ放送の7時のニュースを流している。
机に目を見遣ると銃の整備の途中で眠ってしまったらしく、綺麗に磨かれた部品とそうでない部品が左右に分けて置かれ、
手元のライトは点灯したままだ。
 鏡に映る寝巻き姿の自分を見て、我ながら珍しいなとエイプリルは思った。
就寝前に行う銃の整備など手短に済まして、暖かなベッドに潜り込むのがいつものことだが今日は違った。
寝る直前のことを思い出してみようとしたが、ぼんやりとしていて思い出せない。
知らず知らずのうちに寝てしまうとは自分らしくもない。最近は疲労がたまっているのだろうか。
 12姉妹のリーダーとして個性的なメンバーをまとめることは、何かと気苦労は耐えないと自覚はしていたが、
ここまでたまっているとは思っても見なかった。
 今日は特に予定も無いようだし、どこかで羽を伸ばしてみるのも悪くは無い。
机を片付け、着替えて部屋から出ると、なにやらリビングが騒がしい。朝から誰かが言い争っているようだ。
何だと思いリビングに行ってみると異様な光景がそこにあった。
「何度言ったら分かりますのセプ! 今日は私と「」さんでオペラ鑑賞に行くのですわぁぁ!」
「いいえ、「」さんは私と遊園地へ遊びに行くのよ! それならお母様と一緒に行きなさいよジャニアリー!」
「痛い! 痛い! 痛いってば二人とも! 腕がぁぁちぎれるぅぅああああ!」
 何故かジャニアリーとセプが互いに「」の両腕を引っ張り合っている。
両者に退く全く意思は無く、力の限り引っ張っているので、「」が悲鳴を上げるのだが耳に入っていない様子だ。
「これは一体何なんですの!? とにかく二人ともお止めなさい」 
 エイプリルが制止して、二人はやっと「」の腕を放した。
今までありえない力で引っ張られていた「」は拷問のような苦痛から開放されると、その場にへたり込んだ。
「エイプリル、聞いてくださいまし、セプったら家に来た「」を独占して連れ回そうとするのですわ!」
「何よ、ジャニアリーだって同じようなものじゃない!」
「何ですってぇ!」
「何よ!」
 ため息をつきながら、エイプリルはへたり込んだ「」の傍にしゃがんだ。
「まったく、二人とも朝から騒々しいったらありゃしませんわよ。それで「」さん、何か私たちに用がありまして?」
「今日はエイプリルさんと一緒にどっか行こうと思って、誘いに来たんだけど空いてる?」
「そ、それは俗に言うデ、デートのお誘いですの?」
「多分そうだと思う。いいかな」
「も、もちろんですわ。今すぐ準備いたしますから少々待っていて下さいまし!」
 言うなりエイプリルは一目散に部屋へと駆け込んで言った。
ふと視線を感じた「」が振り向くとジャニアリーとセプがジト目で睨んでいた。
「「「」さん」」
「二人ともごめんね、こんど何かあったら誘うからさ」
「うう……」
「さぁ、準備できましたわ。行きますわよ「」さん!」
「「「早っ!」」」



 行き先も決めないまま、家を出たので二人はとりあえず街の方へ来た。
しかし、ずっと知ったる街をブラブラとまわっているのは飽きるので、
エイプリルの提案で郊外に新しく出来たショッピングモールへ行くことにした。
 今日は休日ということもあってか、大勢の客がショッピングモールに来ていた。
家族連れの者。友人同士で買い物に来た物。一人で暇つぶしに来た者。そしてカップルで来た者。
「やはり……に見える………のでしょうか」
「えっ? 何て言ったの?」   
「だから、私たちもこうしていると、こ、恋人同士に見えるのかしら!?」
 そう言うとエイプリルはボンッと音を出しそうな感じで顔を赤らめた。
そうして、しばらく歩くと突然足を止めて、おずおずと「」へ手を差し出した。
「エイプリルさん、手がどうかしたの?」
「こ、こ、恋人同士に見えるなら手くらい繋いでいても不思議ではありませんわ。というよりも繋ぎなさいな「」さん!」
 照れながら繋いだエイプリルの手は、仄かに暖かくて柔らかい。
始めはお互いに照れのせいであまり会話を交わさなかったが、しだいに会話が弾むようになっていった。
 ある洋服店の前を通りかかったとき、エイプリルがショーウィンドウをしげしげと覗き込んだ。
「あら、「」さん。このセーターはいかがですか?」
「エイプリルさん、2着も同じセーター買って何するの」
「一つは私。もう一つは貴方が着るのですわ。お揃いのセーターを着て、寒い冬を二人で暖かく過ごせるなんて素晴らしいですわよ」
「――分かったよ。ちょっと待ってて」
「え、「」さん?」
 2着のセーターは少し値が張ったが、エイプリルに見せたときの驚いた顔とうれしそうな顔に比べれば安い物だ。
その後も、二人で雑貨品店や食品店を見て回った。
 しかし、少しずつエイプリルとの距離が縮まってきたのは、何故だろうか。
ここに来た時は半歩ほど離れていたのに、今では肩が触れそうなくらいにまでに近づいている。
「あのさ、何かどんどん近くにきてない、エイプリルさん?」
「あら、貴方は私と腕を組みたくないとおっしゃるの? むしろ組まないとぶっ壊しますわよ。よろしくて?」
今回は、どうやら「」にはありがたいことに拒否権は無いらしい。



 夕暮れ時、二人は家までの道を腕を組んだまま歩いていた。
夕焼けに照らされたエイプリルの横顔を見て、「」はなんともいえない気持ちになった。
可愛いとか綺麗だとかそういう言葉はこんな時に言うんだろう。
 どんどん近づいてくる家が疎ましい。こんな時がずっと続けばいいのに。
しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまい、二人は家の前に着いた。
「今日は楽しかったですわ」
「ボクも楽しかったよ」
「そうですわ。「」さん、少しだけ目を閉じてくださいまし」
「う、うん」
 次の瞬間、目を閉じた「」の頬に柔らかい感触のものが触れた。
驚いて目を開けると、視界にはドアの前に立ったエイプリルがいた。
「また明日会いましょうね「」さん」
「……うん、また明日」
 帰っていった「」の背を見送りつつ、エイプリルは平静を保つのに必死だった。
こんな顔はお母様にも見せられないだろう。
 何とか落ち着きを取り戻し、家のリビングに入るとその場にいた者たちがこちらを見た。
ニヤニヤしてたり、意味深な顔をしたり、憤怒していたりと多種多様だ。
「あれ、今日は早かったね。マーチの話だとてっきり朝帰りだと思ってたよ」
「これは予想外」
「うふふ……」
「エイプリルゥゥ! 「」さんとは何もやましい事はしていませんわよねぇぇぇ!?」
「まさか、もうCまでやってしまったの?」
「「「ねーねー、オーガスト。『朝帰り』って何?」」」
「分かんない、お母様に聞いてみよう」
「これは次の原稿に使えそうだわ」
「土産は無いのか?」
 一同の反応を見ながら、エイプリルは本日2度目のため息をつきつつ、こんな休日もありですわねと思った。

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最終更新:2007年03月04日 19:55