「当れ!!」
エールの気合と共に、チャージバスターの強大な光弾がガレオンやカプセルシューターを破壊していく。
ガレオンが爆発したと同時に、あたりは静かになった。
いまだ炎が燃え上がる高速道路でエールは可愛らしい顔を顰める。
『エール、油断しないで。キングフライヤーを倒したとはいえ、イレギュラーがどこに潜んでいるかわからないから』
「わかっている」
エールはモデルXに応えて、周囲を見回す。キングフライヤーとは、ハエ型の巨大メカニロイドだ。
ヘリくらいの大きさで、空に浮かびながら爆弾を内蔵している小型のハエメカや、ビームを撃ちこんでくる厄介な相手だ。
もっとも、何度も相手したエールにとっては巨大な的に他ならない。彼女の関心は別にある。
エールは周囲の破壊された跡が濃い景色にため息をつく。
「……なんど見ても、こういうのはやりきれない」
『戦えば犠牲がでるのは必定だ。あまり気に病むな』
モデルZが慰めてくれたのにエールはキョトンとして、少し微笑みながら礼を言う。
この地帯のイレギュラーは一掃した。次に進まねば。
そう判断したとき、動く影を見つける。エールはとっさに銃口を影へと向けた。
「誰!?」
「ま、待ってくれ……私はどうなっても構わない! だから妻だけは……」
「ゴルクルおじさん……?」
見知った顔にエールが思わず呟いて、銃を収める。
すると、彼もエールの声に気づいたのだろう。顔をまじまじと見つめ、大きく安堵のため息をついた。
「エールちゃんか。よかった……それにしてもその格好は?」
「あ、アタシはガーディアンの一員なんです。ここは危険ですので、アタシの仲間に従って避難してください」
「エールちゃん、大丈夫かしら? ここに一人残って……」
「大丈夫です、おばさん。あたしはこう見えて、歴戦の戦士ですから」
ドン、とエールは胸を叩き、二人を安堵させるように大見得を切った。
決して誇張表現というわけでもないのだが、見た目は普通の少女なのだ。
二人の表情が晴れることはない。いや、それだけの理由ではないとエールは勘付く。
「どうしたんですか? まさか怪我を!?」
「いいえ、私たちは大丈夫よ。けど、私たちを逃がすために、天道さんが囮になって……」
「そうだ、あの勇敢な若者を死なせるわけにはいかない。エールちゃん、ガーディアンの仲間に連絡を取って助けにいかせてやれないか?」
ゴルクルとミラの説明にエールの表情が硬くなった。イレギュラーを相手に囮を勤めるなど、自殺行為だ。
仲間の助けを待っている暇はない。すぐにでも助けに向かわねば。
「アタシがその天道さんを助けに向かいます。ですから、お二人はここで隠れていてください」
「女の子を一人で向かわせるのは危険だ。君の仲間を待つべきだ」
エールはゴルクルの言い分にキョトンとし、思わず彼の顔を見つめた。
ミラも同意見らしく、訴えるような眼差しを向けている。
エールはその言葉に不快を示さず、むしろ他人の身を案じてくれる彼らに胸が温かくなった。
「ゴルクルおじさん、アタシは……」
思わず、二人が客ということを忘れてエールは敬語を忘れて声をかける。
穏やかな表情は、ジルウェや仲間たちに向けるそれと同じだった。
「守るためのロックマンになるって、決めたから。だからいってくるよ」
エールは自分が戦う理由を思い出す。ジルウェに誓い、セルパンを倒し、プレリーたちと共に戦い続ける理由。
十年前、母を失った悲しみを他人に味わわせない。それだけの力を、そのために使うと決めた。
ゴルクルは顔を伏せ、エールへとすまなそうな表情を向けている。
「せめて、私に力があったのなら……」
「これくらい今まであったから、大丈夫。ゴルクルおじさんは下がって…………」
『エール、敵だ!』
モデルZの声に反応して、エールは振り返る。拳大のエネルギー弾を叩き切り、二人を庇うように前へと出た。
同時に、ぞくりと悪寒が走る。この禍々しい力は初めてだ。
モデルVを使うセルパンですら、ここまで悪意を持っていなかった。
「エールちゃん!」
「隠れて、二人とも。さすがのアタシも……アレからは守りきれない」
エールがごくり、と生唾を飲み込み、二人の安全を確保する。
幸い、現れた敵は夫婦に気づいていない。
「アンタ、なにもの?」
エールが敵に問いかける。答えは期待していなかった。
だが、まるで答えのように悪意がエールを襲った。
□
「さて、どうしたものか」
変身を解いた天道が道路上でトラックを前にして一人ごちる。
周りにはガレオン・ウィングの残骸が転がっているが、まったく意に介しない。
準備運動にもならなかったからだ。とっくの昔に変身は解除してある。
(トラックはガソリン切れ。……そもそもこの車はガソリンで動いているのか?)
天道が未知のテクノロジーを前にして考察を進める。
どうやら自分はおのれが持つ常識が通用しない場所に来たらしい。
もっとも、普段常識が通用せず周りを振り回すのは天道の方なのだが。
(ハイパーゼクターによる歴史改変の影響でそうとう未来に跳ばされた、ってことか?)
我ながら影響の大きいことをしでかしたと思っている。
そこまでして生きているのが不思議なくらいだ。
死すら生ぬるい末路を覚悟していただけに、拍子抜けする。
(この場にトラックをおいといて、二人に回収するように伝えるしかないか)
ベルトのことも正直に話さねば。自分で弁償できる分はなんとかしないと。
天道という男は、妙なところで律儀であった。
天道は踵を返し、カブトエクステンダーがあればと珍しくないものねだりをする。
悠々とイレギュラーが潜んでいるはずの危険地帯を、天道は無人の荒野を行くが如く余裕で歩いていった。
「今のを防ぐか。愉しめそうだ」
『モデルXがついているんだ。それくらいやれる。なあ、モデルX?』
エールは目の前の紫色の人影にハッと息を飲む。
全身にアーマーをまとい、鉄仮面のようなヘルメットを被っている。
見慣れない状態ではあるが、あの力には覚えがあった。
『君は……まさか……!?』
『久しぶりだな。地獄の底から……鬼として這い上がってきたぜ』
エールの眼前にモデルXが浮かび上がって、呼応するように男から紫色のライブメタルが姿を見せた。
モデルXを知っている様子。そして先ほどの一撃。どう考えても、目の前のライブメタルは本物だ。
「あなたも……ロックマンなの?」
『ROCKMAN……くは、くははははははは、あははははははははは!』
目の前のライブメタルが愉快そうにけたたましく笑う。
憎悪に満ち、禍々しさを噴出しながら笑う姿はとてもライブメタルとは思えない。
エールは不快を視線にこめて、禍々しいライブメタルを睨みつけた。
『俺はこいつを知っている……だが、キサマは英雄とは程遠いはずだ。イレギュラー!』
『ククク……データだけとはいっても、俺のことは覚えているのか。相変わらずモデルXに肩入れしているようだなぁ、モデルZ』
「イレギュラー? なんでそんな奴が……」
『さあな。モデルXに対する憎悪にモデルVが反応し、データを元に実験したとかあのパンドラという小娘は言っていたが、興味はない。
俺が望むことはただ一つ。モデルX、モデルZ……キサマらを殺すことだけだ! クハハハハハハハハ!』
そういって禍々しいライブメタルは紫のロックマンの手のひらにおさまった。
紫のロックマンの右肩よりチャージショットの極太レーザーを撃ってくる。
エールが避けると同時に、狂笑がこだまする。
『あのときは伝説のROCKMANを殺そうとしていたが、なんの因果か今は俺もロックマンだ!
モデルX、モデルZ! モデルVAとなった俺が殺してやる!』
チャージショットが二つ、エールと紫のロックマンの中間で爆ぜる。
爆風に身体を持っていかれないように調整しながら、エールはキッと紫のロックマンを睨みつけた。
「モデルVAを使うロックマン! あなたも……パンドラたちの言うモデルVを手に入れて、すべてを支配しようというの!?」
「支配か。興味ないな」
初めて聞く男の声に、エールは思わずえっと呟いた。
そのエールをモデルZが厳しく叱咤する。
『エール、気をとられるな! しゃがめ!』
モデルZに従い、身を低くするとチャージショットが頭部を掠める。
肝を冷やしながら、エールは目の前のロックマンに問いかけた。
「興味ないなら、なぜ戦うの!?」
「キサマが英雄だからだ」
「どういうこと?」
すると紫のロックマンはいったん攻撃の手を休め、悠然とした態度でエールを見下す。
エールは続きを待っていると、紫のロックマンが地獄の底から響かせるように言葉を発した。
「セルパンカンパニーを潰すくらいだ。強いんだろう? 必死で抵抗しろ! 俺に傷をつけてみろ! 俺が殺す連中を守って見せろ!
モデルVなどどうでもいい。俺は鬼(イレギュラー)のロックマン、ロックマンVAVA。
英雄ロックマンZX、キサマの力を俺にぶつけろ! 俺の渇きを潤せ!!」
そういってロックマンVAVAはショルダーキャノンを乱射する。
エールはこのロックマンの存在を認めるわけにはいかなかった。
ロックマンとなった人物も、ライブメタルも狂っている。
存在していれば、悲劇しか生み出さない。
「モデルX、モデルZ」
『ああ、気合を入れろ。アレの存在を許すわけにはいかない』
『エール、あくまでも冷静に。アレは僕たちにとって脅威だった存在だ。油断すると殺される』
「ええ、わかったわ。はあぁぁぁぁ……」
エールが気合を込めると同時に、エネルギーがZXセイバーにまとわりつく。
細かいダッシュを繰り返し、ロックマンVAVAのミサイルやショルダーキャノンの光弾を躱す。
接近に成功したエールは、チャージを終えたバスターから巨大な光弾を放った。
「当って!」
「甘い」
エールのチャージショットは、ロックマンVAVAのチャージショットによって相殺された。
光弾と光線が激しくぶつかり、エールとロックマンVAVAの中間で爆ぜて視界が光に染まる。
『どうした、モデルX。ずいぶんと大人しいじゃないか。小娘の身体だと全力を発揮できないか?』
モデルVAの言葉にエールはカチンと来る。
小娘扱いもそうだが、まるでモデルXが自分の同類と言いたげなモデルVAに反発を覚えたのだ。
「小娘小娘って……」
チャージショットを終えたのに、エールの身体から光が消えない。
エールはモデルXとモデルZの特性を持つため、バスターとセイバーの“両方”をチャージでき、使い分けれる。
「アタシを舐めすぎなのよっ!」
エールの気合一閃、チャージセイバーの衝撃がロックマンVAVAへと直撃した。
ロックマンVAVAが吹き飛び、ハイウェイを構成する柱に叩きつけられる。
エールはその隙を逃さず、セイバーを構えて接近しようと急いで前方へ駆けた。
『……ッ!? エール、駄目だ! 退くんだ!!』
「えっ……」
モデルXの急な忠告にエールは疑問を抱いたが、すぐに後ろに飛び退くのを実行する。
しかし、モデルXの忠告は一瞬だけ遅かった。
ロックマンVAVAの膝より爆弾が飛び出て、エールの眼前で爆発する。
爆風に巻き込まれ、今度はエールが地面に叩きつけられることになった。
「ぐぅ!」
「クック……いいぜぇ。この痛み、もっと楽しもうじゃないか! ロックマンZX!!」
ロックマンVAVAが大口を開けて笑い、光弾とミサイルを数十発吐き出す。
エールは爆発を受けた胸を左手で押さえ、チャージしながらどうにか弾の雨を避けていく。
乱射系のフォルスロイドとは何度も渡り合ってきた。ロックマンVAVAの攻撃は激しいが、辛うじて対応できない攻撃ではない。
だが今は民間人が近場にいるのだ。流れ弾が当るのは避けねばならない。
夫婦が隠れている場所に当らないように、イレイスのチップを搭載したセイバーで一方面の弾だけは斬る。
このままでは埒があかない。攻撃が幾分か大人しくなった隙をエールは見逃さず、ダッシュで接近する。
チャージセイバーをもう一度当てて決着を着けようとしたのだ。
『エール!?』
「大丈夫。あんなふざけた奴の弾なんて当ってやらない!」
エールの勝気な性格が表に出て、夫婦を守るためにモデルXの意見を押し切った。
剣の間合いに詰めより、エールは振る。ロックマンVAVAは見たところ射撃タイプだ。
ならば、懐にさえ入れば攻撃の分はエールにあると思考をする。
「こい……」
エールがチャージセイバーを振るおうとしたとき、逆光の中のロックマンVAVAが単眼が不気味に光らせる。
ヤバイ、と判断したときにはすでに遅い。
エールは自分が焦っていたことに、今更ながら気づいた。
「バーニングドライブ」
鬼の呟きと共に、青白い炎をロックマンVAVAの全身から噴出した。
地獄の炎がエールを襲い、衝撃と共に身体が浮く。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
エールの悲鳴が響き、再び地面に叩きつけられる。衝撃で息が詰まるが、そのままの体勢でいるわけにはいかない。
エールは即座に立ち上がり、追撃の光弾を避けた。
「いい反応だ」
「アンタに……褒められて……も、嬉しくないわよ!」
エールが立ち上がってロックマンVAVを睨みつけるが、傷は深刻だ。
額が割れて血が流れ、ポタリと地面に一滴落ちる。
ロックマンVAVAは強い。勝気な性格が災いして、余計な攻撃を受けてしまった。
そのエールへと悠然と歩み寄るロックマンVAVAが足を止める。
「なるほど、足枷があったか。通りで判断が甘いわけだ」
「エールちゃんから離れろ!」
「ゴルクルおじさん!?」
エールが驚き、声の方向へと振り向くとゴルクルがイレギュラーの銃を持ち、震えながらロックマンVAVAへと銃口を向けている。
たいした勇気だが、ここでは足手まといだ。ロックマンVAVAの視線は、彼に向いていた。まずい。
『エール、攻撃が……』
モデルXが叫び、エールは再び踵を返した。黄色い光弾がエールを捉えている。
避けてしまえばゴルクルに流れるかもしれない。エールは仕方なく、その光弾を受けた。
「うわあああああああっ!」
電撃がエールの全身に流れ、身体を拘束した。エネルギーの捕縛弾のようだ。
『モデルX、相変わらずぬるい真似をする』
「だが、あの邪魔者を殺せばそいつも本気になるだろう。ロックマンZX、呪うなら無力な自分を呪うがいい」
ロックマンVAVAの言葉に、エールは目を見開く。
彼はごく自然に、ゴルクルを殺すといったのだ。冗談ではない。
「アンタ、なにふざけたことを……」
「ふざけているのはキサマだ。本気を出せ、モデルVを殺した力を見せろ! 憎しみが足りないというなら、俺が満たしてやる!」
ロックマンVAVAの冷酷な声を受けて、エールはなりふり構わず全身に力を込めた。
抵抗する行動に呼応して、捕縛エネルギーから電撃が流れる。
「ぐ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
エールの変身が解けて、電撃で肉が焼けた匂いが周囲に漂う。
それでもエールはゴルクルを助けようと必死にもがくのをやめない。
ゴルクルがエールを助けるため、銃を撃ってくるがそれはまずい。
ロックマンの力は尋常ではない。アリが象に挑むようなものだ。
「待っていてくれ……エールちゃん。今助けるから!」
「駄目……おじさ……あああああっ! 殺さ……れる……。逃げ……て……うああああああああ!!」
エールが逃げるよう忠告するが、ゴルクルは腰が引けながらも銃を撃つのをやめない。
ロックマンVAVAはまったく意に介さず、冷静に右手のバルカンをゴルクルの銃だけに当てた。
丸腰となったゴルクルは呻き、右手を押さえる。
「あなたっ!」
ミラがゴルクルを庇うように駆け寄るが、ゴルクルはあくまで妻を背中にロックマンVAVAへと視線を向ける。
常人なら気絶しかねないプレッシャーなのに。
それほどエールを気にかけてくれたのだろう。
「く……ああああ! その人たちに……手を出すなあああ……!」
『くそっ! うううう……』
『イレギュラーめ……モデルX! 力を振り絞れ!』
エールが必死で叫び、モデルXたちが力を入れるが拘束エネルギーはまったく緩まない。
ロックマンVAVAの銃口が無慈悲に夫婦に向けられる。
「安心しろ、二人仲良くあの世に送ってやるよ。その後は本気のロックマンZXだ」
夫婦は銃口を見つめて、互いに身を寄せる。覚悟ができたのだろうか、二人の表情が穏やかだ。
彼らは死んでいい人たちではない。電撃がエールの身を焼くが、必死でもがく。
(また……なの?)
エールは幾度も繰り返された光景が再び起こるのを予感していた。
十年前の母親、一年前のジルウェと力及ばず失ってきた。
喪失による憎しみをモデルVに吸収されてほどもある。
それでも、幾多の悲しみを超えてロックマンとしてヒトビトを守る決心をしたのだ。
(でも……届かない……)
ロックマンの力を破壊に使う奴が目の前で命を奪う。
守るためのロックマンとしてのエールの信念すら踏みにじり、立ちふさがる。
力が足りない。ジルウェが死んだとき望んだ力すら、届いていない。
エールを、モデルXたちを、ガーディアンの仲間たちを、ジルウェを否定するかのようなロックマンVAVA。
エールは全身に電流が流れる痛みに耐えながらも、怒りに満ちた視線を向ける。
「あばよ」
『つまらん。とっととキサマの鬼を見せろ。モデルX……』
ロックマンVAVAの銃口が輝きを増し、力を解放しようとした。
エールはその光景に涙を流して叫ぶ。
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!!」
エールの叫びと共に、周囲が輝いて視界に光が満ちる。
願いは虚しく、ショルダーキャノンのエネルギーが解放された。
ロックマンVAVAの周囲が熱で道路から蒸気が立ちのぼる。
キャノンにミサイル、ボムの熱で蜃気楼が起きている中心で、ロックマンVAVAが尻餅をついていた。
エールはなにが起きたか理解できなかったが、ゴルクルたちが無事で安堵する。
同時に、拘束エネルギーが横切った赤いなにかでフッと消え去る。
怪我を負っているも、エールは辛うじて受身をとった。
『キサマ……なにもんだ?』
モデルVAの言葉に、エールが肩越しに視線を向ける。背中の方向には、上下を白い衣装に固めた青年がゆったりと近寄ってきた。
「天道君!?」
「天道……ゴルクルおじさんのいっていた。あなた、ここは危険よ! ゴルクルおじさんたちを連れて逃げて!」
そういってエールはモデルXとモデルZを手に取る。
なぜ助かったかわからないが、民間人に戦わせるわけにはいかない。
そのエールを無視して、天道と呼ばれた青年はただ前に進む。
「おばあちゃんがいっていた」
エールはその言葉に信じられない怒気が含まれていたことに気づいた。
すれ違いざまに天道はエールの涙を拭い、前面に立つ。
「ちょっと、あなた……」
キザな真似を余計だと思いながら、抗議するが天道は取り合わない。
エールを庇うように前に立ち、ロックマンVAVAと対峙する。
「男がやってはいけないことが二つある。女の子を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだ」
「ほう、ならキサマが楽しませてくれるのか?」
『甘ちゃん坊やが。消え去れ』
ロックマンVAVAが右手を向けるが、赤い影が舞って手を弾く。
ショルダーキャノンの銃口も、この赤い影が弾いてロックマンVAVAに尻餅をつかせたのだ。
舌打ちするロックマンVAVAの周辺を舞い、天道の右手に収まる。
「ライブメタル……?」
『違う、アレはライブメタルじゃない。けど……なんだろう。この感覚?』
『俺たちに似ているが、あきらかに違う……?』
モデルXたちが疑問を呟くのを背に、天道が右肘を曲げながら手のひらのカブトゼクターを左肩の高さまで持ち上げる。
いつの間にかベルトが天道の腰に収まり、天道は宣言した。
「変身」
ベルトの中央にカブトゼクターが収まって、『Hen-shin』という電子音と共に天道の周辺に六角形の金属片が広がり、鎧を形成した。
青い単眼に額のV字アンテナを輝かせた銀色の戦士が悠然と佇んで一歩前に出る。
「銀のロックマン……?」
「いいや、違う」
天道と呼ばれていた戦士が答え、天に指を指した。
そのまま天道は厳かに宣言する。
「俺は天の道を往き、総てを司る男。天道総司だ、覚えておけ」
言い切ると同時に、ロックマンVAVAが光弾を放つ。
厚い腕の装甲で弾きながら、天道が前進する様子をエールは見届けた。
「次から次へと、飽きないな」
『さっさとケリをつけて、モデルXたちを殺せ、ペンテ』
「そういうな、モデルVA。愉しめそうだ、ロックマンZXの代役を務めてみろ!」
ロックマンVAVAは愉快そうにショルダーキャノンから光弾を発射してカブトへと迫らせる。
カブトは冷静に軌道を見極めて、クナイガンで切り払いロックマンVAVAとの距離を詰めた。
クナイガンの刃がロックマンVAVAの装甲を削るが、浅い。
あっさりと逃れたロックマンVAVAをクナイガンを銃へと変形させて牽制する。
「チッ」
『ペンテ、面倒だ。あの民間人を撃て』
モデルVAの言葉に、ロックマンVAVAが低く笑う。
嫌な笑い声だ、とカブトは感想を抱いた。
「なるほどな」
モデルVAに従い、ロックマンVAVAが右手をゴルクルたちに向けた。
その様子を見て、カブトはカブトゼクターの角に手をかける。
「アンタっ! モデルX、モデルZ! いくわよ!」
するとカブトの視界の端で、エールがライブメタルを構えて突進していった。
ダメージが残っているというのに、とんだイノシシ娘である。
「ロックオン!!」
「キャストオフ」
エールがロックマンZXへと変えると同時に、カブトは静かに呟いた。
鎧を脱ぐことを告げる電子音を耳に、カブトは地面を駆けた。
「うわあああああ!」
エールがチャージセイバーをロックマンVAVAへと振るうが、後方に跳んだロックマンVAVAには届いていない。
無情にもゴルクルたちに、バルカンの弾が迫った。
『Clock up』
電子音が響く中、エールがゴルクルたちがいたところへと視線を向ける。
彼らを心配しているのだろう。優しい娘のようだ。
だからこそ、カブトが動く必要があった。
「ゴルクルおじさん、おばさん!」
「大丈夫だ、ゴルクルたちは俺が助けた」
エールが素早く声の方向に振り向き、カブトのそばにいる二人に安堵して大きく息を吐いた。
「そう……よかったぁ……」
『姿が変わった……?』
カブトの姿に、モデルXが疑問を示す。
モデルXの言うとおり、青い二つの複眼が存在し、カブト虫のような角が額に生えている。
全身も銀ではなく、炎のように赤い色に染まっていた。
最初の重厚な銀色の形態がマスクドフォーム、今の軽快な赤い形態がライダーフォームと呼ばれていた。
『チッ! 奴と同じ力か……』
「クロックアップ……マスクド・ライダーシステムといったか」
意外にも二人はカブトのシステムに詳しいらしい。
カブトは都合がいいとロックマンVAVAに忠告する。
「この力を知っているなら話は早い。大人しくしていれば、痛みは一瞬で済ませてやる」
『フン……二対一か』
「なかなか愉しめそうだな」
ロックマンVAVAの禍々しさが増す。常人ならとても動けなくなるようなプレッシャーを前にカブトは悠然と足を進めた。
いや、カブトだけではない。エールもまた怒りを視線に込めて前進している。
『ペンテ、退くぞ』
「…………ちょうどいいところだ。邪魔するならお前でも容赦はしないぞ? モデルVA」
『楽しみは後に取っておけ。モデルX、モデルZ。そして天道とやら、今日のは貸しにしとくぜ』
「チッ」
「逃がすもの……」
エールが最後の言葉を告げる前に、ロックマンVAVAは舌打ちを一つ打ちながら、地面にボムを放って穴へと落ちていく。
エールが穴を覗き込むが、もうロックマンVAVAの姿はない。
「く……」
『モデルVA……エール。ここは退かせただけでもよしとしよう』
モデルXがエールをフォローするのを見つめながら、カブトは静かに変身を解いた。
□
火災が鎮火していき、被害にあった人たちが救出されていく。
その様子を見届けながら、天道はエールの手当てを終えた。
「これでよし。ゴルクル、そっちは怪我はないか?」
「ああ、天道君のおかげで助かったよ。ありがとう。それにしてもそれはアンティークではなかったのか」
「もともとこいつは俺のだったからな。すまないが、こいつを譲ってもらえないか?」
天道はベルトを手に、懇願をする。ゴルクルは穏やかな表情でミラと頷きあった。
天道の顔を見つめて結論を告げる。
「私に武器は扱えない。それに、それはもともと君のだ。断る必要はない」
「むしろこちらにお礼を言わせてください。天道さんのおかげで、私たちだけでなくエールちゃんも助かりました。ありがとうございます」
「気にするな。当然のことをしたまでだ」
そういって若い夫婦にトラックのおき場所を教える。
後で回収する旨を伝えられ、天道が立ち上がると今度はエールのほうから声がかけられる。
『こちらも礼をいわせてもらいます。あなたがいなければ危ないところでした』
「なに。男なら当然だろう」
「あなたも……ロックマンなの……? さっきは否定していたけど」
「違うな。こいつはマスクド・ライダーシステム」
「マスクド……ライダーシステム……」
エールが確認するように呟いた。
青空にその声が溶けるような錯覚を起こし、天道は少女を見つめる。
これがこの二人の出会いであった。
仮面ライダーカブト、天道総司。
ロックマンZX、エール。
今ここに、二人の運命が交差した。
To be continued……
最終更新:2009年12月26日 19:02