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僕が十二姉妹所属兵兵舎から少し離れた射撃場に行くと、誰かが既にレンジを一つ使っていた。
連発的な銃声とその音から判断すると短機関銃や突撃銃の類ではないだろう。
恐らくは軽機関銃、分隊支援火器程度のものだ。
ミニミの銃声のような気がするが、それが正しいかどうかは射手を見るまで分からなかった。
が、それはつまり射手を見た時点で分かるということであり、それが当て嵌まる軽機関銃の持ち主といえば、
マルチアーノ十二姉妹にはあのゲーム狂いの第二世代しか居ない。後は短機関銃か拳銃か銃ですらないかだ。
彼女は僕の隊長だったし、そうでなくても十二姉妹には変わりない。軽く挨拶をして銃を取り、隣のレンジに入った。
選んだのは正式採用のあの突撃銃ではなく、個人的な好みでM16だ。軽くていい。序でに拳銃も持って来た。
テーブルのボタンを操作し、五の人型標的を配置する。基本的にこの銃は三百メートル以下くらいの交戦距離を想定しているので、
それを考慮して配置しなければならない。小口径高速弾はちょっとした風や草に当たっただけで着弾点がずれるのだ。
やはり好みの問題で二十発弾倉をテーブルに二度軽く打ち付けてから嵌める。装填。
イヤー・プロテクターをつけようかどうか迷ったが、訓練だしいいかということで、つけた。
セレクターをフルオートにし、構えて、一秒もしない内に撃つ。実戦で悠長に狙っている暇はない。
そして更に、命中の確認をしている暇もない。撃ったら次、そのまた次に銃口を滑らせるのだ。
標的に指切りによるバースト射撃で三発づつ撃ち込み、適当に遠くの地面に残りを撃ち込んだ。
双眼鏡で何処に命中したのかを確認し、僕は毒づく。八割方が手足に当たっていて、本来狙うべき部位には当たっていない。
ギルド時代の教本と経験によれば、狙うべき場所とは腹部の辺りである。
頭なんて小さなところを狙ってる奴や、狙わずに当てられる奴は殆ど居ない。後者は見たことすらない。
プロテクターを外す。空弾倉を外し、脇に除け、新しいものに換える。的も新しいものへ交換。
「としあきは本当に射撃が下手」
どうせ隊長には敵いませんよ。僕は後ろを向いた。見慣れた意地の悪い顔の少女が佇んでいる。
手には銃はない。銃を持って個人用レンジに二人以上入るのは安全上宜しくないからだ。
そもそも二人入ること自体止めた方が無難なのだが。
彼女はこちらに近づいて来て、僕の手から銃を取った。
僕が意図を察して後ろに下がると、僅かだって狙わずに、狙う動作をせずに、無造作に発砲する。
双眼鏡で眺めて、僕は溜め息を吐いた。敵う訳ないじゃないか。発砲した数割る的の数だけ、腹部に命中していた。
僕にもニルソン様謹製のFCSを装備したいものだ。彼女は僕に銃を返して言った。
「教えて欲しい?」
そう言ってくれると嬉しいな。うん。はい。イエス。
もう少し表現は違ったが、概ねそういう意味のことを言った。
緑のツインテールを小さく揺らして、傍に来るように手招きする。
右側に立った。というのも、僕が左に来た日には彼女は熱い薬莢とキスしてしまいかねないからだ。それは困る。
「構えて」
言われた通りにする。体には全体的に力を入れ過ぎず、肘には角度をつけて、左手はハンドガードを保持する。
指は撃つ直前までトリガーガードへ掛けるだけだ。
かつて右足小指を数ミリ右に外れたところに自弾が着弾して以来、守っている。
僕の格好を腕組みをして見ていた隊長は頷いて、次の段階、要するに射撃に移れと指示した。
引金に指を掛け、最も手前にあった標的に狙いをつけて、荒野に霜の降る如く引き絞る。
銃声が一発分響いて、着弾の小さな音が聞こえた。が、相変わらずの結果だ。
道化師につまらない芸を披露されたマフィアのボスがするような拍手が聞こえた。
「大した人道主義者」
全くだ。標的を固定する棒に命中していたら格好良かったんだが。
まあ、いい。これから教えて貰えればきっと上達すると思う。しなければ情けないが。
彼女は自分の髪の毛を弄びながら、僕の問題点をつらつらと挙げた。
体から力を抜き過ぎている、肘の角度が適切でない、足をちゃんと開け、腰はもう少し落とせ、などなど。
僕はそれらを実際に試す前に、何も考えずに彼女の教え方の感想を述べた。
意外と丁寧ですね。
即座に止めておけば良かったと後悔する。失礼だろこれは。
「『意外と』は余計」
だが、隊長は広い心で受け流した。ように見える。
僕は本当に気にしていないのかどうかを考えないようにして、言われた通りに構え方と姿勢を直し、撃った。
着弾音は放っといて、何処に当たったのか確かめる。……おお、胸部。教官の言は疑うまでもないが正しかった。
撃った標的を再度交換し、弾倉も換える。準備は万端だ。
サイトを覗き込んで素早く狙いをつけ、発砲しながら銃身を的に向けていく。
二十発を撃ち切って、僕は銃を下ろした。薬室に弾が入っているかどうかの確認も怠らない。安全装置も忘れずに、だ。
双眼鏡で眺めていくと、手足に集中しているようなことはなくなったが、やはりどうにも命中率は悪い。
次に戦闘に出るのが心配になってきた。こんなので大丈夫なのか僕。
実戦で使う銃は違うが、どの銃でも安定した射撃が出来なければ精兵とは言えない。
例え現存が疑わしいほどの古式銃であったとしても、
必要ならば数百メートル先の敵兵の股間を撃ち抜ける技量が求められるのが我々だ。
落ち込みはしないが、針の先程には来るものがある。休暇取って射撃練習に明け暮れた方が良いような気もしてきた。
特に、隣でさっきから撃ちまくってる無表情な上司を見るとそう思う。
当て付けですか隊長。
とは口が裂けても言えない(レンコンにでもなりたいなら話は別だが)ので、
素直に、流石、射撃はお手の物、ですかなどと言っておく。
彼女は撃つのを止めると、僕に顔を向けて言った。
「としあきはお世辞が下手、言わない方がいい」
何その真顔。僕はM16を置いて、存在を忘れ掛けていた拳銃を取った。
拳銃には自信があるのだ。ここは一つ、この少女と勝負をしよう。負けは確定に近いが。
その旨を申し入れると、彼女は面白そうな顔で頷いた。やっぱり勝てそうもない。
個人用レンジを出て、隣の複数人用レンジに入る。
点数の描かれたマンターゲットを八個出した。使う銃は私物で射撃場に保管しているガバメントで、弾種は赤と黄色のペイント弾。
実戦で使ったことは余りないけれども、訓練兵時代からの相棒である。
彼女にも公平性を期す為同じようにガバメントを渡した。別段、こだわりがないようで助かる。
ターゲットの出現・移動設定を立ちっ放し固定からランダムに変更し、十五秒後に開始するようタイマーを合わせ、銃を持つ。
このゲームのルールは簡単、先にミスした方が負けだ。お互いノーミスか同回数のミスなら、点数で勝負する。
開始数秒前にふと、プロテクターを外していることに気がついた。どうでもいいや。
拳銃は腰ホルスターから抜く想定なので、お互い腰に右手をやっている。僕は胸ホルスターを愛用してるけど、仕方ない。
ゴングっぽい音と同時に、標的が立ち上がった。銃を斜めに移動させ、ウィーバースタンスで構えて撃つ。
今度はそのターゲットの左後方から滑って現れるターゲット。
出てくるまでのラグの間に、僕の構えは両肩甲骨と拳銃で三角を形作るアソセイレススタンスへ変更されている。発砲。
僕の目前に立ち上がってくるターゲット。銃を引き戻してど真ん中に撃つ。的が倒れる。
一斉に三つ、離れた場所に並んで立ち上がった。冷静に素早く左から射撃して行く。残弾二、残的三。
と、またもや三つ立ち上がった。これだからランダムは畜生間に合わない。
遠い二つに撃ち、スライドオープンさせる。手元に置いた弾倉を無視し、その隣の弾薬箱から一つ取る。
薬室に直接装填し倒れ始めた的に発砲。直後に対戦相手の弾丸が的の上を通り過ぎて地面に着弾した。
終了を示す音が鳴り、的が全て立ち上がる。
──勝った。
正直、びっくりだ。勝てるとは。僕は笑いながらどうしたんですか隊長らしくもな、まで言い掛けて止めた。
かちり、かちりと言わせながら、弾倉にリロードしている。
あの、隊長?
何をしているかは分かるが、それで何をしたいのかが分からない。分かるが分かりたくない。
「もう一勝負」
嫌です。と、にべもなく拒絶出来たらと何度も思う。これが兵の辛いところだ。
僕は溜め息を心で吐いて、弾を込めた。
そうして、何時間か経った。一体何ゲームやったことやら分からない。
一つだけはっきり明瞭に分かることと言えば、あれから一回だって勝てなかったことだけだ。
引き分けは多くあったが、勝利までは行けなかった。
薬莢が山を築き、膝まで達した頃に、漸く彼女はこのゲームを終わる許可をくれた。
帰るつもりになったらしい。僕も帰ることにした。今日一日は銃を撃ちたくない。
帰り道、兵舎と射撃場を結ぶ道と接するマルチアーノ邸へと戻る隊長と歩く。
空が昼と夜の中間の、あの色になっている。一体どれくらい撃ったんだ。
黙って歩いていると彼女が言った。
「M16のことについては、時々メイから見て貰った方がいい」
すっかり忘れていた。そうそう、最初は教練だったんだ。
僕は言葉を濁した。出来れば別の選択肢を取りたい。
「メイに言い難いなら、私から言っておく」
これは僕の勝手な考えだが、彼女は態度から相手の心を読み取る能力とか付けたらいいと思う。
そうしたら僕が恥ずかしい思いをすることもなかった。
隊長に見て欲しいんですけど、と言ったのだ。良くもまあ言えたものである。
彼女は珍しく意表を突かれた顔をした。今日は色々と普段と違ったものを見るなあ。
ふっとその表情が緩み、口が開く。
「明後日午前九時、射撃場第三ワイドレンジ」
僕は崩れた敬礼をして答えて、それから何故明日からではないのかと聞いた。
応答は簡単。明日は日曜日だったからだ。なるほど日曜日は神とか言う考えなしの手がやっと休まった日だ。
彼女たちが休むのも僕たちが休むのも道理というものだろう。じゃあ、こういうのはどうだろうか。
「銃器店に?」
そう、銃器店に一緒に行きませんか。ダットサイト買いに。
益々彼女の、RPGは禁句な銀髪姉妹の方が適切な行為だが、見て貰う人と行くのが尤もなことである。
後、あちらはそう思わないだろうが、自隊の長と一緒に何処かへ二人で行ったというのはかなり自慢になる。
隊長は少し考えてから結論を出した。
「としあきは射撃も下手だけど、誘うのもとても上手とは言えない」
言葉は否定的だが口調は肯定的だ。冗談で、下手とは言わないんですねと言った。
「冗談に到ってはド下手の極み。けど、としあきは特別だから許してあげる。付いていってもいいよ」
お礼を言って、僕は足を止めた。マルチアーノ邸の門の前だ。
どう特別なのか聞いてみたかったが、また何か変なスイッチを踏んだら良くないので黙っていよう。
そう思っていると、彼女は塀のあちら側に移った後、門を閉めながら答えてくれた。
「銃の勝負で負けたのはとしあきで五十三番目だから」
多いよマーチ隊長。




因みに、翌日いつ行けばいいのか分からなかったから試しに朝六時半に行ってみると、用意をして待っていた。シャワーまで浴びてだ。
……どうも、僕はそれくらいに特別らしい。

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最終更新:2008年11月25日 22:19