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僕はお人好しが過ぎると、子供の頃から言われていた。
幼稚園で一緒のクラスになった女の子、小学生で面倒を見てくれた上級生、
中学校の数学担当の先生、高校じゃ友人に言われ、そしていつも親に言われていた。
言われた時は、僕がお人好しなら蝶々蜻蛉も鳥の内、電信柱に花が咲くってな具合だなどと思っていたが、
それから何年も経った今、僕は嫌々ながら認めなければならないようだ。
どん、とテーブルにジョッキが落とされ、ピンク色の髪の毛がその手前で揺れる。
なみなみと注がれた液体は勿論アルコールじゃあない。ただのジュースだ。
さっきまではジンジャーエール、その前は烏龍茶、またその前はミルクティーだった。
時計を見る。うわ、三時前だ。近所迷惑じゃないですか。
いい加減に帰りたい。帰って、完璧に整えられたベッドに飛び込みたい。
が、目の前でアルコールなしの飲み物を飲んだくれてる少女を放置することも出来ないと思う辺り、
やっぱり僕はどうしようもなくお人好しなのだ。
というかどうして僕がここにいるんだろう。
いや、二週間前に申請した休暇を幸運にも取れたから、
暇になったし酒場にでも行こうかなー、なんて思って九時半頃にここまで来たのは覚えている。
それからよりによってコヨーテ共の巣窟に入り込んでたことに気付き、
まさか僕が十二姉妹配下の兵とは気付かれないだろうと、
冷や汗を流しながら退散しようとしたところを目前の少女に見つかり、
付いて来なければバラすと脅されてこの店──この間銃撃戦をやったあの店──に来たことも覚えている。
だけど何度僕がここにいることになった経緯を思い返してみたって、
このピンクの話に付き合わないといけない理由は、一向に欠片さえも見つからなかった。
まあ、僕だって予定があった訳じゃない。
折角の休暇を無駄に過ごすくらいなら、Su-27の悩みでも聞いてみるのもいい。
ただ、問題なのはそれがいつまでもいつまでも続くことで、そろそろ僕は眠りたかった。
全く驚いたことだ、僕はギルドに入り、十二姉妹の配下になり、離反し、そして今ここにいるが、
まさかこんな辛い仕事があるとは夢にも思わなかった。
かつて僕が俄かキューブリック好きの友人に、十二姉妹の下でなら働けそうだと言った時彼は言ったものだ。
「へえ、つまり君はクラスで一番最初に、ナッツ入りのクソへと顔を突っ込める子になりたい訳だ!」
そんな軽い仕事だったら、今なら鼻で笑って行える。そういう風に訓練された。
だがこいつは未だに訓練したことのない仕事だ。正にクソ地獄さ。
延々と続く愚痴愚痴愚痴。一人じゃとても辛い。だというのに、僕の周りには誰もいない。
というか、この店に誰もいないのだけれど。
何でも、昨日今日明日と休業日だそうで、明後日の朝五時にならないと店は開かないのだとか。何だよそれ。
と、不意にジョッキが上がった。残っていたジュースを流し込んでいる。彼女の胃の中を見てみたい。
飲み終えて、今日だけで十数の飲み物を注がれてきた容器を下ろし、溜め息を零す海賊王の娘。
それでさ。彼女が言った。頷き、続きを待つ。
「もう帰っていいよ」
喜べなかった。言われたのが十五分前なら、喜び、彼女の頬に二、三度のキスをし、お休み、と言って帰っていただろうが。
まだ話し足りないんじゃ? そう尋ねると少女は頭を振り、僕が帰ってもいい理由を言った。
「言って、どうにかなることじゃないしね。ああ、御代はただにしとくから」
僕の手元に目を落とす。グラスには半分以上、酒が残っている。
彼女は席を立ち、ジョッキを片付けだした。
うーん、じゃあ僕は、これから三つ四つの言い訳を考えなきゃならないな。
そう漏らす。時々誤変換甚だしい少女は振り返り、聞き返した。
だから僕は肩を竦め、首を回して、右手で戦場で鍛えられた耳で聞きつけた音、それが響いてくる方向を指し示す。
指は店のドアに向けられていて、そこには僕の見慣れた三人がいた。
「ここに来て話すだけで私好みのカップリングものが貰えると聞いて飛んで来ました」
「ここに来て話すだけで何か可愛いものが貰えると聞いて急いで来たんだが」
「何だか知らないけど来てくれると助かるって言ってたから来たけど」
呼んだ理由を聞きたがっているだろう無人気に、理由を言った。
そいつは正直な話、聞かれれば三人に命を狙われかねない理由だった。
同じ悩みを抱える人間と話せばもう少しは楽になるんじゃあないか? なんて、殺されても仕方ないな。
それと僕の名誉の為に言っておくが、最後に発言した人は不人気とは違う。死に易いだけだ。
聞き役に徹してくれれば、これほど適役な人もあるまいと思って呼んだのだ。
流石に僕も自分の隊長をピンク・F・B・F・略・D・不人気の同類にする気はない。
いらない気を回して。彼女が言った。僕は笑って、じゃあ帰るよ、と返す。
すると少女は、僕のグラスに酒を注いだ。
僕は彼女の無言の頼みを無視出来る人間じゃあない。
第一、こいつはいい酒なんだ。放っておくなんて勿体ないだろ。
十二姉妹が飲めば店の酒を飲みつくさないか聞くと彼女は、どうせ次の客が飲みつくすわよ、なんて笑う。
じゃあもう少しだけいるよ。そう言って席に着いた。十二姉妹たちも椅子に掛ける。
コップ人数分-2を用意して、さあ全員ぶっ倒れて盛大なクソ地獄を見るまで、という時、ドアが凄い勢いで開けられた。
ああ、そういやもう一人呼んでたな。
ドアの向こう側には金髪のファッキン・ナチが家訓なユダヤ系の男性が立っていた。
今日のパーティーの主役がそちらを見る。
「すまねえ、遅くなっちまった! ここに来て話をするだけで──」
「誰あんた」
彼は泣きながら走って行ってしまった。

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最終更新:2008年11月25日 22:27