「おばあちゃんがいっていた。ちゃぶ台をひっくり返していいのは、飯がマズかったときだけだとな。
ちょっと七年前までひっくり返してくる」
男はそういい、カブト虫を模した強化装甲をまとって時を遡った。
人々を滅ぼす悪魔の隕石と共に、過去へとたどり着いた男は歴史を変えたのだ。
妹と、心を許した仲間に平穏な世界を与えるために。それはいかなる理由をもっても行うべき行為ではないと知りながら。
世界は歴史の変更を嫌う。
男が行った行為は世界の理を破り、時空の復元力をもってしても修復が間に合わなかった。
ゆえに男は世界に否定される。肉体も、存在も、魂も。
されど男は覚悟をしていた。彼の所業は永遠に呪われてしかるべきのものである。
だからこそまだ消えてはならない。もう少しだけ、世界に抗わなければならない。
男はすべての始まりの場所へとたどり着き、自らのベルトを少年へと向ける。
「ベルトをつかえ」
その少年が妹を守る姿を見届け、男は満足気に微笑んだ。
これで思い残すことはない。
たとえいかなる罰を受けようと、たとえいかなる苦しみを与えられようと、この流れを作るために男は命を投げ出した。
彼は自分を世界の中心だという。
だからこそ、自分が中心であるベキの世界を守るのは当然の選択であった。
男は黄金のタキオン粒子となり、瓦礫に埋もれた少年と少女から姿を消す。
後は、妹はこの世界の自分に託せばいい。
歴史を変え、世界に嫌われた愚か者。
天の道を往き、総てを司る男。
天道総司。
彼は死よりも辛い、時間に溶ける間際まで微笑んでいた。
□
「はいはい! 依頼とあらばどんなものでも どこにでも!
こちら「運び屋」ジルウェ・エクスプレスでございます! 」
黒い髪を肩まで伸ばした、活発そうな少女が通信機に向かって警戒に応えていた。
青い服装に白いパンツルック、全身に黒いタイツをつけているのか、腕や足を黒い布が覆っていた。
青いジャケットを羽織り、青いバイクに寄り添っている。
彼女の名はエール。この国の英雄であり、人間の少女であった。
「はい、はい……それでは向かわせてもらいまーす」
彼女はそういって通信を切る。彼女が行っている運び屋には、彼女だけでなくジルウェという青年がいたのだ。
冷静で優しく、しかし厳しいところは厳しい青年であったのだが、一年前ある事件で彼女を庇って亡くなってしまったのだ。
『エール、順調だね。けどまた危険な仕事を受けたの?』
この岡には彼女一人しかいない。なのに、声がかかってくる。
エールは慌てず、声の主を“取り出した”。
「大丈夫、今回は安全な常連客よ。それに、なにかあったら力を貸してくれるでしょう?」
『だからといって、この前みたいにイレギュラー相手に油断されては困る』
また別の声があがり、エールはうっ、と気まずそうにする。
光り輝く手のひら大の青と赤の金属デバイスが現れて彼女へと話しかけていたのだ。
彼らはライブメタルモデルXとモデルZという英雄の力を宿した生きたデバイスであった。
『モデルZ、彼女はそのことに対して反省をしているよ。エール、今度の依頼主は人間かい?』
「いいえ、レプリロイドよ。どこかでアタシの噂を聞きつけたみたい」
エールはそういってモデルXへと微笑み、青いバイクに跨った。
ライブメタルモデルXとモデルZは、向こう見ずの少女に微笑み、あるいはため息をついて彼女の元へと戻った。
レプリロイド……それは人間と共に道を歩む機械生命体である。
数百年前、人間とレプリロイドは相違の思想の違いにより対立して、戦争が発生した。
長年にわたって戦争は続いたが、首謀者は倒されて人間とレプリロイドは共に道を歩むことを決意をする。
人間とレプリロイドは真の平和を求めて、人間に『機械の体というレプリロイドと同じ力』を、レプリロイドに『寿命という人間と同じ命の重さ』を与えられたのだった。
戦争の傷跡も癒え、人とレプリロイドが共に手を取り合って生きていた。
しかし、一年前『セルパンカンパニー』によって人々が争いの渦へと巻き込まれた。
長年人々の英雄と語り継がれていた『セルパンカンパニー』は狂ったレプリロイド・イレギュラーを裏から操って自作自演の茶番を行っていたのだ。
それはすべて、ライブメタルモデルVを覚醒するため。
支配するロックマンへと変身したセルパンをとめるものはいないかと思われた。
それをかぎつけたガーディアン、及びモデルXの適合者エールによってセルパンの野望は阻止されたのだった。
それから一年たった今、少女は日常を取り戻し、運び屋として日々を過ごしていたのだ。
「うーん、いい風……」
エールは気持ちよさそうに呟き、空を見る。彼女が守った青空だ。
十一年前のイレギュラー襲撃によって母を失った彼女の、初めて守れた世界。
だからこそ彼女は英雄の賞賛足りえた。
「それじゃ、いこうか。モデルX、モデルZ」
いまや仕事の相棒となったライブメタルに語りかけ、彼女はアクセルを回した。
エールは青いバイクを走らせ、運び屋として依頼を果たそうとする。
それが彼女を守ってくれた、ジルウェとの絆だったからだ。
「アレがお前の標的……でいいのか?」
『ククク、そうだ。あの気配……忘れてやらない……』
「俺にはただの小娘にしか見えないがな」
そういって男は双眼鏡を降ろした。彼以外には人影を発見することはない。
確かに男以外の声が、人影のないビルの上で響く。まるで丘のエールとライブメタルたちのように。
「まあ、俺は暴れられればそれでいい……」
『話が早い。いくぞ……』
男は取り出した金属デバイス……ライブメタルを手に口元を歪める。
笑っているようにも見える狂気の表情のまま、彼は呟いた。
「ロックオン……」
風が吹き雲が太陽を覆う。
彼女が守った青空を、乱すものが現れたことを示すように。
最終更新:2009年12月26日 19:18