何だか知らないが、僕は隊長たちに気に入られてしまったらしい。
その事実を知ったのは三人の口からではなく、自分で感付いたのでもなく、
今や拳銃小銃短機関銃擲弾銃散弾銃の遊底を引いて本気で狙いをつけてくるかつての友人からでも当然なく、
彼女たちの保護者、つまりセプからだった。
ところで、もう勘付いているかもしれないが、僕は十二姉妹の部隊ではオクト隊に所属している。
実際のところオクト・ノヴェ・ディッセ隊は殆ど融合しているので、誰の下でも余り変わらないが。
次に言うことは、どの部隊に配属されるかは、殆ど完全に兵の自由だということだ。
たまに運悪くフェブの情報改変を受け、強制的に異動させられることもあるが、最初の配属の時点ではほぼ希望が通る。
それで、僕がオクト隊に所属しているのもそういった希望が通ったからで、
何だか随分と遠回りをしてしまったがつまるところ、僕はそういう希望をした訳だ。
どうしてか。そんなことは態々言うまでもない。
彼女たち三人を見て、古い海外小説の和訳風に言えば『完全にイカレちまった』からだ。
それが大体数年前、丁度十月だった。日までは覚えていない。どうせだから記念日として記憶しておけば良かった。
ずれてしまったが戻ろう。僕はどういった理由があるのか知らないが、彼女たち三人に気に入られてしまったのだ。
流石に当人たちも口には出さなかった(だから僕はあんまり気付かなかった)が、
保護者は常に観察しているものだ。まあ、あの三人から目を離せる日が来るかどうか怪しいが。
セプは気付いてすぐに、尋ねてみたらしい。聞いた時、いきなりかよとは思ったが、何かの意図があってだろう。
年末組は最初怒られるとでも考えたのだろうか、頑なに口を閉ざしていたそうだ。
だがある本にこう書いてある。
『民衆を騙すことは容易い。一部の人々はいつでも騙せる。但し、ママは全部お見通しだ』
随分前に読んだっきりなので題名も思い出せないし、ちゃんと表記が合っているかどうか分からない。
が、意味することは分かって貰えるだろう。
この場合も例に漏れず、三人の黙秘によって確信を強固なものにしたセプによる、一方的な尋問が続いたらしい。
尋問者の言を全て信用するならば、一時間と二十三分四十五秒三四ほど過ぎた頃に、やっと三人は話す気になったんだとか。
ただ、言ったのは非常に舌足らずな表現、説明だったと聞いた。
その中から意味を把握出来る言葉を抽出し、文章化すると、最初の一文の結果になったのである。
セプはそれまでそんな素振りを毫末と見せなかった三人の成長に驚き、
本人曰く『胸がキリキリ痛む』経験をすることになった。
で。こんなことを考えて僕は目の前の現実から目を背け続けようとして来たのだが。
人間には限界というものがあるという。今、僕はそいつに思い切りぶつかった。もう無理だ。戦わなきゃ、現実と。
「「「ナボコフのロリータ発見ー」」」
本棚から飛び出る本。それだけは止めて。
「「「ホワイトロリータ発見ー」」」
棚から略奪される菓子。それはどうでもいいや。でも袋はちゃんと捨てて欲しい。
「「「ゴーストリコン発見ー」」」
パソコン用の机から出てくるゲーム。別にロリ関係ないと思う。ああ、あれか。最後の三文字が問題か。
三、四日前からずーっとこんな調子だ。毎日毎日、自分が暇な時間になるとやって来る。
夜になってセプが引き取りに来るまで続くのだ。体力が続かないよ全く。嬉しくないかと言われたら嬉しいけど。
最近聞いた内緒話では食事に招待する段取りまで決められてるようだし、休日ともなればどうなることか。
これは僕の勝手な予想だが、十二姉妹の監視下ながら、市街に出掛けるだろう。この前ガイドブック読んでたから。
……何だか迎えが遅い。前後左右からつつかれたり押し付けられたり抱きつかれたりしながら時間を確認するが、
何度見ても時計の針はかなり遅い時刻であることを示し続けている。
いつまでもこんな状況じゃ、遅かれ早かれ僕は狂ってしまうだろう。色欲とかに。
そうなればアレだ。アンドローで死んだ聖女と同じ名前の大佐の同類になってしまう。ああはなりたくないものだ。
三人から耳元に息を吹き掛けられるに到って、僕は遂に決意した。
僕の手で、彼女たちに何かしてしまう前に、保護者の下へ返そう。うん。これ決定。僕と三人の為にも。
肩にしがみ付く三つ子を丁寧に剥がし、ベッドにごろんと転がして、上から布団を掛ける。意味は大してない。
それからもぞもぞと布団の中で蠢いている間にドアに向かう。ドアノブを掴む。回す。押し開けると同時に出ようとする。
がん。
ひりひりと頭が痛んだ。目から火花は出ていない。星もひよこも出番なしだ。何だ一体?
落ち着いてドアノブを捻る。そのタイミングで前に一歩。同じ結果とより強い痛み。しゃがみ込んで打った場所を抑える。
結果の分かりきった行動を取るのは良くないな、と思った。
OK、段々掴めて来たぞ。この可愛らしい悪魔たちは僕を部屋から出したくないらしい。
いやそれどころか、自分たちも部屋から出たくないのだ。何かをしようとしている。セプをどうにかしてまでする何か。
それがどんなことなのか僕には──「「「何処に行くの?」」」
首に回される二人分の手。あ、と声を出す間もなく引き倒される。
暴れても無駄だ。彼女らの力には勝てはしない。どんな男でも勝てまいさ。通常の人間の範疇に納めていいならば、だけど。
それに僕の中に、四人でこれからする行為に対してのある種の思いがあったことは否定出来ない。
背徳には絶えず悦楽が付き纏う。僕らの影みたいなものだ。
大人はそれを理性とかいう鎖でしっかりと押さえ付ける。僕もそうして来た。
けど、こいつはもう解き放っていいんじゃないか? 僕の思うままに、彼女たちの望むままに、だ。
聖母マリアが耳元で、為るがままにしてなさいと叡智に満ち溢れた言葉を囁く。
オクトが胸の上に跨った。金色の艶やかな髪が僕の喉を撫でる。ノヴェが膝枕。柔らかな太腿に万歳。
心の中の革命軍は現在着々と決起の時を待っている。『ひたぶるに、うら悲し』ですな。何だと?
ディッセは四つん這いになって僕の喉に、モンテリマルのヌガーと間違えてるんじゃないかってほどにキスをする。
僕の唇に触れる柔らかなオクトの唇。細い両手が頭の左右に突かれている。
小さく鋭い痛みが目の上に走った。先程強かに打ち付けたところだ。
ノヴェがその部位を舌でゆっくりと嘗め回していた。エロティックな舌使いと純真そのものの目。
ディッセの専売特許でもないのか、そういうのは。
硬直していた左手が別の力によって動かされる。指先に感じる布の感触。
最も後に訪れる月の名前を冠された少女の纏う、白い服の内側へと侵入し進む。聖域へと、聖域へと、いつか夢見たあの場所へと。
くすぐったいと感じたが故の密やかな笑い声が小さな嬌声に変わり、明瞭な喘ぎに変貌して行く。
今度は右手が持ち上がり、オクトの体温を直に感じられるようになる。要するに、肌と密着したのだ。
膝枕中のノヴェが負けじと顔を近づけてくる。
これ以上何をするのかと思いきや、彼女は口を開き、僕の開かれた眼に舌を這わせた。
驚きと快楽、官能的な現状に惚、とする。片方の目は焦点が合わず、オクトの髪の毛とノヴェの髪の毛が見えるだけだ。
多分、もしもう少し三人の頭が回れば、僕らはこのまま最後まで行っていただろう。行くところまで。
ただそうであるには、彼女たちは今一つ経験と冷静さに欠けるものがあった。
目の端に映ったドアから、銀色に光る凶器が飛び出てくる。
僕の呆けた脳では、それが何なのか分かっても、だからどうするという行動に繋げられない。
オクトたちもそれは同じだったようだ。
僕よりも立ち直りは素早かったが、あんなに驚いた彼女たちの顔はこれが初めてだろう。
三つ子と僕はすぐに危険地帯から離れる。どうせ逃れる場所はないのだが。
銀色の暴力は執拗にドアを刺す。廊下の光がこちらに漏れ入って来るようになるまで、それは続いた。
蹴破られるドア。そうしたのはセプ。口には猿轡の痕。手首には縄の痕跡。足にさえそれは存在する。
ああ、畜生。僕は小さくそう漏らした。彼女が黙っている筈はない。
僕と三人が何をしたのかを知った彼女がどの選択肢を取るか知るのは簡単だ。
あの目を見れば分かる。震える銃剣の切っ先を見れば分かる。歯軋りの音を聞け。歩みに篭る怒気を感じろ。
それら全てが向けられる先が誰だか分かっていたのか、僕は?
と、セプの姿が遮られた。ウサギ、カエル、クマのリュックサックが視界の中に揺れる。
彼女たちは、僕を守るように立っていた。セプの足取りが数歩前で止まった。
やけに緩慢な動作で彼女は口を開く。
「……そこに座りなさい。全員」
四人で朝まで怒られた。
最終更新:2008年11月25日 22:23