T×M 炎を操る男 後編(完結)
日本科学技術大学上田次郎研究室。あれから三人は炎の力本部から帰ってきていた。
「……奥田さん本当にどこも火傷してなかったんですか?」
沈黙を破って上田に尋ねる奈緒子。
「ああYOUも見ていただろう。火もすぐ消えたしな」
「じゃあ上田さんもうすぐ敗北宣言しなきゃなりませんね」
「YOUは一体どっちの味方だ!」
憤る上田。しかし今度はキートンが口を開く
「私に一つ疑問あるんですよ。なぜあの時あの会場はあそこまで暑くなったんでしょう?」
「あ、私も思いました。あれが火野の超能力じゃないとすれば…誰かが暖房を操作したんでしょうね」
「しかしそれは何の為に?」
「………上田さん、キートンさんあれ位の暑さで自然発火物質ってありますか?」
「あれぐらいの気温で自然発火するとしたら…燐ぐらいですね」
「リン?」
「番号15!P!の物質だ。非常に燃えやすい性質で30℃程でも自然発火する。マッチなんかにも使われてるな」
「じゃあ、あのとき火野はその燐を使ったんですよ!それなら説明がつきます」
奈緒子は堰を切ったようにトリックの推論を話し始める。
「あの時最後に紙に触ったのが誰だか覚えてます?火野です。その時に手に塗っていた燐を紙に少量つけるんです」
「なるほど、その後は大袈裟なポーズで合図を送って暖房を挙げされば燐が自然発火する」
「ええこれならあの時の紙が燃えた説明がつきます」
「しかし奥田さんの背中が燃えたのは?」
「簡単ですよ。あの時私達は火野に100%集中していましたからね。その隙に自分の背中に燐を塗る」
「まてよ。それだとその場で火がついてしまわないか?」
「それは紙に火がついた時点で暖房を下げればいいんです。後はあの身を悶えている時に擦って火を付ければ火がつきますよ」
「たしかに燐ならそれも可能だな…」
「山田さん凄いですよ。さすがマジシャンですね!」
「普段の私の指導の賜物ですね」
「黙れ上田」
「しかしこれで何とか火野のやった事は超能力などではないと言えるな」
と得意げに言う上田。
「いや…でもひとつ気になる事が或るんですよ教授、山田さん」
「それは?」
「私がね早苗さんに会ったときに聞いたんです。お父さんが教団に殺されたって」
「それは私も知っていますしかし警察は事件性なしと判断したようですし偶然としか」
「偶然にしては出来すぎではないでしょうか?早苗さんの話だと原因の電気スタンドは滅多に使って無かったようですし」
「んー……しかしそれだと火野の力でお父さんは亡くなったと?」
「いやそうではありませんが…もっと情報が欲しいところですね」
「それなら私に任せてください警察にも顔が利きましてね」
「どうせ矢部だろ」
「そうですか警察に…それではそちらは上田教授と山田さんにお任せします。私はもう一人重要な人物と会ってきますから」
「それってもしかして弘樹君ですか?」
「ええ、今日は会えませんでしたけどやはり弘樹君にも会ってみないと」
「もしかしてこれから行くつもりですかキートンさん?」
「荒事は苦手なんですけどね。それじゃあ」
キートンは二人にそう告げると研究室を後にした。
『父さん、ちょっと教えて欲しいんだけど今日本で子供に人気があるキャラクターって何かな』
『なんだ太一。藪から棒に。そんな趣味があったのか?』
『ちょっと仕事で男の子にね。こっちは日本に居ないから知識がないんだよ』
『うーん…そうだな、人気があるのかは知らんが猫科戦隊ニャンダー5ってのはよくCMやってるぞ』
『わかった。ありがとう父さん』
電話を切るキートン。
『なんだあいつ…』
「猫科戦隊ニャンダー5ね」
そう呟いたキートン目の前には玩具屋があった。
午前2時頃炎の力教団本部この時間だけあって静まり返っておりゲートも封鎖されている。
赤い虎のような覆面をした男は安々とそれを乗り越えロータリーに侵入する。監視カメラは幾つかあるが男の動きは的確で捉えられない。
「昼間来た時見ておいてよかった…」
男はそう言うと暗がりを動きながら建物の中へと入っていった。
内部はさらに静かで人影はない。男はなにやら捜している・
「ええっと信者達の部屋は…」
「おいっ!お前ウチの者じゃないな?一体何をしている?」
突然逆方向から声を掛けられる。どうやら見つかったようだ。
「私はレッドタイガーですけど?」
「ふざけた奴だ。その面を外して…うぐっ!?」
覆面の男に素早くみぞおちを殴られると男は言い終わらないうちに倒れた。
「ごめんなさいねっと…」
男はここで修行している信者達の部屋を見つけ入った。中には二段ベットがいくつか並んでいる。そして写真を出すとその写真に写っている少年を探し始めた。
「おっ?いたいた」
写真の少年とよく似た男の子を見つけた。
「弘樹くん、弘樹くん」
「……んっ、なぁに……え?レッドタイガー?」
寝起きに特撮ヒーローの覆面をつけた男がいるので当然のように困惑する少年。
「そうだよ私がニャンダー5のレッドタイガーだ」
「えー…ちょっと信じそうになったけど嘘でしょ?おじさん誰?」
弘樹の夢の無い発言を受けて覆面を外すキートン。
「私はね君のお姉さんに頼まれて君を助けに来たんだ」
「え!?お姉ちゃんが?」
弘樹の表情が変わる。
「そうだよ。君の事をとても心配していたよ。」
「…でも駄目だよ。お母さんも一緒じゃないと」
弘樹は沈痛な表情で呟いた。
「君はお母さんに無理やり連れてこられたんじゃないのかい?」
「ううん、違うよお母さんは悪くないんだ。ここに来たのだって…」
「ここに来たのだって?」
「……ううん、やっぱり言えない」
首を振る弘樹。よほど大事な理由があるようだ。
「弘樹君。会ったばかりだけど私を信じてくれないか?君もお母さんもお姉さんも助けたいんだ」
そう言いながらキートン真剣な目では弘樹の方を見る。しばらく二人は目を合わせていたが弘樹が口を開く。
「…分かったよおじさん。実はお母さんは…」
翌朝上田の研究所には奈緒子と公安課刑事矢部謙三が来ていた。
「無理言ってすみませんね矢部さん。」
「いや~大恩あるセンセのためならお安い御用ですよ。それにウチらもあいつらに(炎の力)には目ぇつけとったんですわ」
そう茶を啜りながら矢部が言う。矢部は二人とは少なからず親交があり共に捜査を行ってきた仲だ。
「んでこれがあいつらの資料ですわ」
矢部はバッグか紙の束を出しテーブルの上に置く。
「まず教祖の火野…こいつは教団始める前はなんや海外でボランティアやってたみたいですわ」
「ボランティア?」
「ええ、なんや現地の人にも評判もよくて炎ような男と慕われとったらしいですよ」
「炎?そのまんまだな」
「けど滞在先で妻子を亡くしてしばらく消えててたみたいなんですわ。そしてその後日本に現われるや今の教団を起しとりますね」
「何か教団を作った事と妻子を亡くした事が関係ありそうですね」
「大方嫁さんと子供亡くしてトチ狂ったやないか?ありそうな話やろ」
そう言うと矢部は火野の資料の下から別の資料を出してくる。
「次にコイツ副理事の奥田浩ノ介。コイツはめちゃくちゃうさん臭い奴でっせセンセ。ええ大学出とる癖に炎の力の前にも色々いかがわしい商売ばっかりやってますわ」
「長生きになる水…健康食品…白イチジク茶?……ふーむつまりあの教団を実務的にとり仕切っているのは奥田か」
「そうです。なんや暴力団とも繋がりがあるみたいですわ」
「だんだん正体が掴めて来ましたね」
「それで矢部さん、早苗君のお父さんの事件は?」
「いやーセンセこれは事故ですわ。自宅のマンションの自室で死んどるんですよ?しかもマンションには鍵かかってたみたいですし」
「第一発見者は娘さんですし、娘さんと加藤信也以外に鍵を持っている人間はいません。娘さんのアリバイもありますし事故としか考えられませんわ」
「でも合鍵を作っていたとしたら?加藤さんは滅多に日本におらず早苗さんは大学生で奥さんの玲子さんは信者。やろうと思えばいつでもできる」
「アホか山田。仮にそうやとしても動機はなんや?」
「動機は多分加藤さんの保険金…殺害方法は加藤さんを何らかの方法で眠らせるかもしくは既に殺害しておく……」
「なんやて?」
奈緒子の推論に驚いて目をむく矢部。
「なるほど、それでその後はスタンドから発火するように細工をして、その後は合鍵で鍵をかけて出れば良いわけか」
「しかしですねセンセ、さっき言ってたのはぜ~んぶ山田の推論ですよ?ウチらの調べでも他殺の証拠らしきもんはありませんし」
「矢部さん。他にも炎の力がらみで同じようなケースの件がないか調べて貰えませんか?」
「なんでや?」
「もし似たような事件があるのならそれは奴らの仕業って事になると思いませんか」
「つまり奴らが信者の家族の保険金を資金源にしていると言いたいのか?」
「そうです」
「それがホンマならとんでもない連中やな」
自覚がないのかまるで人事のように言う矢部。
「まなんにせよ次教団本部に行く時にハッキリしますよ。行きましょう上田さん。」
「そうだな奴らのトリックもこの天才物理学者、上田次郎が解き明かしたことだし早苗君のお母さん達も愛想をつかすだろう!」
そう言って景気よく机を叩いた上田だったが奈緒子には相手にされず、矢部の弱々しい拍手だけが響いた。
炎の力本部へと向かった二人は車を駐車場に止めると本部へと歩き出した。
「しかし一つだけ疑問なんだが、さっきYOUの推理が正しいとして奴らは何で焼死に見せかけるんだろうな?疑ってくれというようなものじゃないか」
「死因とか証拠とかを誤魔化せるからじゃないですか?」
「だからと言って焼死だと聞けば誰だって教団がからんでいると考えるだろYOUのように」
「なにか他に理由があるんでしょうか?」
「どんな?」
「それはその…」
そのまま二人は良い考えが浮かばず考え込んでしまった。その時上田の電話が鳴る。
「はいもしもし上田です。あ、矢部さん。」
電話を掛けてきたのは矢部の様だった。
「はいはい、わかりました。どうもありがとうございます」
「矢部さん何だって言ってました?」
「君が予想していたとおりのようだ。確かに早苗君のお父さんのような件が複数あったようだ」
「という事は限りなくクロじゃないですか」
二人は炎の力の核心へとに近づきつつあった。
「たのもぉー!!」
建物に入るやいなや大声で叫ぶ上田。その声に信者達は驚いてザワザワとしている。
「そんな大声出さなくても良いじゃないですか」
「何を言う。叫ぶことは体にとても良いんだぞ?それに前にも言ったように俺は大声コンテストの優勝経験もあるしな」
そんなやり取りをしていると奥田がやって来る。
「こんにちは上田先生、今日は何の御用ですか?まさか入信されたいとか?」
「違いますよあなた達の嘘を暴きに来たんです」
答えたのは奈緒子だった。
「ほう……分かりました。グレートファイア様はこちらです」
奥田に案内され前回の聖堂に案内される二人。火野は既に壇上にいたが聖堂には前回のように信者達は居なかった。
「今回は信者の皆さんは呼ばないんですか?」
火野は笑いながら答える。
「上田先生があんまり自信満々でいらっしゃものですから、私の不正が暴かれんじゃないかと心配で心配で」
「認めるんですか?」
「冗談ですよ」
意外な火野の言葉に大きく反応する上田だったが即座に否定される。
「それ、冗談になりませんよ」
「これはこれはお嬢さん。手厳しいですね」
「余裕ぶったって駄目ですよ。あなたのトリックは分かっているんですから」
「ほう是非伺いたいですね」
燐を使ったトリックを説明する奈緒子。
「燐ですか…上田先生もお嬢さんも実に聡明な方だ」
火野はトリックを当てられて動揺している様子ではない。
「しかしですねいくら聡明な方がその頭脳を活かしたとしても限界と言う物があるんですよ」
「何が言いたいんです?」
「この世界には理性で捉えられる事ばかりではないという事ですよ」
「そうやって煙に巻くのはやめて下さい。こっちはもう調べがついてるんですよ」
「何の事です?」
「あなた達教団は信者の家族を殺して保険金をえているんだ!」
告発するように言う奈緒子。奥田は驚いた表情で火野は苦虫を噛む潰したような顔だ。
「……心外ですな。それでは私が金のために動いているようですな」
「違うって言うんですか?」
「当たり前じゃないですか!私はね一度たりとも信者の方の家族を、悪く思っていた事はないんですよ。そりゃ理解していただきたいとは思っていたがね」
凄い迫力で一気にまくし立てる火野。
「それにこの教団でお金儲けをしようなんて考えは私にはこれっぽちもない!」
あまりの迫力に反論できない二人。
「どうやらまだ疑っておられるようだ。奥田君!!教団の資金を持ってきてくれ!」
「は、はいっ」
奥田は慌てて走っていった。
「何をするつもりですかね」
「…さあな。ただYOUが火野に火を付けたことは確かだ」
「…おもしろくないです」
しばらくすると奥田がバッグを抱えて帰ってきた
「私が私利私欲のために動いておらず、私の力が本物だという事をこれから証明してご覧にいれましょう」
そう言って火野は奥田から受けとったバッグを開ける。中には札束が入っていた
「どこの国のお金?」
「なに言ってるんだこれは一万円札だろう。火野さんこのお金は?」
「教団の今使えるお金ですよこれで8割ぐらいですか」
「それで一体何を」
「このお金を私の力で燃やしてご覧に入れましょう。勿論燐など使わずにね」
「なんだって!?」
「もったいな!」
火野の言葉に違う反応をする二人。
「それぐらいの事をしなくてはね。誤解されたままは不本意ですから」
「その札束調べさせてもらってもよいですか?」
「どうぞどうぞお気の済むまで」
二人は火野からバッグを受け取り札束をチェックを始めた。
「YOU、ネコババするなんじゃないぞ」
「しませんよ。でもこれだけあったら家賃に怯えなくてよいだろうなぁ」
などと言い合いながら調べるが特に怪しい点は見当たらなかった。
「よろしいですか?奥田君消火の用意はできてるね?では始めましょうか」
火野がバッグをとり机に置くと前回と同じようなポーズをとり札束に念を送る。
「んんぐぐぐっ…かぁーっ!!」
叫ぶ火野。呼応するようにそれに焦げ臭い匂いが立ち込める。
「おおYOU見ろ、煙だ」
上田が言うように札束から煙が上がり始め、ついには火がついた。
「ああ勿体ねぇ!」
そうしている内に火はみるみる大きくなり殆ど札束が燃え尽きると奥田が火を消した。
「ハァハァ…どうです?わたしの気持ちと力が今度こそ、お分かり頂けましたか?それではまた」
大分体力を消費したのか疲れた様子で火野は奥田を伴って去っていった。
「まさか教団の資金を燃やすとはな。しかも手も触れずに」
「ええあんな勿体無いことするなんて…燃やすなら私にくれればよいのに」
ピントのずれたことを言う奈緒子。
「おい真面目に考えろよ!」
「考えてますよ。でもあんなに沢山のお金が燃やされるなんて…ああ勿体無いあれいくらあったんだろ」
だめだコイツと思いながら上田は話題を変えた。
「YOU、もう一つ我々には目的があっただろ。早苗君のお母さんを説得に行くぞ」
「いちまんえん…にまんえん…さんまんえん」
よほど先程の光景がショックだったのか奈緒子は放心状態になっている。
「おう?おい戻って来い山田、山田!モドレ~モドレ~」
上田は必死に呼びかけ体をゆする。そうしていると奈緒子から紙切れが落ちた。
「ん?なんだこれは?」
紙切れを上田は拾い上げる。
「なんださっきのお札の切れ端か」
「よんまんえん…ハッ!?上田さん何やってんですか?」
どうやら正気に戻った様だ。
「それはこっちの台詞だ!まったくあれしきの事で放心状態になるなよ」
「いったい何円あったんだろって考えたらボーっとしちゃって…すいません」
「すこしは金銭と付き合いの有る生活をするべきだな。よし落ち着いたなら行くぞ」
二人は玲子のいる部屋に向かった。
二人は玲子を見つけるといやがる彼女を庭に連れ出し、先日の火野のやった行為の謎解きをしていた。
「……と言う訳ですよ。僕が解明したとおり火野に炎を操る力なんてないんですよ」
「……」
「ちょっ違っ」
抗議をする奈緒子を遮り話を続ける上田。
「それにねあなたの旦那さんをお金目当てに殺した可能性もあるんですよ?」
「そんな…」
「あなただって帰りたいという気持ちがあるんでしょう?ここにいたって、弘樹君のためにもならないし早苗さんだって!」
「もうほっといて下さい!早苗にもそう伝えてください!」
「待ってください」
強引に話を切り上げ去ろうとする玲子だったが畑の方から声がした。
「いや~いいトウガラシでしたねよく育ってます」
声の主はキートンだった。キートンはそう言いながら上田たちの方へ歩いてくる。隣には男の子も一緒だ。
「弘樹?どうしてその人と?」
「お母さん…」
「いやー弘樹君と友達になりましてね」
「一体いつの間に?」
「ちょっと昨日の夜にですね…それでね聞いたんですよ玲子さん、あなたがここに来たわけを」
「えっ!?」
「大変失礼な事を言いますが…玲子さん、昔流産なされたそうですね?」
「どうしてそれを!?」
表情が一変する玲子。キートンは続ける。
「弘樹君に聞いたんですよ。あなた宗教にのめりこんでいったのは流産のショックだって」
「落ち込んでいたあなたは教団のことを知り、教祖の火野に会った。それからあなたは魅入られるように変わっていった…違いますか?」
「……」
なにも玲子は答えないがその表情からはキートンが言っている事は正しいようだ。
「それでですね昨日弘樹君は教えてくれた後に言ったんです。まだ家には帰らない、お母さんは今心が痛いから僕が一緒に居なきゃいけないからって」
静まり返る一同玲子は堪えきれず泣き出している。
「帰りましょう。あなたの事を思う弘樹君のためにも」
「それでも私はグレートファイア様を裏切れない…どうあれ私を救ってくれたのはあの人だから」
搾り出すように言う玲子。その言葉を聞いて奈緒子が話しかける。
「だったらこうしましょう。これから私と上田さんがあなたの目の前で火野のインチキを暴いてきます。それができたら家に帰ってあげて下さい」
「……分かりました」
奈緒子に小声で話しかける上田。
「YOU、ちゃんと勝算はあるんだろうな?」
「もちろんですよ。100%って訳じゃないですけど」
上田と奈緒子、キートンと玲子と弘樹の五人は火野の下へ向かっている。
「そうですか。今度は札束を」
「ええ、私が警察から入手した複数の教団信者の家族が、亡くなっているという事実を突きつけてやったら豹変しましてね」
「しかし燃やすとは、なんとも勿体無い」
キートンは呆れたような調子で言う。
「確かになんとも思い切った行動ですよ。あ、これは燃やしたお札の切れ端です」
「へぇ…ん?」
「私が最初に疑問に思ったこともそこなんです。何も燃やす必要はないですよ何処かに寄付したっていい」
「それは…そうですね。山田さん何か思いついたんですか?」
「さっき上田さんにも言いましたけど、それなりに目星はついてますよ」
「そうですか。最初のトリックといい山田さんは凄いですね。」
「いやいやキートンさんコイツに全幅の信頼は禁物ですよ。私がなんど煮え湯を飲まされたか分からない」
「黙れ上田!考えはちゃんとありますよ。さっきの聖堂に戻りましょう」
聖堂に戻ってくると奈緒子は壇上に上がり机を調べ始める。
「YOU一体なにを探しているんだ?」
「ちょっと話しかけないで下さい……あった!」
奈緒子が机に指をさすとそこには小さな穴が開いている。
「それがどうかしたのか」
「これが火野のトリックの肝なんですよ!キートンさん上田さん手伝って下さい。あいつらビックリさせましょう」
上田に呼び出され聖堂には火野・奥田が来ていた。
「なんですか上田先生急に?」
「実はですねウチの山田が火野さんと同じことができると言うもんで」
奈緒子は演説机の前に立っており机には新聞紙がバッグに入っている。先程火野がやってみせたのと同じ状況である。
「本当ですか?」
「ええ、本気ですよ」
「そうですか分かりました。是非見せてください出来るものならね」
「ではチェックを」
火野と奥田は奈緒子からバッグを受け取り中身の新聞紙を確認する。
「良いでしょう仕掛けはなさそうだ」
バッグを奈緒子に返す火野。
「では始めます……ううう…うにゃーっ!」
火野と同じようなポーズで奇声を上げる奈緒子。火野達は冷ややかな目で見ている。
「まだですかお嬢さん?」
「もう少しもう少し…ん?来てます来てます!」
その言葉に火野達は驚いて新聞紙を見るとたしかにうっすらと煙が上がっている。
「こ、これは!?」
そうこうしている内に煙は大きくなりやがて火が付いて燃え出し、上田が用意していたバケツの水をかけて消火した
「ファイヤー!!…どうですか火野さん?」
「ば、馬鹿な!こんなものはインチキだ!」
「そうですよ」
そうあっさり奈緒子が言うと演説机の下からキートンが出てくる。
「な、なんだアンタは?」
「あなたと同じ事をやっただけですよ」
「どういう事だ!?」
問い詰められトリックの説明を始める奈緒子。
「簡単な事だったんです。この穴を見て下さい」
机に空いた小さな穴を指す奈緒子。
「あなた達はこの穴を使ったんです」
「そんな穴は知らん!」
「とぼけたって駄目ですよ。あの時この机の下に誰かがいて、その人がこの穴からバッグの底に穴を空けて火を付けた…違いますか?」
そう言うと奈緒子は火野を指差した。
「ち、違うそんな事はない!なあ奥田君もなんとか言ってくれ」
「……グレートファイア様いや、火野さんもうやめましょう」
「なんだって!?」
「もう限界です全て上田先生の言う通りだ!警察に全てを話しましょう。私達はこれまでだ」
「何を言ってるんだ奥田君…君まで君まで裏切るのか?」
火野は奥田の肩を掴んで訴えるが奥田は答えない。
「違う、違うんだ私は炎を操る力があるんだ、今度こそ皆を救うために…」
頭を抱えてうわ言のようにぶつぶつと火野は呟く
「今度こそあの時とは違う…」
「火野さんっ…もういい、もう良いんだ……警察に全てを話しましょう」
奥田に肩を抱かれ火野は去っていった。
「行っちゃいましたね」
「ああ、これで早苗君のお母さんも家に帰るだろう」
「火野さんはどうしちゃったんでしょうか?」
「恐らく堪っていた物がトリックを暴いた事と奥田が認めた事で吹き出したんだな」
「…とにかくこれで矢部さん呼んで終わりですね上田さん」
「そうでしょうか?」
話している二人にキートンが割って入る。
「どういう事ですかキートンさん?」
「どうしても気になるんですよねコレが…」
キートンの手元には上田が渡した一万円札の切れ端があった。
本部の裏口中から何かを抱えた人影が出てくる。
「一体どこに行くんですか?」
いきなり声を掛けられうろたえる人影。その間に声の主が姿を現すキートンと上田と奈緒子だ。
「やっぱりあなたが黒幕だったんですね……奥田さん!」
「なんの事です?黒幕って?」
「このお札の切れ端を見て下さい」
キートンはポケットから一万円札の切れ端を出して奥田に見せる
「これ、本物みたいだけどカラーコピーですよ。あなたは教団のお金をこっそりカラーコピーして本物を隠していたんでしょ?こういう時が来たときのために」
「な、なにを馬鹿な」
「ならなぜ逃げようとするんです?」
「そ、それは……」
「最初から全て火野さんになすりつけて、自分は逃げるつもりだった違いますか?」
「何を言うんだ!私と火野さんは仲間だぞ!」
「そうですかね?」
上田も問いかける。
「あなたの経歴調べたたんですがね。あなた怪しい商売をずいぶんやって来たみたいですけど主犯にはどれもなってない」
「つまりそれがあなたの手なんじゃないですか?決して表にはでず、利益だけを得て消える」
「んんん…」
「まだありますよ。今日の火野さんは嘘がばれたって言う様子じゃなかった。自分に炎を操る力があると彼は信じてた…いや、あなたが信じさせていた」
・・・・・
「あなたが裏で火野さんのあの超能力を演出して操って、そして彼のカリスマ性を教団に利用していた。そうあなたこそ火野さんという炎を操る男だったんだ」
「な…なんの証拠があるっ!?全部想像だろ?そんな事は」
「そうですね。なら、ならその荷物を見せて頂けないでしょうか?勿論札束なんて入ってないですよね」
笑顔でそう言うキートン。奥田は図星なのか何も言わず黙っている。
「さぁ奥田さん荷物を見せて下さい」
確認しようと近づくキートンしかし突然奥田が笑いだす。
「くくく…はぁーーはっははは…まったく俺としたことがヘマだったな」
「やはりキートンさんが話した通りだったんですね」
「そうだよ教団を興した最初から最後はこうするつもりだったのさ」
「なんでこんな事を?」
「金だよ金!全部金のためさ火野を教祖に仕立て上げたのも奴の力を演出したのも!」
開き直ったのか地が出ているのか奥田はこれまでとは別人のようだ。
「完璧な計画の筈だった…上田先生のようなおあつらえ向きな、解決役まで現われてくれたのによ!」
「奥田さん……自首してください」
「嫌だね。捕まれば多分俺はもう終わりさ。だから悪あがきさせてもらう」
奥田は手を叩くと裏口から柄の悪そうな男達が出てくる。おそらく奥田と付き合いのあるというヤクザだろう。しかし最後に出てきた三人の知っている人物だった。
「弘樹君!」
玲子と弘樹が男達に挟まれて出てきた。
「上田先生達と探偵さんがこの母子に用があったのは分かってたよ。俺の言いたいことは分かるな?」
「やめなさい!そんな事したって逃げ切れるもんじゃない」
「うるせぇ!この二人が傷ついて欲しくないなら、俺が安全な場所に逃げるまで何もするな!」
そう言うと奥田はジリジリと車の方へ歩いていく。
「…上田教授、山田さん」
「…何ですか?」
「私が今からあいつらの気をそらしますからその隙に二人を助けてください」
「何こそこそ喋ってやがる!?黙れ!」
「せぇー…のっ!」
その瞬間キートンはなにやら白い物を男達の顔に投げつける。
「ぐわっ!?」
「うぎゃっ!」
白い物はぶつかるや否や弾けて赤い粉になり男達は目を押さえ悶える。
「てめぇ何を…うごっ!?」
その隙を見逃さずキートンと上田は得意の格闘技で一人一人制圧していき、奈緒子は二人を助ける。
「ち、ちくしょーっ!」
走り出そうとした奥田だったが後ろからキートンにタックルされ気絶してしまった。
「凄いやおじさん!もしかして本当にレッドタイガーなの!?」
そう満面の笑顔で言う弘樹の言葉にキートンは笑顔で応えた。
格闘劇の後奥田と男達は柱に縛りつらけれて伸びている。
「もうすぐ矢部さんも来る。それで今度こそ終わりだな」
「ええ、私もこれで家族と年末年始を過せそうです」
「そう言えばキートンさん、さっき投げつけたアレ一体何なんですか?」
「ああ、これはこの教団の畑からちょっとトウガラシを拝借して作った即席のトウガラシ爆弾です。役に立ってよかった」
「へぇトウガラシ……キートンさんちょっとそれ貸してください」
「良いですけど何を?」
「こいつらにおしおきですよエヘへッ!」
それからしばらくすると奥田は目を覚ました。目の前には奈緒子がいる。
「…なんだい嬢ちゃん」
「奥田さん今からあなたを燃やします」
「何だと!?」
「人を騙したり殺したりしてきたむくいですよ御愁傷様」
そう言って合掌する奈緒子。
「ふ…ふざけるな!あんたらにそんな事出来るもんか」
「そうですかね段々背中が熱くなって来てませんか」
その言葉が終わるとすぐ火野の背中が燃え出す
「へ、どうせ燐でも塗ったんだろ。俺は騙されねぇぞ!」
「燐ならそんなに熱くなりますかねぇ」
そんな馬鹿な…と思う奥田だったが確かに背中が熱い。燃えるようだ。
(まさかこいつら…本気で俺を?)
「どうです?まだ熱くないですか?」
「嬢ちゃん、なぁ止めてくれよ!アンタだって人殺しなんて御免だろ?」
「悔い改めたら消えるんじゃないですか?それじゃまた」
踵を返し奈緒子と二人は歩き出す。奥田は必死に懇願して叫んでいるが相手にされない。
「ありゃあ完全に信じてるな」
「燐を服に塗ってトウガラシを背中に、直接すり込んであげただけなんですけどね」
「拷問みたいだけど、少しはあれで反省するべきですね」
「あのぅ…皆さん」
玲子に声を掛けられ止まる三人。
「今回のことは…なんてお礼したら良いか…」
「良いんですよ。それより今度こそ帰ってくれますよね」
「早苗は私なんか許してくれるでしょうか?」
「だいじょーぶだよお母さん!お母さんは悪くないしお姉ちゃんそんなイジワルじゃないよ!」
「弘樹君の言うとおり。最初はギクシャクするかもしれないけどまた元に戻れますって」
「そうですね…グレートファイア様と違って私には家族が、早苗と弘樹がいる…やりなおしてみせます、ありがとうございました」
深々と頭を下げる玲子と笑顔の弘樹。三人はそれを見て再び歩き出す。
「これにて一件落着…今回も私が大活躍でしたね上田さん」
「何を言ってるんだ君は。俺が教え子のために大奮闘しただけだ」
「学者の癖に事実を平気で捻じ曲げるんじゃない!」
「まぁまぁお二人とも…あ、もうこんな時間!?」
上田の腕時計が目に入り叫ぶキートン。
「どうかしたんですか?」
「いや今朝に娘と4時に出かける約束をしてまして…それではまた!」
愛娘の百合子との約束を思い出し駆けていくキートン。その背中をボーっと見ている上田と奈緒子。
「……行っちゃいましたね」
「ああ」
「良い人でしたね。キートンさん」
「惚れたのか?」
「バカ言わないで下さいよ。ただこれでもう会えないと思うとちょっと寂しいじゃないですか」
「なに、名刺交換はしたから会おうと思えばまた会えるさ」
「……今度は事件以外だと良いですね」
佇む二人にサイレンの音が遠くから聞こえてきた。
最終更新:2010年01月17日 23:56