全宇宙のコヨーテたちの憩いの場【海賊亭】。その片隅で大勢の男達がテーブルを囲んでいる。
「大佐、第一段階は無事成功しました」
「そうか、では計画通り第二段階へ移行するように伝えろ」
大佐と呼ばれた男が悲願達成の狼煙が上がった事に、口の端をつり上げる。
筋肉質の大柄な体躯。数多の戦いを乗り越えた戦士の顔つきに、頭にはトレードマークにしている真紅のベレー帽。
グレイスランド解放軍の過激派のリーダー、リシャルド大佐である。
12姉妹の
オクトにいかがわしい感情を持つがために、人は彼を【ロリ大佐】と呼ぶ。
「くくく、待っててくれよ。俺のオクトちゃん」
彼ならば、海賊王ブルースならば、やってくれるはずだ。グレイスランド開放よりも大切な悲願を叶えてくれる事を。
マルチアーノ家の前に一人の男が立っている。彼の名はブルース・ドックリー。
またの名を海賊王ブルース。かつてセントラルバンクから100億宇宙ドルを盗み出した伝説の男である。
作業服に身を包み、手には工具と秘密道具の入ったバッグ。堂々と歩く様子は凄腕の作業員を髣髴とさせる。
今一度身なりを整え、インターホンを押した。
『はい、どなたですの?』
「先日、連絡したラグタイム便利屋のオーティス・レイです」
『話は聞いておりますわ。どうぞ中に入ってくだまし』
「では失礼します」
ブルースはマルチアーノ家とへ通され、応接間のソファーに座らされた。
事前情報として渡された家の間取り図とは、構造が違うことは問題は無い。だが、後で奴らに苦情を言っておこう。
「では、ここの欄にサインを」
「分かりましたわ」
「どうもありがとうこざいます」
「それにしても、助かりましたわ。風呂場の配管の調子が悪くなって、業者に電話したらどこも予約でいっぱいだと
断られて困っていましたの。でも、引き受けてくれる業者がこんな早く来てくださって大助かりですわ」
「安心してください、お客さん。ラグタイム便利屋から派遣された私ならば、配管なんぞ完璧に修理することをお約束しますよ」
「そうですか。では頼みましたわ」
そう言って、
エイプリルは応接間を去っていった。
それを営業スマイルで見届けるとブルースは、小さくため息をついた。
誰が好き好んで、こんなデンジャー・ゾーンな家に踏み込むというのだ。ここの脅威レベルはセントラルバンクの比ではない。
泣く子も黙る12姉妹が住んでいる所になんか、並のコヨーテでも潜入しようとは考えない。
だが、これも我が愛する愛娘フランカのためだ。依頼された以上はきっちりこなそう。
全ては一週間前にリシャルド大佐がコンタクトを取ってきたことに端を発する。
我が愛娘であるフランカのあまりの不人気っぷりに、ブルースとコヨーテ達は【フランカちゃん好感度うなぎ上り大作戦】
なるものを発案した。しかし、計画の実行のためには多くの人材が必要で、コヨーテ達では圧倒的に足りなかった。
そんなおり、リシャルド大佐がグレイスランド解放軍の人材の供給を報酬として、ブルースに【オクトちゃんゲット大作戦】
への参加を要請してきたのだ。
かくして、利害の一致した二人はタッグを組み、リシャルド大佐の小型自立メカが下水管から潜入して自爆し、
ブルースがマルチアーノ家に配管作業員として潜入したのだった。
ブルースは風呂場へと移動し、とりあえず配管の修理作業に取り掛かった。
てきぱきと作業し、風呂場の配管の修理そのものは40分ほどで終わった。
ここからは持ち込んだ秘密道具の出番である。ブルースが開発した対年末組用最終兵器。コードネームは【THE MOMOCAN Mk22】。
ふたを少しだけ開けて、香りを周りに漂わせる。
手はずどおりなら、今回のターゲットとその
おまけが匂いに釣られてやってくる筈だ。
そして、しばらくして案の定、それはズドドドと効果音をあげてやって来た。
しきりに鼻をくんくんさせて、その目には希望が満ち溢れている。
「「「おっちゃ~ん、この辺にモモ缶なかったぁ?」」」
「嫌だなー、ここはお風呂だよ? モモ缶なんてあるわけ無いじゃないか(お、おっちゃん!?)」
「「「なぁんだ、気のせいか。帰ろ帰ろっと」」」
期待はずれな顔をして風呂場を去る3人に、ブルースは小声でオクトに呼びかけた。
「…トちゃん、オクトちゃんオクトちゃん」
「な~に~?」
「もしかして君達が探していたのはこれのことかい?」
懐からふたを全開にした【THE MOMOCAN Mk22】を見せた。それを見たオクトは歓喜の表情を浮かべる。
「これは私のとっておきなんだが、特別に食べさせてあげよう。他の皆には内緒だぞ」
「わかった。じゃ、いただきまーす。………うん、やっぱり甘くておいしぃ……………すぅ…………すぅ…………」
【THE MOMOCAN Mk22】を食べてオクトは眠りについてしまった。
見た目はただのモモ缶だが、これには即効性の睡眠薬が仕込まれているのだ。
完全に眠ったことを確認し、ブルースはもう一つの秘密道具【格納式収納大型バッグ】を展開した。
その中にオクトを押し込み、封を閉じる。
「お客さーん、修理終わりましたよ」
ブルースの声にエイプリルが風呂場までやって来た。
「お代は既にもらったので、私はこれで失礼しますよ」
「あら、お茶くらいは飲んでいってくださいな」
「いえいえ、結構ですから」
「そうですの。どうもありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をするエイプリルを尻目に、ブルースはそそくさと【格納式収納大型バッグ】を手にマルチアーノ家を出て行った。
「「ねぇねぇ、エイプリルお姉ちゃん。オクト見なかった?」」
「私は存じませんわよ。庭に出ていったんじゃないかしら。そんなことより家の中くらいはリュックは下ろしなさい」