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十二話 SISTERS [姉妹] (前編) 



「…………これが、ディケイドが生まれたことによって、僕たちがとろうとしている手段です」
 時が止まった噴水の上に浮かぶ白い服の青年が天道へ告げた。
 天道の癖の強い黒髪が月光に照らされ、宙に浮かぶ渡へと鋭い眼光を向ける。
「だいたいわかった」
「そうですか。それでは…………」
「だが、了承するとはいっていない。お前たちを信用できないからな」
 そういった天道を前に、渡が目を白黒させた。拒否されるとは思っていなかったのか。
 ずいぶんと世間知らずだ。
「確かに僕たちを信用してください、と言うのは無理かも知れない。けれど……そういっている場合じゃないんです」
「そうか。ならば俺はお前たちとは別の道を往く」
「天道さ……」
 渡の表情が険しくなると同時に、白い影が迫るのを天道は視界の端で発見した。
 右手で衝撃を流しながら、白い影の正体である黒崎と位置を交換する。
 ザッ、と踏み鳴らし、黒崎を睨みつけた。
「紅さん、そこまでにしてもらいましょうか」
「黒崎さん…………」
「アナタたちがどうなろうと私の知ったことではありません。ですが、天道総司との決着はここで着けます。元の世界へ戻してもらいますよ」
 そういって黒崎が右手のライダーブレスを輝かせた。天道もベルトを腰につけて右手を構える。
 空中を舞うコーカサスゼクターとカブトゼクターが数度衝突し、それぞれの手へ収まった。

「「変身ッ!」」

 二人が同時に叫び、世界の色が変わる。
 仮面ライダーカブトへと変わる瞬間、天道は確かに視界の端でため息をついている渡をおさめた。


 元の世界へと戻った二人を見届け、渡は思わず肩を落とす。
 キバットが周囲を飛び回り、「大丈夫か? 渡」と聞いてくるが答える気力はない。
 実を言うと、渡にとっても天道が世界の命令をきくかどうかはどうでもよかった。
 最初自分が聞いたときも思わず、『なにそれ?』と言ってしまったことがあるからだ。
 ディケイドの存在は脅威だが、世界とやらも胡散くさくてたまらない。
 その使いとなって伝言を伝える自分がどれだけ馬鹿らしいか、考えるだけで身悶えしそうだ。
 名護が聞いたら、『渡くんには向いていない。私に代わりなさい』といってくるだろう。
 名護に任せたら天道と衝突するのが明らかなため、絶対にあの人だけには譲れないのだが。
 けど、一つだけ問題がある。世界への天道の伝言よりも、渡はそれが気になり思わずつぶやいた。
「……あの人、このままじゃ消えちゃうけど、どうするんだろう……」
 それは純粋に天道の身を案じた言葉である。
 渡はどこまでいっても、お人好しそのものだった。

□

 戦闘によって生まれる衝突音が響き、振動が数百メートル離れているプレリーたちにも届く。
 岩肌が露出した壁に、コンクリートで固められた螺旋状の地面。
 大きな部屋の中央には十メートル近くある巨大な勾玉状の機械、モデルVが鎮座していた。
 モデルVを観測するコンピューターの前で、数人の男女が一人の女性と対峙している。
 プレリーと同じく長い金髪をポニーテールにくくり、赤に近いピンクのジャケットとスカートを着た女性。
 白衣を羽織る彼女はガーディアンの先代司令官にして、プレリーの姉である女性と同じ心をもつワームだった。
 プレリーはそのワーム、ドクターCLを前にして言葉を失っている。
 フルーブはドクターCLと、先代司令官の差異を探そうとして、逆に彼女であることを悟りつつあった。
 モリュはヘリから降りてプレリーを守るように立っているが、ドクターCLに銃口を向けようとして向けられず戸惑っている。
 そうして迷っている彼らの前で、ドクターCLは後ろで戦っている四人からプレリーへと視線を移動して止めた。
「私はあなたの姉じゃない。あなたの姉の記憶はあっても心はないわ」
「じゃあ、なんで……」
 自分に気を使ったのか、というプレリーの言葉をドクターCLが遮る。
 声からは感情が感じられないが、先ほどまでは確かに温かいプレリーの姉の心があったのだ。
「プレリー。アナタに貸したガーディアンの力を私に返してくれないかしら? ああ、アナタが司令官のままで構わないわ。私に必要なのはガーディアンの力なの」
「…………いったいなんのために必要なの?」
「私たちワームの生き残りをこの世界に呼ぶためよ。ハイパーゼクターによって時空の狭間にいる、無数のワームの卵をね」
 プレリーは愕然とする。サラリとドクターCLが告げた事実はプレリーにとって衝撃的だった。
 ワームが数多く存在することもそうだが、危険な存在を呼び起こそう、と告げるプレリーの姉の言葉にだ。
 ゆえにプレリーは彼女を姉じゃないと判断する。
「やめてよ…………お姉ちゃん……」
 そう、プレリーは目の前の女性を姉じゃないと判断した。ただし、頭だけでだ。気持ちは追いつかない。
 プレリーにとって姉は絶対だ。命の恩人でもあり、育ての親でもあり、自分の半身といってもいい存在だった。
 だからこそ、理屈でなく本能で理解してしまったのだ。目の前のワームは、確かにプレリーの姉の心を持っていると。
「プレリー、私はあなたの姉にはなりえない。ワームとしての記憶と本能が混ざっているもの。
だけど、彼女が持てたものは私にも持てる。だから大人しく、私に力を貸して。そうすれば……アナタの姉の真似事はできるわ」
 プレリーの気持ちを否定しながら右手を差し出すドクターCLを、プレリーはただ黙って見つめていた。
 同行しているフルーブたちはなにも言わない。よりにもよって、モリュもフルーブも先代司令官と面識があった。
 だから彼らも、ドクターCLを否定できないプレリーの気持ちを理解していたのだ。
 揺れるプレリーの視界がドクターCLから逸らせずにいると、エグゾーストノイズが近くで響きわたる。
 驚き、プレリーたちが音がした方向に首を向けると、カブトが赤いバイクの装甲を弾けさせた瞬間が目にはいった。
 赤い大型バイク、カブトエクステンダーの前輪が二つに割れて、間をカブトムシの角をもしたホーンが伸びる。
 銀色の印象の違う大型な乗り物が空を飛び、カブトが操縦する席の後ろにエールが跳び乗った。
「プレリー、モリュ、フルーブ! 掴まれ!!」
 カブトが左腕を伸ばしながら、カブトエクステンダー・エクスモードで宙を翔けてプレリーたちを回収する。
 そのまま爆音をあげて、モデルVの観測部屋から脱出を果たした。


 時間は少し遡る。
 紅渡が作り出した特殊な空間から脱出したカブトはキャストオフしながら、ぶつかる装甲に委細構わずコーカサスが突進してくる。
 腕だけに残したマスクドフォームの装甲にコーカサスの右拳が突き刺さる。
 耳をつんざくような衝撃音が耳朶を打ち、右腕に残っていた装甲が砕け散った。
 飛び散る破片の中、同時にクロックアップの世界へ突入しカブトはコーカサスの胸を強打する。
 カブトの拳は振り抜かず、コーカサスは大木のように身じろぎもしない。
「ヌゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
 コーカサスが気合一閃。カブトの胸ぐらをつかんで一直線に駆けた。カブトは壁に叩きつけられ、ひび割れた壁に身体が半分めり込む。
 追撃を仕掛けようと左拳を構えているコーカサスの脇腹へカブトは蹴りを繰り出した。
 コーカサスは微動しないが、カブトは蹴りの反動でコーカサスと距離をとる。
 空いたカブトがいた空間へコーカサスの左拳が叩き込まれた。
「逃げまわることしかできませんか?」
「なら味わえ」
 コーカサスの軽蔑した声に、いつもの余裕の返しをカブトはする。瞬間、エグゾーストノイズとともにカブトエクステンダーが現れた。
 突進してくるカブトエクステンダーに、壁へ拳が突き刺さっていたコーカサスが避けれることはない。
 仮面に設置された誘導装置で走るカブトエクステンダーがコーカサスを跳ね飛ばすのを見届け、座席へ跳び乗った。
「天道総司……」
「いったんお預けだ。エール!!」
 カブトエクステンダーを走らせて、ザビーと戦うエールを呼び寄せた。
 エールは顔を上げるが、ザビーが遮るように間に立つ。
「行かせるか。天道総司、お前をこの俺が……グワッ!」
 ザビーがパーフェクトゼクターを構えようとするが、その言葉は最後まで告げられない。
 なぜなら、エールがザビーの後頭部を踏んで跳躍していたからだ。
「油断大敵。アナタの攻撃、その剣以外は軽いのよね」
 エールは笑ってそう告げて、カブトの後ろへと座った。機会を窺うために防御に徹していたのだろう。動きが軽快だ。
 エールがカブトの腰を掴んだのを確認し、眼下でせり上がるパネルを前にカブトは小さくつぶやく。

「キャストオフ」

 カブトのつぶやきと同時に、カブトエクステンダーが赤い外装をパージする。
 三輪駆動のもはやバイクとはいえないモンスターマシンが地面を滑走して飛ぶ。
「プレリー、モリュ、フルーブ! 掴まれ!!」
 カブトが左手を広げ、三人の名を呼ぶ。
 クロックアップ世界に突入したカブトエクステンダー・エクスモードを駆使して三人を回収し、出口へ向かって走り抜けた。
 時間は稼げた。プレリーには心を落ち着ける時間を、エールには対策ができるまでの時間をもたらせれる。
 カブトエクステンダーが加速し、地面に火花を散らしてひたすら直進を続けた。


「くっ! 逃がすなぁ!!」
「無駄ですよ。カブトエクステンダーがエクスモードになったのなら、追いつくのはガタックエクステンダーのエクスモードのみ」
 激昂する弟切に黒崎は正論を告げる。弟切が思わず殺気を視線に込めるが、黒崎はそよ風のように無視をした。
 黒崎の視線はドクターCLへ向いている。
 ドクターCLは黒崎に答えるように頷いてみせた。
「ロックマンZXと仮面ライダーカブトの力を使っても、ここ以外で壊せる壁はないわ。場所も封鎖したし、戦闘に向かない三人を抱えている時点で逃れることもできない。
場所を封鎖してルートを指示するから従って、天道総司たちを倒して。プレリーは私がこちらに引き入れるわ」
「ふん。引き入れるって本気か? そうちんたらやるからこそ、逃げられた」
「弟切……少し黙りなさい」
 弟切が低く渋い声を受けた瞬間、うろたえて数歩後ろにさがった。
 自分に向けられていないとはいえ、黒崎の圧倒的な殺気にドクターCLは思わず身震いした。
 幾多のワームとネオゼクトを葬ってきた黄金のライダーの名は伊達ではない。
「それではドクターCL。私たちに指示をお願いします」
「はい。このモニターをみてください」
 ドクターCLの手持ちの携帯端末からモニターが宙に浮かび上がる。
 五つの光点がモニター内のMAPに示されていた。これが天道たちなのだ。
「天道総司の現在位置はこちらになります。罠を起動させ、通路を三ルートほど封鎖して限定させますので、私たちはこの部屋で待ち構えましょう」
「制御室ですか。こちらなら頑丈ですしね。弟切、構いませんか?」
 黒崎の確認に弟切は渋々頷いた。ドクターCLが先頭に向かおうとするが、黒崎がその前に立つ。
 仲間に引き入れたわかったことの一つが、黒崎はフェミニストであるということ。
 大きく広い背中が視界に入る。ドクターCLたちはそのまま、戦闘の場となる部屋へ向かった。

□

 プレリーもまた携帯端末のモニターに映るMAPを見届け、苦い表情を浮かべた。
 天道たちはその表情から察したのか、なにも言わない。
 とはいえ、プレリーは結果を告げなければならないのだが。
「通路がどんどん封鎖されている。ルートを限定されて、戦いは避けられないわ」
「そう、じゃあやるしかないってことね」
 エールは特に気負うわけでもなくあっさりと告げる。サソードゼクターがエールの肩に乗りながら、お辞儀をするように動いた。
 どことなく元気が無いように見える。エールと敵対したのが自身に応えているのだろうか。
 エールはサソードゼクターに「大丈夫、悪いのはあいつだから」とあっけらかんとしていた。
「簡単にいっているが、エール。勝算はあるのか?」
「うん、大丈夫。あいつがワームになってあのパーフェクトゼクターを使わない限り、なんとかなる」
「ほう」
『僕とエールが話しあった結果、あのパーフェクトゼクターの攻略はすでにつかんでいる。任せて』
 モデルXの言葉に天道が頷いていた。細かく説明しないのは、盗聴を恐れてか。
 妥当で冷静な判断だ。エールは問題ない。天道も再び、黄金の仮面ライダーと戦うだろう。
 そこまで考えて、プレリーはドクターCL……いや、彼女の姉の姿と心をもつワームと対峙できるか不安になった。
「プレリー、大丈夫?」
「エール……私はガーディアンの司令官。私情は挟まないわ」
 そうだ。プレリーはガーディアンの司令官なのだ。
 ヒトビトを守るためには私情を殺さねばならない。そういう道を選んだ。
 誰でもない、姉を誇りに思っているのだから。
「駄目だよ、プレリー」
 そのプレリーの決心を、エールは簡単に否定した。
 プレリーの頬をぐにっ、とエールは引っ張った。プレリーの頭が混乱する。
「へぇーる、ひっはいはひふるの(エール、いったいなにするの)?」
「……顔がこわばっている。こんなに緊張していたら、簡単な判断も間違うって。プレリー、よく聞いて」
 エールはそういってプレリーの顔を解放した。
 両手で痛む頬をなで、真剣なエールの瞳を見つめ返す。
「アタシはジルさんを殺して後悔している。それはワームが擬態したジルさんを殺したからじゃない。
ジルさんの心を受け継いで“自分として生きているヒト”を殺したから後悔しているの」
 エールの瞳が憂おいに満ちる。エールがジルに擬態したワームを倒し、後悔していたのは知っていた。
 立ち直った今もその傷は癒えていないのだと、プレリーは思い知る。
 だからこそ、これはエールの優しさだ。自分と同じ傷をプレリーが負わないようにとエールは気遣っている。
「確かに彼女はアナタのお姉さんじゃない。だけど、アナタのお姉さんの記憶を持った、心がある相手だよ。
プレリーにかける声が優しかった。だから話してあげて。ワームはイレギュラーのようにヒトを殺す殺人マシーンじゃない。
心のあるワームは、人間やレプリロイドと一緒の“ヒトビト”だってアタシは思う」
 エールの言葉は優しく、温かいものだ。ヒトを守るためにロックマンになった少女そのもの。
 そんなエールだからこそ、信頼して親友であった。それでもプレリーは迷っている。
 エールの言う通りに動くことは、私情を挟んでいるのではないか。その思いがあったからだ。
 だが、そのプレリーの心配はフルーブの言葉で打ち砕かれる。
「プレリーさん、私からもお願いします。彼女と話してあげてください」
「フルーブ!? アナタまで……」
「ワームについて詳しいのは、実際戦った天道さんかエールさんです。エールさんがそうおっしゃるなら、きっとワームも話が通じる相手なのでしょう。
私には初代司令官とあの女性は通じるものがあると思っています。だから、プレリーさんと話をして欲しいのです」
「フルーブ……」
「大丈夫です、プレリー様。邪魔する奴は私が守りますから」
 フルーブを補佐するように、モリュも銃を構えて告げた。プレリーの目頭が思わず熱くなる。
 お人好しの集団だ。プレリーも人の事をいえないのだが、今この瞬間はこう思うより他にない。
「…………本当にいいの?」
「もちろん。けど、プレリーが頑張るのはこれからだよ。天道もいいね?」
 エールが確認するように告げると、天道は無言のまま肯定も否定もしなかった。
 一度プレリーをみて、天道は「危なくなれば助ける」とだけ告げる。
 エールは笑って天道に礼をいった。
(……お姉ちゃん)
 プレリーは心の中だけで一度つぶやく。思い浮かべる姉の姿は優しく温かなものだ。
 それを彼女にも受け継いでいるのだろうか。
(お姉ちゃんは強い……)
 どんな逆境にもめげず、多くのレプリロイドを救いあげた女性。
 彼女がワームの本能に負けることが信じられない。
「わかった、私は確かめるわ。お姉ちゃんの心があのヒトにあるのかを……」
 プレリーはようやく告げる。わがままを一ついったような罪悪感が胸に宿るが、迎えるエールたちの瞳は優しい。
 心強い仲間を得た。それがとても嬉しくて、プレリーは知らず笑みを浮かべていた。


「この部屋よ」
 ドクターCLの誘導に従い、管理室へと三人は足を踏み入れた。
 ちょっとした体育館くらい広がる空間で三人は宙に示された光点へ歩み進む。
 逃げるのをやめたのか、光点の移動はない。
「割り振りは先ほどと同じで構いませんね。弟切」
「ええ、従いましょう」
 今のところは、と言い出しかねない剣呑な雰囲気をあらわにした弟切に、黒崎もドクターCLも無言だ。
 とりあえず彼には実力さえあればそれでいい。性格までは期待していなかった。
「天道総司。いつまで隠れているのです? 私たちの決着はまだ着いていませんよ」
 黒崎がそう告げるが、反応は全くない。聞こえていないはずはないのだが。
 静けさがむしろ不気味だ。黒崎は一歩進もうとして、途中で止める。
 黒崎はなにかに気づいたように眉をしかめ、急に踵を返して走った。
「黒崎さッ……」
「失礼、ドクターCL!」
 黒崎はドクターCLを抱えながら、「変身ッ!」と叫ぶ。コーカサスゼクターから発する金属片が仮面ライダーへと姿を変えさせた。
 同時に扉が跳ね飛ばされ、銀の閃光が一直線にコーカサスへとぶつかる。銀色のホーンをコーカサスは踏んで、ダメージを和らげた。
 エクステンダー・エクスモードのカブトがコーカサスを道連れに突進を続ける。弟切の叫び声が轟いた。
「天道総司! 逃がすか……」
「アナタの相手はアタシよ!」
 エールの声がバイクより響き、バイクから赤い影が飛び出してセイバーを振るっていた。
 辛うじて反応した弟切が、ザビーに変身しながらパーフェクトゼクターで受け止めている。
 ドクターCLは皮肉げな笑みを仮面の下で浮かべた。
「なるほど、やり返された、ってことね……」
 カブトたちは分断作戦を、今度は彼ら側で行ったのだ。
 カブトエクステンダーが突進を続けドアを跳ね飛ばし、二エリア先の部屋へドクターCLたちを運ぶ。
 ドクターCLを睨みつけるプレリーに、思わず褒めるような視線を送ってしまった。


 赤いロックマンZXの装甲をまとったエールの金の髪が翼のように舞い、セイバーを右手に正眼に構えた。
 半身を開いた形で間合いをはかり、慎重にザビーの動きに注目する。
(そういえば天道と訓練したときにいっていた……)
 エールが思い返してみる。天道と戦闘訓練を繰り広げ、エールの動きを先読みされたことに疑問を抱いて質問したことがある。
 そのときの天道の答えはこうだ。
『エール、戦いとはへそでするものだ。動きには流れがある。手足が動いてから反応するよりは、へそから敵の動きを読む方が対応は早い』
 天道のその言葉に感心し、真似しようとしたが上手くいかなかった。
 天道がいうには素質があるらしいのだが。
(今回の“作戦”は相手より早く動くのが必須条件……やってみるかな)
 エールは慎重にへそへ視線を集める。悟られないように注意しながらも、ザビーが両手を広げて余裕を見せていた。
 当然の反応だ。ゼクターは通じない、クロックアップはザビーだけができる、パーフェクトゼクターの性能は高い。
 しかし、エールの顔に恐怖はない。
「また懲りずにきたようだな」
 明らかな挑発だ。エールは乗らず、薄く笑うだけ。ザビーが無言のエールに疑問を持ったらしく首を傾げる。
 それも数秒。すぐにパーフェクトゼクター・ガンモードの銃口をエールへ向けた。
 引き金に指がかかるまでの流れが、へそ付近の筋肉の動きが教えてくれた。
 エールはどこへ銃口が向けられるのかを予測し、身を低くして地面を蹴る。
 銃口の向きを修正しようとザビーが動くが遅い。エールは思いっきり胴凪ぎにセイバーを振るう。
「ぐあっ!?」
「一個、貸返し」
 エールが静かにつぶやいて、怒りに任せながら立ち上がるザビーと距離をとった。
 コツは掴んだ。あとは作戦を実行するだけ。
「望み通り嬲り殺してやる……!」
 ザビーが告げると同時に、クロックアップ用のスライドボタンに触れた。
 いまだ、とエールは内心告げて地面を駆ける。空間を裂いて現れたサソードゼクターを右手にとったとき、ザビーが高笑いをした。
「バカめ! サソードゼクター、こい!」
 ザビーの叫びとともに、パーフェクトゼクターから金色の波長が流れ出た。
 サソードゼクターは僅かに抵抗するが、無意味だ。エールの手から離れ、パーフェクトゼクターに装着される。
「くははは! このまま自分のゼクターの力に無残に斬られろ! クロックアッ……」
 ザビーは加速世界への突入を宣言するが、途中で『Change ROCKMAN』の電子音で遮られる。
 ザビーがクロックアップの世界へ消えたものの、ロックマン“DX(ドレイクエックス)”へと変身をしたエールも存在する。
 紫の毒を流すパーフェクトゼクターの刃を身をかがめて避けて、エールはザビーの懐へ潜り込んだ。
「きさっ……!?」
 ザビーの言葉を最後まで告げさせない。向けたドレイクゼクターから銃弾が吐き出され、ザビーの胸部装甲から火花が散る。
 ザビーが転がり、クロックアップを強制的に止めた。ザビーがエールを睨みつける。
 再び、エールはドレイクゼクターの引き金を引いた。


 コーカサスが無理やりカブトエクステンダーの中央で伸びるホーンを走り、カブトを蹴りつけてきた。
 腕で防ぎながら、コーカサスが反動でカブトエクステンダーから脱出を果たす。
 タイヤをスライドさせ、カブトエクステンダーを止めながら「ここがしおどきか」とカブトは内心つぶやく。
「やってくれましたね、天道総司」
「安心しろ。ドクターCLとやらには手を出さない。だが、お前たちがなにかをするなら、俺も黙ってはいない」
 カブトが庇うようにプレリーたちの前に出て言い切った。
 ドクターCLの顔は仮面に隠れて表情がわからない。
 だが、彼女が合図するまでコーカサスには攻撃する意思がないとみての牽制だ。
「天道総司。信じてもらえないでしょうが、私は彼女の前でワームにはなりたくありません。
ですので、危害を加えたくても加えられないのです」
「そうか。ならいい」
 あっさりとカブトが引き下がり、プレリーへの道をあける。
 カブトが簡単に引き受けたことをドクターCLは疑問に思っているだろう。
 カブトにとって、ワームは憎んでも憎み足りない相手なのだ。
 それでも、譲るべきことはあると知っていた。ただそれだけだ。
「さて、私たちは部外者です。席を外しましょうか」
「せっかちな奴だ」
 コーカサスの言葉に応え、スッと両腕を下げた構えをとる。
 二人の間に緊張が走り、同時に「クロックアップ」のかけ声は響いた。
 カブトは風となり、黄金の疾風へ稲妻のごとく左右三連発の拳を繰り出す。
 心の中でプレリーのことを応援して、カブトはコーカサスとの決闘へ乗り出した。


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最終更新:2010年02月26日 19:33
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