◇
エピローグ:
「そこまでよ」
唐突に、後ろから声がかかった。
思えば最初に出会った時もこんな感じだった。
声の主はそう―――八雲紫。
「試練は三つとか言ってなかったか?」
「ああ、冗談よ冗談。結局、時間が確保できればそれでよかったの」
「―――時間?」
何のことだか上条はわからなかった。
それに、無駄な時間が今は惜しい。
元の世界がどうなっているのか気になるし、あんな状態の【フィアンマのいいようにされた】インデックスを放っておけるわけがない。
「なあ、さっさと帰してもらえねぇか?こっちは急いで―――」
「ええ、解ってるわ。だから―――そろそろいいかしら?姫・君・様?」
「うっざい言い方ね」
また一人、増えた。
「あんたは……」
「自己紹介とかは必要ないでしょう?どうせこの場限りの関係なんだし」
「……どういうことだ」
その場限りの関係、何か手伝ってくれるということだろうか。
今度は紫が答える。
「一から説明するのも面倒だし、簡潔に言うわ。
―――あなた、失敗したのよ」
「―――俺が……失敗……!?」
「ええ。大天使との戦いでね。生身の人間が天使に敵うはずがないでしょう。あれは我々と同じ見えない位階の存在なんだから」
「……負けた、のか」
「負けるはずだった。でも止めさせてもらったわ。そこの姫様の能力で」
新しく現れた人の方を指差す。
「飽くまで遅らせているだけよ。直に時は来る」
「その間に、ここへ俺は運び込まれたのか」
「ええ。あなたにしか、できないことだから」
「俺に、しか……?」
紫が言う。
「世界っていうのはもろいわよね。天使の一撃で簡単に滅びるし、何なら私達にも壊すことは出来るわ。それに、この星自身からいつかは滅ぶ。惑星には寿命があるし、その前に膨らんだ恒星に飲み込まれることも分かっている。でもそんなのは遠い未来。私たちにだって抗えない恒久の時を過ぎた後に訪れる一つの終焉」
だから、と。
「なにも、こんな悲劇的な結末じゃなくたっていい筈でしょう。そいつを食い止めるために……戦ったっていい筈よ」
そうだ。
人類の終末が、同じ人類によって引き起こされた天使の一撃。
そんな悲劇的である必要など、ない。
上条は思う。
自分はただの高校生。
それも学園都市では蔑まれるべき無能力者。
なのに、いつだって自分は戦ってきた。
それこそまるで主人公【ヒーロー】のように。
いや、ちがう。
上条は、
「……そうだよ、ヒーローなんか必要ない……」
自分がヒーローだから助けるのではない。
助けたいから、助ける。
それが上条当麻の存在意義であり、記憶を失う前の自分にも胸を張って誇れることだ。
「俺は……やるぞ」
覚悟を決める。
二度目のチャンスをもらったのだ。
失敗など、許されない。
上条の、右手。
異能がなければなにかあるようには見えない。
テストの点は上がらず、女の子にはモテないし不良の一人も倒せない、右手。
だけど、右手はとても便利だ。
どんな奴にだって立ち向かうことができるのだから。
心の支え【パーソナルリアリティ】として、どんなに打ちのめされても、何度でも立ち上がって拳をぶつけることができるのだから。
「勝手なこと言わないでよ!」
「……霊夢」
今度は霊夢が上条の言葉を割って入る。
「あなたにはまだまだ貸しがいっぱいあんのよ……それなのに……」
「……悪い、霊夢。行かなくちゃならないんだ。お前にも、守りたい世界はあるだろ?救いたい人がいるだろ?解るなら、行かせてくれよ」
「嫌よ……どかない」
「力ずくでも、通らせてもらうぞ」
紫も、レミリアも、永林も、新しい誰かも、ただ眺めていた。
―――それが、上条の最後の試練だとでもいうかのように。
◇
合図はなかった。
ただ上条が駆ける。
駆けながら叫ぶ。
「俺は世界を救いたい……!ここに留まるわけにはかねぇんだよ!」
「だからって……あなたがこれ以上傷付く必要なんかないでしょう!」
そして、拳を握る。
駆け抜ける勢いを利用してそのまま拳を振りぬく。
容赦はしない。
相手が霊夢だろうと、信念をぶつけるからには対等に戦う。
対する霊夢は拳に視線を集中させ、
―――目をつぶり、動かなかった。
バキィッ!と大きな音、その後にズサッ!と何かが落下し引きずられる音が聞こえた。
クリーンヒット。
飽くまでも霊夢は人間、それも少女だ。
上条ははっきりいって後悔していた。
何もあんなに重いきり殴らなければよかったと。
しかし。
気づけば、霊夢は立ち上がっている
二本の脚で、地面に立っている。
視線は鋭い。
そして、俊足。
回り込まれ、即座に上条は背後を取られた。
おそらく重たい一撃が背後からくるだろうと上条は予想していたが―――
「何でだよ……なんで……戦わないんだよ……」
そっと。
背中に霊夢が抱きついていた。
「言ったでしょう……あなたかが傷付くところなんか……見たくないのよ……」
思えば、こちらに来たとき一番に介抱してくれたのは霊夢だった。
それにぼろきれの様だとも言われた。それはひどい怪我だったに違いない。
「……ごめん、霊夢。それでも俺は……」
上条が言いかけた時、パッ、と彼を縛っていた力がほどける。
思わず前につんのめってしまう。
「……解ってるわよ。だからそれ以上……言わないで……黙ってさっさと……私の前から……消えてッ……!!!!」
霊夢は泣いていた。
顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
出会ってから間もない上条のために泣いていた。
「……泣くな、なんて俺には言えないけど」
上条は悲しませた。
霊夢を悲しませた。
だから、泣くななんて言えないのかもしれない。
それでも、と上条は思う。
与えたのは悲しみだけじゃないはずだ。
もっと、違うものも与えられたはずだ。
「泣いていいから、怒っていいから……
――――――笑顔だけは、忘れないでくれ」
◇
その時。
時は動きだした。
上条は天使の前に立ちはだかった。
人類の主人公【ヒーロー】として。
上条が名乗りを上げたわけではない。
世界は彼をヒーローとして選び、そしてこの場に立たせた。
人類の終末に立ち向かえる唯一無二の戦士として。
相対する大天使、ガブリエル。
ベツレヘムの星の超質量の一撃を真に受けてなお、その力はとどまることを知らない。
荒れ狂う力の奔流。
「―――神さま」
誰となく、呟く。
「この世界があんたの作った奇蹟【SYSTEM】の通り、インデックスや、霊夢が、悲しまなくちゃいけない法則【ルール】の通りに動いていて」
最後に、叫ぶ。
「こんな終末が定められてるってんなら――――――。
――――――まずは、その幻想をぶち殺す!」
【上条当麻:了】
nextsatge......XXXXXXXXXXXX
最終更新:2011年02月02日 00:12