月光~銀色の乱舞~
月光~銀色の乱舞~
★もしも、仙道夏騎に妹がいたら……
『12人の優しい殺し屋 side R』第1回目の放送の時にスタッフが考えたという設定――仙道夏樹には妹がいる――を、現実化すると、こんな風景が繰り出されるかも!?
と言う事で、書いてみたSSの第1弾です。
★もしも、仙道夏騎に妹がいたら……
『12人の優しい殺し屋 side R』第1回目の放送の時にスタッフが考えたという設定――仙道夏樹には妹がいる――を、現実化すると、こんな風景が繰り出されるかも!?
と言う事で、書いてみたSSの第1弾です。
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久し振りに実家に戻った日。
なぜだか、妹も家にいた。
いつもは実家に帰ってくる暇などないと言っているのに。
「あ、お兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「以前約束してた角坂翔のサイン、持ってきてくれた?」
「あ~。忘れた……。すまない。まさか今日いるとは思わなかったからな」
「酷~い! あんなに約束したのにぃ。まぁ、いいわ。
今度来た時、置いてって。時々家に寄ってるんだ。最近」
「そうなのか? だから今日も?」
「そっ。まさか、今日、お兄ちゃんがいるとは思わなかったけどね」
「俺だって、今日来れるとは思ってなかったからね」
「そうなの? まさか、突然スケジュールが空いたとかって?」
「ん~、まぁ、そんなもんかな」
「そっかぁ。結構いろいろ大変なのね」
一丁前な口を利くようになった妹も、もう成人を過ぎている。
社会人として年数が経てば、こんな風になるものかね。
あの幼い頃の可愛らしかったアイツは、どこへ消えてしまったのやら……。
そんなことを思うと、ちょっと淋しい気分になってしまう。
まぁ、それが大人になっていく――と言うことなのかもしれないが。
「今夜の映画、角坂翔の出てるヤツなんだ?
あ~、これ、映画館で見逃したやつだ」
なんていう声が、リビングから聞こえてくる。
追っかけ――と言うほどでもないが、どうやら、結構なファンらしい。
時折会う事があるなんて知ったら、きっと悔しがるんじゃないだろうか。
「春香。良く行くのか? 映画」
「角坂翔の出ているのだけね。他はあんまり興味ないから」
そう言いながら、新聞をたたんでいた。
「私さ、好きな俳優さんが出ているのしか興味ないんだよね。
偏ってるってよく言われるんだけど」
「別にいいんじゃないのか?
好きなものまで他人にとやかく言われる筋合いはないだろう?」
「ん~、でもね。職場の人と話が合わなくなっちゃうのよ。
ウチの職場の女の子達、凄く芸能人に詳しくてね。
ここはタレント事務所ですか?ってくらい、芸能人のこと把握してるのよ」
「そうなのか……。それもまた大変だな」
「まぁ、全部の話についていくのは、もうとっくに諦めてるわ。
でも、角坂翔のことについては、譲れない。
彼のことなら、私が一番詳しくなってやるってね」
「相変わらずだな。春香は……」
「なによ。いいでしょ? それくらい」
「悪いとは言ってないさ。
じゃあ、ちゃんとしたもの、貰ってきてあげるよ」
「ホント? やった♪」
途端に満面の笑み。
よほど嬉しかったらしい。
「あ~、いいなぁ。春香ちゃんだけ。えこひいきだぁ」
「なによ。私は前々から約束してたんだから」
「あたしも何か欲しいなぁ。ねぇ、なにかない? お兄ちゃん」
「冬香って、誰が好きなんだっけ?」
「え? あたし? ん~。あんまり芸能人には興味ないんだけどぉ」
「でしょうねぇ。いまだにアニメとかが好きなんだもんね」
「なによぉ。アニメ好きだからってバカにしないでよぉ」
「してないしてない。じゃあさ、好きな声優さんとかいないの?」
「いることはいるけど……。難しそうだしぃ。
それにサインでなくても、いいんだよねぇ」
「そうなんだ? なら、何か買ってもらえばいいじゃない」
「そ~だねぇ。おねだりしても、いい?」
少し舌っ足らずな冬香は、一番下の妹。
いつまで経っても、甘えん坊気質は治らないみたいだ。
「ちょっと、ちょっと。あなた達、なに夏騎兄さんに強請ってるのよ?
いい年して……」
「亜希お姉ちゃん!? 今日帰ってくるなんて聞いてないよ?」
「何よ。突然帰ってきたら、都合でも悪いわけ?
ははぁん。私がいると、甘えられないからでしょ?」
「なっ!? 誰がそんなことをっ?」
「やれやれ。またはじまった……」
肩をすくめて、一時避難とばかりにリビングを抜け出す。
亜希と春香は年は違うのだが、何故かいつもこんな感じで喧嘩のようになる。
とは言っても、口喧嘩だけなのだが。
そう。
亜希、春香、冬香――の3姉妹が、家の妹達。
春香と冬香は双子の妹だ。
長女でもある亜希は、やはり長女だけにしっかり者。
末妹である冬香は甘えん坊で、春香は……ちゃっかり者と言えるだろうか?
そんな感じの3姉妹。
ここしばらくは、兄妹が4人とも揃うなんて事はなかった。
珍しく、今日は全員が揃う事になるなんて。
少しの骨休みのつもりで寄ったんだが……なんか、余計に疲れそうな気がする。
これは、さっさと仕事にもどれと言う、神のお告げなのか?
そっと小さくため息をつきながら、いつの間にか暗くなった庭を眺める。
昼間の太陽ほどとはいかないが、それでも、薄明るく照らし出された庭には、くっきりとした影さえもある。
ガラス戸一枚隔てたそこは、まだ自然が残っているという感じだ。
多分、開け放てば虫の声などが聞こえるんじゃないだろうか。
全体的に青白く見える庭は、何処か幻想的な雰囲気を醸し出していた。
今日は、空も冴え渡っていて、楚々とした光が辺りを静かに照らしている。
雲ひとつない空に浮かび上がる、蒼白く輝く満月を見上げた。
月は何も言わず、静かに辺りを照らしているだけ。
ふと、不可聴の何かが聞こえたような気がした。
庭の少し高めに茂った樹木の葉先に月光が集まって零れ落ち、光の乱舞になりそうな錯覚が襲った。
はっと我に返る。
リビングでは、まだ、ふたりの口喧嘩が続いていた。
しかも、いつの間にか話の内容が摩り替っている。
よくも、そんなに喧嘩のネタがあるものだ。
妙なところで感心してしまった。
『いいかげんにしなさい!』
母親の雷が落ちた。
途端に、妹達も大人しくなる。
さすがのふたりも、母親にはまだまだかなわないらしい。
そう思うと、くすりと笑みが漏れてくる。
まだ子供の部分も残っているんだな――と、なんとなく、嬉しくなった。
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このお話での設定は、次の通りになります。
長女;亜希(あき) 夏騎のひとつ下の妹。仕事の出来るキャリアウーマン。
某会社の秘書課に勤めるやり手の女性。ずっと仕事一筋でまだ彼がいない。
次女;春香(はるか) 5つ下の妹。社会に出てまだそんなに年月は経っていない。
角坂翔の大ファン。今まで彼が出ていた映画はほとんど観ている。
三女;冬香(ふゆか) 春香と同じく5つ下の妹。手先が器用で服飾の仕事についている。
アニメなどが好きで、コスプレのような衣装とかも手作りできる。
春香と冬香は双子の姉妹と言う設定です。
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最終更新:2009年07月08日 03:18