(20101214 代打大宮司)
なんか決別、みたいな…。
ジンは「人気作家の最新巻」がないと、仲間から離脱してシャム側に回ります。
人気作家の最新巻があると、
主人公の側に残ります。
設定はかっこいい割に、人気作家の最新巻程度で決断が左右する残念系。…という、設定で。笑
「おまえ……おれたちを裏切る気かよっ!!」
強い視線を受け止めて、ジンは広い肩を竦めてみせた。
「裏切るっつってもなぁ……もう、ここにあいつはいねえし?」
人を喰ったように語尾をあげて、懐かしむようにジンの視線が部屋の中をぐるりと一巡した。その横顔に、仲間を捨てていく後悔の色は……多分、ない。
「だからって……!」
「それによ」
くつろいだ態度だが、片手だけはさりげなく腰に佩いた剣の柄を触れながら、ジンは口元だけに笑みを浮かべてみせた。
「お前らを裏切らないってことは、オレがあいつを裏切るってことだ。……どっちにしたって不義理には違いねェやな」
漆黒の瞳に浮かんだ冷たい光は冷酷だ。決してその先の感情を相手に悟らせることはない。
こいつはもうこの先どうするかを決めてしまっていて、後戻りをする気も、説得される気もないのだと、分からせるには十分な冷ややかさだった。
「縁がなかった……それだけだろ。ここにはオレを引き止めるものは何もねえんだよ」
「おまえっ……!」
凍ったような空間に白い軌跡が二つ、生じた。
風を切って横薙ぎに斬り上げたカジュの大剣の切っ先は、あやまたずジンの喉元につきつけられている。二つの光のうちのもう一つは、ジンが抜いた剣の軌跡だった。
ジンの剣先は、立ち尽くしたままのレーヴの目の前にぴたりと制止している。喉元へ触れる剣の冷たさに僅かに顔をのけぞらせただけで、ジンは鼻で哂った。
「へえ……お前に殺せるのか?」
「こっ……殺せるさっ!」
「どうかな」
目を細めたジンの視線が、意味ありげに隣に立ち尽くしていたレーヴに流れた。
「お前がオレを殺せたとしても、レーヴを悲しませるだけだと思うがな」
「……っ」
カジュの剣の切っ先が揺れた。それを確かめたジンは、ゆっくりと片手を上げ、喉元に付きつけられた切っ先をそっと指の背で逸らす。
「な? お前にオレは殺せない。オレは、レーヴを殺せるけどな」
「そんなこと、させない!」
「しねえよ。そこまであいつの希望をかなえてやる義理はねぇし。……それに、今度会うときはともかく、今はまだ、オレもお前らのことを仲間だと思ってんだ」
いっそ優しげに目を細め、ジンは剣を引いた。
「じゃあな、カジュ。次に会う時に遠慮なんかしてたら、簡単に殺しちまうぞ」
ひらりと後ろ手に手を振って、悠々と二人の前を通り過ぎたジンは、からかうような捨て台詞だけを残して部屋を出て行った。
凍り付いた空気の中で、カジュも、レーヴも動くことができないでいる。
ジンが使った「仲間」という言葉が、呪文のようにカジュを縛り付けて、その背中を追いかけることを禁じていた。
最終更新:2010年12月14日 14:12