「……う」
自分の漏らした呻きに、目を覚ました。
2、3回ほどまばたきをして一体自分はどうしたのか。何だかぼーっとしている頭を起こすように記憶を探る。
たしか、バーンを倒してそれから、地上に戻って……。
……ああ、そうだ。キルバーンが現れたんだった。
おれ達がキルバーンだと思っていたのは人形で、それを操っていたのがいつも彼と一緒にいた使い魔のピロロ-本物のキルバーンだ ったんだっけ。
それで、その人形の方には黒の結晶(コア)が仕込まれていて、おれはそれを地上で爆発させまいとキルバーンの身体を抱えて飛ん で……それから……それから爆発に巻き込まれたんだ。
そこまで思い出して、自分の身体を確認する。服はぼろぼろだけど、特に怪我などは見当たらない。
……もしかしてこれは夢なのだろうか?自分の頬をつねってみる。
「痛い……」
どうやら夢ではないらしい。ならおれは一体どうやって……
「あれ?」
そこまで考えてから、気づいた。
何か、自分の身体に違和感があることを。
何だか、何かが「無い」ような……何て言うか、そんな違和感。
とっさに自分の拳に視線を移す。それからいつものように意識を集中させて……。
だけど、いつもならば、拳に輝くはずの竜(ドラゴン)の紋章は一瞬たりともその姿を現さない。
一応額にも触れてみるけれど、結果は同じだった。
バーンとの戦いで力を使いすぎたせい、何だろうか。それとも、黒の結晶(コア)の爆発のせいなのか。
そういえば、爆発の時に何か暖かいモノがおれを守ってくれた。そんな気がする。
……これが一時的なモノなのか、それとも完全に紋章は失われてしまったのか。
わからないけれど、とりあえず今は置いておこう。
それよりも、ここはどこなんだろう。身を起こして辺りを見回す。
……周りは高く伸びる木々。そこから伸びる枝には空を覆い隠す程の緑の葉が茂り、地面には高かったり短かったり色々だけど、 草が広がっている。
どうやらおれは、どこかの森の中にいるらしい。
とりあえずどうするべきだろうか。何とか無事に生きているみたいだし、ポップやレオナ達の所へ戻るべき、かな。
でも、ルーラを使おうにももう魔法力は残っていないし……どうしようかな?
首を捻って考える、と森の奥の方から声が聞こえてきた。
誰かいるのかな?おれは声のした方へと歩き出す。
しばらくすると視界が開けてきた。どうやら街道に出たらしい。
そこには、背が高く、長い金色の髪の男の人と、栗色の髪と黒い髪の女の人が二人。
それから、人相があまりよろしくないおじさん達が数人。
人を見かけで判断するのは良くないと思うけれど、どう見てもおじさん達が三人に絡んでいるようにしか見えない。
改めて絡まれている三人の方を見る。
金髪の人は、青い胸甲冑を身につけて、腰には剣を挿している。
栗色の髪の人は、白を基調としたショルダー・ガードに黒いマントを羽織って、腰には短剣が刺されている。
黒い髪の人は、白を基調とした服に白いマント。武器は特に持っていない。
三人ともおじさん達がナイフを突き付けても怯んではいない。それどころか余裕の笑みさえ浮かべている。
手助けはいらないか。
そうは思ったけれどでもやはり。見て見ぬふりというのは、個人的に許せない。
今のおれは武器も無いし魔法力も残っていないけれど、普通の人間ならば格闘だけでも充分だ。
自分の中でそう結論付けて、
「盗賊ごときがこのあたしに逆らうなんて百年早いのよ!炸弾陣(ディル・ブランド)!」
走った。その時。
地面から土砂が吹き上がった!おれの身体も一緒に持ち上げられて…………
「う……」
おれは自分の呻きで目を覚ます。
あれ?何だかさっきもこんなことがあったような気が……
「リナ、ガウリイさん!気がついたみたいですよ!」
頭上から声がする。2、3回ほどまばたきをして、瞳を開けるとこちらを覗き込んでくる顔が見えた。
少しはね気味の黒い髪を肩で切り揃えていて、服はゆったりとした白。
年は……多分、おれよりも少し上……ポップやマァムと同じくらい、だろうか。
それにしてもどこかで見た顔……ああ、そうだ。さっきおじさん達に絡まれてたうちの一人だ。
とすると、今この人が呼んでいた人達も?
「本当か?いやー、よかったよかった!」
「全く……なんだってあんなところにいたのよ」
身を起こしながら視線を移すと、それぞれ言葉を口にしながらこちらに向かってくる二人の人物が。
その姿はやっぱり、さっき絡まれてた人達だった。
「ま、とりあえず。大丈夫?」
栗色の髪の人が問いかけてくる。
年の頃は、白い服のお姉さんと同じくらい。額には黒いバンダナを巻いていて、それが何だかポップを彷彿とさせた。
「うん、大丈夫だけど、……おれは一体?」
確かおれは、この三人に加勢しようとした。
そこまでは覚えているんだけど、そこから先ははっきりとしない。
首を傾げるおれに栗色の髪のお姉さんは、やや気まづげに頬をかく。
隣に立つ金髪のお兄さん-20代初め……くらいかな。多分、ヒュンケルと同じくらいの年だろう-が、呆れたような視線をお姉さ んに向ける。
「お前さん、こいつの魔法に巻き込まれたんだよ」
……そういえば、お姉さんが何か唱えていた気もする。
確かその直後に地面が吹き上がって、おれもそれに巻き込まれた。……うん、確かにそうだった。
「わ、わざとじゃないわよ!」
「確かにリナが人を巻き込むのはいつものことだけどね……」
黒い髪のお姉さんも、同じく呆れたような視線を向けて、それから改めておれの方を見た。
「えっと、お名前は?私はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンです」
お姉さん-アメリアさんはおれに尋ねそして名乗った。おれもそれに名乗り返す。
「おれは、ダイだよ」
それから改めて今の自分の状態を確認する。
とりあえず怪我とかは無いみたいだ。……そういえば服はボロボロだったはずだけど、今は大分大きめの麻の服を着ている。
この服は一体?なんて思っていたら、いつの間にかおれのすぐ横に来ていたお兄さんがおれの頭に手を置きながら、
「ああ、それはオレの予備の服だ。あのままの格好じゃ風邪をひいちまうからな。ああ、オレか?オレはガウリイ=ガブリエフだ」
言って、ガウリイさんはおれの頭をくしゃりと撫でながら、人懐っこく笑む。
何だかとってもいい人そうだ。
そして最後に残ったお姉さんも口を開く。
「あたしはリナよ。リナ=インバース。それにしてもあんた、なんだってあんなところにいたのよ。それもあんな格好で」
そのリナさんの問いに、おれは言葉を詰まらせる。
だってどうやって説明すればいいのか、よくわからないから。
だからそれをはぐらかそうとして、おれは別の質問を投げ掛ける。
「え、ええっと……それより、ここはどこなの?」
確かさっきまではどこかの森の中の街道にいたはずだ。
けれど今はどこかの宿屋なのか。気がついた時には、ベッドの中にいた。
「カルマート公国から、ディルス王国に続く街道よ。ここはその途中の小さな村」
おれの質問に答えてくれたのはリナさん。
カルマート……ディルス?どうしよう。全く聞き覚えの無い地名だ。
首を傾げるおれにリナさんが地図を差し出してくれた。おれはそれを覗き込んで……思わず言葉を無くした。
「どうした?」
ガウリイさんがおれの顔を覗き込んでくるけれど、おれはまだ言葉を紡げずにいる。
だって差し出された地図は、おれが知っているものとは全く違う世界を描いていたのだから!
「で、あたしはあんたがどうしてあんな場所にあんな格好でいたのか。それを聞きたいわけだけど?」
何にも言えなくなってしまったおれに、リナさんが焦れたように言い募る。
当然と言うかなんと言うか、おれはそれに答えられない。どうしよう、思わず視線をさ迷わせた、その時だった。
「……まさかダイさん、あなたさっきの盗賊に誘拐されたのね!?」
突然アメリアさんが立ち上がり叫んだのはって……ええぇえええ!?
「い、いや別にそういうわけじゃ」
「きっとそうに違いないわ!だってあの人達は盗賊!即ち悪!!悪のする事と言ったら、盗みに誘拐に破壊と何時の世も決まっているわ!!」
拳を握り締めながら力説するアメリアさんの声はどんどんと大きくなっていく。
おれは何とか誤解をとこうとするのだけど、全く聞こえていないみたいだ。
助けを求めるようにガウリイさんとリナさんに視線を向ける。
「……諦めなさい。あの子はああいう人間なのよ」
ガウリイさんは視線を明後日の方向に向け、おれにそう言ったリナさんもまた、視線を反らす。
……何だか、大変な人に関わっちゃったみたいだ。
「え、えっと、その……」
ようやく言葉を切り出したおれに、リナさんとガウリイさんがこちらに意識を移す。
アメリアさんは相変わらず一人で盛り上がっているけれど……とりあえず置いておこう。
「さっき見せてもらった地図なんだけど……全く見覚えがないんだ」
結局、地図に見覚えがないこと、地名も全く聞き覚えがないこと。
それらをそのまま正直に話すことにした。
隠していたってどうなるものでもないし、うまい言い訳も思いつかないし。
「見覚えがないって……リナ、お前さんの術のせいじゃないのか?」
「え゛っ……そ、そんなことはないわよ!!……多分」
「ち、違うよ!別に記憶喪失だとか、そういうわけじゃなくって……!!」
何か別の方向に解釈されそうになったのを慌てて否定する。
確かに一度記憶喪失になったことはあるけれど、あの時とは違ってちゃんと自分のことを覚えているし今までの出来事だったちゃんと覚えてる。
「なんと言うか……自分でも信じられないことなんだけど。」
そう前置いて、おれは自分の推察を語る。
「その……ここって、おれのいた世界とは別の世界なんじゃないかなって……思うんだけど」
異世界、そう呼ばれるものがあるって以前聞いたことがある。
世界というものはいっぱいあって、それぞれは、近かったり遠かったり。
色々あるけれど、見えない壁のようなものに隔てられていて決してたどり着く事も交わることもできない。
でも、何かしらの強い力があれば空間を繋げることができ、別の世界へと行くことができるかもしれない。
確かそんな風なことを、修行の息抜きの雑学、と言ってアバン先生が話してくれたことがある。
黒の結晶(コア)の爆発ならばその『何かしらの強い力』になり得ると思うし、ここが異世界ならば見覚えのない地図も聞き覚えがない地名も。全部説明がつくと思う。
「異世界、ねぇ……」
おれの話を聞き終えて、リナさんは疑わしげな視線を向ける。
無理もないと思う。おれだって、急にそんなことを言われたら信じられないと思うから。
でもどうやって証明したらいいだろうか。暫く考え込んで……そして思い出した。
さっきおれが巻き込まれたリナさんの魔法。それはやっぱりおれの全く知らないものだった。
ならばおれの元いた世界の魔法も、この世界では『知らないもの』になるんじゃないだろうか。
そしてそれならば、おれが異世界から来た証明になるんじゃないだろうか。
そう考えておれは呪文を唱えた。
「火炎呪文(メラ)」
世界が違ったら呪文も発動しないんじゃないか、一瞬そんな考えが頭をよぎったけれど、おれの手のひらにしっかりと小さな火の玉が宿る。
よかった。魔法は使える。
けれどやっぱり世界が違うからなのか。それとも、おれの身体が万全ではないせいなのか。
火の勢いはいつもよりも随分と弱い。
「なるほど……ね。いいわ。ダイ、あなたの話、信じたげる」
けれどリナさんには信じてもらえたようだ。
……アメリアさんは相変わらず一人で盛り上っているし、ガウリイさんは途中から寝ているけれど。
だけど、これからどうすればいいのか。そして、どうすればおれは元の世界に戻れるのだろうか。
今はまだわからないことだらけだった。
スレイヤーズ×ダイの大冒険 第一話 終
最終更新:2010年05月22日 01:04