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十話 DIFFERENCE [ズレ] (前編) 

 燃え盛るビルの屋上、一人男が壁に背を預けて立っていた。ボサボサの金髪に野性味あふれる顔つき。
 紫色のジャケットに紺のズボン。黒いインナーを身につける男、ペンテの視線はビルの大型テレビへと向いていた。

『天道、あなたもアタシも一人じゃない。みんながいてくれて、天道もいるからきっとあいつでも倒せる。
だからお願い。アタシたちに……あいつを倒すため、この街を守るために力を貸して!』

 少女の言葉に天の道を往く男が応えた。
 その様子を見つめて、ペンテの右手に収まるライブメタルが吐き捨てる。
『相変わらず甘ちゃん坊やだ』
「フフ……」
 嫌悪感丸出しのモデルVAを無視して、ペンテの口は笑みを形作る。
 モデルVAとは真逆の感情。歓喜を胸に宿らせたまま、踵を返す。
 自分がやることはない。放っておけばいい。
 なぜなら、エールと天道が勝つことが確定したのだから。

□

 建物が焦げている臭いが天道の鼻腔を刺激していた。
 一週間前に襲撃されたこの街は復興の兆しをみせている。
 破壊された建物の修復に被害にあった人たちの支援にとガーディアンのメンバーは忙しい。
 ただ、数名の隊員とフルーブ、プレリーの姿はない。ガーディアンの研究所が襲われたとのことだ。
 プレリーはその調査に出向いていた。少し前まではエールも一緒だったのだが、今頃は別行動を取っていることだろう。
 エール自身、『自分にはやることがある』と言って離れたのだ。
 向かった場所はジルの母親であるエリファスのところだ。
 この件を決着付けたいということだ。今はその優しさがいい方向に向かってくれて嬉しい。
 天道は赤いバイクへまたがった。一見中型バイクに見えるのだが、重装甲に隠された馬力はとんでもないものを誇る。
 カブトエクステンダー、ワームから天道が奪い返したものであった。
 鯖を入れてあるクーラーボックスを後部にくくりつけてエンジンキーを回したとき、天道の傍を茶髪の白い服を着た青年が通りすぎる。

「仮面ライダーカブト。残された時間は少ない」

 天道はその声に振り返るが、先程の青年の姿はない。おそらく、あの青年の言葉なのだろう。
 時間が少ない。真意は知らないが、その言葉の理由はなんとなく察しがついている。
 天道が右手のグローブを外すと、金色の粒子が僅かにあがっていた。
 七年前に遡り世界を破壊したときより緩やか、しかし同じ終りの現象。
 数秒してようやくタキオン粒子は消える。天道は一つため息をつき、青年が消えた先に視線を向けてバイクを発進させた。


 天道が数秒前視線を向けた先には段差がある。
 その段差につまづき、倒れている青年の姿があった。
 どこからともなく、コウモリに似た生物が青年の頭上へ飛び降りてくる。
「大丈夫か? 渡」
「結構痛い……助けて、キバット」
「……本当にお前一人でなんとかなるのか……?」
 キバットと呼ばれた生物が呆れた様子でぼやいた。
 渡といわれた青年は消えたのではない。つまづいて転んだため、タイミング悪く振り向いた天道の視界から消えていただけだった。
 なんともトロイ青年だが、彼を知るものはすべてこういうだろう。
 『渡らしい』と。

□

 何度か歩んだ道を進み、陽光に目を細めながらエールはジルの店へとやってきた。
 見知らぬ店員とエリファスが会話しているのが外からわかった。
 すぅー、と一回だけエールは深呼吸をする。
 緊張しているのが自分でもわかった。ライブメタルの二人が心配しているが、大丈夫だとエールは告げる。
 最近は襲撃された街の復興、盗まれたライブメタルの探索で時間を作ることが出来なかった。
 一日だけ時間ができたとき、エールは休むよりも優先すべきことを見つけて足を運んだ。
 そういえば、天道が「自分もついていくか?」などと心配していたな、とエールは楽しそうに笑みを浮かべる。
 ジルウェとはちがった意味で天道には兄のような感覚を持っていた。
 少しだけ心が楽になり、エールはドアを潜る。
 柔らかい金髪のショートカットに、メリハリのきいた身体。車椅子に乗った女性はエールをみて少し驚いた。
「お久しぶり、エリファスさん」
「ええ。いらっしゃい、エールちゃん」
 エリファスはやや緊張したエールの挨拶に、ごく自然に返した。
 エールは彼女に招きいられ、さらに足を踏み込んだ。


「エールちゃんはコーヒーに砂糖を入れる?」
「うん、お願い」
 エールはエリファスに勧められ、コーヒーカップを手にとった。
 口調を改めようとも思ったが、エリファスがそのままでいいといったためいつも通りだ。
 言葉少ないのはエールが多少なりとも緊張している証拠。
 だからといってガチガチになるほどでもない。
「新しい人雇ったんだ……。やっぱりジルさんがいないから?」
「ええ。あの子、いなくなる前に手配していたらしいの。本当、準備がいいできた息子だったわ」
 エリファスの屈託のない笑顔にエールは頷く。
 三日欲しい、とジルが告げたのはこういうことだろう。
 エリファスは事故で車椅子の生活を余儀なくされていた。彼女が生活を送れるよう、彼は手を尽くしたのだ。
「エリファスさんは強いね……」
「どうしたの?」
 エールはエリファスの疑問に、眉を八の字にして困ったように続きを告げる。
「アタシ、ジルさんが死んでからしばらくうまくいかなくて……それで、元気に過ごしているエリファスさんがすごいなぁ、って」
「そんなことはないわよ。エールちゃんの仕事は大変なんだから、そういうこともあるわ」
 エールは苦笑いのままコーヒーをすする。黒い液体の苦味に少し顔をしかめ、エリファスの顔を見つめた。
 瞳は相変わらず穏やかなままだ。エールを恨んでいないはずがないのに。
 エールは一度目を伏せてエリファスへと顔を上げた。
「エリファスさん、アタシ……ジルさんを殺した。だからエリファスさんはアタシを恨む権利があるよ」
「エールちゃん……」
 なんだ、そんなことかとエリファスは穏やかにつぶやいた。
 エリファスは少し天井を見つめ、数秒してエールと目を合わせる。
「むしろ私は……きっとジルもエールちゃんに感謝しているわ」
「そんな……」
 エールの唇をエリファスの人差し指がおさえ続きを紡ぐ。
 エールの困った顔がおかしかったのか、エリファスがほほ笑んだ。
「ジルはずっと死にたがっていた。私ではその願いを叶えれなかったわ」
「けど……」
「そしてね、エールちゃん。私は最後にエールちゃんがジルと会わせてくれて感謝している。
天道さんは私に息子が死ぬところを見せたくなくて置き去りにしたんだろうけど……私はジルに再会してよかった。
だって、エールちゃんが『本物の愛情』を届けてくれたもの」
「本物の愛情……?」
「私はジルとずっと偽りの日々を過ごしてきた。お互いに隠しことをして、本当に自分を愛しているか確かめるのが怖かった。
いつか終わるってわかっているのにねぇ。だから……最後の最後にエールちゃんがジルとの本当の気持を伝えさせて、とても感謝している。この気持ちは本当よ」
 エリファスは穏やかながらも、しっかりとした口調でエールへ感謝を示す。
 エールはなにを告げようとして、言葉にならなかった。
 ありがとう。
 エリファスの言葉は、エールの中のひっかかりを解消してくれる。
 エールはまだ自分を許せないかも知れない。
 それでも、自分を許して感謝してくれている人がいた。とてつもない救いの言葉だ。
 エールは目頭が熱くなって、思わず顔を伏せた。エリファスが心配するが、エールは笑う。
 自分の救いになった、とその極上の笑顔でエールは告げた。

□

 氷に閉ざされ、雪が積もった地域で爆発音が断続的に鳴り響く。
 足を踏み入れたヒトビトを凍らせ、震わせるエリアで爆煙を尾のようにまとわせながら転がる戦士がいた。
 紫の鉄仮面にT字状の黒いゴーグルが備え付けられ、中央の単眼が赤い光を放つ。
 紫色のアーマーに黒いインナーのロックマン。ペンテが変身するロックマンVAVAであった。
 右肩に装備されたキャノン砲、左肩に装備されたミサイルランチャーから火線を放ちながら地面を滑って後退していく。
 青と黒をメインカラーにした人影がレーザーとミサイルの雨をくぐり抜け、ロックマンVAVAへの接近を許す。
「チッ!」
『振り切れ、ペンテ!』
 ロックマンVAVAが舌打ちし、モデルVAが指示を飛ばす。
 左後方に飛ぼうと力を入れるが、目の前の人影は読んでいたように右拳を脇腹に突き刺した。
 ロックマンVAVAは吹き飛び、無様に地面を転がる。
 二度目の舌打ちとともにロックマンVAVAは立ち上がって敵を睨みつけた。
「追い詰められると左後方に跳ぶ癖は変わっていないようだねぇ、ペンテ」
「あん?」
 低い女性の声にペンテが訝しげに顔を歪ませる。目の前にいる“フォルスロイド”は女性のようだった。その割には背は高い。大柄のペンテとたいして変わらない。
 全身刃のような鋭角なアーマー、胸部と腹部は白いが脇から背中までは真っ黒だ。
 退化した翼のような両腕。鳥のような黒いマスクに鋭いクチバシ。足には三本の爪が鈍く光っている。
 金のラインが眉毛のようにかたどっている。イワトビペンギンを模したフォルスロイド。
 確か名はコールドエンプレス・ザ・ペンギロイドといったか。
 正直なところ、大まかな外見と名前しか知らない。なのになぜこうも自分を知っているかのように話しかけるのか。
『知り合いか? ペンテ』
「さあ……なっ!」
 ロックマンVAVAがどうでもよさそうに吐き捨てて、右肩のキャノンからレーザーを発射させる。
 不意打ちだ。避けれるはずはないのだが、またも読んでいたらしいコールドエンプレスは跳躍してロックマンVAVAの頭部を蹴る。
 鋭い爪に装甲を数ミリ削られるが、辛うじてやり過ごせた。
「アタイの声を忘れたかい、ペンテ。しょうがないねぇ」
 そう言ってコールドエンプレスの装甲が光に変換される。
 ロックマンVAVAの眼前でアーマーが体内に吸収されて、人型のレプリロイドが姿を見せた。
 青い髪にレプリロイドであることを示す三角の赤いマーキングが額に収まる。
 肩までで切りそろえられたショートボブにキツメの美人。
 迷彩柄のジャケットを羽織ったメリハリのきいたボディのまま、コールドエンプレスがロックマンVAVAと対峙する。
「キサマ――ッ!」
「ようやく思い出したかい? あんたに生きる術をすべて教えた師匠をさ」
 薄く笑ってコールドエンプレスが皮肉げに告げる。
 ロックマンVAVAは言葉を失い、立ち尽くしていた。


『変身……キサマもロックマンなのか?』
「いいや、アタイはレプリロイドからフォルスロイドに改造を施してもらっただけさね。
潜入型フォルスロイドとして開発されたから、一般人形態も残してわあるのさ」
 疑問をつぶやくモデルVAに律儀に答えてコールドエンプレスはロックマンVAVAを見つめる。
 対し、ロックマンVAVAの反応は薄い。ただ風とともに雪が舞う。
 先に言葉を発したのはコールドエンプレスだ。
「ペンテ。あんたがこっちに戻るか、モデルVAを渡すかしないかい? そうすれば元教え子のよしみだ。命だけは助けてあげるよ」
「フン、くだらない。お前こそここから逃げれば、元先生のよしみで命だけは助けてやるぜ」
「相変わらず強気だねぇ。そうでなくちゃ、裏切り者の討伐なんて汚れ仕事は引き受けないさ」
 クックック、ととてもおかしそうにコールドエンプレスは笑う。
 モデルVAが馬鹿にされた気がしたのだろう。苛立っている。
 ペンテはこの上から目線の態度は無意識の癖だと知っていた。
 もっともそんなことは関係ない。ただ一つ確定していることがある。
「お前が相手なら少しは楽しめそうだな。やろうぜ」
「……ホント、せっかちなところも変わらないねぇ」
 コールドエンプレスは懐かしそうに告げて、一瞬でフォルスロイド形態へと姿を変える。
 氷の散弾がロックマンVAVAを襲い、迎撃しながらロックマンVAVAは吠えた。
 爆発が轟き雪が盛り上がって吹き飛ぶ。
 キラキラ光る雪の中、コールドエンプレスとロックマンVAVAの蹴りが激突した。
 衝撃で雪原が波打ち、互いに反動を利用して大きく距離をとる。
 着地と同時にロックマンVAVAが右のレーザーを発射と見せかけ、指に仕込まれたバルカンを掃射する。
 コールドエンプレスは冷静に吹き飛ばした雪を固め、氷の壁を作り上げる。
 銃弾が通らないことにロックマンVAVAは舌打ちを一つ。思考を切り替え地面を踏んで跳躍する。
 接近戦で倒す、と思考を進めて氷の壁ごと殴りつけた。
「甘いねぇ」
 頭上から降り注ぐ声。相変わらずの余裕にロックマンVAVAの鉄仮面の下で唇を持ち上げる。
 やりにくい相手だ。それが最高によかった。
『氷のショットガンか。砕け、ペンテ』
 言われなくても、とロックマンVAVAは内心で答える。
 両腕のマシンガンで砕くが、取りこぼしたものがロックマンVAVAの右肩のアーマーを砕いた。
 血が流れ雪にシミを作る。キャノン砲が無事であるのを確認し、レーザーを発射する。
 一筋の閃光が雪を蒸発させるが、コールドエンプレスには命中していない。
 氷をまとった敵の拳がロックマンVAVAの鳩尾に突き刺さる。
 血反吐を鉄仮面の口に当たる部分から吐き出して吹き飛び、ロックマンVAVAは地面に全身を叩きつけられた。
 追撃がくる、と後転してコールドエンプレスの踏みつぶしを回避する。
 ギュッと雪を一握りつかんで、コールドエンプレスの目を狙って投げた。
「くっ!」
「いくぞ、モデルVA!」
『いいぜぇ……』
 低い笑い声を背にロックマンVAVAが地面を蹴る。ロックマン特有の高速移動、ダッシュが二人の間合いを詰めた。
 ロックマンVAVAの身体が青い炎をまとい、コールドエンプレスへと迫った。
 バーニングドライブで炎に弱いだろうコールドエンプレスを吹き飛ばそうと考えたのだ。
 ロックマンVAVAの持つ技で最強のもの。倒せるとロックマンVAVAは確信する。
 そのロックマンVAVAを前にコールドエンプレスは一言つぶやいた。
「本当にあんたは昔と変わらないねぇ」
 懐かしむような声とともに、雪が大量に宙に舞う。
 ロックマンVAVAの視界を白い雪が阻害して一瞬だけ目を背けた。
 その一瞬でコールドエンプレスは姿を消している。
『下だ、ペンテ』
 モデルVAが忠告するが遅い。雪の中をコールドエンプレスが移動して、真下より胸部を斬り裂いた。
 斜めに走った胸の傷から血が流れ、衝撃にロックマンVAVAが吹き飛ぶ。
 後ろには崖。地面までの距離はかなりある。いくらロックマンでも重傷は必須。
 ロックマンVAVAは辛うじて出っ張る岩肌を掴んだ。そのロックマンVAVAをコールドエンプレスは見下ろす。
「どうだい? さっきの件、考えなおすかい?」
「……ハッ。俺のいいたいことはわかるだろ? …………フィオ」
「懐かしい名だねぇ。それじゃ、サヨナラだ」
 コールドエンプレスがぶら下がるロックマンVAVAへと右手を向ける。
 氷の弾が形成されて、ロックマンVAVAを狙っていた。紫の鉄仮面の下で、ロックマンVAVAが獰猛に笑う。
「お前に殺されるなんてゴメンだな」
 そうつぶやき、あっさりとロックマンVAVAは手を離した。
 落下していきながらもふてぶてしい態度は微塵も変化がない。
 崖下の暗闇にロックマンVAVAは飲まれる。絶対死なないと根拠不明の自身を持ちながら。


 コールドエンプレスは両腕を組み、崖を前に瞑想をしていた。
 ロックマンVAVAとの戦闘から二時間は経つ。崖下の調査をメカニロイドに任せてジッとしていたのだ。
 元の職業柄、過酷な環境で待つことには慣れていた。
 ペンテも好戦的な性格とは逆に、待つことは得意だった。
 見たところあのモデルVAとペンテは似ているようで似ていない。
 コールドエンプレスは閉じていた目を開くと、偵察に放っていたメカニロイド・メカヤンマが飛んできた。
「……やっぱりペンテの反応はない、と」
 特に意外そうでもなく、コールドエンプレスはつぶやく。この程度で死ぬようなやわな鍛え方はしていない。
 コールドエンプレスは戦闘用のフォルスロイドの姿から、潜入用の人型レプリロイドへと姿を変える。
 かつてフィオと名乗った姿で崖から地面を見下ろす。この先はインナー指定を受けている場所だ。
 ならばこの姿が役に立つ。
 コールドエンプレスことフィオは極寒の地を離れた。


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最終更新:2010年01月23日 00:04
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