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十一話 PERFECTZECTER [黄金の剣] 



「それで、頼んでいたあれは完成したのか?」
 白い壁に包まれた僅かな光が差し込む陰気臭い研究所で、黒いスーツに身を包んだ男が確かめる。
 サイバーエルフが保管されているカプセルの傍で、白衣を着た金髪のポニーテールの女性が頷く。
 二十代前後に見える女性だが、顔は仮面に隠れて確かめることができない。
 もっとも、スーツの男、弟切も右眼を眼帯で包んでいるのだが。
「ようやく完成、といったところね」
 そういって女性はカプセルに手を入れて引き抜いた。計測用のケーブルが巻き付いている黄金の剣が女性、ドクターCLの手にあった。
 弟切が満足そうに頷く。この黄金の機械的な剣は、弟切たちの元の世界で未完成のまま放置されたパーフェクトゼクターなのだ。
「先にドレイクゼクターたちを操作出来るか実験していて助かったわ。私が得た技術で完成できたゼクター、大事に使かってね」
 鈴を転がすような声には一切の感情が宿っていない。
 ぬっ、とさらに人影が現れる。いつの間にか現れた、紫色のアーマーのロックマンが現れた。
 後ろには黒崎と最後のフォルスロイド・スティールエッジ・ザ・アルマジロイドがついている。
 アルマジロを模した白い装甲のフォルスロイドは無言で佇み、白いスーツの巨体をもつ黒崎はパーフェクトゼクターに興味なさげであった。
「フン、なにをしているかと思えば。武器さえ上等なら、天道に勝てると思っているのか? 二度も負けたお前が?」
「好きにほざけばいい。もっとも、フォルスロイドを三体も失って後のない誰かには、俺が負けてほしそうだがな」
 プロメテの皮肉に弟切が嫌味たっぷりに返す。プロメテは笑みを浮かべていたが、内の殺気は弟切へ向けていた。
 弟切もパーフェクトゼクターの柄を握る。元の世界とここの世界で負けたと言われれば、我慢も限界である。
 その間にスティールエッジがスッと割り込んだ。
「こんなことをしている場合ではござらん」
「なんの真似だぁ? 不良品の仲間が」
「……プロメテ殿。確かに我が兄弟たちはいささか性格に問題がござった。だが、その貶める言葉は撤回していただけぬか?
彼らもまた、自分に与えられた任務に殉職をしたのだから。弟切殿も、これ以上拙者の上司を侮辱する発言は控えていただきたい」
 ジロリ、とスティールエッジがプロメテと弟切を睨みつける。物言いは穏やかだが、全身から発する圧力は重い。
 さすがは現在最強と呼ばれるフォルスロイドではある。弟切と互角のコールドエンプレスでさえ、彼には勝ったことがない。
 それでもまだプロメテに不満を向けようとした弟切を、黒崎が先に発言して飲み込んだ。
「スティールエッジ、ここは私の顔に免じて剣を収めていただきたい。プロメテさんも同士の無礼は私が謝罪します」
「かたじけない、黒崎殿」
「…………チッ」
 黒崎の謝罪にプロメテが小さく舌打ちをして承知した。
 こうなると弟切にはもうなにもいえない。乃木はなにを考えたのか、黒崎に弟切以上の権限を与えている。
 黒崎が睨んでくるため、弟切もしぶしぶ了承した。続けて、ギラギラした瞳をここにいない天道へ向けて宣言する。
「では、次は俺がいかせてもらうぞ」
 自信たっぷりに告げるが、周りの反応は薄かった。
 どういうことだ? と弟切が訝しげに思っていると、ドクターCLが説明を始める。
「いいえ、今回の作戦は私と黒崎さんも同行し、天道総司の相手は黒崎さんが。
モデルZXのロックマン、エールの相手はあなたにしてもらいます」
「なに?」
 ドクターCLの決定に弟切は不満を露にする。ドクターCLは弟切の視線を涼しげに受け流しながら続けた。
「パーフェクトゼクターの波長ではカブトゼクターとガタックゼクターに影響を与えるのは不可能なの。
だから弟切さんにはドレイク、サソードを使うエールを相手にしてもらって、天道総司は黒崎さんに一任してもらいます。これは決定事項です」
 ギリッ、と弟切が歯を鳴らしてドクターCLを睨みつけるが、彼女には通用しない。
 天道と弟切の因縁を知っての上だというのが、弟切には余計腹立たしかった。
 弟切は熱くなった頭のまま踵を返し、地面に転がるゴミ箱へ当たってドアをくぐり抜ける。
 誰も弟切へなにも言わなかった。


 弟切の気配が完全に去ったことを確認して、ドクターCLがため息をつく。
「天道総司に関係すると頭に血が上る性格さえ治れば、いい戦士になると思うのに……」
「仕方ありません。ワームはほとんどがプライドが高い。彼もまた、例に漏れずそうなのでしょう」
 黒崎がドクターCLに応えてた。返ってくるとは思わなかったドクターCLは白いのっぺりとした仮面の下で皮肉げに笑う。
 彼に他意がないことは、それなりに交流があった上でわかっている。
 それでも思うのだ。もしかして――――。
「それで、拙者の任務は継続ということでよろしいのですか?」
「フン、お前は特に問題を起こしていない。ビッグドンやダブルホーンと違っていな」
 そういってプロメテも去っていった。スティールエッジは静かにお辞儀をして見送った。
 ドクターCLにとっては、あまりいい印象を持っていなかったフォルスロイドの中で彼だけは別だ。
「それじゃ、また仕事で別れちゃうわね」
「お互い大事な任務があるのでいたしかたなし。ドクターCL殿、貴殿もお気を付けて」
「ええ、あなたもね。送ろうか?」
「私が送りますよ。ドクターCL、あなたは働きすぎだ。次の任務までゆっくり休んでください」
 黒崎にそう告げられて、ドクターCLは肩を竦める。
 記憶のなかの彼女にとって一週間睡眠時間が一時間であることは苦痛ではない。
 もっと過酷な時を生きてきた。だが、黒崎は気を遣っていってくれた。見たところ、スティールエッジも同意のようだ。
 ドクターCLは二人の好意を受け取ることにする。
「わかったわ。それじゃ、二人とも。またね」
 スティールエッジも黒崎も頷いて、扉をくぐり抜ける。
 二人が意気投合しているとはじめて知ったときは驚いたものだ。
 黒崎は謎が多い。趣味嗜好も、元ZECTのライダーでありながらなぜワームに協力するのかその目的も。
 その彼がスティールエッジには心を許し、彼を通じてドクターCLを気にかけている。
 黒崎の無言の優しさが、かつての“彼”を思い起こした。
 ドクターCLは久しぶりにベッドへ横になる。すぐに可愛らしい寝息が部屋に訪れた。


 スティールエッジが乗っている車が離れていくのを見つめ、黒崎は黙ったまま振り向いた。
 一歩床を踏んだ瞬間、周囲の景色が変わる。どこかの街の噴水。青かった空は夜の闇が広がっている。
 噴水の水は凍りついて、よく見ると周囲の爆発や落ちる瓦礫がそのままの状態で固まっていた。
 クロックアップを超えるフリーズの景色はこういうものだろうか、と黒崎は感想を持った。
「仮面ライダーコーカサス。用件はわかっていますね?」
 黒崎は視線を移動して、暗い闇のなかでハッキリと存在感を示す白い服の青年を見つめた。
 茶髪に細い体つきの青年。肩にはコウモリに似ている謎の生物が乗っている。
「またアナタですか」
「仮面ライダーコーカサス。決着の時は近い。世界の選択が迫っています」
「わかっています。あなた方……世界とやらにいわれなくても天道総司と決着は着けますよ。
…………あなた方の言いなりになるかどうかは別ですが」
「ひとまずはそれで構いません。七番目の物語を継ぐもの……その存在がアナタなのか、天道総司なのか。見届させてもらいます」
 そういっていつか渡と名乗った青年は姿を消した。
 同時に景色が戻ることも知っている黒崎はただ黙して待つ。
 余計な真似を、と黒崎は態度で示して凛と立っていた。

□

 ガーディアンベースから降り立ち、コートを羽織ったプレリーは金の長髪を風になびかせて周囲を見渡す。
 荒れ果て、一面真っ黒焦げの地面と建物。雪が積もって人気のない道が続く。
 プレリーが周囲の被害を確認しながら進むと、避難所に指定された数少ない形の残った建物へと進む。
 市民会館へと足を運んだプレリーは眉を寄せて唇を噛んだ。
 聞こえてくるのは嘆きの声。視界に入るのは並べられた死体に泣きつく遺族。
 半月程度しか経っていないのに二度目にすることになった光景が、プレリーの心をギュッと締め上げた。
 ガーディアンに街一つが火災に飲み込まれ、被害が甚大であるという連絡が届いたのはすべてが終わってからだ。
 ワームの総攻撃があった街に半数のガーディアンのメンバーを残し、もう半数で事後処理をすることになった。
 キツイ仕事だったと思う。だけどガーディアンメンバーはよく応えてくれた。
 しかし、ガーディアンが存在していた街とは違い、遅れてやってきたこの街の被害は甚大だ。
 街一つ飲み込んだ炎の勢いは凄まじかった。
「リーネ、リーネ! 目を覚ましてくれ……お前のオヤジにあわす顔がねぇ!!」
 泣き叫ぶ厳つい男性を見つめてプレリーは目を伏せる。
 ここに居るヒトたちは大切な家族や恋人、親友を失ったヒトたちだ。プレリーになにも言えるはずがない。
 だからこそ、プレリーができることは一つしかない。
(目撃証言から察するに、フォルスロイドとロックマンVAVAの戦いに巻き込まれたってこと……。
こんなこと放置はしておけない。私たちが止めてみせる……ッ!)
 プレリーの瞳が決意の炎で燃え盛る。
 ロックマンVAVAへの怒りがプレリーを動かした。


 フォルスロイドの残骸を前にエールは思わずため息をつく。
 白い息が可愛らしい唇から漏れて、エールはあらためて寒いことを実感した。
「ほら、マフラーだ。ちゃんと着込まないと風邪をひくぞ」
「わかっているって! それにしても天道、これは本当にたった二人で引き起こした事態なのかな……?」
「証言と奴の能力から考えればほぼ間違いはない」
 エールの疑問に長身の整った顔立ちの青年、天道が答えた。
 豊かな黒髪にさすがに防寒具を着込んでいる天道はしゃがんでフォルスロイドの様子をみている。
 同じく防寒具を着込むエールもまた、その様子を真剣に見つめていた。
「詳しく調べないとわからないが、氷系統の攻撃手段をもつタイプか」
「多分ね。アタシたちじゃなくてペンテへ向かったってことは、裏切り者を倒そうとしたのかな?」
「そうだろうな」
 天道がエールに同意して周囲を見回す。街を飲み込むほどの炎の中心地だ。
 地面が黒く焦げて、降り積もる雪ですら白で染めることはかなわなかった。
 煤で焼け焦げたフォルスロイドだけが放置されている。近くで黒焦げになり誰か判別もつかない街の住民はすでに回収されていた。
 エールは奥歯を噛んで目の前が真っ赤になる。ロックマンの力をただ破壊だけに使うペンテをとても許せそうにない。
 これではまるでイレギュラーだ。
(あいつはアタシか天道を狙ってくる。次に会ったときが最後よ、ペンテ)
 二度とロックマンに変身させない。エールの怒りはイレギュラーのロックマンに向けられた。


 モデルXは周囲の風景を見ながら、モデルVAとなったレプリロイドのことを思い出していた。
 シグマと呼ばれた最大のイレギュラーの最初の反乱とともに敵として現れたのが最初だ。
 イレギュラーを狩るものとして存在していたときから、VAVAと呼ばれた男は凶行を続けていた。
 VAVAはモデルXのもつ無限の可能性を否定し、鬼【イレギュラー】こそが可能性であると主張を続けていた。
 いや、きっとライブメタルとなった今も主張を続けている。
 だからこそエールとモデルXの前にこうして立ちふさがってきたのだ。
 かつてVAVAはいった。
『鬼【イレギュラー】がぁ!』
 二度戦って、二度怒りの感情にモデルXは飲まれた。
 エールは大丈夫だろうか。
(……大丈夫だ。エールは僕と……俺と違って強い……)
 モデルXはかつての自分を呼び方“俺”を懐かしそうに内心でつぶやく。
 エールは内心のイレギュラーを恐れながら、負けずに立ち上がってくれた。
 彼女の勇気は自分が見込んだ以上だ。そして彼女を支える仲間がいてくれる。
 モデルVAとの決着が近いことを感じながら、エールなら大丈夫だとモデルXの信頼が胸に満ちた。

□

 街の復興を手伝いながらペンテとモデルVAの行方を追っていた天道とエールは、久しぶりにガーディアンベースの通路を歩いていた。
 普段はガーディアンの隊員でごった煮返している通路が、今はどこか寂しい。
 多くの隊員が被害の大きい街二つにかかりきりだからだろう。
 司令室に現れた天道とエールを、艦長席に座るプレリーと傍にいるフルーブが迎える。
 同時にエールと天道は顔をしかめた。プレリーの目の下に、うっすらとクマができているからだ。
 また無茶をしたのだろう。
 二人が呆れているのにも気づかず、プレリーが説明を開始した。
「忙しいところを無理にきてもらって申し訳ありません」
「それは構わないが、プレリー。お前こそ休むべきだ」
「大丈夫です。……それに、お姉ちゃんならこのくらいこなしたはずですから」
 答えるプレリーの語尾は僅かに小さくなる。それほど姉はプレリーにとって存在が大きいのだ。
 二年近い付き合いのエールでもそれくらいはわかる。
「それで、天道さん、エール。次のモデルVの位置がわかりました。そこに向かい、基地を襲撃してモデルVへの道を開けてください」
「わかった。モデルVを調査するの?」
「ええ、敵の本拠地を突き止めるのにこれ以上時間を掛けることはできない。私とフルーブが直接乗り込んでモデルVを調べるわ。
イレギュラーを殲滅して安全を確保しきったあとでは、彼らへの道のデータは失われている可能性が大きい。
エールは天道さんと一緒に、解析する私とフルーブを護衛して欲しいの」
「それはもちろん構わないけど……プレリー。少し焦りすぎなんじゃ……」
「わかっている。けど、もうこれ以上被害を増やしたくないの。お願い、エール」
 真剣に見つめるプレリーの瞳に、エールは困ったように頭をかいた。
 天道はどうだろうか、と見ると彼が前に一歩でる。
「わかった。俺とエールが全力をあげて守ろう。エールもそれでいいな?」
「う、うん……」
「よかった……では、当日はよろしくお願いします。天道さん、エール」
「ただし、一つ条件がある」
 天道が人差し指を天に指してプレリーの言葉に割り込んだ。
 あっさりと引き受けるか、なにかしらの理由で拒否するかのどちらかだと思っていたエールは少しだけ驚く。
「向かうのは二日後、そしてプレリーはその二日間休むことだ。引継ぎは俺とフルーブがやる。
エールと息抜きをしていろ。いいな、エール?」
 そういうことか、とエールが微笑んだ。プレリーは抗議しようとするが、その手をエールが握ってにんまり笑みを浮かべる。
 逃がさないよ、と言外で告げた。
「で、でも……」
「大丈夫ですよ。後は私と天道さんでなんとかしますから、プレリーさんはエールさんと一緒に骨を休めてきてください」
 フルーブが告げてもプレリーの顔は曇っている。
 追い打ちをかけるように、オペレーター席の女性隊員が声をかけてきた。
「そうそう、プレリー様は働きすぎですよ」
「休むことも仕事の内です」
「私たちも手伝うから、プレリー様は羽根を伸ばしてきていいよ~」
 ガルデニア、テュリップ、マルグリットが続けていうと、エールはプレリーの手をとって引っ張った。
 ひゃあ、と可愛らしい声をあげるプレリーを容赦なくつれていく。
「じゃあ、みんな後はよろしく! さあて、どこ行こうっかな~♪ その前に着替えが必要よね~♪」
「ちょっと、エール!?」
 エールはそう機嫌よく告げてプレリーを部屋に押し込んだ。
 よそ行きように着替させるためである。「自分で着替えるから!?」って叫ぶプレリーに構わず、エールはワキワキと両手を怪しく動かした。

□

「それで、二日間楽しめたか?」
「もうバッチリ。プレリーはしっかり寝かしつけたしね」
 プレリーが聞いたら「私は子供じゃないわ、エール」と呆れそうなことをエールは平気でいってのける。
 いつもの青いジャケットに白い短パンのいで立ちのまま、エールは目の前のモデルV発掘基地へとやってきた。
 岩肌が露出した採掘場にカモフラージュをしているが、たびたび周囲を警戒するメカニロイドはイレギュラーたちが使っているものだ。
 警備は厳しそうだと思いながらエールはモデルXを取り出す。傍にいた天道もカブトゼクターをつかんで立っていた。
 エールが左手にモデルZを掲げ、右手に握るモデルXを前に突き出す。
 天道は左肩まで右手のカブトゼクターを上げて、エールと同時に叫んだ。

「ダブルロックオン!」
「変身」

 それぞれの電子音とともに、エールは赤の装甲を、天道は銀の装甲をまとって戦士となる。
 エールは右手のセイバーを確かめて正面の扉を見た。
「プレリー、こっちは準備OK」
『わかった。少し待っていて。今扉を開けるから……よし』
 プレリーの言葉通り、扉が開いてエールを誘う。
 カブトと頷いてエールは内部へと飛び入った。そのエールをガレオンの銃撃が迫る。
 エールとカブトは冷静に弾道を見極めて跳躍した。エールとカブトが蹴った地面が蜂の巣にされる。
 エールはその様子を見ずに壁を蹴って加速した。ガレオンの懐に入り、ZXセイバーを横に一薙ぎ。
 ガレオンの残骸が転がるエールの右隣に、カブトが遅れて降り立った。
 マスクドフォーム特有の重厚な着地音と一緒に空から残骸が降ってくる。
 カブトが天井のヤドカリ型メカニロイド・エレキダーツを撃退したのだ。
「先に進むぞ、エール」
 カブトが告げてエールは頷いた。ここにはどんな敵がいるのか見当もつかない。
 気を引き締めるのは当然だった。二人は長く続く通路と、銃を構えるガレオン・ハンターを前に地面を蹴った。

□

 ハニワを模した空を浮かぶ巨大なメカニロイドの両の瞳が輝いた。
 赤く軽装な姿のカブト・ライダーフォームは地面をレーザーが走ると同時に蹴って宙を浮く。
 左隣に並ぶエールのセイバーとともに、カウントを終えたカブトゼクターの角を倒す。
「ライダーキック」
「こいつぅっ!」
 エールのチャージセイバーとカブトのライダーキックがクレイド・ザ・ジャイアントの瞳を通じて内部に衝撃を与える。
 暴走する二人の衝撃に巨大なメカニロイドの全身に亀裂が入り崩壊した。
 バラバラになって深い崖さきへと落ちていく残骸に目もくれず、カブトとエールは巨大な機械の塊を見つめた。
 モデルVと呼ばれる巨大な機械の塊の形状はどこか勾玉に似ているな、とカブトは思う。
 破壊する前にモデルVからデータを引き出し、どこへ帰投する予定だったのが探るのが今回の目的だ。
 エールへ視線を送ると彼女は頷き返してきた。カブトは神速の動きでクナイガンの斬り筋を壁へ作る。
 同時にエールがチャージショットを壁へ当てた。爆発音とともに煙があがる。その様子を見つめてカブトは見つめた。
「これで道はできたな」
 カブトのつぶやきの通り、壁の残骸が弾けてヘリ一台が通る道をつくる。
 すかさずエールが通信機をONにしてプレリーに合図を送った。
「プレリー、大丈夫よ。道は確保したし、アタシたちが守る準備もできた。けど、気をつけて」
 通信機からプレリーが了解と告げる音がカブトに聞こえる。
 守らねばならないと周囲を警戒するが、やがておかしいことに気づく。
 エールへ向くと、彼女もとっくに察しているようだった。
 少しだけカブトは嬉しくなる。彼女も周囲を見る余裕ができた。
 若い者の成長とは早いものだ。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
 カブトは静かに周囲をみやる。敵の手が読めないのなら、迎撃の準備を整えておくのが常道だ。
 やがてヘリのローターを回す音が聞こえてくる。カブトは黙ってプレリーを待った。


 バリバリとうるさくなるヘリコプターからプレリーは髪を抑えながら降りてきた。
 運転を任せているモリュに礼をいい、分析のサポートをするフルーブとともに降り立つと警戒をし続けるカブトとエールがいた。
「ありがとうございます、天道さん、エール。後は私が……」
「気をつけて、プレリー。……明らかに敵は誘っている」
 プレリーの真剣な面持ちにプレリーは表情を引き締める。
 そういう可能性だって考慮していた。だからこそ余計に退くわけにはいかない。
 顎を引いて一度だけ頷き、プレリーはモデルVを観察するコンピューターのパネルへ指を走らせた。
 モニターに現れる数値を流し読みして、自前のコンピューターでデータをコピーしているフルーブにチェックも頼む。
 ハッキングソフトを起動してコンピューターに直にかけたとき、モニターに『ERROR』とでた。
「離れているならともかく、お姉ちゃんの開発したツールを直に使っても……?」
「ええ。そのツールが使われることを想定してセキュリティソフトを構築したの、アルエ……いいえ、プレリー」
 凛とした声に驚いてプレリーは顔をあげる。同時に二つの金の影がエールとカブトを襲った。
 エールとカブトが分断され、エールには仮面ライダーザビーが、カブトには仮面ライダーコーカサスがそれぞれ対峙していた。
 一気に戦力を投入してきたことにも驚いた。しかし、プレリーの固定された視線を動かすことはできない。
 プレリーの視線は現れた一人の女性に向いている。
 流れるような長い金の髪を束ね、ポニーテールを形作っていた。
 赤に近い桃色の袖のないジャケットとスカート。さらに白衣を羽織り、スラッとした手足の長い細身の身体。
 二十代前半で時を止めたような女性が階段を降りて姿を見せる。
 白いのっぺりとした仮面で顔を隠しているが、プレリーがその声を聞き間違えるはずがない。
 フルーブがプレリーの傍で「そんな馬鹿な……!?」とうろたえている。
「お姉ちゃん……?」
「…………久しぶり、でいいのかしら?」
 どこか疲れたような声の主は一つため息をつく。ドクターCLと弟切に呼ばれていた女性はプレリーに顔を向けた。
 もっとも、白い仮面があってはいかな表情を浮かべているか、知る術はない。
 それでもわかってしまった。プレリーが会いたかった存在、プレリーが愛した存在がそこに立っていたのだと。


「お姉ちゃんって……プレリーが会いたがっていたあの……ッ!?」
『うろたえるな! キサマ、まずは仮面を取れ』
 モデルZが冷静に叫び、ドクターCLが仮面に手をかける。
 エールがザビーを警戒するが、ザビーの二つの瞳は攻撃の意思を今のところを見せない。
 確かめる方が面白い、とでも考えているのだろう。思考が外に漏れている。嫌なやつだ。
「モデルZ、これで満足?」
『…………ああ。確かにお前はあいつだ』
 仮面をとった女性の蒼い瞳が淋しげにモデルZを見る。やや右上がりの細い眉。薄く優しげな口元。
 そして儚さを宿した可憐な顔が憂おいに満ちると、同性のエールでもドキリとする魅力があった。
『ただし、外見はな。ワームには“擬態”能力があることを忘れてはいない。そうだろう、エール、プレリー』
「そ、その通りです! あのヒトがワームに手を貸すことなど……」
「ないでしょうね。ああ、安心していいわよ。オリジナルの私は生きているはずだから。どこにいるかは、私でもわからないわ。
今の私はドクターCL。この世界に現れた最初のワームよ。よろしくね」
 フルーブの言葉を肯定してドクターCLは再び仮面をかぶる。エールは疑問に思うことがあった。
 なぜ自分をワームだとわざわざ告げたのだろう。
 モデルZは擬態だと言い切ったが、そんな証拠はない。本物のフリを続けこちらを混乱させることもできたのに、なぜ――。
「よそみをしている場合か?」
 エールは声に反応する前に、セイバーを構えて襲ってきた黄金の刃を受け止めた。
 甲高い刃の交わった音を聞き届け、エールは後方に跳躍する。
「邪魔よッ!」
「それはこちらの台詞だ、ロックマンのガキ。キサマを殺し、天道総司をこの手で血祭りにあげてやる……」
 執念を感じさせる相手にエールは不快感を顔に出した。
 クロックアップに対抗するためドレイクゼクターを呼び寄せる。
 ドレイクゼクターがエールの周囲を舞い、「クロスロックオン!」とかけ声と同時にザビーが低く笑う。
「バカめ」
 ザビーのもつ黄金の剣が光の波が放たれ、ドレイクゼクターに届く。
 その瞬間ドレイクゼクターはエールを離れて黄金の剣に装着された。
「なっ……!?」
『エール、あれは剣に見えるけど、ゼクターを呼び寄せる新しいゼクターだ。僕と違って他のゼクターの力を引き出すことに特化している……マズイ!』
 モデルXの忠告と同時に、ザビーのもつ剣が銃へと変形する。
 青いボタンを押したと同時に黄金の銃から電子音が響いた。
『HYPER SHOOTING!』
 その電子音を聞いてエールは危険を察する。多くのイレギュラーを葬ったドレイクの最強技に似た電子音。
 大きく横に跳び、直進してきた光弾を避けた。
「甘いな」
 愉悦に満ちたザビーの声にエールが疑問を浮かべていると、光弾が弾けて分裂する。
 光弾が軌道を変えながらエールの胸に直撃し、エールは吹き飛んで壁に背中を強打した。
「か……は……」
「フン、なかなかいい性能だ。パーフェクトゼクター……実験台にはちょうどいいか」
 冗談じゃない、とエールは唇を噛み締める。立ち上がってチャージショットを放つが、ザビーの姿が掻き消えた。
 エールが防御を固めると重い衝撃が四度身体を通り過ぎ地面を転がった。
「クロックアップのできないキサマなど、ただの的だしな」
 ザビーの言葉に悔しげにエールは呻く。高速移動をやめたザビーは嬲るようにエールを見ていた。
(……サソードを使ってもその瞬間に奪われる。頼みのクロックアップは使えない。あのパーフェクトゼクターとやらは強い。まいったな)
 圧倒的不利な状況にエールは思わず内心ひとりごちた。
 ああいう武器を開発していたのなら、クロックダウンチップを一つでも奪っておくのだった、と後悔をする。
 それでもエールの瞳に諦めの感情はない。防御を固め、訪れた危機を前にエールは頭脳をフル回転させて打開策を探った。


「エール……ッ!」
「相変わらず甘いようですね、天道総司」
 ドレイクゼクターを奪われる様子を見せつけられながらも、カブトはコーカサスを前に動けずにいた。
 コーカサスの右拳がカブトの脇を狙って迫る。後方に跳躍することで直撃を避けるが、かすっただけでもその重さが衝撃となって伝わる。
 相変わらずでたらめな強さであった。カブトはクナイガンを構えてコーカサスを見つめる。
 プレリーもエールも危機に陥っている今、全力で相手を倒すことこそカブトに取れる唯一の手だ。
「そこをどけ。お前を相手にしている暇はない」
「あなたはそうでも、私にとってはそうではない。そして、世界にとっても……」
 コーカサスが意味深なことを告げて、カブトが疑問を浮かべる前に距離を詰めてくる。
 一瞬の間も必要もない速度に、カブトも神速をもって対応した。
 クナイガンの刃の軌道がコーカサスの槌とも言える拳の衝撃とぶつかって互いに弾き飛ばす。
 コーカサスとカブト、二人の青い複眼が互いを見つめて呼気を整えた。

「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」

 どちらの口からともなく、戦いへの咆哮がモデルVを収める部屋に轟く。
 カブトが激しさを見せたのは先ほどの一度。いつものように無駄のない流麗な動きでコーカサスの剛腕を逸らし続ける。
 衝撃でカブトの身体が右へ左へ流されるが、辛うじて直撃を避けて距離を詰めた。
 カウントダウンを終えたカブトゼクターのホーンを戻し、電子音とともにタキオン粒子を右足に纏う。
 同時にコーカサスも右手にタキオン粒子をたたえて、カブトの回し蹴りとコーカサスの拳が衝突した。
「ぐぅぅぅ……」
 どちらの口から漏れたかも分からないうめき声。二人は一歩も退かない。
 足を、拳を押し込んでやがて衝撃波が部屋を走った。

□

「ぐっ!」
 変身が解け、必殺技が相殺する反動のまま地面をバウンドして天道はうめいた。
 寝てはいられない。すぐに立ち上がり、敵を睨む。黒崎もまた、変身が解けて天道と同時に立ち上がるのを成功していた。
 互いの荒い息遣いが聞こえる。天道はゆっくりと周囲を見回し、違和感を感じた。
(ここはどこだ?)
 岩肌が露出し、モデルVが部屋の中央に鎮座して円環状に廊下があった部屋とは違う。
 夜の闇に空は染まり、整えられた石畳の地面に水が動きを止めた噴水。さらに遠くへ視線をやれば爆発が止まって見える。
 天道と黒崎の間をコウモリのような生物が通り、足音が聞こえた。
「ようやく決着を着けるときがきましたか。黒崎さん、天道……天道……」
「天道総司だ、渡」
「ありがとう、キバット。天道総司さん」
「そんなコントを見せるために、俺たちをここに連れてきたのか? 早く戻せ」
 現れた白い服の青年、渡に天道はにべもなく告げる。
 渡は少し面食らった様子をみせて、咳払いを一つした。
「えーと、その点は大丈夫です。確かここは時間が止まっていて、戻っても時間差はないはずですから」
「ほう。そういうことか」
 天道は渡の説明に苦笑し、視線をゆっくりと移動する。
 どこかでみられる感覚。これはあのとき、七年前に戻ったときと一緒だ。
「なんの用だ? 世界を壊した俺に、破壊を嫌う世界が?」
 天道の問いに渡が驚いた。そもそもこの世界に天道が訪れたことが疑問だったのだ。
 この天道総司は自分の世界を壊している。これは変えようのない事実であり、自ら望んだ所業だ。
 世界は軽くない。一つの世界の消滅はそれこそ永遠のときの中で苦しむこととが相応しい。
 楽に死ねるとは思っていない。だがなにも知らず、なにも苦労せずこの世界に天道が存在している。
 その状態が続いているということは、世界はなんらかの異常を見つけてしまったのだろう。
 “世界を破壊した天道総司”にすら頼らざるえない機会を。
 彼はそのメッセンジャーといったところか。
「……察しのいい人だ。世界は破壊をしたあなたを生かしている。この世界にワームがいたことは想定外でしたが……それでも世界はあなたに猶予を与えざるを得なかった。
…………なぜなら、ディケイドが生まれ多くの世界が滅びに向かっているからです」
 天道は渡の言葉に片眉を潜めた。その言葉の真意を確かめるように続きを待つ。
 渡の唇が動き、さらに天道へと真実を告げた。

□

「エール!」
 銃弾が直撃したエールに、思わずプレリーは叫んだ。
 エールは両足を踏ん張って銃撃に耐え、親指を立てて無事であることを示す。
 それも長くは持たない。天道は強敵、コーカサスを相手に苦戦をしている。
 打開策はないか、プレリーは視線を初代司令官……いや、ドクターCLという名のワームに向けた。
 攻撃を仕掛ける様子はないことにプレリーは訝しげる。
「……ずいぶんとやつれているわね。プレリー……ちゃんと休みはとっているの? 司令官をやるなんて意外だったわ。あなたは優しいから……」
「やめて! そんな……アナタがお姉ちゃんみたいに言わないで!!」
 ドクターCLの言葉にプレリーは全身で拒否を示す。
 懐かしそうに、愛しそうに告げるドクターCLの言葉など罠に決まっている。
 ガーディアンのメンバーやプレリーを惑わしてその隙を突く。
 今までワームがとってきたと思われる戦法だ。
「そうね。それが当然の反応だわ。ごめんなさい」
 だから寂しそうな声も、戸惑って歩みを止めたような仕草も、すべては罠にはめるための動作なのだ。
 そうに決まっている。そうでなくて、他になんの理由があるというのだ。
「……私にそんな資格がないのはわかっているけど……プレリー。顔をよくみせて」
 プレリーは顔をあげて、ドクターCLを見つめた。
 仮面の下なのに明確に安堵の表情をして、口元に微かに笑みを浮かべているのがわかる。
 肩が揺れたのはプレリーに声をかけようとして戸惑ったのだ。
 ワームとはそういう生物だ。擬態した相手の癖から性格、記憶に技術を得れる脅威の生命体。
「お姉……ちゃん……」
 それでも無意識にプレリーはつぶやく。プレリーの感情をとどめていた枷が外れた。
 フルーブが驚愕の表情をプレリーに向けて申し訳ないが、止められない。
 そもそも、ドクターCLの行動はおかしかった。
 ワームであるなど黙っていればよかった。仮面などかぶらなければ、もっと効果的にプレリーたちに揺さぶりをかけれた。
 なのにその手をとらない。その方が効率的でもあるに関わらず。
 思考がそこへ至った瞬間、プレリーは理解してしまった。
 そう、ワームは擬態した相手のすべてを得られることができる。だがその“すべて”は個体差があった。
 目の前のワームは、ドクターCLは……。

「…………お姉ちゃんの心は……そこに……あるの……?」

 プレリーの言葉にドクターCLは静かに首を振って否定する。
 優しい嘘。
 彼が……ゼロが死んだのか? とプレリーが質問したときと同じ否定の様子。
『ゼロはきっと生きているわ』
 彼女自身そうであって欲しいという願望をにじませながらも、プレリーを心配させまいとした優しい否定。
 彼女の身体はワームだ。だけど、その心はジルの事件と同じ。
 初代司令官であり、プレリーの姉であり続けた最愛の人。
 その心が目の前の女性とともにあった。


To be continued……


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最終更新:2010年01月28日 12:41
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