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とある東方と空の境界 第4話

◇
こつ、こつ、こつ。
余裕を持って歩む。
その男は、荒耶宗蓮。
人間の性に絶望した男。『静止』を操る起源覚醒者である。
「こちらの世界に来るも来ないも、全ては気分次第か」
相手にするのは、幻想郷でも最高位の力をもつ者。
「当たり前でしょう?」
境界を操る―――それは三次元上の部屋の中と外とか、そういったレベルではない。
現実と虚構。
概念の『境界』でさえ操ることが可能。

「」も、境界である。

荒耶の目指す、全ての始まりの知識、「」。

そう。
......................
八雲紫は意図せずとも『根源』へ辿り着いている―――ッ!

「そこまで、『根源』とはすばらしいものかしら」
「私は人間を見限っている。お前のような人智を超越した存在は羨ましい限りだ」
何度も目にした。
人間とは、もはや―――。
「しかし、ただの人間にすぎぬ私が人智を超えるには、『抑止力』を退け『根源』へと辿り着く他、手はあるまい」
「そう。まぁどうでもいいことよ。―――ずいぶん簡単に右手を棒に振るのね」
「あれはあの少年が身につけなければ意味を成さない。実際、アレイスター程度にすら届かなかった」
ただの魔術すら、あの右手は殺せなかった。
それは、右手が弱かったからではない。扱う者が『神浄の討魔【かみじょうとうま】』でなかったからだ。






荒耶は、ただ談話しに来たわけではない。

「―――協力するとはどういうことだ?」

「あら、簡単なことよ。ヒントを上げるだけ」
―――荒耶は、この妖怪には絶対に敵わないと確信している。
そもそも、ヒトの身ではバケモノなどに敵うはずはない。
「―――『両儀』。言葉くらいは当然知ってるわね」
「……。それが」
「陰陽の太極、シキ【式】とシキ【識】。そして―――」

「―――『両儀式』。この三つを体に宿す者がいれば―――」

「確かに、間違いなく『根源』への鍵だ。だが、そのような存在が―――」
「いるかどうか。さぁ?そこまで丁寧には教えてあげない。ただ、探すなら駒を用意しなさい」
―――そして、『相克スル螺旋』へと招くのよ―――

―――『死に依存して浮遊する二重身体者』

―――『死に接触して快楽する存在不適合者』

―――『死に逃避して自我する起源覚醒者』


――――――。
一つ一つ、パズルのピースを埋めるように。       


荒耶宗蓮:了
next stage......《矛盾螺旋》


◇
「だぁーもうちくしょう!」
ぷんすか、という擬音が似合うような状態である。
あれから何度も萃香は上条相手に攻撃を仕掛けたが、ただの一度としてダメージになることはなかった。
ただし、上条も人の身、それもけが人である。
萃香のあふれ出る体力の前に根気負けし、ギブアップを宣言していた。
「……一回も当たんなかった。なんだその右手は……?」
「……喋らせる気かよこんな仕打ちをしといてコンチクショウ」
げんなり、上条。
時刻は昼飯時である。
グぅ、と、腹を鳴らす。
「……腹減ってるのか?」
―――萃香は心配してるけど、そもそも疲れさせたのはお前だという本音は置いておく。
おもわず、「お蔭様で」と呟いてしまう。
ちょうどいいところに霊夢がやってくる。
「朝っぱらからドンパチやってんじゃないわよ。あ、上条。あなたは昼飯作っといてね」
霊夢自身、作れないということではないのだが、それでも自身で作る飯には飽きが回る。
せっかくの人手なのだ。活用しない手はない。
「……はい?霊夢様特製和食フルコースという俺の希望は……」
「生涯叶うことはないでしょうね」
冷たく言い放つと、そそくさと部屋へ戻る霊夢。
はぁ……と重たい息を吐く。
気づけば萃香もどこかへ行ってしまったようだ。
仕方がないので台所の方へ行く。
食材だけは、和風のものが一通りそろえてあるようで、バリエーションには困らないだろう。
料理をはじめようとする。

―――しかし。
キィイン
聞きなれた音と共に、食材は触れただけで砕け散った。
「……霊夢。悪いが俺には料理は無理みたいだ……」
霊夢は先ほどから後ろでのぞいていたらしい。
「……の、ようね」
他に料理ができる人のあてがないのか、心底落胆する霊夢。
が、突然、
「あ」
と、頭の上に電球が輝いたかのように思いつく。
「あいつなら、まぁ……料理ぐらいできるでしょ」
「……知り合い?」
ええ、と霊夢。
「家、近いのか?」
「そこそこね。ただ、歩くんじゃつらいし飛ぶしかないかぁ……」
霊夢は、「ふぁああ」と背伸びする。
―――年中眠いのか。

「えっ、てか飛ぶってどういうことだよっ!?」
「文字通り。あ、あなたは無理か……」


……


「……つかまって」
「無理です」
「こっちも恥ずかしいんだ早くしろこの野郎ぉおおお!!」
ガバッ、と勢いよく上条の左手を握り、抱き寄せる。
上条は霊夢に抱きかかえられながら、霊夢は上条を抱きかかえながら。
二人は空へと舞い立つ。

目指すは、とある魔法使いが住む家。

◇
そのまま眠りに就いていたらしい。
気がつくと外から入り込む朝日が、部屋を柔和な光で包みこんでいた。
「あれが、私の記憶を奪ったモノ」
誰となく、呟く。

―――透明な、竜王の顎。
―――体の芯までを喰らい尽されるような感覚。

体中を駆け巡った『死』の奔流。
思い出したくもないが、頭の中でその記憶だけが異常な存在感を放っている。

「おはようございます。スーツで寝にくくないのですか?」
「……誰だ。昨日とは違う顔だな。釈然としない」
「……師匠もすっかり気に入られたみたいですね。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。呼び方はご自由にどうぞ」
「自然、レイセンが適切か」
自らに問いかけるように、言う。
―――ウサギの耳のようなものが、頭にある。
「その格好はどういうことなのだ?意図あってのことか」
「……耳は外れませんよ?言っておきますけど私はこれでも月の人なので」
―――からかっているのか?
「当然、貴様の師匠から私の症状は聞いているはず。その上でからかうか」
「本当【しんじつ】ですよ!まぁ、外来人の方に『信じてくれー』というのも無理な話ですけどね……」
―――嘘、ではない、のか?
表情に偽りの色が見られない。
にわかには信じがたいが―――月の人というのは本当なのだろう。
透明な―――何もない、『記憶』という皿の上には次々とモノがのっかるように。
―――自分で言うのも変な話だが、私はあまりにも『純粋』なのだ。
「……あなたは、お優しいんですね。そんな簡単に信用してくれるなんて―――あ、すいません、私大まかにですけど人の心の中が見えるんです」
「優しい、か。依然、私にはその感覚はつかめん」
「思い出せると、いいですね。おっと、忘れるとこでした」
はい、と何か錠剤のようなものを渡してくる。
「お薬です。師匠から、『飲ませるように』と預かっているので」
「了承した。いただく」
―――ゴクリ。
得体の知れぬものを飲むことに抵抗はあったが、不思議と、あの女の顔を思い浮かべればそんな雑念などかき失せた。


◇
ヒュゥ
風を切って空を進むというのは、爽快なことに違いない。
しかし、上条の心に爽快などという気持ちはこれっぽっちもなかった。
(当たってるぅっ!当たってるってぇ!)
口にしては絶対にダメな気がするので、とにかく口を結ぶ。
「……いい?絶対に右手で触らないでよね……!?」
恥ずかしいことなど置いてけぼりにするかのように、霊夢は言う。
実際、霊夢も顔は真っ赤だし心臓はばっくばくだし、余裕などないのだが、
(取り乱したら私の負け……取り乱したら私の負け……!)
そう言い聞かせて何とか『華麗』と言わせるほどには安定して空を飛んでいた。
「見えた」
呟き、少しずつ下降する。
一軒の家が見えた。

「おう、霊夢じゃん。―――誰だ、それ?」

着地するなり何なり、如何にもな格好の『魔法少女』が話しかけてくる。
「こんにちは魔理沙。突然であれだけど、あなた料理できたわよね?」
「何だよ料理ぐらい自分でしろよ」
「さすがに自分の飯には飽きたのよ。それにこいつは使えないし」
冷たい視線を上条へ向ける霊夢。
「使えないとか言うなっ!」
思わず反論。だが、先ほどの飛行が相当応えているのか、霊夢は俯きそれ以上何もいわない。
「……まあいいや。三人分ぐらいなんとかなるでしょ。私は霧雨魔理沙だ。お前は?」
「俺は上条当麻。言っておくけと外来人だからな」
見りゃあわかるよ、と魔理沙。
やはり、この世界の住人には独特の雰囲気があると、上条は感じる。

―――だからこそ、自分は馴染むことは出来ないだろう、とも。
―――いや、馴染んではいけないのだと、確信している。

「まぁ、入れよ。すぐに作るから」

◇
「あの女は出かけているのか」
「ええ。場所は聞きませんでした」
―――そうか。
短く答える。
彼女がいないからといって、別段不自由することはない。

―――薬のお蔭か。

いくらかの記憶は戻り始めている。

『我が名誉は世界のために【Honos628】』

己が内に掲げた名も、思い出した。

そして。

―――アウレオルス=イザード。
自らの、名前。

しようとしていたことは、簡単なことだ。

―――ある少女が助けたかった。

―――それは、叶わぬことだった。

―――ある時、ヒトの身に余る力の持ち主を知る。

―――『吸血鬼』。

―――人智を超えた力ならば、少女を救えるはずだったのだ。

―――だが、それはやはり、叶わぬことだった。

――――――自分が救わずとも、少女はすでに救われていたのだから――――――

「吸血鬼、か……果たして自然に存在し得るものなのか……?」
「はぁ、『吸血鬼』ですか。居ることにはいますけども……」

―――何ッ!?

「そうか……そうかそうかそうかそうかそうかそうか……」

「大丈夫……ですか?」







――――――復讐――――――ッ!



―――吸血鬼などいなければッ!


―――私が道を踏み外すこともなかったッ!



「莫迦なことは、やめておきなさい」
唐突に、声がかかる。
「あ、咲夜さん。いらっしゃい」
「こんにちは。お薬頂きにいたわ」
「何だ……貴様は……?」
「そうね、あなた程度が挑めるほど、『吸血鬼』は程度が低い種族ではないわ」

「そう、思うか?ならば呼べ。『訪問者、貴様は吸血鬼をここに呼べ』」

キィィン、と。
何かにかかったかのように咲夜は向き直り、

「吸血鬼を……ここに……」
そのまま、帰る。
「ちょっと!……アウレオルスさん、あなた何をしたんですか」


「―――当然、我が術式『黄金錬成【アルス=マグナ】』は、『言葉通りに世界を歪める』―――ッ!」

構える。
それは、武術における『構え』ではない。
悠然と。
ただ、視線だけで敵意を向ける―――ッ!

「……戦うんですか」
「貴様がそれを必要とするならば」
「こちらの世界には『スペルカードルール』というものがあるのですが……」
「当然、」

「『私』『私』と『貴方』『貴様』だけなら必要はないっ!」

殆ど似通ったことを言い合うのを合図に、二者は戦を始める。

「狂え―――ッ!」

狂気の魔眼。
赤く染まったそれは、ヒトの精神をたやすく崩壊させる視線に違いない。

「『貴様の目は私に対して効果を持たない』」
冷静に、呟く。
それだけで。

「……効か……ない……ッ!」
目は通じない。
それなら、とばかりに。

「―――幻朧……月睨【ルナティック……レッドアイズ】!!!!!!!」

強力な弾幕がアウレオルスを襲う。
しかし、アウレオルスは無駄だ、と嘲笑う。


「『攻撃は無効化。月の者は攻撃の終了と同時に死ね』」


そして。

その場に倒れこむのは、ただの敗者。

◇

神社の縁側。
―――そっと、歩み寄る。
強力な者が、二人並んだ。
それだけで、その場の空気は果てしなく重い。
当人たちはそんなことを微塵も感じはしないだろうが。
「なぁ、紫。あんまり上条を見くびらない方がいいよ」
「私は彼を敵にしてるわけじゃないわ。むしろ鍛えてあげてるのに」
「―――でも、元の世界に帰ったらまた死ぬだけじゃないの。強くさせてどうするのさ?」
「……あっちの世界には、果てしなく気に食わないやつがいるのよ。その気になれば、こちらにも侵攻してくるでしょうし」
「向こうと幻想郷で戦争か!どっちの方が強いんだろうな」
「……貴方には一番最初に戦ってもらいましょう」
紫と、萃香。
友人同士。
それは、お互いが強さを認め合っているからなのだろう。
「―――アウレオルス。派手にやってるみたいね……」
「……どうしたんだ?」
「いや、何でもないわ。用事が出来たから失礼するわよ」
突如として『スキマ』が現れるが、今となっては最早おなじみの光景である。

―――。


◇
「……」
さすがに、右手を呪った。
まさか、ここまで適用範囲が広いとは思わなかった。
「一応聞くわ、上条。左手で箸は」
「掴めません」


……


「口開けて」
「無理です」
「こっちも恥ずかしいんだよぉおおおお!!」
半ば押し込むような形で食べ物を上条の喉へと入れる霊夢。
当然、ペースを乱された上条は、
「ゴホッ!」
と咳込む。
「あのなぁ……夫婦漫才なら余所でやってくれよ……」
「これがやりたくてやってるように見えるかしら……ッ?」


―――ひと通りの料理を、胃へと送り込み終える。


「……」
「黙りこくるなら無理してやるなよ……」
慰めているのか責めているのか分からない上条の言い草が、霊夢の心理状態を余計に複雑にする。

(何なのよもう……)


コンコン


玄関の扉を叩く音。
それは、一人の来訪者の現れを告げる。

◇
「……誰だ?入れよ」
「失礼するわ」
「なんだ、えーりんか」
「何だとは何?」
「……結局、何の用なの?」
ワイワイガヤガヤと少しの世間話も交えた後、

「私が用があるのは―――上条当麻くん、あなたよ」

「へ?」

それまで完全に蚊帳の外だった上条は、突然名指しにされて思わず間の抜けた声を出してしまう。

「アウレオルス=イザード。聞き覚えはあるわよね?」
「あいつが、どうかしたのか?」
アウレオルス=イザード。
かつて、三沢塾に立てこもり、
―――インデックスを救おうとしていた男。


「―――助けてあげて」
「は?」

永琳はこれまでの経緯を説明する。
―――大事なのは、アウレオルスが『黄金錬成【アルス=マグナ】』を取り戻しているということだ。

かつて。
アウレオルスは自分の中の恐怖に負け、竜王の顎に食われ―――


竜王の―――顎?

透明な、竜王の……

自分は、疑問を持っていた。あれが果たして黄金錬成によるものなのかということを。


今なら解る。


あれは、


..................
自分の中から『何か』が出でいたのだと――――――――――ッ!!!


「……彼が向こうで何をしたかを聞いたときに、こうなることは予測がついたわ。だから、手遅れになる前に……」

「俺のところに、来たってわけか」
こくり、とうなずく永琳。そうか、と上条はいい、
「霊夢、手伝ってくれ」
「……分かった」


上条は再び空を飛ぶ。

◇
目も虚ろなまま紅魔館の門をくぐる。
はっきり言って、『黄金錬成』の完全な支配下に置かれていた。
―――今自分がするべきことは、ただ一つ。

(吸血鬼を……永遠亭に……!)

「お帰り、咲夜」

言うが早いか、



ドン!!



「―――何て無様な。……たかが錬金術師のいいようにされてしまって」
紅く、赤い槍が咲夜の胸を貫いていた。
最初から赤かったのか、それとも幾多の血を浴びるうちに赤く染まったのか。
どちらにしろ、凶力な武器であることには間違いないだろう。
憑きものでも落とされたかのように、虚ろだった目は生気を取り戻す。
―――『黄金錬成』への服従は、主人への忠誠心によってかき消える。
「……申し訳ございません、お嬢様……」
「気にするな。……気に食わないのはアウレオルス=イザードの方だ」
―――復讐をすると。
「八当たりにもほどがある」
―――吸血鬼の存在が、自分を正しい道から踏み外させたのだと。
「……私たちが存在しようがしまいが、アウレオルス、お前は道を踏み外していたさ」
行くぞ、と。

永遠に紅い幼き月が、アウレオルスの幻想を砕かんと動き出す。



◇
ドサッ

「当然、勝者は私だ」
―――記憶が戻った時を思い出す。
記憶の中には、世界のすべてを知るための術式があった。
―――『黄金錬成【アルス=マグナ】』。
アウレオルスは、『黄金錬成【アルス=マグナ】』の構築を再開していた。
永遠亭内にコインの表と裏が出来上がる。
―――裏に居座るアウレオルスに、もはや住民が気づくことはないだろう。
「……来たか」
コインの表側に侵入者がいる。
表側にいるだけならアウレオルスに気づくことはないのであろうが、
「―――ッ!?」
キィイン!
覚えのある音が聞こえたような気がした。
その音は、


―――裏側の自分【アウレオルス】に向かって歩んでくるッ!


部屋の戸が開けられる。
侵入者は倒れている敗者にそっと触れると、後に続いていた者に託す。
「一回殺しただけじゃ、足りねぇのか」
―――こいつは。
「お前は、ただインデックスを救いたかっただけなんだろ!それが何でこんなことをしなくちゃいけない理由になる」
―――目の前のこいつは。
「当然、復讐!仇を相手にすることのどこに非があるか!」
―――竜王の、透明な竜王の顎の
「じゃあそこに倒れてる女の子は何なんだよ!お前を介抱してくれていただけだろ!」
――――――主!
「立ち向かうというならば、必然的に迎え撃つほかあるまい。―――少年、貴様もな!」

『少年は絶命する』

それだけで上条の全身から力が抜ける。
意識は朦朧とし、しかし地面に倒れるところで、
「無駄だ」
右手が心臓に触れる。
以前に『しね』と言われた時も、こうして心臓を触れることで効果を打ち消せた。
「―――以前と変わらぬな。だがしかし、私は負けない」
過去から学ばぬ魔術師など、所栓三下。
―――『黄金錬成』は『幻想殺し』を超える処理能力を発揮する。


『少年の右手は力を失う』
―――右手から、握力が消える。
『少年の右手には魔術を打ち消す効果はない』
―――右手は、

ただの荷物になり下がる。


◇
「アウレオルスさん、あなたは復讐なんてする必要ないでしょう」
「女、感謝するぞ。貴様のお蔭で私は記憶を取り戻せた」
「……あなたが記憶を取り戻せば、黄金練成を扱うすべも取り戻すと、わかっていたわ、ええ。だけど―――」

ドガァァァアアアア!!
爆音とともに、永遠亭の一角は崩れ去る。
―――レミリアの一撃。
たった一撃で、建物は形を失う。
しかし。
「見ておけ、あれが神秘を起こすアルス=マグナ」
油断はない。

『建物は元の形を取り戻す』

「やあ、アウレオルス=イザード。君の仇の登場だ」
「……吸血鬼……?貴様が?ハッ、笑わせるな、これでも吸血鬼の知識は一通り学び終えた身だ」
「そちらこそ」


―――笑わせるな


投擲。
紅い槍がアウレオルス目がけて突き進む。
『槍は推進力を失う』
槍は勢いを失い地面に落ち―――
「その運命は逆転する」
ない。
「―――ッ!」
アウレオルスの顔面目がけて直進し続け、

「―――邪魔だ」
上条の、右肩。
その右肩から生まれる何かに阻まれ、消え去る。

「なん、だ……それは……」
レミリアには解る。
目には見ない、何かが感じられるのだ。
(視えない力の塊……何かが……『在る』!)
アウレオルスと対峙していた少年。
運命を打ち消してレミリアの攻撃を阻む―――ッ!

―――その力の奔流は、まるで、今まで何かに抑えられていたかのように暴れ狂うッ!

が、
                      ......  
「なっ、右手の力は確かに消えた!なぜ貴様は『幻想を殺す』!?……はっ」
「―――莫迦か」
言葉通りに世界は歪められ、
「『幻想殺し【イマジンブレイカー】』、か」
上条当麻は再び右手に力を宿す。
暴れ狂う力の奔流ではなく。
ただ、異能を消すだけの、力。
「アウレオルス」
一歩。
「テメェが」
また一歩。
「なんでも」
次々と。
「思い通りににできるってんなら」
少年とアウレオルスとの間の距離は縮まっていく。

「まずは―――」
「少年、アウレオルスの相手はこの私だ」

縮まった距離は再び開く。


「ぐ……ガァァァ!!」
レミリアの攻撃。
球体状の塊が上条の腹部にあたり、そのまま体を飛ばす。
「て……めぇ……!」
「そちらこそ邪魔をするな。人間ごときに吸血鬼の名の肩を持たれても困る」
「―――どういうことだ……」
「言葉通りだよ。吸血鬼は錬金術師ごときに八当たりされていい種族ではない」

「『吸血鬼は力を失う』。黄金錬成は効力を失っていないぞ」
「―――ッ!?」
思わず膝をつく。
視えない重圧が体にかかっているように、思い通りに体を動かすことができなくなる。
「吸血鬼、そして少年。確かに私がおこなおうとしている復讐は八当たりにすぎない。だが」
アウレオルスは、解っていた。
どうしょうもないことを自分がしているということを。
「―――ならばなぜ私を呼んだ」
「当然」
―――己が内に掲げた名を思い出せ。

―――錬金術師、お前の起源は『愚行』だ。いくら足掻こうとも、そのおろかさを悔いらなければ、名誉など貴様にはない。

―――アウレオルス……私……忘れたくなんかないよ……


――――――あの子は激痛に耐えながら、忘れたくないと笑って告げたのだ!

「―――『我が名誉は世界のために』。世界の崩壊を招くような力など、ここで破壊するべきなのだ―――!!」


「ほう。確かに吸血鬼は巨大な力だ。だが」
今度は私が反論する番だ、と。
吸血鬼【レミリア・スカーレット】は―――。
「貴様のように、力の振り方を間違えたりはしない」
強大な力を持てば持つほど、それをどう使うかなどという選択支は増える。
しかし、飽くまで己がため、野望に使うか。それとも世界を救うために使うか。
ようは持つ者の扱い方次第である。
―――扱う武器【グングニール】にもそれが表れている。
アウレオルスのような、世界のルールを曲げるような力を持っていても、振りかざす向きを間違えなければ悲劇など起きはしない。
―――レミリアは、強い。
それは単純な実力差ではない。
数百年という時は己が信念を確かなものにする。

「―――魔符・『全世界ナイトメア』」
スペルカードの使用を宣言。
三方向へナイフが展開される。
「一つは敵に向かう」
そう宣言するだけで、いくつかのナイフはアウレオルスへ向かう。
当然、左右に逃げ場はない。
さらにわずかナイフの隙を埋めるように、と円形に射出される光弾。弾幕の前にアウレオルスは―――
『ナイフは敵へ向かう』
「運命操作なら、私が上手【うわて】だ」
ぐっ、と。
両者の力のせめぎ合いを真に受け、ナイフか空中でピタリと動きを止める。
力に耐えきれぬか。ナイフは砕け散る。
◇

「天罰・『スターオブダビデ』」

続けざまに弾幕。
六芒星の光線が網目のように張り巡らされ、アウレオルスの動きを縛る。
さらに、いくつもの光弾がばら撒かれる。
「うわっ!」
当然のようにそばにいる上条にも弾幕は届く。
だが、当たるような弾はすべて右手に消されていく。
「……面白い、後で相手をしろ」
「何なら今でもいいんだぜ」
「……私を忘れたわけではあるまいな?『光弾は私には当たらない』」
アウレオルスの言葉。その通りに世界は歪む。
「『十字状の槍。素材は銀。折った柊の枝を模した装飾品をつけ、吸血鬼へと即座に射出―――!』」
「とことん弱点を突くつもりか、ふん……」
吸血鬼は強力な種族。
故に、対峙した際の解決法を、人類は数百代に渡り伝え聞かせる。
―――そもそも、錬金術はこの世の理を知るためのもの。
ならば、吸血鬼の弱点などいとも簡単に突くことが可能―――ッ!
「莫迦か。人間の伝え聞かす弱点などに頼っていては、我が領域に踏み入れることは叶わぬだろう」

―――なかなかに楽しませてもらった。

「『スペルカードルール』だ。死ぬことはない、安心しろ」





「『紅色の幻想郷』」


『―――』


言葉を紡ぐ間もなく、敗者が決まる。

―――アウレオルスに、戦う力は残っていない。

それが、このルール。

「さて、お次は君だ幻想殺しの少年」
「……何だ、戦う意味ないだろ」
「意味など必要ないさ」





―――ただの遊びだぞ。弾幕ごっこなんだからな。

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最終更新:2010年12月24日 02:33
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