ボクのともだち
ボクのともだち[CROSS ROAD]
『sideR』での羽多野渉さんとのミニドラマを聴いたあとに思いついたお話です
「やぁ、角坂君じゃないか」
涼しげな声に振り向くと、そこに一人の青年がこちらに向かって片手を挙げ、手のひらだけを小さく振っていた。
それは、あまり目立たぬようにとの、彼の配慮かも知れない。
あまり人通りが多いと言うわけではないが、それでも、誰がいるかわからないから。
思わぬところで出会った彼は、いつものように笑顔で近寄ってくる。
「仙道さん。こんなところでどうしたんです?」
彼――仙道夏騎の職業は、フリージャーナリスト。
取材のためにどこを歩いていていようが、別段不思議なわけはない。
ただ、こちらが行こうとしているところと、たまたま交差した――ただ、それだけのこと。
ま、ジャーナリストなんていう仕事上、休みなんてあるようでないようなものだってよく聞かされてる。
取材があれば、それこそ、相手に合わせて日曜日や祝日でさえ出かけることもあるのだろう。
俳優と言う仕事も、休みがあってないようなものだったりするけど、それでも、映画がクランクアップすれば、しばらくの間は気分的にもゆったりできる。
上手くスケジュールが合えさえすれば、まとまった休みさえ取れる。
けれど、ジャーナリストって言うのは、そう言うわけに行かないんだろうな。
「もしかして、取材――ですか?」
いつもと同じような鞄を手にしているのを見て、そう尋ねてみた。
「あぁ、コレ?
取材OKしてもらったんだけどね。
なんか突然都合が悪くなったって、向かっている途中でキャンセルになってね……」
バツが悪そうな苦笑顔で頭を掻いている姿は、自分よりも年上だなんて思えないくらいだった。
そんなこと言っちゃ、悪いんだろうけど。
ちゃんとした大人なんだけど、ふとした瞬間に子供っぽいところを垣間見る事がある。
こんな風に。
なんと言うか……そう。無防備になるというのかな?
そんな感じがしっくり来るかもしれない。
「じゃあ、しばらくヒマ――なんですか?」
「まぁ、ヒマといえばヒマなんだろうけど。
そんなことより、角坂君。君はこんなところで僕と話していていいのかい?
どこかに行く途中だったんじゃあないのかい?」
「え? あ~、いえ。
ちょっとの時間、プライベート・タイム貰ってきたんで、ふらっと……」
あながち嘘でもないような事を告げると、それで理解してくれたのかどうか、顎に手をやってほんの少し考えるような仕草を彼は無意識にやっていた。
別に何かを探るつもりはないのだろうけど、その瞳が少しだけ伏せられた時、なんとなくドキッとした。
そんなに鋭くはないのだけど、なにかを見抜くような眼差しが、少し痛い。
今日は、何もしてませんからね。
そんな言い訳じみた事、心で思っていたりして。
「意外と、俳優って職業も、ぽっかりとヒマが出来たりするもんなんだね」
そう言う彼の笑顔は、いつもの通りだった。
なにか、心の奥底に蟠りのようなものが生まれかけたけど、気のせいだって払拭した。
こちらが勘繰れば、あまり良くない結果を生みそうだったから。
「そうですね。
お互い忙しい身でありながら、こんな風にヒマが出来るのは、ありがたいのかありがたくないのか……」
本気とも冗談とも取れる言葉に、仙道さんは笑った。
「違いない。
まぁ、ちょっとのヒマなら、骨休みだと思えば、なんら問題はないけどね」
「あはは。前向きだなぁ、仙道さんは。ところで」
「ん? どうしたのかな?」
「唐突ですけど。
仙道さん、お腹空きません?」
「え? もうそんな時間?」
慌てたように腕時計を見る。
時間的には、そろそろ夕方に差し掛かるかと言う時間。
「今日は無駄足踏んだしなぁ……。
最初の予定がかなり狂ったみたいだ」
「でも、そのお陰で、僕は仙道さんに会えましたけどね」
そう言いながら笑うと、仙道さんも苦笑していた。
やれやれといった風に肩をすくめる仕草も、いつものものだった。
さっきのは……勘繰りすぎ――かな?
「で? それは、奢ってくれと言う事――なのかな?」
「えっ? あ~わかっちゃいました?」
照れ笑いで言うと、仙道さんはため息をひとつついて笑った。
「そんな風に言われる時は、たいてい「奢ってください」のサインだからね。
もういい加減解ってるよ」
「さすが、仙道さんだ。
僕のこと、見抜いてますね」
「それくらいのことがわからないで、ジャーナリストなんて続けていられないよ。
それで、今日は何が食べたいんだい?」
「そうですねぇ……」
「あぁ、言っとくけど。
今日はあまり持ち合わせが無いから、あまり高いのはナシだからね」
「なんですか? まるで、僕がいつも高いものを強請ってるみたいな言い方は」
「違うかい? なんか、ここぞとばかりにそう言う店をチョイスしてるような気がするんだけど?」
「酷いなぁ……。いくらなんでも、そんなことは……」
仙道さんの顔を見ると、今にも吹き出しそうに笑いを堪えているようだった。
どうやら、彼に担がれたらしい。
たまに、こんなお茶目な事をするんだよな。仙道さんって。
自然と頬が膨らんでしまう。
すると、堪えきれなくなったのか、仙道さんは笑い出した――と言っても、大声じゃなかったけど。
「もう。そんなこと言うと、本当に高級料亭、指定しちゃいますよ」
「か、角坂君……。君ってヤツは……」
ほんの少し顔が青褪めた様に見えたのは、気のせいだったのか。
笑いながら、僕たち二人は並木道を南下して行った。
向かった店で何があったのか……それは、また別のお話。
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最終更新:2009年07月08日 03:32