クリスマスを数日にひかえたある日の朝、
エイプリルはニュースを見て小さくため息を付いた。
「どうしたんだよ。朝からため息なんて、そんなに嫌なニュースか?」
隣で一緒にニュースを見ていたメイが、興味深そうにテレビを見た。
ニュースでは、離れた場所の惑星が一足早くクリスマスを迎えており、レポーターが賑やかな街の様子を鮮明に伝えている。
そして画面が切り替わり、壁に大穴が開いていたり、煙突が破壊されていたり、屋根が抜けていたりと無残に一部が破壊された家屋が次々と映された。
画面左上には【今年も出現! サンタの異常なプレゼント】とテロップが表示されている。
リポーターは破壊された家の住民にインタビューしていて、どの家庭も突然の災難に困り果てているようだが、子供だけは満面の笑みでサンタクロースに
感謝の言葉を述べていた。
「なんじゃこりゃ?」
「最近、クリスマスになると現れるコヨーテなサンタクロースですわ」
エイプリルはメイに淡々と語り始めた。
何でもそれは12月になると宇宙中のショッピングモールから、商品を根こそぎ窃盗をして姿をくらます。
そして彼らにプレゼントを希望の手紙を送るとクリスマス当日に、手紙に書いた物がクリスマスの夜の届くというのだ。
普通に届けるのなら良いのだが、少しでも障害になろうものなら追いかける警官隊を振り切り、戦車を弾き飛ばし、無人の家屋を踏み潰して目的地へ直行するのだ。
その手段を選らばぬ姿勢は目的地に着いても変わることはなく、玄関以外の場所から無理やり中に押し入って、プレゼントを自前の靴下に入れて去っていくのだ。
そんな彼らを治安上の問題から各警察と軍が出動して、身柄の拘束を試みたのだが全てが失敗に終わっている。
無茶苦茶な連中ではあるが、貧困にあえぐ人々から金持ちに至るまで老若男女問わず可能な限りプレゼントを配布する一面が、大衆から【奇跡のサンタクロース】と
呼ばれていて支持されていた。
「なんだ、そのサンタ結構良い奴じゃんか」
「良くありませんわ!」
両手で勢いよく机を叩いて、立ち上がると右手で硬く拳を握り締めた。
拳の握りすぎで腕が震え、双眸には怒りと憎悪の炎が激しく燃え上がっていた。
「あの腐れ外道のおかげで、「」さんへのプレゼントが買えなかったんですのよ!」
「それは難儀だな」
「まったく、奇跡のサンタクロースなんてこの世からいなくなれば良いのですわ!」
「そ、そんな……あのサンタさんは良い人なのに」
「何をおっしゃるの!? 誰にでも平等なのは結構ですが、あれはただのド・変・態以外の何者でもないですわよ!」
「ひどい……エイプリル」
「何を言うので――え?」
エイプリルは声の主を見た。メイを見るとばつの悪そうな顔で、親指で背後のドアを指差した。
その先には、ひどくショックを受けて泣き出しそうな
ジューンが立っていた。
「え、えーと。ジューン? これはちょっと言いすぎでしたわね。というか、貴方この前買い物の途中で手紙を投函していましたけど、もしかして宛名は」
「【奇跡のサンタクロース】」
「…………」
「「「お姉ちゃんおはよ~。あとちょっとでクリスマスだね手紙だした?」」」
気まずい雰囲気をよそに、
オクト、ノヴェ、
ディッセが手紙を手にやってきた。
クリスマス・イヴの夜になり、12姉妹とマルチアーノ、
ニルソンと「」の面々は豪華な夕食を楽しんでいた。
食卓の上には七面鳥の丸焼きやクリスマスケーキといった定番メニューから、料理の得意な物が腕を振るって作った料理までギッシリと置かれている。
「「」さん、どうぞ私が切った七面鳥をお食べになって」
「エイプリル、ずるいですわよ! 自分だけ「」さんに切った七面鳥を食べさせてあげるなんて! それは私の役目ですわ!」
「あら
ジャニアリー、「」さんは私が切ったのをお食べになるのですわ」
「なにをぉぉ! こうなればどちらが「」さんに食べさせられるか勝負ですわ!」
「望むところですわ」
「えっと、ボクに選ぶ権利は……?」
「「一切無し! さぁ食べてくださいな!」」
2人は七面鳥の肉のを一気に「」に食べさせた。
初めのうちは何とか噛んで食べれたが、押し込むペースと量が次第にエスカレートして行き、食べさせると言うより無理やり肉の塊を押し込んでいく。
「くぬ! くぬ!」
「さぁ、まだ沢山ありますからたーんとお食べ」
「ちょ、ふた…りとも……いきが………できな……」
「」の声はもはや声にならず、助けを求める手も宙をさまようだけだ。
しだいに手の動きが緩慢になり、顔色が信号のように赤から青へと変わっていった。
「おいお前ら! 「」が窒息してが死んじまうよ!」
「メイお姉ちゃん。「」が白目むいてるよ!」
傍から見ていたメイと
オーガストが、「」の様子の変貌に危機感を覚えてジャニアリーとエイプリルを静止する。
「」は遠のきかけた意識の中で、川の手前にいる七面鳥がこちらへ手招きする幻影を見た。
その少し離れた席では
フェブラリー、マーチ、
ジュライ、セプの面々がビーフストロガノフを揃って食べていた。
「わぁ、このビーフストロガノフ美味しい。 これってジュライが作ったの? 今度作り方を教えて」
「初めて食べるけ、どこんなに美味しいなんて」
「……美味い。ジュライGJ」
「あらあら、お世辞を言っても何もでないわ。セプ、作り方を教えてなんて、「」さんにご馳走してあげるつもりでしょう?」
「え、あ、あの…それはその!」
笑みを浮かべたジュライの言葉に、セプは顔を真っ赤にして否定するように手を振った。
しかし、図星を言われて動揺する様子をフェブラリーとマーチは面白おかしく茶化した。
「ジューンお姉ちゃんの作った飴細工はなんで変な形してるの?」
「映画で見たような気がするよ」
「これはガーゴイル像といってだな――オクト、頭だけ咥えて舐めまわさないでくれ。不気味だぞ」
「ふぇ?」
それぞれが思い思いに楽しんでいる中で、窓の外は異様な状況になっていた。
何かが爆発して爆炎が高く立ち上り、そこかしこから警察車両のランプが点滅している。
それらの騒ぎはゆっくりと、だが確実にマルチアーノ家へと近づいている。
その事をまだ誰も気が付いてはいない。
ようやく追撃をふりきったそれは直線に出ると、エンジンを唸らせ急加速した。
性能の良いとはいえないサスペンションのせいで、車内はひどく揺れるが気にすることではない。
遥か前方に見える塀を突破すれば、12人が待つ最終目的地だ。思っていたより頑丈そうな塀に運転手はインカムに叫んだ。
「ボス、体当たりの突破は難しいですがどうします?」
「このまま加速しろダッシャー。ヴィクセン! あれを撃て!」
「イエス、ボス!」
男の指示により、車体上部に設置された砲塔がゆっくりと前方を向いた。
そして照準が合わさると、搭載された23m連装機関砲が毎分2000発の連射で機関砲弾を吐き出した。発射された機関砲弾は頑丈な塀を削り取り、無数の亀裂を走らせる。
そしてそのまま塀に迷う事無く突っ込んだ。
突然の銃声と爆音にマルチアーノ家にいた者全員が騒然となった。
各々が所有する武器を手に庭へ飛びして、騒ぎのあった方へ向かうとそこは以上な雰囲気に包まれていた。
「メリィィィクゥリスマァァアアアアス! ボーイ&ガール! 元気にしてたかぁぁあい?」
その男は赤い服を着て、純白の大袋を肩に提げて立っていた。
大きなお腹に白い髭をはやした笑顔のおじいさんではなく、丸太のような両足に逆三角形の引き締まった上半身。
袖からからも伝わる筋肉の塊のような腕に、岩のようにごつくて大きな手。皺と傷にまみれた彫りの深い顔には白髭と白髪を生やし、申し訳程度に頭上に赤帽子が載っている。
彼が立っているのは8頭のトナカイが引くそりではなく、赤白緑で塗装された8輪装甲車のハッチだった。
車体側部の前後にはスピーカーが装備され、シャンシャンという効果音と有名なクリスマスの童謡が流れているのだが、エンジンの排気音でよく聞き取れない。
「へ……へ……へん……」
「ひぃ、ふぅ、みぃ……。よし、確かに全員いるな」
「もしかしてあれが【奇跡のサンタクロース】?」
「その通り! 本日ラストのプレゼントを君たちマルチアーノ家の皆さんにお届けに参りました!」
「変態ですわぁぁああああ!」
エイプリルの絶叫をよそに、サンタは装甲車から降りると袋に手を突っ込み、綺麗に包装された箱を取り出した。
箱にはそれぞれリボンに名前が書かれており、サンタは名前を読み上げて、プレゼントを配りだした。
「「「サンタさんありがと~」」」
「いやぁ、こんな可愛い三つ子さんにお礼言われると照れるなぁ。来年も良い子でいるんだよ」
「「「うん!」」」
いつの間にかやってきたのかニルソンは装甲車の横に来ると、しげしげと各部を覗き込んだ。
「うむ、BTR-94とはなかなか良い趣味しているね」
「突っ込むのはそこですの!?」
姉妹達にプレゼントを配り終わり、サンタはいそいそと装甲車のハッチに片足を突っ込むと、エイプリルはルガーを引き抜いた。
そのまま照準をサンタの頭に合わせる。
「ちょっと待ちなさい。私のプレゼントを横取りした罪は重いですわよ」
「へいお嬢ちゃん、そいつは悪かったね。でも俺達にはああするしかないんだよ。今は急ぐんで行かせてもらう。ではまた来年のクリスマスに会おう、さらばだセニョリータ!」
「ちょ!? 待ちなさい!」
エイプリルの制止の声は爆音を上げるエンジンにかき消され、庭を疾走すると再び機関砲を発射してから塀を突破していった。
呆気にとられ、呆然としたエイプリルの肩をメイが軽く叩いた。
「あのー、エイプリル?」
「貴方たち、姉妹が揃いも揃ってあの変態に手紙を出しましたのね」
「ああそうなんだよ。エイプリルも誘おうと思ったけどサンタの話するたびに機嫌悪くしてたからさ」
「……なんかこうして見ると私って空しいですわね」
「アハハハ、ほら冷えるから先に家に戻ってるよ」
一同が家に戻り、エイプリルはその場に立ち尽くして空を眺めた。
12人も姉妹がいるのに自分だけ仲間はずれだと、結構悲しいものだということを初めて実感した。
ほんの少し目頭が熱くなる。それ以上のことにならないようにさらに空を仰ぎ見る。
「……くすん」
「エイプリルさん?」
「はい?」
目元に手をやりながら振り向くと「」が立っていて、後ろ手にしていた手から、木箱を差し出した。
ローズウッドのような木材で作られたシンプルの木箱のふたには、金色の金属プレートがはめ込まれ、【To April】と書かれている。
大事そうに両手で持ち、エイプリルはふたを開けた。
「えっと、これは……」
「エイプリルさんの欲しいものとかよく分からなくて。とりあえずこんなのしたけどよかったかな?」
木箱に入っていたのは、金色に磨かれて4月に咲く様々な花が所狭しと彫刻された小型の拳銃だった。
手にとって見ると彼女の手にちょうど良い大きさに収まり、各部品の作動に一切のガタツキは無い見事なものだ。
マガジンのそこには【大切な人に捧ぐ】とつたない字で彫ってある。
「そこだけは自分でやってみたかったんだ。気に入ってもらえたかな?」
拳銃を懐に仕舞い込み沈黙のまま俯くエイプリルを「」は心配そうに覗き込むと、突然「」はエイプリルに抱きつかれた。
そのまま「」の胸に顔をうずめると、上目遣いで「」と目を合わせた。
「こんな、こんなに嬉しいプレゼントをもらって気に入らないわけありませんわよ」
「そう、それはよか――」
不意に「」の唇に柔らかいものが触れた。
何が起きたのか一瞬わからず目を白黒していると、エイプリルが前で嬉しそうにくるくると回っていた。
「「」さん」
「え、あの今のもしかして」
「秘密。それよりも一つ言い忘れていた事がありましたわ」
「エイプリルさん?」
「メリークリスマス!」
最終更新:2007年03月04日 20:07