A true lead to the door.~真実に繋がる扉~
A true lead to the door.~真実に繋がる扉~
※ ある方の投稿してらした『CROSS×BORDER』第1話の後日譚を別解釈で仕上げたものになります
仙道さんって、なんとなく、文句とかあっても顔に出さないようなタイプの気がします
なにぶん、風の星座のジャーナリストですから
だから、どちらかと言うとこんな感じだと思うんですよねぇ……
とは言え、こちらも本筋から言えばAnotherStoryでしょうけれどもね
かしゃーん。
金属音が鳴り響いていた。
どこからともなく現れて、そして去っていった彼……。
第一印象からして、不思議な人だった。
まるで手品師か何かか――まさか、この現代に魔法使いもありはしないだろうし。
そう。
あえて言うならば、狐に摘まれた――そんな感覚がピッタリだったかもしれない。
本当に、彼は知れば知るほど不思議な人――だった。
若くして高い地位についているからか、お歴々の教授辺りにはあまりいい目で見られてはいなさそうだったけれど。
あの日の中村教授の言葉を思い出していた。
苦々しそうな顔で、吐き捨てるように言ってたっけ。
ま、確かに掴めない性格と言うか、読めない顔――してたよな。
風当たりが悪くなるのも、納得行くような感じだった。
「精神科医――か……」
改めて貰っていた名刺を見ながら、そう呟いていた。
中村教授からある程度話は聞いていたが、それでも彼はやはり忙しい身。
あの事件の詳細は、その後を引き継ぐ者に――と言って、紹介されたのが“彼”だった。
真実を追いかけるのに、人の好き嫌いなんて言ってられない――そうは思うけれど。
人間には厄介な事に「感情」と言うものがある。
それに引き摺られ身を滅ぼしていく輩を、今まで何度見てきたことか。
しかし、足掻いたところで所詮生身の人間。
仙人じゃああるまいし、完璧に感情と切り離された人間なんて……いるものだろうか?
それでも――その起伏を激しいものにしないでいる訓練くらいなら人間でもできる。
幸か不幸か、多少なりとも、それなりの訓練みたいな事をしてきた。
物事を見極めるのに必要な冷静さが、事件を追うのには必要だったから。
あいつのためにも……。
いや、ここでそのことを出すのはよそう。
それよりも……どこにいるんだろう。
また、初めて会ったときのように、神出鬼没に物陰から――。
「どなたかを、お探し――ですか?」
本当に出た――そう口にしなかったのが幸いと言うか。
黒ずくめの服装に白衣――見れば見るほど妙な取り合わせ。
人の服装の趣味に、あれこれと文句をつける気はない――が……。
あの日と同じ出で立ち。
同じくらいに暑くて茹だる日――だと言うのに……。
そこまで忠実に再現するような事をしなくてもいいのに……と言う愚痴くらいは思うだけならいいだろう。
「あなた――ですよ。葛葉先生」
暑さも手伝って、少し投げやりになりかけたような声音だったかもしれない。
起用にも、ちょっとだけ上げた片眉。
そう言えば、この人はこの前、初対面なのにこちらの名前を知っていたっけ……。
どこで聞いたのか、どういう風に知ったのか……本当に謎だらけの人だ。
けれど、聞いても多分、答えない。
どうしてかは解らないけれど、そう思える。
手の内は見せない――そんなタイプだ。
「ほぅ。それはわざわざ御足労を願いまして……」
微塵も思ってなさそうな声音で、よくも言う……。
つい、悪態をつきそうになるが――そんな不毛な会話、こんな炎天下でやりたくもない。
「いいえ。こちらこそ、お忙しいところすみませんでした。
それで……先生はどちらの方で?」
「あぁ、あそこです」
そう言うと、顎で斜め後ろの建物を杓った。
「教授棟から言うと、かなり辺鄙な場所でしょう。
けれど、あそこは……静かでお気に入りなんですよ」
薄い笑みを貼り付けて、彼はそんなことを言う。
――やはり、食えない人だ――彼と会ってから、あまり良い目にあっていないせいか、印象的にはあまりよくはない。
人間的にも、よく解らない人だから……。
つい、警戒してしまうのは、本能からか……。
この人と会うと、自分の中によくわからない感情が芽生えてくる気がする。
その正体は……なんなんだろう?
まぁ、今はそんなことはどうでもいいことか。
「では行きますか。あまり熱いところは、宜しくなさそうですからね」
くすりと笑みを漏らして、初めて会ったときと同じようにペットボトルを差し出してきた。
本当に、どういうタネがあるのやら……。
あの時と同じ、この冷え具合。
まるで、今の今まで冷蔵庫の中に入っていたかのような。
魔法使いなんていやしない――そうは思うけれど、この人は、本当に魔法でも使っているんじゃないだろうかなんて、拉致もないことさえ考えそうになる。
あまりにも有り得ない事に、自分の持つ常識が根底から覆されていくような気になるから。
そう――常識なんてフィルターを持っているから、この人のことは解らないのかもしれない。
もしも、それを取り外せられるようになれば、あるいは。
少しは解るようになるのだろうか?
保障は出来ないことだけれど。
何の迷いもなく進んでいく彼の後ろを、見失わないようについていった。
さすが、自分の「城」とも言うべき場所。
本人ゆえに、迷いなく進んでいくけれども。
初めてのような場所で、それこそ地図も何もない状態で、水先案内人たる人がいなければ――これは、それこそ即座に迷うな。
それほど、様々な物資が散乱しているがゆえ、ナビゲートがなければ……進めない。
別に複雑怪奇な構造をしているわけではないというのに――だ。
奥に進むにしたがって、本当に生徒棟からも教授棟からも騒音が聞こえなくなってくる。
静寂が辺りを包みそうになった――どことなく、恐怖さえ味わうかのように。
「お疲れ様です。さ、ここですよ。どうぞ。仙道夏騎さん」
にこやかに――と言うには、少々ぶっきら棒に、彼は言った。
ひとつの、どこにでもあるような、この棟にある扉とまったく同じな扉が目の前にあった。
ただ、それだけのことなのに。
なにか、畏怖を感じてならない……。
この扉を潜る事に、体が、本能が恐怖している――なぜなのか……。
それを、その真実を知ることは――。
――自分が、解らない。
真実を知りたいのか、知りたくないのか……。
なぜ、ソレを躊躇っているのか……それさえも…………。
お気に召しましたら、この作品の評価をどうぞ
最終更新:2009年08月08日 02:26