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がんばれ新聞部。 - (2008/10/08 (水) 02:31:57) のソース

「今度の特集で、ウチの学校の七不思議を特集しようぜ」 
「だが断る!」 
 倉田恵美は自重しない女である。 
 部長である日野貞夫にむかってこの発言。横にいた坂上修一はもうヒヤヒヤもんである。 
「ちょwwおまwww倉田wwww」 
「だって、部長ってば絶対来ないつもりでしょ!」 
「い、いや、立ち会うって!」 
 しかし、そう言う日野の表情は若干青い。 
「あー、よかった! 部長ってば、怖い話が苦手だと思ったー!」 
 そう言って、笑いながら倉田は「じゃ、おつかれでーす!」と言って部室を去った。 
 後に残されたのはヘタレとメガネ。 
「……坂上」 
「……はい」 
「……お前も、立ち会ってくれるか」 
「……はい」 
 この二人にガチホモ疑惑が持ち上がるのはまさにこの夜のことである(おもに倉田のせいで)。 

   ***取材当日*** 

「……ああ、空気が重い」 
 すでにぐったりしている日野である。 
「ほらほら、お二人とも! 早くしないと怖い話が逃げちゃいますよー!」 
「……どうしてアイツはあんなに元気なんだ」 
「……同感です」 
 廊下をタッタカ走っていく倉田の後姿を見て、二人は同時にため息をついた。 

   ***新聞部室*** 

 さすがの倉田も、部室に入った途端におとなしくなった。 
 日野が集めた語り部は、それぞれ異様な雰囲気をかもし出すどころか、ダダ漏れである。 
「えー……本日皆さんのお話を聞かせてもらう、新聞部の倉田です」 
 語り部が聞いてるよ。 
「付き添いAです」 
「Bです」 
 メガネとヘタレのあわせ技。 
「……日野、お前がBなのか」 
 新堂誠。日野のマブダチ。スポーツ大好き頼れる兄貴。 
「ああ。俺は今日は裏方に徹する。だからBで充分だ」 
「ふふん、上手い事言ってるね、日野」 
 風間望。日野のマブダチ? 金持ちのボンボンにしてバカ野郎。 
「僕にはわかるんだ。日野は本当は怖い話が……」 
「風間、三万円払おう」 
「……大好きなんだよね」 
「今、すごい大胆なワイロがあった気がするんですが」 
「坂上、この世界で生き抜くには、こういう手もあるということだよ」 
 全然かっこよくない。 
「……ところで、日野先輩」 
 荒井昭二。暗い。キノコ。 
「ん? なんだ、荒井」 
「ここに集めた理由は七不思議を話すためですよね」 
「ああ」 
「そして、僕たちはそれぞれ別の話を知っている」 
「おう。それがどうした?」 
「……あと一人、足りないんですよ」 
「あ? ……あ」 
「明らかに二回目の『あ』は『しまった! もう一人呼ぶの忘れてた☆』っていう発音でしたよ!?」 
 倉田は本当に自重しない。 
「わ、忘れてた訳じゃないぞ! えーと、ほら、あれだ。……実は、俺もひとつ話を知っているんだ」 
「へー(棒読み)」 
「おい、倉田。明らかに『てめぇが知ってる訳ねぇだろこのメガネ』っていう視線は止めろ」 
「えー? でもぉ、本当に日野先輩が七人目なんですかぁ?」 
 福沢玲子。ギャル。倉田と同じくらいに闇がある。 
「ああ、本当だとも! 福沢玲子ちゃんだったよね? 期待してくれて構わないよ。日野はこの学校に伝わる様々な怪談を知り尽くしているからこそ、この僕をはじめとしたメンバーを集めたという訳だよ! なぁ、日野?」 
「……風間、お前はフォローをしているだろうが、明らかにハードルを上げている」 
「おや、三万円分の働きはしたと思っていたんだが」 
「あと二千円やるから、少し黙っててくれ」 
「うん。即金だよ」 
 日野の背中に哀愁を感じる。 
「ふーん。風間先輩がそう言うなら、信じようかな?」 
 風間が立ち上がり、素敵なポーズで高らかに言う。 
「ああ、信じていてくれたまえ。日野の話はきっとこの場にいる全員の度肝をだね」 
「マジで黙っててくれよ!」 
「おや、すまない。つい」 
 椅子に座って、更に追加された三千円を財布にしまう風間。 
 坂上はもう涙が溢れて、尊敬する部長を見ることができない。 
「あ、あの、日野先輩」 
 細田友晴。トイレに生き、トイレを知り尽くした、トイレマスター。 
「ぼ、僕、その、トイレに」 
「行って来い」 
「は、はい」 
 細田退場のお知らせ。 
「ふぅ……。茶番はそれくらいにして、早く取材を始めてくれないかしら」 
 岩下明美。鳴神学園の女王。いや、魔王。 
「あ、ああ。しかし今細田がトイレに」 
「あら、日野くんはここにいる全員の話すであろう内容を全て把握しているのではなくて? 怪談を知り尽くしているのですものね。それとも、嘘だったのかしら?」 
 死角となっている岩下の右手から、チキチキッという音が聞こえた。 
「私、嘘は嫌いなの」 
 チキチキチキチキ。 
「嘘というか、あれはそこのワカメがだな」 
「嘘なのね」 
 チキチキチキチキチキチキチキチキ。 
「う、嘘じゃない! 細田の話はアレだ、その、トイレの話だ!」 
「……まぁ、いいわ。始めるの? 待つの?」 
 チキチキ音が止んだ。 
「は、はじめようか……。倉田、じゃあ、頼んだ」 

   ***会合終了*** 

 語り部たちを見送り、部室に戻る倉田と坂上。 
 そして、部室にあったのは抜け殻となったメガネと、ジャージの似合うごっつい教師。 
「あの、部長、その……」 
「なんというか、部長は、よくやったと思いますよ?」 
 部員二人の健気なフォローに、日野は涙を流しつつ、片手を上げる。 
「それにしても、よかったですね。七人目が来てくれて」 
「ベストタイミングでしたね、黒木先生」 
「それはいいから、早めに帰れよ。帰るときは裏門から帰れ。正門は閉めたから」 
 黒木源三。黒いジャージがとても似合う、筋肉教師。 
「じゃあな。くれぐれも言うが、早めに帰れよ。あまり暗くなると親御さんが心配するだろうからな」 
 先生は部室から出て行った。 
 日野はふらふらと立ち上がる。 
「……坂上、それに倉田。記事をまとめるのは任せた。俺は、しばらく休むかも知れん……」 
 力なくドアが閉まる。 
「……ねぇ、坂上くん」 
「……はい」 
「私、短時間であんなに老けた人をはじめて見た」 
「……僕も」 
 日野貞夫に栄光あれ。