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とある東方と空の境界 第1話

◇

―――『テメェ』がどこの誰かなんて知らねぇ
少年は言った。
相手にではなく自分自身の中にある、何かに。
―――とうの昔に言ったはずだ
『テメェ』と呼ばれた者は答えた。
―――『テメェ』が何をしようとしていたかも知ったことじゃねぇ
少年はさらに言った。
『テメェ』は再び答える。










―――魔術師。
―――荒耶宋蓮。


◇
目を覚ますとそこは、どうも学園都市の外部らしかった。
というか、日本の中なのか或いは……
「あら、目が覚めたみたいね」
巫女装束だ……とはかろうじてわかるが、なんか違う。
巫女さんは、あからさまに腋を主張しないと思う。
「……ッ、痛ってぇ……」
「下手に動かない方がいいわよ。布キレみたいになってたからね、さっきまで」
見ると、体中にアザや擦り傷ができていた。
それもそのはず、大天使を相手にして傷一つない方がおかしいのだ。


―――大天使?


自分は、『右方のフィアンマ』という男と戦っていたのではなかったか?
自分は、かろうじて勝利を得、『ベツレヘムの星』を害なく着水させようとしたのではなかったか?
自分は、その寸前に現れた大天使、『ミーシャ・クロイツェフ【ガブリエル】』と対峙したのではなかったか?

自分は、

―――

そこまで思い出して、意識は戻った。
眼前には、心配そうな目つきでこちらを覗きこんでくる巫女の顔がある。
「だいじょうぶ?茫然自失としてるようだけど」
「うわぁ!」
驚いて、飛び退く。
体の傷が疼くが気にしてはいられなかった。
鏡を見れば、耳まで赤に染まってるに違いない。
「……人が心配してるのに。欲情でもしたわけ?思った以上にはしたないわね、男って」
巫女は裸だった。
それも、着替え中のような、半端な裸【脱ぎかけの巫女装束】で。
「いやっ、決してそんなことはないでございますのよ、姫?」
姫と褒めたところ(並み以上に可愛い相手ではあるが)で機嫌は直らんだろうと思いつつも、ひとまずこのピンチ【フラグ建設現場】を回避しようとする。
「……まぁ、いいわ。あなたが男性だということ、しかもこんなにも性欲旺盛だということを忘れていた私の方にも非があるし」
確かに俺は男性だが……、と発言を思い返すが、
―――へ?性欲?
「あの……私めは姫様に何かよからぬことを……」
「あら、見えないの?あのグチョグチョの服」
―――なんだかすごく嫌な予感がする。
ザァー
と、大振りの雨が地面を打つ音も聞こえないくらい、俺の心臓は鼓動を速めている。
しばしの沈黙の後、
「申し訳ございません!」
高速で土下座の態勢に入る。
巫女さんは新しい服に着替えつつ、答えた。
「あら、そんなに悪いと思ってるなら」
言いながら、多分台所だと思われる場所を指した。
「お茶汲んで。濡れたから寒くて寒くて。まったく、雨が降ってる中で女性を労働させないでよね」
新しい服に袖を通し終えると、
「ふぅ。だいたい、なんで大の男があんなところで寝っ転がってんの?あ、気にしてるなら『性欲』以下の言葉は冗談だったんだけど」
このとき。
俺は半分以上本気で巫女を殴ろうと思ったが、止めた。

◇
俺の名前は上条当麻。
科学によって超能力が開発され、脳の開発さえすれば誰でもスプーンぐらい曲げられる時代。
そんな時代に逆行するがごとく、この家(?)は古臭かった。
自分の担任である月読小萌の家よりワンランク以上古臭く、どうも科学が異常に発展した超能力開発機関、『学園都市』の中には思えなかったのである。
巫女にも聞いたぜ、こっちの世界のこと。ついでに名前も教えてもらった。
ところで、俺の右手に何があるか知ってるか?
『幻想殺し【イマジンブレイカー】』。”異能の力ならどんなものでも打ち消せる”。
原爆級の火炎だろうが、戦略級の超電磁砲だろうが―――
なんて触れ込みなんだけど、実際そうでもない。あまりに強すぎると、消しきれないこともある。
誰かさんの黒翼然り、聖ジョージの聖域然りな。
でもまあ、さして問題でもない。
そんなことより、重要なのは俺が今立ってる場所だ。
巫女―――名前は博麗霊夢。
話によると、”ここは幻想郷。忘れられたものが来る、素敵な楽園”
俺の能力をもう一度説明する。

”幻想殺し、異能の力なら―――”

そう。
こんなファンタジックな土地が、一体どうして異能の力によるものではないというのだ。

◇
「安心なさい、この土地を消し飛ばすほどの力を、”あなたはまだ取り戻していない”」
突然、最初からいたかのように、後ろから声がした。
「―――ッ」
驚き、振り向くが誰もいない。
今度は前から、
「今のあなた程度の『幻想殺し【イマジンブレイカー】』にはこの土地を消すほどの処理能力はないわ」
思考を読んだが如く、上条の疑問を一撃で粉砕した。
「思考と現実の境界を無くす。それだけであなたの思考はダダ漏れよ、上条当麻」
見えた。
女。
―――頭から足先まで見渡す。
気色の悪い目玉がのぞく『空間』に座り込む、女。
「こちらが名乗ってなかったわね。八雲紫よ」
わざとにしか聞こえない、挑発するような声色だ。
上条は答える。
「……つまり、別に”今の俺”程度じゃこの幻想【セカイ】は壊れねぇってことか」
「正確には”今の右手では”ね。まあ、あなた自身と関係がないと言えば嘘になるけど」
上条はほっとする。
彼女―――紫は、聞きたくもないことをだらだらと言っているようだが聞こえないふりを―――
「誰がだらだら話してるって?」
ドガッ
「うぺぇ!?……ケガ人なんですけどぉー!?」
脇腹を蹴られた。普段なら何ともないだろうが、やはりケガのせいか体中が軋む。
「続けるわ。あなたの右手に関してこれ以上言うと約束に反するので言えない。後言うことはないわ。あ、一応、”これから生活する上で質問は?”」
「―――はい!?私めは元の世界へ帰ることを所望しているのでございますが……」
「無理ね。というかさせない。あなたには試練が待っているから、くれぐれも死なないように」
暴言臭いセリフを上条に放ち、彼女は『境界』に足を入れて―――
「待てやごるァ!!」
唐突に、上条の右手が境界に触れた。
「さすがに、『スキマ』程度じゃ右手には敵わないか」
「……外はどうなった。インデックスは?世界は無事なのか?」
上条の視線は、今まで実際に見た物の中でもとくに『真面目』だ。
それは、ひとえに大切なものを気にかけているからである。
「心配はいらないわ。こちらで過ごした日々は向こうではほんの一瞬だと思うから」
そうか、とだけ短く言って、上条はうつむきそれ以上何もいわない。
―――会えないつらさ。
―――独りににさせてしまうこと。
それらをかみしめて、こらえて、うつむいている。
去り際に、紫はこんな事を言う。
「あなたに次会うときには、取り戻しておいてよ、その力。
用意した試練は三つ」


―――『互いに絡み合いながら』

―――『相克する螺旋で待つ』

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最終更新:2010年12月14日 03:12
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