世の中にはやたら妙な言葉を思いつく人のあるもので、例えば、滅多に無いことを表す言葉の一つには、『盲亀浮木』というものがある。
これは百年に一度、海の底に住む盲目の亀が海面を目指した時、偶然にも浮木に出来ている穴に首を突っ込もうとする確率のことを示し、
前述の意味を成す。また、無上甚深微妙法、百千万劫難遭遇という言葉もある。この全文は喩えではないが、後の方の『劫』というのは、
一辺が約七キロの立方体の中に芥子粒を満たし、それを百年に一粒ずつ取り出してさえ、一劫にならぬほどの長い時間を表している。
因みに億劫という言葉があるが、これはこの『劫』から来ている。一劫でも気が遠くなるというのに、億では面倒どころの騒ぎではない。
さて、何故こんな前置きが必要だったかと言うと、今の自分の状況が状況であるからだとしか言いようがない。僕は説明が下手なのだ。
だからこんな面倒な言葉を使って説明するしかない。現況に陥る確率の話は盲亀浮木の一言で済むし、僕がここに来てからの時間経過、
勿論ながら体感時間の方だが、それは、百千万劫という説明が最もしっくり来るだろう。それでは現在状況を具体的に説明しようか。
……僕はマダム・マルチアーノ邸にいた。のみならず、姉妹と共同作業に勤しんでいた。あまつさえ、それは僕らギルド兵の上官となる、
ある二人の姉妹との共同作業であった。搗てて加えて、任務中に接触する姉妹は彼女だけではなかった。尚且つ──これ以上は無いか。
とは言っても幸運なのは、彼女たちのどちらも、僕の直接の上官ではないということだった。僕の上官はセプ様だ。その二人ではなく。
この仕事の打診があったのは二日、いや、あれは三日前だったか。ちょっと不明瞭だ。今現在僕と働いている
ジューン様と
ジュライ様が、
僕を呼び出した。場所は第一演習場。別名、『何も無いところ』。それはどうでもいい。ジューン様はホットの缶コーヒーを僕にくれた。
それから、今日のことを伝えた。セプ様にあることを考えたという話をされてぴんと来た。そうか、勤労感謝の日だ。それで全部悟った。
セプ様ほど働いている姉妹は他にない。これだけは何をされようと変えない持論である。
エイプリル様だろうがジュライ様だろうが、
その意見を変えることは出来ないだろう。僕は話を聞き、そうして受け入れた。正に勤労への感謝をされるべき人へ、僕たちがするのだ。
彼女たちが僕に話を持ちかけたことで、何をするかの大体の予想はついた。料理だ。僕は炊事兵だった。おっと、言っておくけれども、
この炊事兵という奴は、姉妹兵の中でもエリートに含まれる連中である。戦闘も出来るし料理も出来る男なんて、そう多くないんだから。
更に僕は自負があった。炊事兵たちにおいて、頂点に立っているという自負があった。これは秘密があって、以前セプ様にほんの少し、
手ほどきを受けたことに由来する。彼女が教えてくれたのであれば、僕はトップにいなければならなかった。姉妹の名誉の為にもである。
僕は年末三姉妹について質問した。彼女たちもまた、セプ様に感謝するべき存在であるだろう、普段あれだけ世話掛けてるんだから。
ジュライ様たちに手抜かりはなかった。第三世代の括りで、
オーガスト様主導の形で、彼女たちは独自に行動を始めているらしかった。
そうか、ならば安心だ。オーガスト様の真面目さは隊の誰もが認めるところだ。流石はエイプリル様に憧れる者の一人であるという声も、
良く聞くことである。僕は二つ返事で請け負って、それから料理の話をした。和洋中どれにするか、ランチかディナーか、などの話だ。
僕としては一番盛り上がるディナーが良かった。料理は僕はどれでも良かったが、セプ様が作るのは洋食中心なので、それではと僕らも、
同じように洋食にした。決めた後から、いつもとは違う夕食を楽しんで貰うというのも悪くない案ではなかったかと思ったものだったが、
決まってしまったものは変えられなかったし、いつもの洋食でも、セプ様が楽しめるくらいの良い味にしてしまえば、万事問題なかった。
僕たちにはメニューを考える必要があった。その話があった次の日に、僕たちは多少邸宅から遠くにある商店街にて密会した。理由には、
触れる意味は無いだろう。セプ様にバレると全部水の泡だ。せめて当日まで隠し通しておきたかったのだ。僕らは道中にメニューを決め、
車を駆使して買い物をして回った。ゴールド免許持ちとして一つ言っておこう。ジューン様の運転は大変宜しい。実に教本通り過ぎて、
現実に即していないほどに宜しい。だけれども途中で交代したジュライ様の運転は、あれは……もう、酷いものだ。二度と乗らない。
『赤信号は渡れ、黄信号は渡れ、青信号は渡れ』を本当にやっちゃうんだから恐ろしい。人を撥ねてしまいそうになったのも、絶対に、
一度や二度ではない。しかも行きと帰りに同じ人を撥ね飛ばし掛けた。偶然というのは、心底恐るべきものであると、僕は確信した。
フルコースで行くらしかったので、買い物の量は必然的に増えた。それらが僕の両腕の中に収められたのは言うまでも無いことだろう。
アミューズも作ると聞いた時は少し眉を上げて驚きを示したが、荷物量とフルコースで、との言葉が先にあったので、それだけだった。
食前酒食後酒はジュライ様が用意するので、買わなかったけれど、彼女の飲むお酒というのが一体洋食フルコースに合うものなのかは、
心配事として残った。魚料理と肉料理の狭間での口直しには、僕とジューン様のブランデー入りシャーベット派と、ジュライ様の酒派の、
二つに割れたが、結局これはオーガストたち四人がシャーベット、後はお酒、ということで決着をつけた。チーズの用意も忘れていない。
僕と仲間の良く行くバーに行って、美味しいチーズを買った。値段も張ったが、そこはそれ、金に糸目などつけていられない事態なのだ。
それから僕は、十二姉妹それぞれの好みを尋ねた。つまりコーヒー、紅茶、食後酒の需要についてである。結果、最後の一種を除いて、
二つとも用意することになった。ジャニアリー様、エイプリル様、ジューン様、それにオーガスト様とセプ様は紅茶党だったし、
フェブラリー様と
マーチ様、メイ様はコーヒー党だった。
オクト様たち? 彼女たちも紅茶党と言えば紅茶党だが、彼女らのあれは、
紅茶なんかじゃないと言いたい。僕は三人が紅茶を飲むところを見たことがあった──角砂糖を使いすぎなんだ、あの甘党娘たちは!
僕らは材料を買って帰った。それが十一月二十二日のことだ。だが予定は覆った。二十三日に姉妹隊は仕事をこなさねばならなかった。
そうして今日だ。材料はちゃんと保存していたので、今日、二十四日、僕たちはすぐに始めた。セプ様は昨日の仕事で疲れたので、
ジャニアリー様が説得して、部屋で休ませていた。これは大変な好都合であった。ここで、僕らの考えたメニューを幾らか公開しよう。
まず食前酒。悪いがお酒には詳しくないのでこれは余り知らない。ジュライ様に任せているし、きっと場に合うお酒が出て来るだろう。
アミューズ。サーモンでクリームチーズを包んだ。考えてみたらチーズは後で出すんだから、別のものにすれば良かったかもしれない。
オードブル。マスカルポーネを添えたイチジクのプロシュート包み。何でこうチーズが被るのだろう。もう諦めた。開き直ってしまおう。
アントレ。これは僕の趣味を通させて貰った。コーンスープだ。僕はコーンスープが好きなのだ。姉妹たちは快く許可してくれた。
メインディッシュの魚料理。クーリビヤック。ウナギの案もあったが、無難に鮭を使った。実はこの料理、初めて知った。ジューン様作。
口直し二種類。シャーベットとお酒。今回もお酒は分からない。シャーベットは、ジューン様が掛かりっきりになって作っていた。
メインディッシュの肉料理。豚頬肉の煮込み。鴨胸肉のロースト。また口直し。その後、牛ステーキを赤ワインソースで。机上整理。
チーズ。白カビ、フレッシュ、山羊乳、セミハード、ウォッシュ、プロセス、ブルータイプだ。多すぎたかもしれないが、まあいいか。
デザート。ちっちゃなケーキの詰め合わせだ。いわゆるプチフールという奴である。それと同時に、コーヒー他の飲み物も出す。
完璧ではないが、心が篭もっているなら、それは料理が完璧であるだけのもの以上の料理になるだろう。僕たちは作りながら話し合った。
これらの料理をどのように運び、どのように並べるか。これを見た時のセプ様の反応はどんなものになるだろうか? 僕たちは笑った。
彼女の喜ぶ顔が目に見えた。僕らはますます腕によりを掛け、セプ様の為にと頑張った。料理が完成した時には、皆で抱き合ったものだ。
常に冷静であるように見える二人がそこまでの感情を露にするということが珍しくって気圧されたが、すぐにそれは気にならなくなった。
二人の意見で、眠り姫を起こしに行く役目は、僕が仰せつかった。ジャニアリー様は不服のようだったが、僕の頑張りは否定出来ない、
とか言って、仕方がないから我慢してやる、という態度を取った。僕はそれに甘えてセプ様の部屋まで行き、優しくノックした。しかし、
彼女は起きなかった。僕は何度かノックしてから、それでも返答が無かったのでドアを開けようとしたが、ノブに手を掛けた丁度その時、
セプ様が割とはっきりした声で、返事をした。そこからの一瞬が、僕にとってこの日における何番目かの、酷く緊張する瞬間だった。
「夕食の用意が整いました、セプ様。どうぞ、食卓までお越し下さい」
僕がここにいることを話してなかったので、彼女はこの声の持ち主が誰なのかに思い至るまで一秒くらい掛かった。それでも凄いと思う。
寝起きにそこに存在しない筈の人間の声を聞かされ、一秒で見抜いてみせたのだ。これを不十分と言うのなら、どんな記録を求めるのか。
「着替えてから行きますから、先に戻っていてもいいですよ」
「いえ、お待ちします、セプ様。これが自分の任務ですから」
彼女の着替えは早かったのだろう。服を着替える音はそう長い間していなかった。が、何かあると感づいてか彼女は薄化粧を施して来た。
美しかった。彼女の清楚な美しさを引き立たせる化粧だった。僕は迂闊にも見惚れてしまって、任務を忘れ去ってしまうところだった。
「では、行きましょうか」
これは彼女の言葉である。僕は短く、はい、と答えて歩く彼女の横に並んだが、声は呆っとしていたことだろう。顔も赤かったであろう。
食卓までセプ様と共に歩いた。綺麗に片付けられた卓上には、雰囲気作りの為の蝋燭が立てられており、火も既に灯された後であった。
ジャニアリー様の横の席が、セプ様の席だった。これは至極当然なことだろう。そしてセプ様の隣三席が、年末三姉妹の席であるのも、
同じように至極当然のことだろう。彼女たちは常通りに座ったんだと思う。
ニルソン様も来ていた。僕は彼に会釈して、挨拶とした。
彼はにこやかに微笑んで返してくれた。セプ様の案内が済んだので、厨房のジューン様とジュライ様を呼び、姉妹たちの許へ行って貰う。
時間を確認。急いだ方が良いだろう。二人の姉妹はカートに食前酒とアミューズを先に並べておいてくれた。僕はそれを持って行って、
配膳した。ジューンとジュライ、それに
ジャニアリーとエイプリルによる今回の晩餐の意義説明が行われていた。セプ様は僕を見て、
ニルソン様とは違った種類のにこやかな微笑を浮かべた。僕はそれで赤くなってでくの坊になるほど、ルーキーという訳ではなかった。
僕も笑みを返して、厨房に引っ込む。様子を窺わずに容易に勤しんでいていいのは、ジュライ様の計らいだ。彼女が厨房の電話に、
通信して知らせてくれると言ってくれたのだ。ありがたいことだった。あれこれと要される作業をして時間を潰し、ジュライ様の連絡で、
カートに皿を並べて、持って行く。すると意外なことが起こった。僕は最初の話の時点で、共に食卓を囲むことを提案されていたけれど、
断っていたのだ。折角十二姉妹とマルチアーノ様、ニルソン様が和気藹々としているところに、僕が入って行っても良いとは思えない。
だから辞退した。失礼だったかもしれないが、固辞していた。しかし、十五脚目の椅子が、僕の出て行ったそこには用意されていた。
最初は気付かないふりをしてその場を辞してしまおうとしたが、セプ様が僕を見た。ジュライ様も見た。ジューン様も見た。というか、
その場にいる全員が僕を見ていた。焦った。十二姉妹たちに加えて、マダムにも、ニルソン様にも見られているのである。とても焦った。
エイプリル様が小さく咳払いして立ち上がろうとしたが、セプ様がそれより先に立ち上がろうとしたので、彼女は口の端を綻ばせて、
その動きを止めた。セプ様は僕を呼んだ。席はセプ様と対面する位置にあり、右にメイ様、エイプリル様、ニルソン様が座っており、
左にはジュライ様、ジューン様、オーガスト様が座っていた。料理は誰が運ぶか、そして僕が食べるならその分はどうするか心配したが、
これは僕が騙されていたことがはっきりしただけで終わった。ああ、前者については、騙す騙さないは関係ないが。ジュライ様がやった。
僕の分は隠されていただけで、ちゃんと作られていた。アントレは大体鍋で作ったものなんだから一人分くらいの余りはあったし、
メインディッシュは僕の手が及んでいないので、僕の分が作られていたことを知らなかったのも無理の無いことであった。つまりは、
僕の拒否は最初っから無視されていたのである。残念だがアミューズとオードブルは味わえなかったな、と思っていると、ジュライ様が、
彼女の分のを僕に分けてくれた。絶品だった。美味しかった。これ以上に美味しいものがあるだろうかと感じられるくらいの味だった。
続いて魚料理を食べ、口直しにシャーベットを食べ、肉料理二種類を食べ、口直しを食べ、更に肉料理をもう一品食べた。味は良かった。
が、僕にはセプ様の嬉ぶ顔の方が重要だった。因みに、ジャニアリー様がお酒に弱いことが明らかになった。彼女は口直しのお酒で酔い、
ほんのり赤らんだ顔で、彼女の親友にべたべたし始めた。大抵毅然とした態度で、誰かに甘えるようなことが無いので、その珍しい姿は、
セプ様を逆に喜ばせた。セプ様が甘やかすので、酔った彼女は調子に乗って悪ふざけを始めたが、これは即座に手厳しく戒められた。
三つ子たちはお酒を欲しがり、メイ様が勝手に飲ませようとするのを止めるのが、エイプリル様の専らの仕事だったと言っていいだろう。
ジューン様は、ジュライ様がいてもいなくても、頻りに話し掛けて来た。彼女もジャニアリー様でないにしろ、お酒には強くないようだ。
朱が差している、というのはこういう表情のことを言うのだと、僕は知った。チーズがやって来て、僕たちは喜んでそれに取り掛かった。
これらを選んだのは僕なのだとジューン様が皆に言うと、賛辞の声が次々と上がって、僕はくすぐったい気持ちになった。嬉しかった。
沢山用意した筈のチーズがあっという間に無くなったと思っていたが、時間はそれ相応に経過していたようだ。時計を見てそれと知った。
デザートだ。飲み物も出る。僕はコーヒーを飲んだ。数少ない同士として、メイ様が僕の首に腕を回して引き寄せ、親しげに喋りかけた。
この人は素面でこれだから困る。ここまで体が密着するようなコミュニケーションを取ることは、僕の得意とすることではないのである。
完全に酔っ払ったジャニアリー様が、無断でお酒を厨房から取って来て、ちょっぴりずつ飲み始めた。メイ様もそれに引っ張られて、
僕に腕を回したまま、飲み始めた。新しいグラスに酒を注ぎ、僕にも飲ませようとする。あれ、この人ももしかして酔ってるのだろうか?
しかしながら最終的には、見かねたセプ様とエイプリル様がジャニアリー様に飲酒の停止を命じ、節度ある晩餐会が続けられ、終わった。
僕は後片付けをしないでもいい特権を与えられたが、今度こそそれを辞退した。どうせやるなら最後までやりたかったし、後片付けには、
セプ様も参加するのである。どうしてこれを参加せずに終わらせられるだろうか。いや、参加する他に手はない。年末三姉妹を寝かせ、
オーガスト様にも眠るように勧めた後で、彼女は厨房へやって来た。ジャニアリー様は三姉妹よりも先に眠った。メイ様もだ。やっぱり、
彼女も酔っていたのだろう。エイプリル様は手伝おうとしたが、セプ様は彼女がゆっくりしていることを望んだので、手伝いを諦めた。
ジューン様とジュライ様? 彼女たちも同じようにセプ様が休むことを求めた結果、居間でテレビを見たりしている。残り二名はだって?
フェブラリー様にしろマーチ様にしろ、後片付けをする気は無いようだった。作るのはあなた、食べるのは私、片付けるのもあなた、か。
しかしながらその辺の態度も魅力の一つだと、以前マーチ隊の兵士に長い説明を受けたので、僕はそう大して何も感じることはなかった。
それよりもだ、僕がセプ様と二人っきりで後片付けをするということの方が、余程気に掛かることであったのだ。僕は話しかけなかった。
彼女が話しかけた時にだけ、言葉を返した。若さに任せて突っ走ってしまいたかったが、僕は臆病だったのだろう。但し仕事の終わり頃、
セプ様に、体を大事にして下さいね、ということだけは忘れなかった。それは、セプ隊に所属する兵士全員の共通の願いであったからだ。
その後、僕はジューン様とジュライ様、セプ様に挨拶し、他の顔を合わせた姉妹にも挨拶して邸宅を出ることにした。だけれども最後に、
予想外の人と話すことになった。マルチアーノ十二姉妹の偉大有徳なる母、マダム・マルチアーノ。我らがマルチアーノ様と呼ぶ女性だ。
彼女は、彼女の娘の為に僕がここまで献身してくれたことを感謝し、誇りに思い、また、嬉しく思うと告げた。彼女は丁寧に礼を言った。
僕が仰天し恐縮したことは言を俟たないことだ。マダムは何か僕にお返しをしようとした。僕はそれを、ここ数日で三度目だが固辞した。
マダムはそれ以上何も言おうとしなかった。僕は夜の挨拶を述べ、お休みなさい、と返された後に名前も呼ばれて、再度恐縮しながら、
自分の寝床へと戻った。幸せな気分で、心まで暖かに、眠ることが出来た。その日僕は、生まれてから見た中で一番いい夢を見た。
──それで、翌日、朝。僕は僕に届けられた命令書を読んで、やれやれ、と思った。命令書を届けた兵士は、僕を罵って羨ましがったが、
それは互いに信頼し親愛の情を抱いているからこそ出る言葉で、彼は僕をぐっと抱き締め、頑張れよ、と言ってくれた。命令書には、
マルチアーノ十二姉妹隊セプ隊所属兵である僕宛に、新設されたマルチアーノ邸内部警備巡回兵への異動命令が記されていた。
いやはや、マダムもその娘たちも見栄の後ろに隠された本心を暴くのが本当にお好きらしい。僕は命令書をぐっと握り、邸宅へ向かった。