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例によってベッドの上で目を覚ますと、私は自分の置かれた状況を確認した。
服は病人服。ヘッドドレスなし。包帯なし。周りにニルソン様や姉妹か部下の一人でも……居ない。
予想通りといえば予想通りだ。いい加減復活の回数が多くなってきた私は溜め息を吐いた。
ふと、何だか怪しい物体があることに気付く。パイプ椅子に毛布が掛けられているのだが、人型に膨らんでいる。
誰かがそこで毛布を引っ被って眠ったのだろう。首を動かして、髪の毛から人物の割り出しを試みる。
長くて綺麗で艶々な金髪。ジャニだ。あの髪に手を差し込んで弄ると気持ちよかったことを覚えている。
ああ、ついていてくれたんだ。顔がふにゃりと緩んだ。
やはり家族に、それも最も仲の良い相手にそうして貰っていたというのは嬉しい。
今すぐ起き上がって毛布を剥ぎ取りピンク色の唇を塞いで私の目覚めと朝の挨拶を告げたいと考えたが、
常識と理性と現在の体がどうなっているかの情報欠落によって断念する。
そうだ、身体チェックだ。それが終わったら真っ先に彼女に私が復活したことを教えよう。誰よりも先に、誰よりも先に、だ。
自己診断プログラムを起動し、使用し、己の体の不具合を探る。
記憶装置故障なし。演算装置異常なし。人工筋肉制御問題なし。骨格の歪み全くなし。日常行動、戦闘行動に支障なし。
つまりオールグリーン、何の不具合もない、実に健康極まりない状態らしい。
それから、インストールされたソフトをチェックする。
銃に関する取り扱いはどうでもいいが、姿勢制御ソフトがなければ動くことも面倒になる。
ソフトに頼らず立って歩く、それもいいしやろうと思えば出来るが、それにしたって最低限のソフトは必要だ。
ありがたいことに、私の懸念は実現しなかった。確りとソフトは入っている。
よし、起き上がってジャニにサプライズをプレゼントしなければ。それが私の出来るお礼の一部だ。
私はそっとベッドを降り、久しぶりに地面を、重力を感じた。
その感触に浸るのは後でもいい。今は目の前の愛しい親友だ。朝の目覚めは濃厚なキスで一つどうだろうか。文句なし。
細心の注意を払い毛布を下ろす。あどけない寝顔。彼女はこんなことを言われると怒るかもしれないが。
かといって格好いいなんて言うとそれはそれで怒る。だが私は彼女のそういうところも可愛いと思う。
余りある愛に満たされた接吻で起こす前に、私はジャニの頬を撫でてみた。起きてる時には中々出来ないし。
一頻り撫でた後、私は両手を胸の前で合わせる。頂きます。
こういうのはがっつくべきではない。ゆっくり、ゆっく「ジャニアリー?」わわわわわっ!
慌ててベッドに飛び込み、布団をそれっぽく整える。どうせ覚えちゃいないだろうから大丈夫。
声は廊下からで、その主はエイプリルだった。足音は一人分。少し安心した。が、問題は残っている。
彼女がそのまま帰ってしまえばいいが、もしジャニを起こしてしまったらことだ。
「ジャニアリー? 眠ってるんですの?」
「ぅ、ん、んん……今起きましたわ」
声で目を覚ますジャニ。あああ、やってしまった。
「セプの様子は?」
「相変わらずですわね。交代にはまだ二十分ほど早いようですけど、何かありましたの?」
薄目を開けることも止めた方がいいだろう。何で気付かれるか分かったものではない。
代わりに聴覚の設定を弄って、音の反射で物体の位置を把握出来るようにした。
それの性能を信頼するならばエイプリルは首を振ったようだ。単に見に来ただけかしら。
リーダーは私の推測を肯定する返事をジャニ相手にした後、彼女に労いの言葉を掛け、また後で来ると言って出て行った。
してみると、交代制で私についていてくれた訳だ。
胸の内に熱いものが込み上げる。家族愛って素敵だ。特に姉妹の間の愛。
そういえば、年末組はどうしたんだろうか。三人だけで見てたのかしら。そっちは逆に冷たいものが込み上げてくる。
ジャニがこちらを向いた。狸寝入りで誤魔化す。
気付いた風もなく、私の方に近づいて来る。まさか気付いてるんじゃないでしょうね、これ。
ベッドに片膝を乗せたようだ。殆ど覆い被さるような感じ。両手は私の首の左右に突かれている。
一体どういうことかと様々な思考が駆け巡った。
この焦りっぷりは例えるなら、そう、夜遅く一人で家に帰る最中に、
飼い犬に飛びつかれた連歌の上手い僧侶並だ。助けよや。いや、勿論助けないで構わない。むしろこのままで。
息遣いを感じるほど近くにまで来た。私の手が暴走を始めようとしている。今すぐ抱きついて押し倒して今度こそ頂きたい。
ぐっと耐える。それは我慢しなければなるまい、次のチャンスまでは。
そして次のチャンスこそ、私がこの手で手に入れる。
そんなことを考えて勝手に盛り上がっていた私の額に接触する物体あり。
私の弾き出した結果を見れば、ジャニの唇と来た。OK、我慢の必要は最早見られない。やっちゃえ。
許可を得た左手が魅力的な腰をがしっと掴む。右手が待ってましたとばかりにジャニの首をホールド。
もう目を閉じている必要もないので、ちゃんと開く。
彼女の顔を見ると、何が起こったか理解されていない様子なので、私はとっとと次に進むことにした。
右手を引いて唇の高さを私と合わせると、可愛らしい桜色のそれに吸い付いた。
この時分になって漸く気付いたジャニが反抗しだす。可愛い。だから余計に離したくなくなる。
が、幾ら仲が良くても、私の意見と彼女の意見が常に一致する訳ではない。特に彼女は恥ずかしがり屋だし。
だから反抗は続くが、所詮蟻地獄に落ちた蟻に過ぎない。いずれ諦めて身を任せることになる……ほら。
ジャニは目に涙を溜めて、私の行為を受け止め始めた。こうなればもう後は墜ちていくだけだ。
舌を入れる。目覚めのキスにはちょっと刺激的過ぎるかもしれないが、私には丁度いい。
首の横の腕が震え始めた。音を立てて唾液を交換する。震えが大きくなった。もう耐え切れそうにない。
さあ、最後のデザートへと行こう。前菜とメインディッシュはもう十分味わったのだから。
私は弾みをつけて体を起こし、ジャニを押し倒した。
唇を離す。唾液が糸を引いている。右手がジャニの上着に掛かった。
「ところでジャニアリー、今日のセプ復活パー」
ティはどうするかですって? 現在開催中よ。おはようエイプリル、いい朝ね、夜だけど。それとドアは閉めた方がいいと思うわね。
一番いいのは開けないことだったんだけど。
上がる悲鳴に拳。私は別方向への驚きをプレゼントしてしまったようだ。
ノックアウトされて、もう一度ベッド行きになってしまった。
で、十分後。
巻く筈でなかった包帯を巻き、受ける筈でなかった二名の説教を受け、掻く筈でなかった恥を掻き、
そして服をいつものあの服に着替えた後、私は彼女たちと病室を出た。
何とも言いようがないが、二人はもう少し余裕を持った方がいいと思う。こう、広い心とか。
「本当にもう、貴女という人は。理性は何処に行ったんですの?」
額を右手で押さえながら、ジャニが呟いた。その仕草は止まった状態にしないと格好がつかないことに気付いて欲しい。
歩きながらのそれは非常に滑稽だ。……別に不貞腐れている訳じゃない、念の為。
「何はともあれ──」
エイプリルが大きな観音開きのドアの前で立ち止まり、振り返って私たち二人に言う。
「貴女の帰還を歓迎し、心から喜びます、セプ」
私は彼女の言葉に感謝の意を示した。リーダーは笑って、ドアを開く。光が溢れた。
パーティ会場の光。廊下にも光は当然あるが、それを圧倒する光だ。
蝋燭の光があり、電灯の光があり、スポットライトらしきものも設置してある。
ステージが作られているから、そこに向けられているのだろう。
歓声が沸き上がった。
会場に入ると、そこらじゅうから引っ張られる。肩を叩かれ、何故か握手まで求められる。アイドルみたいで悪くない気分だ。
それもエイプリルが壇上に立ったので収まった。
彼女の傍にはフェブ、マーチ、メイ、ジューン、ジュライ、オーガスト、オクト、ノヴェ、ディッセが居る。皆元気みたいだ。
オーガストが手を振った。それに答える。
エイプリルは無難な言葉を幾つか並べると、壇上を降りた。
入れ替わりでメイが立つ。乾杯の音頭を取るようで、私のところにもグラスが回ってきた。
「では、我らがセプの復活を祝して、乾杯!」
周りはかんぱーい、と大声で叫び、一気飲みする。私も一気ではないが飲んだ。
何このお酒。今まで飲んだことのない味だ。しかし今更何処かに置いてくることも出来ない。
半分くらいになったそのお酒を、覚悟を決めて飲み下す。
その時私の耳に、兵の会話が聞こえた。
「あれ、ここに置いといた瓶知らないか?」
「知らないな、何の瓶だ、酒か?」
「スピリタスウォッカの瓶なんだけど」
「それならさっき乾杯の時にセプ様の居る辺りに配られてたぞ」
私がアルコールをシャットアウトする前に、アルコールはこちらを屈服させた。
ふらふらと足がよろめく。ジャニが駆け寄ってくるのが見えた。
そちらを向こうとすると、自分の足に足を引っ掛けてしまう。たたらを踏むようにしてジャニの方に倒れこんだ。
すると体当たりの格好になって、一緒に彼女も倒れた。そこまでは良かったのだが、そこからだ。
目の前が暗かった。後、生足が見えた。
わあ、ジャニの小麦畑が……下着に遮られて見えないけど幸せ。
直後に襲来する、乙女の恥じらいを込めた恐るべき右足。
でもそれはそれで幸せだった辺り私ももう大分駄目だなあと思いながら、私は意識を手放した。

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最終更新:2008年11月25日 22:19