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T×M 炎を操る男 前編

―――――初冬のロンドン・ベイカー街のあるオフィス
オフィスでは2人の男が話している。
「……でこないだの件どうなっているんだダニエル?」
「こないだの件?ああ、お前に借りた50ポンドな。返すよホラッ」
ダニエルと呼ばれた金髪の男が50ポンドを取り出すと黒髪の男に渡す。
「違うって!休暇だよ休暇!約束しただろ?ここの所まともに休んだ記憶がない」
憤慨している黒髪の男はタイチ・キートン・平賀。日英のハーフでオックスフォードで考古学を学びSASに在籍したこともあるという、風変わりな経歴を持つ腕利きのオプである。
「わかった、わかってるって。そういきり立つなよキートン」
非難されてる金髪の男はダニエル・オコンネル。キートンの相棒でこの保険調査オフィスの共同経営者をつとめている。
「まったく…労働法無視もイイとこだ」
「なぁ落ち着けキートン。ストライキでもするつもりか?」
「それもいいかもね」
そう呆れたように言うとキートンとは自分の席に座り込んだ。もう仕事なんかするもんかという表情である。
「ったく俺だってそんなに休んでねぇんだぞ……っといい仕事あるぞキートン!」
「私の話聞いてたかい?仕事の話なんか今は聞きたくないね」
「それでも聞けよキートン。実は日本での仕事あるんだよ」
「日本?」
「そう、こないだ日本の証券会社の支店長が日本に帰国中に事故で死んでな。その調査の依頼が来てるんだよ。コレが資料だ」
と笑顔で言ってキートンの机にに資料の束を手渡すダニエル。
「加藤信也…証券会社支店長…妻の加藤玲子と2人の子供あり…」
「その案件をさっさと片付けてさ、残りの日は日本でゆっくり休んで年が明けたら帰ってくれば良いじゃないか?ウン、コレはいいアイデアだ」
「いいアイデアねぇ…また厄介な仕事にならなきゃ良いけど…」
「なに言ってんだ俺も資料を一通り見たけど長引きそうな事情は見当たらんぞ」
「これは?イギリスに来る前に妻と別居中って書いてるけど?」
「別に珍しくもない事だろ色々あるさ夫婦でも。お前さんもそうだったろう」
「うっ…」
離婚経験のあるキートンへの痛いところをつくダニエル。
「いや~我ながらよく思いついた。俺はすばらしい相棒だろキートン?」
「まったく、調子の良い奴だなぁ」
やれやれという顔のキートンをよそにダニエルは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


―――――同じく初冬の頃東京某所
山田奈緒子がかなりの量のパンの耳を抱えながら歩いている。
「今日は店長さん気前よかったな~コレだけあれば5日は持つかもしれない」
彼女の職業はマジシャン―――であるのだが仕事には恵まれず貧窮しており喰うや食わずの日々である。
「やぁまぁだおかえり~」
「ハ、ハルさん!?」
大家のハルに声を掛けられ明らかに狼狽する奈緒子。狼狽した理由は当然ながらお金がない彼女は家賃をまともに払えていないからだ。
「ずいぶんご機嫌だねぇ~お金入ったならお家賃払えそうだね~」
「ち、近いうちに必ず!」
そう言うと奈緒子は強引にハルを押しのけ自分の部屋に逃げるように入る。
「ふぅ~危なかったー」
「まーた家賃を滞納してるのかYOUは?」
部屋に入り胸を撫で下ろした奈緒子に誰もいないはずの中から男の声がした。
「あぁ、上田!」
「まったく交わした契約を守らないなんて社会人として少しは恥ずかしいとは思わないのかね」
非難の声を無視してお茶を啜る男は上田次郎。日本科学技術大学の名物教授であり超常現象を否定する本を出版している。
そのせいもあってか数多くの自称霊能者や超能力者に挑戦され、その度に奈緒子はつき合わされ共に謎を解明してきたのだ。
「人の部屋に勝手に入る人が社会人がどうのとか言わないでください!」
という最もな突っ込みをする奈緒子だが上田はまったく意に介さずお茶を別の湯飲みに注いでいる。
「ま、座れよYOU」
初めてのことではないとは言え上田の悪びれない態度に腹を立てつつ奈緒子は座った。
「一体何しに来たんですか?」
「今日ここに来たのは実はウチのゼミの…」
「お断りします」
奈緒子は上田の話を最初で遮り、きっぱりと断った。
「人の話を最後まで聞け!」
「そうやって上田さんの話を聞いてて、良かった事なんてなかったじゃないですかっ!帰ってください!ヤンキーゴーホーム!」
よほど嫌なのか凄い剣幕になる奈緒子。しばし沈黙する2人。
「おお、偶然にもここに高級焼肉弁当があるぞ!」
と沈黙を破り、ワザとらしく言うと上田は弁当を二つ取り出す。
「良いですよ。そんなお肉なんかなくても私にはパンの耳が…パンの耳が…は、話だけなら聞いてやってもいいぞ上田」
食欲には逆らいきれなかったようだ。
「うちのゼミにな加藤早苗という子がいてだな」
「ふんふん」
説明を始めた上田に食べている弁当から目をはなさず生返事をする奈緒子。
「ま指導教官の俺が言うのもなんだが性格の良い子でな。成績も良くから日頃から目を掛けてるんだよ」
「惚れたんですか?」
「失敬なことを言うな!まったく、YOUはその胸と同じで発想も貧困だから、学問に取り組む美しい師弟愛が理解できんのだろう」
「む、胸は関係ないだろエロ巨根教授!」
口から激しく米粒を飛ばしながら、お互いのコンプレックを言い合う二人。この部屋で幾度となく繰り広げられた光景である。
「…でだその早苗君が指導教官であり稀代の物理学者である俺に相談に来たわけだ」
「上田さんにいやらしい目で見られて迷惑ってですか?」
「違うといっているだろう!…でだ彼女が言うには彼女のお母さんがとある宗教ににもう何年も嵌っていて、お父さんとも別居状態だったらしい」
奈緒子はまだ弁当から目をそらさず食べることに集中している。そんな態度に上田は不満のようだが、話を続けた。
「そして、その宗教団体は炎の家というらしい」
「なんだかまともな宗教じゃなさそう名前ですね」
「ああ、彼らは人間は火と共に生きてきた、それで火こそ命の根源であり崇める対象としているみたいだな。」
「うさん臭せー」
「それで会長は火野炎蔵という男で信者にはグレート・ファイアと呼ばれている。
「グレート・ムタ?」
「違う!なんでも火野には不思議な力があって、何もない所から火を出したり、遠く離れた所にある物も自由に燃したりできるるそうだ」
「ますますうさん臭せー」
「真剣に聞けよ。火野はなその力で人間も燃やす事が出来るという噂なんだぞ」
「!?」
驚いて奈緒子は口に運ぼうとした肉を落とした。
「そ、そんなことが出来るわけないじゃないですか」
「まあ俺も実際にそれを見たわけじゃないからあくまで噂だ。で話を戻すとだな今では彼女のお母さんはその炎の家の本部で共同生活をしているらしい」
「ふんふん」
「しかも7歳になるの弟の弘樹君も無理やり一緒にな」
「で上田さんに助けて欲しいというわけですか」
「ああ母はともかく、幼い弟にはまともな生活をしてほしいと涙を浮かべながら言うんだよ。見上げた兄弟愛じゃないか。どうだ手伝いたくなっただろ?」
と尋ねる上田。奈緒子は焼肉弁当を平らげると顔を上げてこう言った。
「なんで私が手伝う必要があるんですか?上田さんの教え子なんだから自分で頑張れば良いじゃないですか」
「ほうそういう事を言うのか。残念だなせっかく家賃を三ヶ月分払ってやろうと思っていたのに」
「え?」
明らかに奈緒子の表情が変わる。
「この寒い年の瀬に住む所を追い出されたらさぞ堪えるだろうなぁ」
「ええ?」
「まYOUがどうしてもそれを望むならそれも仕方ない。じゃあな、今度YOUを見るのは上野公園の炊き出しかな」
そう冷たく言い放ち席を立とうとする上田。
「ま、待て上田、マテッー」
再び幾度となく繰り返された光景が広がりつつ凸凹コンビはまた結成されるのだった。
「…うんわかった。じゃあ年末にはお父さんも空くと思うから」
キートンは娘の百合子との電話を終え、加藤信也の日本での家であるマンションに来ていた。
「もしもし保険調査員のキートンです。お父様の保険の件でお話を伺いに来ました」
インターホンで用件を伝えるとドアが開き中から女性が出てきた。
「…お待ちしていました娘の早苗です。すみませんわざわざイギリスから」
「いえいえコレが仕事ですか。どうもこの度は」
「どうぞお入りください」
早苗に促されキートンは中に入り早苗から保険に関する様々なことを聞いていた。
「それで受取人の事ですがあなたとお母様になっていますね?」
「……はい。」
「お母様とは別居中だそうですがどちらに?」
言いたくないのかなかなか口を開かなかった早苗だが少しして答えた。
「……母は埼玉と群馬と栃木の県境にある、宗教団体の共同生活施設で弟と暮らしています。父がイギリスに行く半年ぐらい前ですから…もう2年近くは会ってません」
「宗教団体?」
「ええ、パンフレットがあるんですがご覧になります?」
早苗は引き出しから小冊子を取り出すとキートンへ渡した。
「宗教法人炎の力?…なんだこれは?まるでゾロアスター教だな」
パンフレットを読みながら呟くキートン。
「ゾロアスター教?」
「ええ、ゾロアスター教というのは紀元前にペルシアで発祥した宗教です。彼等も光の象徴として火を崇めていたので拝火教とも言われています」
「それじゃあ炎の力はゾロアスター教なんですか?」
「いや確かに火を崇めるという点は似ていますが、パンフレットを読む限り内容はよくある新興宗教ですよ。」
「そうですか……あの探偵さん?」
「はい?」
「父はなんで母にも保険金を残していたんでしょうか?私はもう母のことは半ば諦めています。父だってあんなに言い争っていたのに…」
「……」
「弟はわかります。何も分からない内に母に騙されて連れて行かれたんです。でもそうなったのは母のせいなんですよ?そんな母になんで…」
言葉に詰まる早苗。キートンは少し考えると口を開いた。
「これは私の推測なんですけどお父様はお母様をずっと愛していたのではないでしょうか。それで宗教にのめり込んでいったお母様を救えなかった事をずっと悔やんでいた」
「……」
「だからもし自分に何かがあった時にはあなたたちとお母様ために…多分宗教から立ち直るタメにも」
早苗は何も答えず眼に涙を浮かべている。
「あ、すいません余計なことを言って…ほんとうに私の推測だから気にしないで下さい」
「探偵さん…いやキートンさんってとても優しい方なんですね」
「いや私にも実は別れた女房と、あなたぐらいの娘がいましてね。お父様の事は他人事のような気がしないんですよ」
「まぁそうなんですか」
「ええそれで最近は彼氏が出来たなんだの話もあってそんな話を聞くと気が気がじゃないんですよ」
「まぁっ」
笑い合う2人。それは早苗がキートンに見せる初めての明るい顔だった。
「あっもうこんな時間か。それじゃあありがとうございました、お母様にも近いうちにお話を伺いますでは私はこれで…んっ?」
早苗は帰ろうとしたキートンの手を掴んで思いつめた顔をしている。
「キートンさん…これは言おうかどうか迷っていたんですけど、聞いてください。父は…父は母の信望している団体に殺されたのかも知れないんです?」
「なんですって!?」
キートンは早苗の言葉に驚愕して叫んだ。
埼玉と群馬と栃木の県境にある炎の力の施設を目指し上田の愛車トヨタパプリカ(次郎号)が走っていた。
「そういえばその早苗さんのお父さん亡くなったんですよね?」
「そうだ…言ってなかったけど死因は焼死だ。電気スタンドから引火したようだな」
「焼死!?それってもしかして」
「やつらの仕業だと思うか?」
「だって炎を崇める宗教と対立して焼死なんて話が出来すぎでしょう?」
当然の疑念を口にする奈緒子。
「しかしお父さんの死に事件性はないとされているんだ。事故なんだよ…一つ引っかかることはあるがな」
「こないだ言っていた教祖の能力」
「そうだ。だからと言って能力とやらを信じられる訳じゃない」
シリアスな表情と低い声で言う上田。都合よく雷も鳴っている。
「しかし彼らがどんな手段で俺達を嵌めようとしてくるか、分かったもんじゃないからな。YOUも気を引き締めていけよ」
とシリアスな顔のままで決めた上田だったが助手席の奈緒子は既に寝てしまっていた。
「思ったより早くつきましたね。ここ何処なんです?」
本部に到着し車から降りつつ上田に尋ねる奈緒子。眼前には炎の絵が描かれた大きな建物が建っており『宗教法人 炎の力』という立派な看板もあった。
「埼玉と群馬と栃木の県境だ。正確に言うと建物の31%は埼玉県で42%は群馬県、残りの27%が栃木県にあたる」
「や…ややこしいですね」
二人は話ながら本部へと歩を進めていくと中から白いスーツを着た男が現われた。
「これはこれは上田先生初めまして炎の力の副代表の奥田です」
「連絡した日本科学技術大学の上田です初めまして」
「いや私どもの教団に『どんと来い超常現象』でおなじみの上田先生が検証にやってきて下さるとは光栄です」
「いやいや学者としての知的探究心には勝てませんでね」
「ハハハ…おや?其方の女性の方は?」
「私は……」
「こいつは110番弟子の山田です109番弟子までが多忙だったので連れてきました」
「おいっ!上田、警察かあたしは!」
相変わらずのぞんざいな紹介に抗議する奈緒子だったが、奥田は聞く耳持たず勝手に納得してうなずいている。
「それでは施設をご案内しましょう」
そう変なポーズを決めながら言う奥田に促され歩き出す二人
「上田さん」
何か相談事があるのか、小声で上田に話しかける奈緒子
「なんだ?もうちょっと若い番号の弟子が良かったか?」
「違いますよ。何か友好的な態度ですけど、何て言って来てるんですか?」
「まさか教え子の家族を説得して取り返しに来たなんて言えないだろ。だから俺がここに興味を持って見学、そして教祖の不思議な力を検証しに来たといったんだ。」
「なるほど」
「しかももし俺が不思議な力を認めたら、この教団を著作で思い切り宣伝すると言ったら大喜びで食いついたよ。フッこれも俺という天才学者の知名度のおかげだな」
胸を思い切り張る上田だったが奈緒子も奥田も相手にせず進んでいった。
「こちらが修行場です」
その部屋では炎を目の前にして信者達がなにやらブツブツと呟いていた。
「上田さん、居ますか加藤さんのお母さん」
「いや預かってきた写真と一致する女性は見当たらない」
「次の部屋をご案内しますね」
その後奥田に大聖堂やグラウンドなど案内されたが加藤玲子と弘樹の姿はなかった。
「どうですわが教団の事を理解していただきましたか?」
「ええ…大変素晴らしいと思います。それで話は変わるますが信者さんたちはここにおられるので全てですか?」
「いえいえ、100メートル程離れた場所に共同生活している場所がありましてね。こちらに居ない者はそっちに居ると思います」
またもや妙なポーズを決めつつ話す奥田。
「そうですか。もしよろしければココを自由に見て回りたいのですが?」
「はい構いませんよ。もう少ししたら我らがグレート・ファイア様も帰ってきますので、先生もどうぞ見て回って下さい」
そう言い残すと奥田は妙なポーズのままて歩いてていってしまった。つられたのか奈緒子も変なポーズをとっている。
「おそらく玲子さんと弘樹君もそこだな。行くぞYOU」
本部から少しはなれた共同生活の建物には奥田の言ったとおり沢山の信者が暮らしていた。上田はその中の一人に話しかける。
「あのうつかぬ事を伺いますが」
「はい?」
「こちらに加藤玲子さんと息子の弘樹君はいませんか?」
「ああ加藤さん、加藤さんならあっちの畑ですよ。今日は加藤さんによくお客が来るね
自分達以外にも玲子を訪ねてきたものが居たのかと顔を見合わせる二人。
「お客?誰ですかその人は?」
「ナントカ保険の調査員とか言ってたよ…確かキートンとか」
「それではあなたは信也さんの死は教団に逆らったからだと?」
「ああそうだよ。あの人は死ぬ少し前に、あろう事かグレート・ファイア様をインチキ扱いしたんだその報いを受けて当然さ」
「しかしですね火野はその日ココに居たことがはっきりしている。警察の方でも信也さんのことは事故という事になってるんですよ?」
「だから言ってるだろう、グレート・ファイア様は火を自由自在に操る事が出来るんだ」
そう言い放つ玲子を見てキートンは真剣な表情で言った。
「あなたは本当に心からそう思っているんですか?火野にはそういう力があり、信也さんは殺されてもしょうがないと!?」
「……そ、そりゃあ」
口ごもりキートンから目をそらす玲子。その時畑に2人の男女がやって来た。
「加藤玲子さんですか?」
「あぁ?一体なんだい?今度は」
「失礼。私は貴女のお嬢さんの通っている日本科技大教授の上田です」
そう言って玲子に名刺を渡す上田。
(日本科学技術大学教授?こりゃなんだかややこしい事になって来たぞ)
「ふーん、早苗が行っている大学の…でその教授先生が何の用?」
怪しそうな表情で二人を見る玲子。
「貴女のお嬢さんに頼まれて来たんです。あなたと弘樹君を連れ戻すようにって」
「いやだね。あの子がなんて言ったか知らないけど、私は望んでここにいるんだ」
「あなたはそれで良いかも知れませんが、弘樹君はどうなります?断言しますが、ここにいても弘樹君の為にはなりませんよ!」
「……うるさいね。親子の間に口出し内で貰いたいね。」
「あなたと話しても埒があかない。弘樹君は何処ですか?」
「あっちで寝てるよ。でも勝手につれて帰ろうなんて思わない事だね。中には仲間がたくさん居るんだから」
そう言うと玲子は勝手に話を切り上げ、畑仕事に戻っていった。
「お、おいちょっと!待ちなさい…ああっ、クソ!」
「聞く耳もたずって感じですね」
「まったく早苗君の母親とは思えんな」
「同感ですね」
横からスーツの男が出てきて上田に同意した。
「あなたは?」
「あ、失礼しました。私は保険の調査員をやっているキートンです。加藤信也さんの保険の調査に来てます」
苦笑して上田に答えるキートン。
「これはこれは、日本科技大教授の上田です」
「あああなたが。早苗さんが仰ってました。ゼミの教授に弟の救出を頼んだと」
「私は……」
「117番助手の山田です」
続けて自己紹介しようとする奈緒子に先んじて言う上田。
「コラッ上田!一度ならず二度までも…オホン、マジシャンの山田です」
「へーマジシャンの方ですか」
「マジシャンといってもロクに仕事もない半人前なんですけどね」
「黙れ上田!私が居ないと事件なんかひとつも解決できない癖にっ!!」
キートンを無視していつもの言い争いを始める二人。キートンは何を言うでもなく二人を見ている。
「あっ……すいませんねキートンさん。コイツが生意気なもんでつい」
「いえいえ私は気にしませんよ。お二人はとても仲がよろしいんですね」
そう穏やかな笑顔で言われたこともない事をキートンに言われ、二人は口ごもるのだった。
その後三人はお互いの事を話しながら歩いていた。
「…じゃあ上田教授は加藤早苗さんの教官なんですか」
「ええ」
「教え子のためにこんな事までするなんて。上田教授は素晴らしい方ですね」
「いや~あまり善人過ぎて困っているんですよ」
「キートンさん下心ですよ下心。」
「YOUは黙ってろ!」
「上田教授のご専門は何なんですか?」
「物理学ですこのような著作も一応」
そう言うとカバンから自分の本を取り出す上田
「全冊持ち歩いてるのか上田?」
奈緒子の問いを無視してひたすら上機嫌に上田は自分の研究についてキートンに話し始めた。
「なるほど…上田教授の探究心は凄いんですね。私も考古学を齧っててこういう事には結構興味があるんです。」
「ほう考古学。失礼ですがキートンさんはどちらの大学のご出身で?」
「オックスフォードです」
「オックスフォード!それは凄い!」
キートンの言葉を聞き驚く上田。
「おくす…ほど?」
「オックスフォードだ!イギリスの超名門大学で、君なんか一生縁がない所だぞ。」
「そんな事ありませんよ。私も考古学で食べて生きたいんですけどままならなくてね。発掘には資金が必要だし…正直上田教授がうらやましいです」
「はははっ自分の言うのも何ですが、私ほど人から羨望される人間はいませんからね」
「少しは謙遜しろ」
非常に傲慢な事を平気な顔で言う上田に後ろから突っ込みを入れる奈緒子。
「いや本当にお二人は仲がよろしいんですね。一緒に居ると、とても楽しいですよ」
またもや言われたことがない事を笑顔で言うキートンの言葉に、2人は今度は赤面してしまった。
「オホン…えー、キートンさん良かったらお互い情報を出し合って協力しませんか?目的に似ているんだしそちらの方が効率的かと」
「こちらからお願いしたいぐらいですよ」
握手をする二人。奈緒子も混ざろうとするが足で邪魔をしている。
「上田先生!こちらにいらっしゃったんですか?」
などという事をしていると突然奥田が上田に声を掛けながらやって来た。
「奥田さん一体どうしたんですか?」
「グレート・ファイア様が帰ってこられました」
上田たちは奥田にそう促され三人は先ほど見た、大聖堂と書かれたれている大きなホールにに入った。ホールには既に本部に居る全ての信者達が所狭しと集結していた
「一体こんなにどこに居たんだ?」
「ざっと300人は居ますね」
「なーに俺はこれの2・5倍程の人数相手に論文を発表したことがある」
三人が話しているとホールのざわめきが静まり壇上に奥田ともう二人、炎パターンが入ったジャケットを着た中年の男と秘書らしき女性が入ってきた。
「アレが火野炎蔵?」
その男が入場すると信者達の様子が目に見えて豹変し、中には涙を流している者もいる。
「……ファイアー!!」
「ファイアー!!」
火野が叫ぶと信者達は一斉に叫んだ。
「オオニタ?」
「お久しぶりです皆さん。私が留守の間もしっかり修行を積まれたようですね」
火野が続けてこう言うと信者達はそれまで以上に喜びをあらわにした。
「静かに静かに…皆さんの変わらない燃え上がるような情熱はわかりました。話を本題に入れますが今日はお客様が来ています」
会場の視線が一斉に上田達三人に集まる。
「お、落ち着くんだYOUこれからが本番だぞ」
「お前が落ち着け上田!もっと多い人数の前で話したことあるんだろ?」
「上田先生、初めまして代表の火野です。どうぞこちらに上がってきてください」
火野に促され壇上に上がる三人。
「上田先生、改めて初めまして。今日はわざわざ私の力をご覧になりに来たそうで」
「ええ、炎を操ると言う能力をね」
「良いでしょう。日頃から超常現象に否定的な先生が認めたとなれば私と教団にとって大きな名誉だ。では早速、奥田君」
火野はそう言うと奥田紙と天井が開いた水槽を持って来た。
「これからこの紙を私の力で燃やしてご覧にいれましょう。上田先生、仕掛けがないかチェックをお願いします」
水槽と紙を上田に手渡す火野。
「何の変哲もない水槽と紙のようだな…」
「ええ」
「そのようですね」
三人は舐めるようにチェックするが不審な点は見られない。
「よろしいですか?では、」
火野は水槽の中に紙を入れると両手を上げ水槽にかざした。信者達も上田たちも、もちろん火野と奥田も何も言わず聖堂にに静寂が広がった。
「…上田さん何か暑くないですか」
「暑い?まさか奴の力で気温が上昇してるとでも言うのか?バカを言うなYOU」
「いや確かに暑いですよ上田教授」
三人だけではなく信者達も暑さを感じてているようだ。
「はぁぁぁぁ」
急に低くうなりだす火野。すると水槽の中から焦げ臭いが漂い始めた。
「まさか」
「上田教授、見て下さい火がっ!」
キートンが言うと確かに水槽の中の紙には火がついている。
「馬鹿なそんな…」
驚く三人。歓声を上げる信者達。火野は得意そうな笑みを浮かべ懐から水の入ったペットボトルを取り出し紙にかけた。
「どうです上田先生?」
「いやその、あの」
上田は即答できない。
「まだ半信半疑とい感じですね。いいでしょう今日は特別だ、いまから奥田君に火をつけてご覧にいれましょう。」
「はっ!?」
「いきなり何を言い出すんですか火野さん!?」
火野の言葉に驚きを隠せない三人。
「大丈夫です。私の炎は私に敵意の無い人間を焼くことはありません。ねぇ奥田君」
「当然です」
「しかし」
なおも止めようとする上田を無視すると火野は精神を集中させるような構えを始めた。
「んんんんっ…はぁーっ!!」
そう叫び奥田に気孔を送るようなポーズを取る火野。
「来ました来ましたグレート・ファイアの力が…キター!!」
奥田は体を身悶え始める。そうしていると奥田のスーツの背中から煙が立ち込め、ついには燃え始めためた。
当然男の背中がもえだすという、その異様な光景に一瞬唖然となる一同。
「は、早く消さないと上田教授!」
キートンと上田は奥田に慌てて駆け寄る。さらに信者達の歓声が上がる中、奈緒子は不適な笑みを浮かべる火野を睨み付けていた。

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最終更新:2010年01月13日 17:25
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