「■■■■■■■■■■■■」
声が聞こえて俺の頭は睡眠状態から覚醒する。
恐らく俺を起こそうとしていたのだろう、体をゆさゆさとゆさぶらるのも感じた。
勘弁してくれよ、今日は土曜日だぜ?お袋もチョットは空気を読んでくれたっていいんじゃないかねぇ……
いまいち機能しない自分の脳味噌から浮かぶ考えは一つ。
全てを無かったことにして二度寝することだ。
昨晩は深夜まで億泰とゲームやってたから睡眠時間は無いに等しい。
一応言っておくが俺たちは不良だが酒は飲んでねぇぞ!ただ夜更かししすぎて眠いだけだからな!!
……俺は誰に弁解してるんだ?やっぱり寝不足は恐ろしい。
寝起きに襲ってくるスタンド使いがいなかったのは本当にラッキーだったな。
この東方仗助、悪運だけは杜王町でもピカイチだz――――――
「いい加減に起きやがれ!!!」
「ゲボォ!」
は……腹がヤベェ………
無常にも俺の腹に突き刺さった蹴りは驚くほど正確に鳩尾に入った。
込み上げてくる吐き気と必死に戦う俺には進むべき二つの道がある。
1、吐く
2、我慢する
恐らく1を選んだらある程度は楽なはず。しかしそれを選ぶわけにはいかない。
起きないだけで蹴りを入れてくるほどお袋の機嫌はナナメなのだ。その上、布団にゲロッた日にゃ命の保障すら出来ない。
ならば2しかないのか?
この苦しみに延々と耐え、その後腹に残る違和感と暫らくの間戦うのか?
俺はそんな事やりたくねぇ!!
いや、待てよ……一つだけいい方法があるじゃねぇか!
布団にゲロッちまったらその後にクレイジー・ダイヤモンドで元に戻す。
ゲロは吐けるし、布団も汚れねぇ。
この世に完璧って言葉があるんなら今の計画の事を言うんじゃねぇか?
流石に寝巻きに付くのはいただけねぇな。それに今ので完全に目が覚めちまった。
んじゃあ起き上がって、起床一番にスッキリゲロ吐きと行きますか。
ガバァッッ
―――――――――?
俺は自室で寝てたよな?
それに俺の家族はお袋だけだよな?
大体、寝たときはパジャマを着てたよな?
混乱する頭を何とか冷静に持ってゆこうとする。
よくよく考えたらクレイジーDで直したらゲロが口から胃に戻るじゃねぇか。
いや、まずゲロは多分直せねぇ。
しかも目の前にお袋がいるんだからスタンドはヤべーよなスタンドは。
考えれば考えるほど先ほどの考えにツッコミが湧いてくる。
ホントに寝起きって奴はヤベェ……
自己嫌悪に陥りそうな思考を必死に振り払って、今最もやるべき事を必死に模索。
そして俺は自分の正面にいたボーイッシュな女の子に声をかけた。
「寝ゲロってホントにあるんすかね?」
★ ☆ ★
その後、唐突に発せられた奇言に笑い転げる少女、坂本龍馬から必死に話を聞きだした仗助。
曰く、ここはJAPANという国の死国という所らしい。
しかし、彼の知っている四国はこんなに殺伐とした場所ではないはずだ。
詳しい話を聞こうと必死な仗助の様子に辟易しながらも丁寧に説明を続ける龍馬。
彼女の話が終わったとき、彼はその場にしゃがみ込んで頭を抱えだした。
本来彼は頭を使うタイプではない。
戦闘になれば話は別だが、普段の彼は能天気そのものだ。
しかし、彼女の話を聞いた後は必死に考察をせざるおえなかった。
『鬼や侍がひしめき合ってる世界』
彼女にその話を聞いたときは心臓が口から飛び出るかと思うほど驚いた。
吸血鬼の話は承太郎から聞いていたが、鬼の存在は全く聞いた事がない。
それに侍も彼にとっては時代劇の中だけの話だ。
突拍子の無い話をする龍馬を最初は疑っていた仗助。
だが、彼女の目は本気であった。
狂人の物ではなく、真の意味で本気の彼女の瞳。
殺人鬼、吉良吉影を追う過程で様々な人物と出会ってきた仗助には分かる。
彼女はまっすぐな人物であると。
だから仗助は龍馬を信じてみることにした。
そして彼は結論を出す。
『ここはパラレルワールドである』と。
初めはスタンド攻撃も視野に入れていた仗助だったが、その可能性は即座に否決された。
空間を作り出すような強大なスタンド使いが居る可能性は無に近い事と、
能力で仗助を移転させたとしても未だに攻撃の影すら見えない事。
短時間で考えた非常に穴だらけの推論であるが、ある程度的を得ているように思えた。
(でもよー、その場合俺を転移させたのはどいつになるんだ……
まさか神様が呼んだなんて事はありえねぇよな?)
次から次へと沸き起こる疑問。
しかし答えが出る事はない。
(まぁ、来れるなら帰れるって事だよな?
しばらくは龍馬と一緒に行動して情報を集めるしかねっか……
アイツには異世界から来た事は伏せたほうがいいよな?流石に説明しにくいぜ
頭がパーな奴とは思われたくないしな)
結局、持ち前のポジティブさで絶対に帰れると断言した仗助であった。
★ ☆ ★
「でよ、譲ってのがスゲー馬鹿なんだ馬鹿。ウルトラ級の馬鹿」
「へ~お前にも“ジョウ”って仲間が居るんだな。
俺の知り合いにも一人承がいるぜ?その人はヤバイくらい頭が切れるがな」
「っていうかお前も仗じゃね?」
「あっ、そういえばそうだったな」
「おいおい、お前も実はかなり馬鹿なんじゃねぇのか~?」
龍馬達の住むキャラバンへと移動を続ける途中の他愛の無い会話。
先ほど仲良くなったとは思えないほどの意気投合っぷりだ。
「そういえば仗助……会ったときから気になってたんだがいいか?」
「ん?言ってみろよ」
「お前のその髪型ってさぁ――」
刹那、空気が凍りついた。
東方仗助におけるタブー中のタブー。
親友であろうと貶した者は全てぶちのめされる彼の聖域。
大げさに思われるだろうが、それが彼のリーゼントだ。
だが、そんな事を知る由もない龍馬は口を更に動かす。
「超クールだよな!俺も男だったらそんな髪型にしてみたかったぜ!
どうやってセットしてんだよ?毎日大変じゃねぇのか!?」
矢継ぎ早にリーゼントを褒めちぎる龍馬。
一方の仗助であったが完全に放心状態であった。
今までの人生で髪型を貶された事は星の数ほどあれど、ほめられた事は一度も無い。
故に彼は龍馬の行った言葉を全く理解できなかったのだ。
「この……髪型がカッコイイ…?」
呆然とした様子で声を絞り出す。
「何度も言わせんなよ。超クールだって言ってんだろ」
龍馬が先ほどと同じ言葉を繰り返す。
しかし返事が返って来ない。
仗助は下を向いて肩を震わせているだけだ。
「おい?どうした仗助?」
ひょいと龍馬が下から覗き込むと彼は泣いていた。
キリマンジャロの雪解け水を飲んだときと言っても過言ではない。
「おでぼがみがだぼぼべべぐれだのヴァあんだがはしめべば」
「いや、落ち着いて話せよ……」
軽くどころかドン引きだ。
180センチもある体格のいい男が泣きじゃくる姿を見て不快にならないほうがオカシイ。
しばらく歩いて仗助が泣き止んだ頃に質問してみた。
「なんでさっきはあんなに泣いてたんだよ?」
「いや、俺の魂を認めてくれたのが初めてだったからついな……」
「魂?その髪型がか?」
「あぁ、少し長い昔話になっちまうが聞くか?」
龍馬が興味津々な様子で頷くのを確認した後、真っ赤な目を擦りながら彼女に語りかける仗助。
死にそうな熱を出した事。
病院へいこうと急ぐも、途中雪で完全に車が止まった事。
焦る母親の元へ一人の少年が現れた事。
その少年は自分のポリシーである学ランを犠牲にして自分たちを救ってくれた事。
彼の髪型がリーゼントだった事。
そして、自分はその人を尊敬してリーゼントになった事。
全てを話し終えたとき、目が真っ赤になっているのが一人から二人に増えた。
鼻を啜りながらいい話ジャンと繰り返す龍馬。
一々大げさに首を振ってそれを肯定する仗助。
泣きべそをかいた二人は仲良くキャラバンへの道を進んでいった。
★ ☆ ★
どっちが先に気付いたかは分からない。
しかし、お互いに顔を見合わせたのは同時であった。
「これは……」
「血の匂いだな……間違いない!鬼共が襲撃してきやがったんだ!!」
焦燥を隠し切れない龍馬。
キャラバンにはゴンや譲、美禰といった猛者は揃っている。
だがそれでも全てのメンバーを守り切れるわけじゃない。
「クソッ!」
ゆっくりお喋りしながら帰っていた自分の不甲斐なさに思いっきり毒づく。
「仗助!お前は戦えるのか!?」
並んで走りながら、隣にいる仗助に叫んだ。
ガタイはいいから一般人よりは強いのでは?と期待をかける龍馬。
その期待は間違いではない。
短期間で数々の戦闘をこなした彼はちょっとした百戦錬磨である。
だから仗助は自信を持って答えた。
「バリバリいけるぜ!」
まだ見ぬ仲間を救うために全力でキャラバンへと走る仗助。
その目に宿るは黄金の意思。
学ランの襟から除くは誇り高き血統の紋章。
彼と龍馬は一陣の風となって乱戦状態となっているキャラバンへと突っこんでゆく。
鬼という異形を前にしても恐怖心は微塵も感じない。
己の半身であるスタンドを発現させて鬼をぶん殴るだけだ。
龍馬は初めて見るスタンドに驚いた様子を見せたがそれを気にしている場合ではない。
「闘いが終わったらそれが何か教えろよ!」
「おうよ!!」
言い終わった後に、二人は別々の方向へと切り込んでゆく。
「ドララララララララアアアッツ!!」
こうして、東方仗助の短い平穏の時は終わりを告げた。
to be continued…
最終更新:2009年12月24日 19:30