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第2話 ムスリムの矜持

第2話 ムスリムの矜持


翔太郎は、先の戦いでナワルを取り逃がしたことを悔いつつ、カリールとの待ち合わせの場所でカリールを待っていた。
ナワルはもう自分の知っているナワルではない。シスターの少女の首を締め上げている時の顔を見て分かった。
なぜあそこまでナワルは十字教に敵意を持っているのだろうか?過去になにがあったのだろうか?二日前の捜査では
フィリップにナワルの過去を調べろとまでは言わなかった。カリールに聞いてみるのがいいだろうか?

「翔太郎、遅れて済まない」

カリールが来た。カリールはナワルの弟で、今年二十歳になったばかりだと以前ナワルから聞いた。顔立ちはナワルを少し幼くした
ような感じの青年だ。

「翔太郎、念の為に僕も来たよ」
「フィリップ、お前もか?」

フィリップもカリールに同行して学園都市に来た。フィリップは学園都市を直にこの目で見たいので来たのだ。
このフィリップの検索好きぶりには翔太郎も時々参ることがある。大方「地球の本棚」で学園都市のことを調べて興味が沸いたのだろう。「地球の本棚」とはフィリップの精神世界にあるアカシックレコードのような物だ。真っ白な空間に無数の本棚が並んでおり、それらが「地球の記憶」のデータベースとなっている。フィリップが検索をかける(キーワードを唱える)と自動的に本が選抜されていき、任意の情報が入った本に絞り込むことができる。このフィリップの能力があればこの学園都市に存在する数多の能力者達の仲間に入れるだろう。

「翔太郎、この学園都市を調べたら色々興味深い物が出てきたよ。特に興味があるのはこの学園内にいる能力者達と、その能力なんだが……」
「おいフィリップ!今はナワルの捜索が先決だ!お前の検索趣味の時間じゃねえ!そんな事は後からでもいいだろ!」

大事な仕事の時にも関わらず、検索趣味全開のフィリップに翔太郎は呆れたように叱り付ける。

「……わかったよ翔太郎。彼を見つけないとまた犠牲者が出るかもしれないからね」

フィリップは学園都市の検索を渋々後回しにすることにした。


翔太郎、カリール、フィリップの三人は手分けして学区内を捜索し続けた。しかし、ナワルを見つけることはおろか、それらしい人間を目撃したと言う者は誰一人としていなかった。

「翔太郎、こっちにもそれらしい人を見た人はいなかった」
「こっちもだぜ!それよりなんだあの白髪のガキ!人が道尋ねてんのに悪態ついてきやがって!」

どうやら翔太郎は白髪頭の少年にナワルは見なかったかと自分の名刺を差し出して尋ねたら、口汚い言葉で悪態をつかれたらしい。しかし翔太郎を怒るのを我慢し、その場を後にした。その怒りがフィリップとの連絡で爆発しているようだ。

「翔太郎、怒っても仕方ないよ。それより白髪の少年って言ったよね?この学園のレベル5の能力者で似たような容姿の学生がいたような……、もしかすると彼の名前は一方……」
「ちょっと待て、フィリップ!」

翔太郎は目の前にいる自分に近づいてくる子供に見覚えがあった……。自分が助けたシスターの少女だ!

「とーま!この人なんだよ!この人があたしを助けてくれた人なんだよ!」

翔太郎が助けた少女はツンツン頭の男子学生と一緒だった。上条当麻だ。

「あんた……、インデックスを助けてくれた人なのか?」
「インデックス……、それがこの子の名前か?」




◇




「これでも食らいなさい!」

美琴は電撃をアクセル目掛けて放出する。しかし、掠っただけでアクセルは電撃の直撃をかわした。

(これが学園都市に存在しているという能力者か……、噂以上に強力だ)

照井は初めて見る学園都市にいる超能力に驚嘆していた。ドーパントでもない普通の人間が当たり前に能力を有し、その力はもしかするとドーパントに匹敵するかもしれないとまで思わせた。しかし、いくら能力を使うとはいえ生身の人間、自分の持つエンジンブレードの直撃を受ければ即死は間違いないだろう。アクセルの力で殺してしまうのはさすがに照井も気がひける。本気でいけば倒せるかもしれないが、手加減ばかりしていてはいずれこちらが
電撃娘の技の前に敗れてしまう。それにさっきから気になっていたことだが、この学生二人の目がどうもおかしい。生気がまるで感じられない。一言でいえば目が死んでいるような状態だ。それにこの容赦のない攻撃の嵐、もう一人の娘はテレポート能力で、ちょこまかと動き回り、こちらをかく乱してくる。

「あらあら、刑事さん。風都でドーパントを相手に渡り合ってきたという実力はその程度ですの?」

黒子は防戦一方のアクセルを挑発する。

(この娘の能力……、この娘の力はテレポートのようだが、物体を移動させることも可能のようだ。さっき針を電柱にテレポートさせていたが……、物質の固さは関係ないようだな。この力はこの装甲をも貫くかもしれん。電撃娘よりもある意味厄介だ。早めにこいつを黙らせなければ……!)

照井は黒子の想像以上の能力に脅威を感じ、美琴より先に黒子を倒すことにした。

「調子に乗るな!」

アクセルはエンジンブレードにエンジンメモリの一つであるスチームを素早く装填する。

『エンジン!スチーム!』

エンジンブレードの刀身から高温のスチームを放出し、自分の周りをスチームで覆う。敵をかく乱させる時に使う技だ。

「熱ッ!」

スチームの蒸気の熱さに当てられた黒子が一瞬怯む。その隙をアクセルは見逃さなかった。素早く黒子の後ろにジャンプする。

「悪く思うな」
「う!?」

アクセルは手刀を黒子の首筋に軽く当て、黒子はその場に倒れこむ。腕力が人間時とは比べ物にならないほど増大している変身状態で、本気で殴ると、黒子を殺しかねない。後で聞きたいこともあるので、気絶程度に留めておく必要がある。

「黒子!?あんたよくも!!」

美琴は黒子が倒されたことに激怒し、放出する電撃をさらに増やす。それが功を奏したのか、電撃がアクセルに直撃する。

「ぐぁ!」

アクセルは美琴の放った電撃の直撃を食らった衝撃で、倒れこむ。技の威力ではドーパントが放つ攻撃に劣らないものがある。避けているばかりではいずれ本当にこちらが倒される。

「これならどう!?」

美琴は両手を地面に置き、電流を地面に放つ。すると地面から巨大な砂鉄が大蛇の如く飛び出してきた。美琴は自身の能力である電気を使い、鉄骨を操ったり、コンピューターにアクセスするなど幅広い使用法ができる。単純に電撃だけが攻撃方法ではない。

美琴はアクセル目掛けて砂鉄を鞭のように振り下ろす。

「くっ!?」

アクセルは砂鉄の鞭をかわす。まさかこんな攻撃手段もあろうとは。ならばこちらも所持する技というものを見せ付けなければならない。アクセルはエンジンブレードにエンジンメモリの
ジェットを差し込む。

『エンジン!ジェット!』

エンジンブレードの先からエネルギー弾を放出することができる。アクセルはエンジンブレードを振り、砂鉄の鞭目掛けてエネルギー弾を発射する。

エネルギー弾は砂鉄の鞭を破壊し、砂鉄は形状を失い、地面に落ちる。

「ったく!なかなかやるじゃないの!こうなったらあたしも本気になるしかないね!」

美琴は自分のポケットからコインを取り出す。こうなれば自身の最強技、超電磁砲(レールガン)で一気に決着を付ける。

「こちらも同じだ」

アクセルはエンジンブレードにマキシマムドライブのメモリを装填する。

『エンジン!マキシマムドライブ!』


美琴はコインに電気を集中させ、超電磁砲(レールガン)を放出する。その巨大な電撃は今まで放った電撃とは桁違いの威力であった。負けじとアクセルも、エンジンブレードから巨大なAの形をしたエネルギー弾を美琴の放った超電磁砲(レールガン)目掛け放つ。

二つの大技がぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲を襲う。

「きゃあ!」
「くぅ!」

二人は自分達の大技がぶつかり合うことでできた衝撃波によって、後ろに吹っ飛ぶ。しかし装甲に守られているアクセルの方が衝撃に強く、すぐに起き上がり、美琴の後ろに回りこむ。

「う、う……く、あいつは?」

美琴は衝撃波で吹っ飛ばされ、衝撃を止める為に、咄嗟に地面に電気を送り込み、即席の壁を作った。美琴は恐る恐る壁の向こう側を見るが、アクセルの姿はなかった。

「た……、倒したの?」
「残念だが違うな」
「え!?」

美琴ははっと後ろを振り向く。そこにはアクセルが仁王立ちしていた。

「ちぃ!」
「絶望がお前のゴールだ……!」

アクセルは電撃を放とうとした美琴に間髪入れず、手刀を美琴の首筋に入れる。

「う……」

美琴はアクセルの手刀により力なく地面に崩れ落ちる。

「手間をかけさせてくれる……」

アクセルは疲れきったように変身を解除する。

「み、御坂さん……、白井さん……!」
「ん?」

照井が声の方向に目を向けると、風紀委員(ジャッジメント)の認証を腕につけた、メガネをかけた女学生が立っていた。黒子と同じ風紀委員(ジャッジメント)第177支部所属で、黒子の先輩である固法美偉だ。

「この二人を知っているのか?」
「え、ええ……、貴方は風都署から来た照井竜警視ですか?」
「そうだが」

固法は自分の後輩達がはるばる風都から捜査協力に来た刑事に攻撃を仕掛け、あまつさえ戦闘したことに驚愕していた。立派な公務執行妨害、警官暴行罪だ。自分の後輩達が刑事と戦いを繰り広げている現場を支部のパソコンで目撃し、慌てて現場に急行したらご覧の有様だった。美琴、黒子が生きていることが奇跡のようだ

「詳しい話はそちらから聞かせてもらおうか……」

照井は鋭い眼光を固法に向ける。勝手に犯人に仕立てられ、尚且つ戦闘する羽目になったのだ。照井の怒りは収まってはいなかった。

「え、ええ……、とりあえず風紀委員(ジャッジメント)の第177支部に二人を運んでいいでしょうか?話はそちらで……」
「いいだろう」

照井は固法の要求を呑んだ。固法は全身から滝のように汗を流し、生きた心地がしなかった。





◇



「インデックスを助けてくれてありがとうございます。俺は上条当麻っていいます」
「俺は左翔太郎だ。こっちは相棒のフィリップ、こっちが今回の事件の依頼人のカリールだ」


当麻はインデックスを助けてくれたお礼として自分のアパートに翔太郎達三人を招待した。今回のインデックスを襲った相手を翔太郎が捜していると聞き、何か自分にも手伝えることはないかを聞いた。翔太郎も、自分は探偵で、連続十字教教会襲撃事件の犯人であるナワルを追っていることを当麻に話す。それに自分とフィリップが仮面ライダーに変身し、風都でドーパントと戦っていることも話した。

「例の連続教会襲撃事件……、その犯人がインデックスを襲った奴だなんて……。見つけたら只じゃおかねぇ……!」

当麻はインデックスを傷つけられたことで頭に血が昇っていた。必ず犯人を見つけて顔面にパンチの一つでも入れなければ気が済まなかった。

「落ち着け当麻。俺達が必ずナワルをとっ捕まえてやる。それにあいつはドーパントだ。お前の手に負える相手じゃない」

熱くなる当麻を翔太郎が宥める。

「俺にも一応力が……、いやそのドーパントに通用するかはわからないですけど……」

当麻は自分が幻想殺し(イマジンブレイカー)という能力を持っていることを翔太郎達に話す。今まで相手にしてきた魔術師、超能力者に対しては異能を打ち消す力を生かし、勝利を収めてきた。
しかしドーパントという新たな敵にこの力が通用するのかどうかは疑問だった。

「幻想殺し(イマジンブレイカー)か……、興味深いね……。あらゆる異能を打ち消す能力というのを是非見たいんだが……」

フィリップが幻想殺し(イマジンブレイカー)に興味を示す。フィリップは学園都市を検索した際に学園内に存在する様々な能力者の異能をも打ち消せる力があるとなればフィリップが興味を持たないはずがない。

「お、おいおい、フィリップ!また余計な検索だけはしないでくれ!」

翔太郎は慌てて幻想殺し(イマジンブレイカー)に興味を示すフィリップを制止する。捜査の時に余計な方向に脱線しがちなフィリップを止めるのは苦労する。

「あの人の目……、普通じゃなかったよ。過去に何人も人を殺してきた目。あたしにはわかるんだよ」

インデックスは暗い表情でナワルの恐ろしさを語る。確かにあれは殺人狂そのものの目だった。翔太郎自身も目撃している。

「だがナワルがああいう風になったのはお前達十字教のせいだろう?」

カリールがインデックスに冷たい視線を送りながら言う。今まで余り口を開かなかったカリールが口を開いた。

「お前達十字教は自分達がするあらゆることを正当化するんだからな。昔からそうだ。何人もの異教徒を血祭りに上げようがそれが正しいと思っている。お前達の教義には反吐が出そうだ」

カリールがインデックスの信じる十字教を罵倒し始めた。普段大人しそうな印象のあるカリールだけにこの言動は翔太郎も少し驚いた。

「カリール、お前、十字教が嫌いなのか?」
「ああ、大嫌いだ。この世から消えてほしいと思っている位にな」

カリールは十字教も、それを信じる信者も神父もシスターも全てが気に入らないのだ。

「当麻といったね。君はそのシスターの保護者なのか?だとしたら悪いことは言わない。そいつとは縁を切った方がいい。でなければ十字教のあらゆることを吹き込まれ、完全に手遅れになる。俺はナワルが殺人に手を染めるのは望んではいなと言った。しかし十字教徒が死ぬのことは歓迎しているんだ。あいつらが万単位で死のうが、億単位で死のうが俺にとって、いやムスリムにとってはこの上ない喜びだ」

カリールの心の内を知り、翔太郎は動揺を隠しきれなかった。ナワルを止めてほしいと涙ながらに訴えてきた昨日とはまるで別人だ。

「そんな……、人が死ぬのを望んでいるなんて……、まちがってるんだよ、そんなの」
「利いた風な口を」

カリールがインデックスの言葉が気に障ったのかインデックスを突き飛ばす。

「お前!インデックスに何すんだ!」

当麻がカリールに掴みかかる。

「おい!二人共よせ!」

翔太郎が揉み合う二人を強引に引き離した。

「カリール、俺は心底お前を見損なったぜ。人が死ぬのを望むなんてナワルのしていることとどう違うんだ!」

翔太郎はカリールの酷薄な思考に激怒する。ナワルも確かに以前とは違う人間になっていた。しかしカリールも一緒だ。兄弟二人共もう翔太郎の知っている人間ではなかった。

「翔太郎……、お前は自分の周りの人間が殺されて、何もするなと言われたら大人しく従うか?俺達ムスリムは奴らを許さない。君もよく奴等のことを調べるといい。そうすればおのずと答えがわかる」

カリールはそう言うと、当麻のアパートを出た。

「翔太郎……、これは僕達の想像していた以上に根が深いようだね……」
「ああ……」

翔太郎とフィリップは宗教という存在の底知れない闇を垣間見た。





◇





「うわぁあああ!あたし達は無実なのよーーーー!、…………は?ここは?」

照井に気絶させられ、風紀委員(ジャッジメント)の第177支部のソファに寝かされていた美琴は悪夢を見て飛び起きる。

「あ、お姉さま。お目覚めになられましたの?」
「く、黒子……!」

美琴は見た悪夢が夢であったことと、目の前に黒子がいることに胸を撫で下ろした。

「ようやく目覚めたようだな」

照井は飛び起きた。美琴をやっとかという風に見ながら言う。

「御坂さん、白井さん、自分達のしたことを覚えてる……?」
「あ、固法先輩。あたし達のしたこと?確かタハール導師に頼まれてジャスミンちゃんに第7学区の案内を……」

妙に神妙な表情の固法に聞かれ、美琴が自分と黒子がタハール導師からジャスミンの案内を頼まれたことを思い出す。

「俺と戦ったことは覚えていないのか……?」
「あ、先輩、この人誰?」

美琴は照井の姿を見ても初めて見るかのように答える。

「お姉さま……、とりあえずわたくしたちの行動を録画したパソコンの動画を見てください……」

表情が青い黒子が美琴にパソコンに録画されている動画を見るように促す。

「ん?動画が何……?」

美琴がパソコンの動画を見る。

「……え?、えええええぇええええええええええ!?」

その動画には自分と黒子が風都から来た刑事に攻撃を仕掛け、連続教会襲撃事件の犯人として拘束しようとし、あまつさえ戦闘を
繰り広げる様子が撮られているではないか。

「そ、そんな……!あたし全然記憶にない!!」

美琴は必死で覚えがないと言い張る。完全に公務執行妨害、警官暴行罪ではないか。

「覚えがないと言えばそれで済むと……?」

照井から放出される殺気を感じ取り、汗だくになる美琴と白井。そんなはずはない。自分達はこのような行為をするはずがない。この映像に映っているのは自分達の偽者に決まっている。

「御坂さん、白井さん。流石の私もこれは弁解しきれないわよ」

照井だけではなく固法からも殺気を感じる。絶体絶命という言葉が似合う美琴と黒子はただ表情を青くさせるしかない。

「お姉さま……」
「あ、あたし達どうなるの……?」


次回 学園都市を守る者達

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最終更新:2010年03月05日 12:41
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