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彼女の休日 メイの場合


 リビングで一際大きな存在感を放ち、漆黒に染まったそれはどっしりと構えていた。
メイは短パンにタンクトップという露出度の高い格好で、それの上に座った。
傍らに置かれたリモコンを手に取り、電源を入れて、強弱のツマミを端から端へと一気に捻る。
 それに呼応して体の敏感な箇所に電撃のような衝撃が走った。
「うあ…………あ……」
 その衝撃は強烈な波となって全身を駆け巡り、何物にも代えがたい快楽へと変化するのに時間はかからなかった。
 全身から力が抜けて、意識が遠のいて行き、指一本動かすのも億劫になっていく。
時折、口から悩ましげな嬌声を上げ、指先がかるく痙攣する。
 しばらく酔いしれているとエイプリルが肩を掴み、体を揺らして呼びかけた。
しかし、快楽に溺れてしまったメイには、その声は届いていない。
 彼女は小さくため息をつき、リモコンに手を伸ばした。
「あ!……はぁああ……」
「メイ! しっかりなさいメイ!」
「はぁはぁ、なんだエイプリルか」
「なんだではありませんわ! 朝からマッサージチェアに酔いしれるなんて、褒められるものではなくてよ」
 プンプンと怒りながらエイプリルが去っていくを見届けつつ、メイは少しばかり快楽の余韻に浸った。
 休日の朝になると、最近購入したマッサージチェアに揉まれて快感を得るのがメイの日課である。


 硝煙の匂いが微かに漂う屋外射撃場でメイはショットガンを撃ち込んだ。
 既に何十発もの散弾を食らった標的の廃車は、ギリギリのところで原形を留めている。やはり溜まったストレスは思い切り何かを破壊するのに限る。
 ショットガンを机に置いて、今度はサブマシンガンやら機関銃を取り出して次々と撃った。
勢いよく発射された大量の弾丸は廃車を鉄の塊に変貌させ、別の標的として置かれたレンガやコンリートブロックを削り取っていった。
 飽きるまで撃った後には青白い煙が薄く立ち込め、あたりに散らばった空薬莢がキラキラと太陽の光を反射している。 
「うん、今日は体と銃も絶好調。いつもこうでありたいね」
「メイさんも来ていたんだ」
 ひとしきり楽しんでいると、イヤープラグにシューティンググラスを掛けた「」が隣にやってきた。
両手には拳銃と弾薬の入ったプラスチックの箱を持っている。
「なんだ「」も来たのか」
「この前やってみたら結構楽しくて」
「ふぅん、楽しみが見つかって何よりだ」
 「」は隣の区画で慣れない手つきで安全を確認し、標的の書かれた紙をセットした。
弾薬の入ったマガジンを込めて、スライドを引きチェンバーに初弾を装填する。
 拳銃を前に突き出し、セーフティーを解除する。片目を閉じて慎重に照準を合わせて発砲した。
 タンタンと7発の乾いた銃声が響き渡る。
 撃ち終わってから、据え付けられたボタンを押すと、標的がすぐ近くまでやって来た。
標的の紙には中心付近に命中したことを教える穴は無く、端々に申し訳ない程度に3つだけの穴がぽっかりと開いているだけだった。
「はぁ、まだまだボクって下手糞だな。才能無いのかも……」
「ホント下手糞だな」
 がっくりと肩を落とす「」の横でメイは冷静にコメントした。
落胆する姿にメイはひとしきり考えると何か閃いたのか、ポンと手を打った。
「教え方は上手くないけど、何ならあたしがレクチャーしてやろうか?」
「え、メイさんが?」
「このあたしを誰だと思ってるんだよ。マルチアーノ12姉妹の一人だぜ。このあたしに掛かれば、銃の腕くらい楽勝で上達させてやるさ」
「そこまで言ってくれるならお願いしようかな」 
「任せなさいな。まずはあたし流の構え方から教えてやるよ」
 メイは「」の背後に回り、よく見るテニスコーチのように二人羽織になる形で体を掴んだ。
「ほら、足は肩幅より少し広めに開いて腰を落とす! 上半身はストンとその上に置くイメージで」
 軽く「」の足を軽く叩いて広げて、メイは両腕を掴み、肩甲骨で三角形を作るように前へと突き出す。
「わかるか? こうやって肩と両腕で三角形を作って、その頂点に銃が来るようにするんだ。出来れば両目で狙うようにしろよ」
「う、うん。こうかな?」
「違う違う、もっとと前に突き出すんだ。それと力を抜いたほうがいい。じゃないと撃った反動が逃げないで、当たるもんも当たらなくなるよ」  
 メイが耳元で喋るために熱い吐息が頬をなで、グイグイと腕を突き出す度に「」の背に豊かな乳房が押し付けられた。
メイはそのことに全く気が付かず、どんどん体を「」の背に押し付け続ける。
これじゃあメイから銃の構え方を教わる前に、生殺しにされると「」は思った。
「ん? どうした「」。心拍数と体温が上昇してるけど」
「だ、だってメイさんの胸が」
「あたしの胸がどうかし……うわわわわ!」
 ドンと「」を突き倒し、メイは慌てて3mくらい後ずさった。
胸を両手で隠すように小さくうずくまり、耳まで真っ赤になって俯いた。
「こ、こ、こ、この変態! エロ! 痴漢! おっぱいイーター!」
「誤解だよメイさん! ごちそうさ……じゃなくて、これはただの事故であって!」
「うわぁああん! あたしの純潔が汚されたぁ!」
 泣き顔を腕で押さえながら、メイは猛烈な勢いで屋外射撃場を走り去った。


「メイ、貴方という人がそんなお泣きになるなんてどうしましたの?」
「ううう、ぐすん……ぐすん」
「訳を話してくれませんか? 貴方と私の間柄ではありませんか」
「……ぱい……う、うわぁぁぁん」
 今なお嗚咽を漏らすメイに、エイプリルは困り果てた。
泣きながら屋外射撃場から帰り、部屋に篭りっきりになってからずっとこんな会話の繰り返しだ。
 エイプリルに出来ることは傍らでメイの頭を撫でることだけだった。
「エイプリル」
「何ですの?」
「決めたよ。あたしは「」に身を捧ぐよ……」
「はい?」
 すっと立ち上がり、呆気にとられたエイプリルを尻目に、メイは真っ直ぐ「」の部屋へと向かった。
いつもとは様子が違う事を心配していた姉妹の面々は、その後を追いかけた。
「「」! 今すぐ脱げ!」
「メイさん? ちょ、ズボン引っ張らないで! 脱げる脱げる脱げる!」  
「もう知るかぁ! あたしも脱ぐぞぉ!」
「だ、誰か助けてぇぇぇ!」
 突然の騒ぎに姉妹達が駆けつけると、そこにはトランクス姿の「」が全身を震わせ、メイが半脱ぎの状態で襲い掛かろうという光景が広がっていた。
 震える「」を年末組が慰め、エイプリルが理由をメイに問い詰めた。
結局、最後までメイは恥ずかしがって何も語らず、事の真相は分からずじまいであった。


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最終更新:2007年03月04日 19:55