キュアパッションの持つピックルン、アカルンの瞬間移動の力で場所を移したディケイドとプリキュアたち。
全く見覚えのない現在位置を確かめるように、プリキュアたちは痛む身体に鞭を打ち周囲を見渡す。
空は相変わらず曇ったままだが、この場所には先程のタコカフェと同じでフュージョンの持つ嫌な雰囲気を感じない。
恐らく、ここも何らかの原因でフュージョンの吸収から逃れた場所なのだろう。
このまま考えてもしょうがない、と比較的に冷静だったホワイトが瞬間移動の力を持った本人であるパッションに尋ねる。
「パッション、ここは……?」
「分からないわ。大人数での移動だったから、とにかく移動しやすい悪い力の少ない場所を
選んだの」
「ここは……」
パッションを始めとするプリキュアが戸惑う中、変身を解いた士がプリキュアたちの疑問に答える。
そう、士はここが何処であるか良く知っている。
当然だ、何故ならばここは、記憶のない士にとって、つまりは生まれ育った家に帰ることが出来ない士にとって最も安心出来る場所なのだから。
「夏みかんの……夏海の家だ」
強く唇を噛み締め、顔を伏せながら士は苦々しく呟く。
ここは周囲のようにフュージョンの力で荒らされていなかった。
いつものように古びた、どっしりとした造りをした写真館だ。
(ここが無事なのは世界と世界が繋がる場所だからか……? それともたまたまか……?)
士たちが世界を移動するとき、常にこの写真館を伴って世界観を移動している。
もちろんマシンディケイダーを使えば『世界の壁』を超えることが出来るが、全ての世界を回る際には必ず写真館と共に移動してきた。
そのため、この写真館自体にも何かしらの力があるのかもしれない。
その力を持っているからこそフュージョンの吸収から逃れることが出来たのだろう、と士はとりあえず納得しておく。
または、世界と世界を繋ぐ時に、このプリキュアの世界に溢れる多大なプリキュアの力の影響を受けたのか。
キュアブルームやキュアイーグレットは世界に溢れる精霊の力を扱い戦っていることから、世界にあふれるプリキュアの力の影響を受けたという話はそれほどおかしなものではないだろう。
とにかく、この写真館は無事で、無事だからこそパッションは無意識にここを選び、結果士は写真館に戻ってきたということだ。
「……くそっ!」
士は地面を思い切り蹴りつけながら悪態を突く。
この中では最も年長である自分がそんな態度を取れば、貴重な戦力であるプリキュアの心を削ってしまう。
そんなことは分かっているが、悪態を突かずに入られなかった。
『おかえりなさい』
日は暮れているわけではないが、曇り空で太陽の光は見えない。
だが、写真館の扉を見る度に、士の頭にはシンケンジャーの世界での夏海の言葉が思い出される。
『私も、待っていることにしました。士くんが帰ってくるのを』
『何処の世界に行っても、士くんが帰ってくるのはここですもんね』
『だから、”おかえりなさい”』
「お前が居なくなってどうする……!」
「士……さん……?」
世界の破壊者、ディケイド。
フュージョンに対する怒りと自分の不甲斐なさに対する怒りで燃えるその瞳。
その瞳はこの世界で何を映し、何を思うのか。
仮面ライダーディケイド×プリキュアオールスターズDX みんなともだち☆奇跡の全員大集合!
【仲間が消えた日、明日を探す日】
「――――それこそが世界の破壊者であるディケイドの持つ業そのものなのだ」
「えっ!?」
「だ、誰!?」
いつの間にか士の後方に背中合わせに立つように現れた謎の男。
地味な色の帽子と、同色の丈の長いコートを初老の身体で覆っており、眼鏡の奥に見える瞳には怒りと嫌悪の色に染まりきっている。
突然すぎる登場を果たしたその謎の男に、プリキュアたちは身構える。
いつだって彼女たちの敵は瞬間移動を思わせる唐突さで現れるのが原因だろう。
が、士は軽くため息を吐きながら、それでいて怒りに溢れた声を男へと向かって放った。
「お前か……鳴滝」
「ディケイドよ。お前という存在が訪れたがために、それだけのためにプリキュアの世界も破壊されていく……」
「またそれか、それしか言うことがないならさっさと出て行け。今の俺は気が立ってるんだ」
邪険に扱う士に対して士が鳴滝と呼んだ謎の男はそれでも怒りに満ちた声を投げつける。
まるで親の敵か、あるいはそれ以上の存在に対するかのような態度。
それだけでこの二人が敵同士なのだということが分かるが、それにしては好戦的という印象をあたえる士が仕掛けないのはおかしい。
「本来、プリキュアの世界には存在するはずがなかった仮面ライダーが生まれる……その不確定要素こそが世界を滅ぼす原因になるのだ。
その不確定要素を世界に導いたのはディケイド、全ては貴様が原因なのだ!」
「黙れ……それなら俺がアイツを倒しに行くだけだ」
その一も二もなく仮面ライダーディケイド、門矢士を責め立てる口調にプリキュアたちは顔をしかめる。
僅かな間しか共に居ないが、それだけだが士は悪い人間ではないように思える。
フュージョンと戦っている姿や、夏海を庇おうとする姿にユウスケと共闘する姿。
それらは決して我が侭に人を滅ぼそうとする破壊者の姿には見えなかったのだ。
鳴滝は言葉を止めることなく、怒りのままに口を開き続ける。
「夏海くんとクウガも貴様と出会わなければこんなことになりはしなかった……ディケイド、貴様が二人を不幸にしたのだ」
「そんなことない!」
その様子に口を挟まずにはいられなくなったのか、キュアドリームが口を開く。
ボロボロの身体だとは思えない強い視線で鳴滝を見据えたまま、口を開く。
「士さんは世界の破壊者なんかじゃない! 士さんは……そんな悪い人なんかじゃない!」
「君は何も知らないだけだ、だからそんなことが――」
「確かにそうかもしれない。けど、夏海さんは士さんを頼ってタコカフェに行った。
そして、士さんと会った時、本当に嬉しそうに、安心したように笑ったんだよ!
だから……だから、夏海さんとユウスケさんは不幸なんかじゃない! 士さんたちは友達なんだもん!」
「確かに、私たちは士さんたちのことを何も知らない……」
それを受け継ぐようにキュアブルームがドリームの言葉を続ける、やはりドリームと同じく強い眼差しで。
「だけど、私たちを助けてくれたユウスケさんが本当に士さんのことを信頼していたから。
それに士さんは二人のことを心配しているから、だから私は士さんを悪い人だとは思わない!」
「…………ディケイドは世界の破壊者。関わったものは全て破滅する。
それを君たちプリキュアが覚悟しているというのなら、私はここから立ち去ろう。
だが、ディケイドよ! 今の光景は貴様の業の一つだ! 彼女たちがなんと言おうと、それだけは変わりはしない!」
鳴滝はそれだけを言うと、コートを軽く翻す。
それだけで鳴滝の身体は霧散していき、まるで瞬間移動のようにその姿を消してしまった。
プリキュアたちは驚きを示すが、士はいつものことだと何も反応しはしない。
ただ、曇り空の下で誰も居ない写真館の玄関だけを眺め続けている。
背中越しからでも様々な感情が渦巻いていることがわかり、プリキュアたちに話しかけることを躊躇わせる。
「その……士」
そんな中で一人、ナッツだけが士へと声を投げかける。
士は振り向かず、声も返さずにただ一つの場所を眺めている。
ナッツはそんな反応を予想していたのか、何も言わずにポシェットの中から一つのペンライトを取り出す。
レインボーミラクルライト、ある一面ではこの騒動が大きくなってしまった最初の要因とも言える。
「このミラクルライトはプリキュアをパワーアップさせるための道具ナツ……
そして、士。ディケイドが使っていたあの大きなタッチパネルの変身アイテム、あれも仮面ライダーに力を与えるものナツ」
「……何が言いたいんだ」
そこでようやく士がナッツへと言葉を返す。
ナッツは神妙な顔つきのまま、ゆっくりと頷いて言葉を続ける。
全員が全員その言葉に現状を打開できる何かがあると思い、息を沈めてナッツの言葉に集中する。
ナッツの技術力は優れていることを、特にプリキュア5の面々は良く知っているのだ。
時間こそ掛かっているが、本来ならば異世界であるパルミエ王国とのぞみたちの住む世界を通信できる機械を独力で作りあげたほどだから。
「……思うにナツ、その変身アイテムとミラクルライト。
この二つが組み合わされば、仮面ライダーの力を手に入れたフュージョンにも対抗できるんじゃないかと思うナツ」
「そんなことが出来るんですか、ナッツさん?」
ミントが不思議そうに首をかしげながらナッツに尋ねる。
その言葉にナッツは僅かに間を空けてからゆっくりと頷く。
ナッツの肯定の様子に士は苛立ったように言葉を続ける。
「それでどうなる……その間にもアイツは力をつけてくるぞ。
たとえミラクルライトとかいうのとケータッチを組み合わせても、それ以上にアイツが強くなっていたら――――」
「大丈夫だよ!」
確実な解決にはならないナッツの言葉に士は苛立を深くする。
だが、士の苛立ちを感じさせる言葉を正面から否定し、それでいて勇気づけるような声をドリームがあげる。
士もその言葉でようやく反応を見せて、プリキュアたちの方へと振り返る。
「ナッツ、他のミラクルライトはナッツハウスの中にあるんだよね?」
「そ、そうナツ。あの後で改良を重ねるために皆から回収して、ナッツの部屋のあるナツ」
「じゃあ、私たちがそれを取ってきて、ミラクルライトをいーっぱい士さんの変身アイテムにつければいいんだよね!」
簡単に言うドリームに、士や妖精たちは目を丸くして見つめる。
確かにそれならなんとかなるかもしれないが、言うほど簡単ではない。
移動方法としてはパッションの瞬間移動があるが、恐らくフュージョンも警戒しているはずだ。
「ド、ドリームの言うことは間違ってはないナツ。
ミラクルライトはプリキュアの力になるものだから、それを使えば仮面ライダーだけでなくプリキュアもパワーアップするはず……
だ、だけど、取りに行くのは危ないナツ……」
前の戦いではミラクルライトで遅れをとった以上、ミラクルライトの保管場所であるナッツハウスは最も警戒されている場所だ。
クウガと言う巨大な力を手に入れた今、恐らくナッツハウスの前で待ち構えているだろう。
何故ならフュージョンの不安要素はあのミラクルライト以外に存在しないのだから。
「……そうだね、そうだよね」
「それじゃあ、行っちゃおうか」
やがて、その言葉に虚を突かれていたブラックとピーチも笑いながらドリームの言葉に答える。
肯定の意、二人に続くように他のプリキュアも弱々しく、だがしっかりと笑みを浮かべながら立ち上がる。
フュージョンからディメンションシュートを受けた身体が無事なわけではない。
そんなプリキュアを気遣ってか、タルトが俯きながら話しかける。
「そんな! その身体で行こうなんて無理があるで、プリキュアはん!
せめてもう少しだけでも身体を回復させてからでもええんとちゃいますか!?」
「プリップー……」
タルトだけでなく、心配そうな顔をして宙に浮かぶシフォンの姿。
その二人や他の妖精たちにも対してピーチは優しく笑みを浮かべて答える。
「ちょっと行ってくるだけだから、せっかく皆で集まったんだから早く終わらせないとね」
「せやかてなあ、ピーチはん……」
「大丈夫大丈夫! まだ動けるし、ほらほら!」
「ラブゥ……」
自分はまだ動けるとピーチはアピールするかのように、軽く力こぶを作るような動作で笑顔を浮かべる。
それでもまだ心配そうな顔をする二人に、困った顔をしつつも笑いかける。
管理国家ラビリンスとの戦いと言う密度の濃い付き合いをやってきた二人にはその笑顔で止めることは難しいと悟る。
タルトは『はぁ』と軽くため息をつき、それ以上は何も言わない。
他のプリキュアのやりとりも同じだったのか、メップルたち他の妖精も同じように笑いを浮かべている。
そして、僅かに顔をしかめている士に対して向き直る。
十七人全員に見つめられていることに圧迫感は覚えていないようで、士はただ一瞥するだけだ。
それを何か用かと言う無言の問いだと判断し、ブラックが口を開く。
「士さん」
「……なんだ?」
「たこ焼き、美味しかったです、もう一回食べたい。出来ればアカネさんのと食べ比べしたいぐらい」
「……」
「世界の破壊者とか、あたしにはよくわかんないけど……士さんのたこ焼きは美味しかったです。
だから今度は、士さんの仲間の人と一緒に食べましょうよ」
士は何も言わずにただブラックの言葉に耳を傾ける。
そして、ブラックの言葉を受け継ぐようにピーチは相変わらず柔らかく微笑んで言葉を続ける。
「罪を憎んで人を憎まず。大事なものを守りたい、って気持ちはみんな一緒だから」
「そうか……」
「だから、私は私の見た、友達のことを思っている士さんの力になりたいと思います」
ピーチはそれだけを言って、背中を向ける。
そしてリンクルンを手に持ったパッションへと言葉を放つ。
「パッション、お願い」
「分かったわ」
パッションはゆっくりと頷き、リンクルンを両手に持ち目を瞑る。
そのパッションを中心にプリキュアたちは集まっていき、強い眼差しのままに空を見つめる。
「ナッツハウスへ!」
強い言葉とともに、パッションを中心にプリキュアたちは消えていった。
取り残された、変身アイテムでない妖精たちと士は何も言わずに黙り込んでいる。
いつだってプリキュアに任せるしかない妖精は歯がゆさを感じているのだろう。
士はそこでようやく顔を上げ、ポツリと呟く。
「そうだな」
えっ、と不思議そうな顔で妖精たちは士を眺める。
すがすがしい顔、とは言えないが先程よりは吹っ切れた顔をしている。
その瞬間にケータッチを取り出してナッツへと手渡した。
目を丸くしているナッツに向かって、士は言った。
「……なるべく早く頼むぞ」
「ナツ!?」
「アイツらを見ていると考えるのが面倒くさくなっただけだ」
◆ ◆ ◆
キュアパッションの持つピックルン・アカルンの瞬間移動能力によってナッツハウスの門前まで訪れたプリキュアたち。
空は当然のように暗黒に曇っており、心なし周辺の林に生える木々も萎びれた印象を覚える。
見慣れた風景に渦巻く邪悪な気配にプリキュアたちは僅かに顔をしかめるが、直ぐにその表情を引き締める。
「ミラクルライトはナッツの部屋にあるんだよね」
「ええ」
全員が顔を見合わせて頷き合う。
ミラクルライトを取るだけという目的だが、実際はそれほど簡単なものではない。
ナッツが言ったようにミラクルライトはプリキュアの力を倍増させる物、それをフュージョンはよく知っている以上は邪魔が入るはずだ。
『プリキュアァ……!』
その予想は不幸にも外れておらず、当然のように曇った空から水銀色の怪人・フュージョンが降り立ってくる。
必ずこのナッツハウスに来ると読んで待ち構えていたのだろう。
今のままのプリキュアになら勝てる、恐れるのはミラクルライトだけということをフュージョンは認めているのだ。
逆に言えば、ミラクルライトさえ手に入れてしまえばプリキュアの勝利の目も見えてくる。
フュージョンに向かい合ったプリキュアたちは静かに構える。
十七組の鋭い眼光を受け流しながらフュージョンは姿を変えて行く。
『ここで、私と一つに……!』
フュージョンが取った姿は仮面ライダーディエンドではなく、金色の禍々しい装飾を施した黒い複眼の仮面ライダー。
プリキュアたちにも分かる。
この姿・この力は小野寺ユウスケ、仮面ライダークウガのものだ
それをフュージョンが操ると言うことは、すなわちユウスケはフュージョンに取り込まれたと言うこと。
『この姿こそ最も邪悪な仮面ライダー……ライジングアルティメットクウガ、究極の闇そのものだ』
力を確かめるように手を握りながらフュージョンは呟く。
そして、プリキュアたちへと向かってゆっくりと指先を掲げる。
その瞬間だった、プリキュアたちの足元に激しい爆発が起こったのは。
「きゃあああああ!!!」
クウガ、いや究極の闇が持つ力の一つである発火現象を用いた攻撃。
触れることすら許さない最強の力だ。
『プリキュアよ……私と、一つに……!』
◆ ◆ ◆
「ああ、帰っていたのかい士くん。いや、ちょっと空が曇ってきたからねえ。
泣き出す前に洗濯物を畳んでおこうと思って……あれ?」
「士だけェ? ユウスケたちはぁ?」
写真館の前で立ち尽くしていた士の前に現れたのは、一人の老人と真っ白な奇妙な形をしたコウモリ。
老人はそこに居るだろうと考えていたはずの二人の姿が見えないことに不思議そうに首を捻る。
「夏海とユウスケは……今は居ない」
「そっか、出かけてるのか……まあ、ちょうどいいや。もう少しかかるからね」
その疑問に答えるように士は口を開く。
妖精たちはケータッチを改造しているナッツの所にいる。
今は待つだけの身がひどくもどかしい。
「いやね、今日は美味しいパンが焼けたんだよ。
ほら、このチラシに書いてあった『パンパカパン』ってお店のパンが美味しそうでね。
思わず作りたくなっちゃって……後で二人が帰ってきたら一緒に食べよう」
「栄次郎ちゃん、わたしの分はぁ?」
「ちゃんと作ってあるよ。皆で食べた方が美味しいからね、こういうのは」
「やったぁ♪」
甘ったるい声を出しながら白いコウモリ・キバーラが周囲を羽ばたく。
それを見て老人・光栄次郎も好々爺そのものの落ち着いた顔に笑みを貼り付ける。
普段と変わらないそのやり取りを眺めながら、士ふと思いついた。
「そうだ、こっちで知り合いが出来た。十七人ぐらいいるが……なんとかなるか?」
「十七人!? そりゃ多いねえ……まあ、一人の分が凄く少なくなるけどなんとかなるよ」
「大丈夫だ、他の食べ物も持ち込むからな」
驚愕に顔を染めながらも栄次郎は何かを確かめるように指を折り始める。
士の顔には苛立ちは薄くなっていた。
先程士自身も言ったように、考えるよりもフュージョンを殴りたいという気持ちが強くなっている。
フュージョンを倒してしまえば今の状態が元に戻るということは、プリキュアたちから話を聞いたので知っている。
「士……士……」
大変だなあ、と呟きながら栄次郎が写真館へ入っていくのと入れ替わりに声変わりを済ましていない甲高い声が響く。
声のする方向へと視線を移すと、そこにはココの姿が見えた。
メップルたちのようにプリキュアの変身に必須でない妖精たちは今この場に残っているのだ。
「終わったらしいココ」
「そうか」
士は短く答えてケータッチをいじっているだろうナッツのいる場所へと向かっていく。
思ったよりも早かったな、と思いつつそっとカードホルダーに触れる。
コンプリートフォームの空白のカードに対して、ある考えが浮かんでいるのだ。
ミラクルライトはプリキュアの力を増大させる、そしてコンプリートフォームは仮面ライダーの力を集めたコンプリートフォームへと姿を変えさせる。
この二つはどこか似ている、そう士は感じたのだ。
「士、終わったナツ……」
そんな士へとナッツが僅かに俯きながら声を掛ける。
小さなナッツの手には見慣れたケータッチがあり、特別変わったようには見えない。
「ケータッチ……それはナッツじゃ良く分からないほど複雑なものだったナツ。
かろうじてミラクルライトの核となる機能をつけることが出来たナツけど……正式な力が出せるかどうかは分からないナツ」
「いや、構わない。あの時間で頭が落ち着いた」
士はそっけなく答えて、ナッツから奪い取るようにケータッチを手に取る。
ケータッチを軽く眺めた後に、何も言わずただマシンディケイダーに跨りヘルメットを被る。
戦いに行くのだ、妖精たちにだってそれぐらいは分かる。
完全にケータッチが戻ったわけではないのに、戦いに行く士へと向かって思わずココの口が開く。
「士……君は、君は一体何者ココ?」
ココはそう尋ねる。
異世界の存在を知っているココとナッツでも知らない、仮面ライダーという存在。
そして、世界の破壊者と呼ばれるディケイド、そのディケイドが目の前の青年だという。
だが、その青年からはそんな分かりやすい悪意は感じない。
だからこそ、聞かざるを得なかった。
たとえ青年の記憶がないと分かっている、残酷な問いだとしても。
しかし士は、大したことではない、というような表情のまま答えた。
「俺か? 俺は――――」
士はココの言葉に答えながらホルダーから一枚のカードを取り出す。
手に取った一枚のカードを前へと突き出し、勢いよくディケイドライバーに差し込んだ。
―――――― KAMEN RIDE ――――――
――――――― DECADE ―――――――
◆ ◆ ◆
「くっ……あぁ……!」
場所は変わってナッツハウス周辺の森林。
ナッツハウスの被害を嫌ったプリキュアたちが場所を移したのだ。
フュージョンとしても圧倒的な力を得た今では地の利を考える必要はない。
おとなしく位置を変え、全力で向かってくるプリキュアを全力で叩き潰していた。
『傷は癒えていない……何故そのような姿で強大な力を得た私の前に立つ……?』
「アンタには……分かんないでしょうね!」
「もうこれ以上、私たちの世界を貴方の好きにはさせたくないの!」
「虹の園の美しい風景……そこに住む優しい人々……そのどれもが、私の大切なものなんです!」
フュージョンの問い掛けにブラック、ホワイト、ルミナスの三人が立ち上がる。
かなりのダメージが蓄積しているが立ち上がる、その不気味な様子にフュージョンは眉を顰める。
「そうよ……! 私たちには大事なものを抱えて生きてるの!」
「……貴方の物じゃない! 私たちは、私たちで居たいの!」
「最初から一つなら……私と薫はあんな辛い思いを抱かなかった」
「だけど、それを乗り越えたときに一つならあんなに嬉しくなかった……咲と舞という別の人間が居たから、私たちは嬉しかった」
ブラックたちに答えるようにブルーム、イーグレット、満、薫の四人も立ち上がる。
あれほど叩き潰したというのに、瞳には強い敵対の色は一向に消える様子はない。
「一つになるって私には良く分からない……だけど、私は皆と喧嘩しても、皆と一緒に居たい!」
「そういうことよ……! 喧嘩もしなければ、相手の心が分からない……」
「そんな未熟な人間でも、私たちは別々の人間としても一緒に居たいんです!」
「別々の道を目指しながら、お互いに励まし合う……」
「それで私たちは良いわ……! そうやって、頑張ってこれたんだから……!」
「皆が一緒だなんて……あのナイトメアとの時を思い出して気持ち悪くなるだけだわ……!」
全員がボロボロの身体だというのにプリキュア5とローズがゆっくりとだが確かに立ち上がる。
やはり折れないその瞳に、思わずフュージョンは一歩だけ後ずさる。
「皆が皆……違うから……それを仲良くなれたときに幸せを感じることが出来る……!」
「私たちは……張りあうように競いあって……お互いが完璧になるの!」
「他人を信じること……私は、好きだから……!」
「皆が笑っている姿を見れるなら……私、せいいっぱい頑張るわ……!」
ピーチとベリー、パインとパッションも立ち上がる。
その瞳には、フュージョンへの敵意しか存在せず、折れるという様子を見せはしない。
『貴様らぁ……!』
攻め上げていたフュージョンが苦しそうな声をあげる。
プリキュアたちは強い眼差しのままにフュージョンを睨みつける。
そして、揃い合わせたかのように同じタイミングで口を開き同じ言葉を投げつけた。
――――だから! 私たちは貴方なんかに負けない!――――
『だがぁぁぁ! 私の力の前に倒れるのだぁ!』
それ以上、プリキュアの姿を見たくはないと言わんばかりに発火現象での攻撃を行う。
そして、ひるんだ隙に体勢を低くする。一撃必殺であるライダーキックの構え。
直撃すればしぶとすぎるプリキュアでも死んでしまう、そんな一撃だ。
ジリッと音を立てながら足の踵から土踏まずまでを地面から離していく。
後は助走をつけて、空中で回転するように回りながら蹴りを叩き込む。
それだけで、プリキュアは打倒出来る。
だが、本当に死ぬのか? そんな不安もある。
そんな不安も抱えたまま、フュージョンが走り出した瞬間。
『なっ――――!?』
フュージョンの身体に強い衝撃が叩き込まれた。
何が起こったのか分からないと言わんばかりに、着地も忘れて衝撃が襲ってきた方向に眼をやる。
「待たせたな、プリキュア」
聞き覚えのある声と、いまさらながら気づいたバイクの排気音。
バイクで吹き飛ばされた、と瞬時にフュージョンは理解する。
フュージョンをバイク、マシンディケイダーで吹き飛ばした衝撃を物ともせずに軽く降りてくる。
その姿を、プリキュアたちとフュージョンはよく知っている。
『仮面ライダー――――』
「――――ディケイド!」
目に痛いほどに光を反射するマゼンダ色のスーツと、奇抜な仮面をつけたバイクに跨った戦士の姿。
世界の破壊者、だが今はフュージョンを倒そうとする仮面ライダーディケイドだ。
「プリキュア! 大丈夫ロプか!?」
「シロップ!」
「ココや……他の皆も居る!」
ディケイドが現れた瞬間、天空に巨大すぎる怪鳥の影が舞う。
その背中にはメップルたちのようにプリキュアの変身アイテムとなれなかった妖精の姿が見える。
相も変わらずに一つとなることを阻むその集団の姿に、フュージョンは憤りながら大きく怒鳴りつける。
『貴様ぁ……まだ私の前に立つか……! 最大の力を失った今でも、私に勝てると思っているのかぁ!?』
フュージョンの言葉にディケイドはバイクから降りながら、ふん、と鼻で笑う。
「こいつらの単純なほどに真っ直ぐな姿を見てたらな、考えるのが馬鹿らしくなる。
だから今はとにかく……イライラさせるお前をぶん殴る、それだけだ!」
『それだけ……それだけだとぉ? それだけのために死にに来たのか?』
その声に今度はフュージョンが鼻で笑う。
だが、ディケイドはそれに対して何も返さずに、効果を示さなくなったはずのコンプリートカードを取り出す。
そして、そのカードをケータッチに差し込むと、フュージョンに吸収されて以来全く起動しなかったケータッチが光を放ち始める。
その光は士以外の、フュージョンすらも知っている光、ミラクルライトの光そのものだった。
「やった! 起動したでぇ!」
「プリキュアのカードとミラクルライト……この組み合わせだから起動したんだナツ!」
タルトとナッツがその様子に驚きの声をあげるのを聞きながら、ディケイドは素早くボタンを押していく。
光の影響か、タッチパネルに表示されるイメージは普段の九個よりも格段に多い、十七個ものイメージだ。
――――― BLACK ―――――
――――― WHITE ―――――
―――― LUMINUS ―――――
――――― BLOOM ―――――
――――― EAGLET ―――――
――――― BRIGHT ―――――
――――― WINDY ―――――
――――― DREAM ―――――
――――― ROUGE ―――――
―――― LEMONADE ―――
――――― MINT ―――――
――――― AQUA ―――――
――――― ROSE ―――――
――――― PEACH ―――――
――――― BERRY ―――――
――――― PINE ―――――
―――― PASSION ――――
――― FINAL KAMEN RIDE ―――
十七枚のカードがディケイドの周辺を回り、肩から胸へと通り肩を結ぶホルダーに収まっていく。
低い機械音とともに光を放ちながら、ディケイドのカードが額へと装着される。
―――― DECADE ―――――
プリキュア・コンプリートフォーム。
光を放つその姿は、ディケイドのコンプリートフォームに姿こそ同じだが、力の性質が僅かに異なる。
その力の性質は仮面ライダーのものではなく、プリキュアのもの。
そして、そのベクトルはミラクルライトの影響かプリキュアへと向かって力を『与える』ことが主だ。
「力が……!」
「凄い……」
「力が湧いてくるよ……!」
ディケイドの腰に嵌められた、ミラクルライトが内部に仕込まれたケータッチから輝く光が放たれる。
そして、その光がプリキュアたちが包んでいき、プリキュアたちもその光を抗うことなく受け止める。
悪い光ではなく、自分たちに利する暖かいものだと感じたからだ。
「ミラクルライトの光だココ!」
「なんや……!? プリキュアはんらの姿が!」
その光はプリキュアたちへと力を与える光。
光を受け取ったプリキュアは力を新たに、姿を変えていく。
鳳凰の火を受けてさらなる力を得た『スーパープリキュア』、ディケイドの放った光によりその姿となったキュアブラックとキュアホワイト。
人と人の繋がりに寄り、絶えることなく輝き続ける光に包まれた『黄金』のシャイニールミナス。
満と薫を精霊の力も得ることで『花鳥風月』の四人が揃ったキュアブルーム、キュアイーグレット、キュアブライト、キュアウィンディ。
繭を破るように光の中から現れた背中にそれぞれの色の『蝶』の羽をつけたスーパープリキュア5。
全ての人の心の力によって、姿を得た白い羽を持ち微弱だが優しい光を放つ『天使』の姿をしたキュアエンジェル。
『これ、は……!』
その姿に気圧されるように、フュージョンは一歩後ずさる。
先程とは違う圧倒的な力、それどころかこちらの力を奪われていくそれにフュージョンの脳は疑問で埋め尽くされる。
『その光が……その光が原因なのか……! 私の力が……私から離れていく……!』
ディケイドの放った光によって集めたその力がどんどんと分裂していく感覚を覚える。
今のこの姿を、フュージョンは保つことができなくなる。
ライジングアルティメットクウガの姿が霧散していき、かつてプリキュアたちと戦った特徴のない姿へと変わっていく。
『何故だ……私は、力と一つになったはずだというのに……!』
「お前はユウスケや夏海、海東と一つになったんじゃない、取り込んだだけだ。
ちょっと刺激を与えてやれば……力が逃げ出していく程にな!」
霧散して行く力を追いかけるように、フュージョンは前方へと手を差し伸ばす。
だが、無くなっていく力は取り戻せない。
クウガの力を完全に逃がすことはかろうじて避けたが、その力を引き出すことは叶わない。
フュージョンの馬力自体は落ちてはいない、未だ強大な存在であることに変わりはないのだ。
だが、力を引き出せないと言うことにフュージョンへと強い動揺を与える。
『何だというのだ……! 何なのだ、貴様は!!』
その存在を知っているというのに、フュージョンは叫ばずにはいられなかった。
先程までプリキュアをライジングアルティメットクウガで圧倒していたはずなのに、あっという間に形勢が逆転している。
それもこの仮面の男が現れたからこそだ。
「知らないのか? だったら教えてやる」
ディケイドはふんと鼻で笑い一歩踏み出す。
それに呼応するようにプリキュアたちも一歩、踏み出す。
「通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ!」
ディケイドが放った言葉は、妖精たちに放った言葉とそっくり同じだった。
To Be Next――――――――――――――――
最終更新:2010年04月09日 23:47