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十二話 SISTERS [姉妹] (後編) 


□

 ザビーが左手を向けて、無数のニードルを弾丸として射出した。
 エールは冷静に軌道を見極めて、両腕で構えたドレイクゼクターの引き金を引く。
『Rider shooting』
 電子音を引き連れて、エネルギー弾がザビーの放ったニードルをけちらしてザビーの胸で弾けた。
 ザビーが地面に転がるのを尻目に、エールの耳に『Clock over』の電子音が届いた。
「く……キサマ! サソードゼクターを囮に使ったな……。こい! ドレイクゼクター!!」
「その前にこいつをあげる。キャストオフ!」
 エールの宣言とともに、ロックマンDXの装甲が弾けてモデルXの姿となる。
 青いロックマンのまま、エールは破片を避けながらドレイクゼクターをパーフェクトゼクターに装着させたザビーを見つめる。
 そのザビーの挙動は致命的な隙だ。エールはサソードヤイバーを取り出して宣言した。

「クロスロックオン!」

 ザビーがクロックアップすると同時に、紫の装甲をまとったロックマンSX(サソードエックス)のエールも加速世界へと突入する。
 風となったはずのザビーが自分の世界へ入られて唸り、エールを睨んだ。
 わかりやすい相手だ。アドバンテージを奪ってしまえば脅威となる相手ではない。
 モデルXとともに立てた作戦はこうだ。
 複雑な作戦ではない。ドレイクグリップとサソードヤイバーをいつでも取り出せるようにして、ゼクターを二機待機させる。
 相手がパーフェクトゼクターで片方のゼクターを奪うなら、もう片方のゼクターでクロックアップに対抗する。
 ただそれだけだ。
 もっとも、最大の懸念は二つのゼクターを同時に奪えるのではないか、ということだ。
 先ほどの戦闘では片方を使っている間は、もう片方を奪えていなかった。
 それがブラフである可能性を考慮したのだが、こうして作戦を実行したあとでももう一つのゼクターが奪われることはない。
 パーフェクトゼクターにゼクターの装着口が三つあることは、ただの杞憂か。
 そのままエールはサソードゼクターの尾を押し込み、パーフェクトゼクターから放たれた分裂するエネルギー弾を迎撃する。
 ザビーが再度エネルギーを充填しようとしているが、そんな暇は与えない。
 この作戦に慣れて対応を早くされても困る。モデルXも静かに進むよう促した。
 エールは地を駆けて、肩をかすめる銃弾を無視してザビーとの距離を零にする。
「きぃぃぃぃさまぁぁぁぁぁ!!」
「はああぁぁぁっ!」
 パーフェクトゼクターに生まれた斧状の刃を避けて、サソードヤイバーを逆袈裟に振るった。
 狙いはザビーゼクターを装着し、パーフェクトゼクターをもつ左手首。
「うぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!」
 豚のようなザビーの悲鳴が響き渡る。脇を通り過ぎてパーフェクトゼクターを蹴り、ライダーブレスとザビーを奪い宣言する。
「形勢逆転ね」
 ザビーの装甲が剥がれ、弟切が低い唸り声をあげる。エールが刃を向けて近寄った。
 こうなっては戦えない。エールはそう考えた。顔を上げた、弟切の左目を見るまでは。
「そうはいくかぁぁああぁぁぁぁっ!!」
 弟切の姿が揺らぎ、銅色の怪人へと姿を変える。
 アブラムシを模したワーム、フィロキセラワームであった。
 背中の羽が蜂のように羽ばたき、残った右腕でエールの身体を持ち上げる。
 天井にエールの身体が叩きつけられたが、エールは耐え切った。
「しつ……こい!!」
 エールは鉄の味がする口内を無視して、サソードの鎧のチューブをワームに巻きつけた。
 ワームが戸惑うが、エールは構わず「キャストオフ」と宣言した。
 装甲にワームは引きずられ、高速に地面へ叩きつけられた。エールは重心を操縦しワームの上へ落下をする。
 ワームの瞳の憎悪がエールを貫く。まだ諦めていない。ならば今の状況はまずい。クロックアップをれる前に変身をする。
 青いロックマンのエールは、左手にライダーブレスをはめる。モデルXの誘導にザビーゼクターが装着された。
 ドレイクグリップを取り出すよりこっちが早い。エールは落下しながら叫んだ。

「クロスロックオン!!」

 『Change ROCKMAN』の電子音とともに、エールの意識が電子空間へと飛ぶ。
 拡散した意識の中で、エールは新たな姿を感じ取った。


 モデルXが放つ光がエールの全身を包む。
 両腕を金色と黒のグローブと篭手が一体化した装甲がまとう。
 青い硬質化したジャケットの色が黄色に染まり、肩に白い蜂の羽を模したショルダーアーマーがおさまる。
 黒の装甲が足を包み、黄色のブーツで地面を踏みしめて、蜂の頭部に似たヘルメットが被さった。
 蜂の巣状のゴーグルが降りて、エールの目を保護する。これで変身は終わった。
 さっそくエールはZECTとバックルに刻まれたベルトのスライドスイッチを操作する。
 エールの左腕に衝撃が走り、目の前のフィロキセラワームが低く唸る。
 ロックマンTX(ザビーエックス)と化したエールは、冷静に敵の頭を蹴り飛ばした。
 壁に叩きつけられたワームに左拳を打ち込んで壁に縫いつける。
「がぁっ! こ、小娘……め……!」
「悪いけど、いつまでもアンタの相手をしている場合じゃないの。ライダー……スティング!!」
 エールの左手首に収まったザビーゼクターの腹部が伸び、針がワームに突き刺さる。
 電撃を模したエネルギーが左腕に集まり、爆発的な衝撃を生み出してワームを壁ごと貫いた。

□

 隣の部屋でカブトの戦う音がプレリーの耳に届く。
 それ以外は本当に雑音もなく、プレリーは姉の姿と心を得たワームと向きあっていた。
 四角い無機質な部屋で互いにかける言葉を失っている。
 エールたちが戦っているのに黙ってはいられない。プレリーは意を決して口を開いた。
「お姉ちゃん……一つ聞かせて」
「プレリー、私は……」
「お姉ちゃんよ。私にとってはどうしても。そう思うことにした」
 嘘だ。本当はプレリーの心は揺れている。
 もしもドクターCLの選択が姉の心だとして、それが本心だとすると自分がガーディアンの司令官失格だといわれたも同然だ。
 そしてすべての人類を排除し、ワームの世界を作る。それが姉の本心だと信じたくない。
 様々な感情がプレリーの心中で渦巻いている。それを無視して時間は進む。
「甘いわね、プレリー」
「お姉ちゃんこそ! ワームの使命が大事だっていうなら……なんで私を殺してガーディアンを奪わないの?」
 エールの問い掛けに、フッっとドクターCLが微笑む。
 彼女の姿が消えたとプレリーが認識したときには、右頬に温かい手のひらが添えられていた。
「アナタが欲しいからよ、プレリー」
「お姉ちゃん……」
「そうね。結局のところ、私自身が違うといっても同一なのでしょう。アナタとの戦いを避けたい。未練がましいわ。
けど、彼女と違うところもあるの、プレリー」
 ポツンとつぶやくドクターCLの声に感情は宿っていない。
 モリュが銃口を向けようとして迷っているのが見て取れる。
 ドクターCLも気づいているはずだが銃弾程度効かないのか、撃たないとみているのか無視していた。
 プレリーの思考がそう進み終わった後、ドクターCLが優しくプレリーの頬をなでる。
 懐かしい感触。プレリーの意識が一瞬だけ過去に戻った。
「私は彼女の影。影は本物になれないのはアナタも知っているはずよ。コピーエックスのようにね」
「そんなっ……!」
「だからこそ私は彼女と違う。彼女は英雄たちのデータをおさめたライブメタルを作った。
だけど私は……ワームを利用して“彼”が守ったこの世界を守ることを選択した」
「世界を……守る……?」
 プレリーの頭が混乱する。無数のワームがこの世界に現れれば、混乱は必須だ。
 なのに彼女はプレリーにごく自然と語ってくる。かつて、人間とレプリロイドの理想郷を語ったときと同じように。
「プレリー。この世界は一人の英雄……彼によって救われた。おかげでヒトビトは人間もレプリロイドもわけ隔てなく共存しているわ。
私はこの世界が好き。彼が守ってくれた……彼が存在してくれた証と言っていいこの世界が」
「お姉ちゃんならきっとそういうと思っていた。けど、私は納得がいかない。ワームはその平和な世界を壊すじゃない!」
「ええ、そうよ。けど、ワームが現れる前からこの世界は危機に晒されているわ」
 そういってドクターCLが仮面をとる。深く静かな知性の輝きを宿した蒼い瞳。
 プレリーはその姉の瞳が大好きだった。
「モデルVを作り、セルパンのような存在を次々生みだすヒトがいる。彼らの目的はこの世界を自分の都合のいいように作り変えること。
ワームになったおかげで私はその存在を知ることができた。彼らはいずれワームとは目的を違えるわ」
「まさか……お姉ちゃん!!」
 プレリーはそこまできて、ようやく姉の意図をおぼろげながら掴んだ。
 確かに、人間の姉なら取るとは思えない手段だ。
 しかし、“彼”が守った世界を愛するため、どんな手でも使うその姿は確かにプレリーの姉だ。
 ドクターCLは優秀な生徒を褒める先生のような顔で頷き、プレリーだけでなくモリュとフルーブにも視線を送る。

「毒を持って毒を制する。ええ、人間の私が使えない手だわ。だけど、影の私は……“彼”がいた世界を守るためなら手段は選ばない。
だからワームと“あの男”を潰し合わせるため、プレリーたちの力を私に貸して」

 プレリーは言葉を失っていた。目の前の女性は彼女自身がいったように姉では取りえない選択をしている。
 同時に、姉であるからこその選択だ。立場とワームの力を得た彼女がその選択を取るのは自然のことだった。
 なぜなら……
『――――ット、――ロは言っていたわ。自分を信じろって。だから私は……ずっと信じている』
 “彼”への想いの深さで世界をどんな手を使ってでも守ることを、選択していたのだから。
 プレリーはなにか言葉をかけようとして、形にならず霧散する。
「そんなことは聞いていないぞ、裏切り者め!!」
 だからこそ、入ってきた存在に気づかなかった。プレリーとドクターCLを狙って銅色のフィロキセラワームが右手を振るってくる。
 甲高い音とともに、現れた黄色の蜂を模した装甲をまとっているエールが防いで吹き飛ばす。
 プレリーが振り向くとドクターCLは跳躍して距離を取っている。
 密かに、プレリーは彼女と対峙するのを引き伸ばせて安心をした。


 ドクターCLは後方に跳躍して、プレリーたちともフィロキセラワームとも距離をとる。
 同時に壁が崩れ、カブトが吹き飛んでいた。
 とはいえ、フィロキセラワームと違って体勢をすぐに整え、プレリーたちの傍に寄る。
 崩れた壁からコーカサスが現れた。ドクターCLはここまでか、とため息をついた。
「黒崎、ドクターCLを捕まえろ! その女は裏切り者だ!!」
 フィロキセラワームは叫んでドクターCLを指さした。失礼な男だ、とドクターCLは眉をひそめる。
 コーカサスはフィロキセラワームの言葉に従わず、ドクターCLの傍でカブトと睨み合った。
「キサマ……どういうつもりだ」
「アナタ方にもいったはずですよ。バラが見つめてくれるのはもっとも美しく、もっとも強いもの。
誰がどういう目的で動こうとも、私には関係のないこと。それに…………」
「乃木怜治はとっくに私の目的を見抜いているわ。私たちはしょせん利用しあうだけの仲……気づかなかったのはアナタくらいよ。
それよりも、弟切。ザビーゼクターをとられたのね」
 ドクターCLが意識して冷たく言い放つ。仮面を再びかぶり、表情のない瞳がフィロキセラワームを見下ろした。
 コーカサスが「自分がやろうか?」と視線で尋ねてくるが、ドクターCLは首を振る。
 これはプレリーがいるからこそ、ドクターCLがおこなわなければならない。
「弟切ソウ、アナタに粛清を与えます。パーフェクトゼクター!!」
 ドクターCLが右手を掲げた瞬間、黄金の剣の形をしたゼクターが飛んできた。
 柄を掴んでドクターCLは剣先をフィロキセラワームへと突きつける。
 パーフェクトゼクターが黄金の波動を発して、エールのもとからザビー、ドレイク、サソードのゼクターが飛んでくる。
「嘘! ゼクターが全部操れるなんて……さっきはそんなことできなかったのに!」
「それは当然よ。パーフェクトゼクターの資格者は彼ではなく、私なのだから」
 そういってドクターCLはザビーたちが装着したパーフェクトゼクターを銃に変形させて、ワームへと姿を変える。
 プレリーが息を飲むのが感じ取れた。
 全身黄金のザリガニを模したワーム。サブストワームがドクターCLの変身体だ。
 ハサミ状の大きな手甲の中、『ALL ZECTER COMBINE!』とパーフェクトゼクター・ガンモードが宣言する。
「くそっ! ドクターCLぅぅぅぅぅぅ!!」
「マキシマムハイパーサイクロン」
 雄叫びをあげて直進してくるフィロキセラワームへ、サブストワームは無慈悲につぶやきながら引き金を引いた。
 部屋に白い閃光が満ちて、視界を染めあげていく。
 パーフェクトゼクターの銃口から山一つ消滅させることができる極太の光線が放たれる。
 一瞬でフィロキセラワームは消滅し、ただひたすら放たれる光線をサブストワームは見続けた。


 圧倒的な光の束が収束するまで、エールは一歩も動けなかった。
 焦げた臭いがエールの鼻腔を刺激する。フィロキセラワームが特攻した地点へと、エールは視線を移動した。
 岩肌が露出した壁も、コンクリートが固めていた地面もそこには存在しない。
 高熱で熱せられ赤くなって融解する光景が、エールの視線いっぱいに広がっていた。
 綺麗にエールたちを避けて放たれた光線は、体育館ぐらいの広さはある部屋の半分を消失させていた。
 フィロキセラワームが存在した証すらない。
 冷や汗が額から流れ、エールはバスターをサブストワームに向けながらプレリーを背中においた。
「……そんなに警戒しないでいいわ。今日のところはこれまでね」
「私はそれで構いません。天道総司……少し失望しましたよ。もっと強くなっていると思っていたのですが」
 コーカサスの言葉にカブトは沈黙を返した。
 仮面に隠れた顔からは表情は判断できない。
 サブストワームの全身が揺らぎ、細身の女性へと姿を変わった。
 同時にザビー、ドレイク、サソードがエールの元に戻る。
「待って、お姉ちゃ……」
「プレリー、ちゃんと考えていてね。できるなら、また一緒に暮らしましょう……」
 そうドクターCLがプレリーに告げると同時に、地面が大きく揺れる。
 地の底から低く響く音に、エールはここを爆破させるつもりだと判断した。
「それではまた会いましょう」
『待て! ……シエル』
 モデルZが呼び止めたが、ドクターCLは反応しない。ドクターCLが指を鳴らすと、呼応するように天井が爆破して崩れた。
 プレリーが「お姉ちゃん!」と叫んで飛びでるが、エールは止める。
「天道!」
 エールが名前を呼ぶとカブトは静かに頷いた。
 再びカブトエクステンダー・エクスモードがエールたちの傍に寄る。
「みんな、乗れ。あいつが開けた穴から逃げる。…………モデルVは諦めろ」
 カブトの言葉に従い、エールは唇を噛んだ。
 弟切には勝ったが、それ以上にプレリーの精神的な被害は大きく、敵の情報も得れていない。
 実質的な敗北だ。苦いものを噛みしめて、エールはプレリーを掴んでカブトエクステンダーに乗った。

□

「モデルVを転送するのを成功したわ。あれだけ巨大なものだからずいぶんエネルギーは失ったけど……」
 ドクターCLはコーカサスに告げて携帯端末をおさめる。
 視線はプレリーたちがいるだろう方向へ向けていた。
「彼女たちなら心配はいりませんよ。天道総司がついている」
「……意外ね、アナタからそういう言葉を聞けるなんて」
「過小評価をしないだけです。それよりも、アナタは大丈夫ですか?」
 コーカサスの変身を解きながら、黒崎が聞いてきた。
 ドクターCLはキョトンとして黒崎の瞳を見つめ返す。彼の目は真剣であった。
「大丈夫よ。私は決めたもの……この世界を守るために手段を選ばないって」
「そうですか」
 ドクターCLの言葉に黒崎の返事は簡素であった。
 あのとき、ドクターCLの告げた言葉は弟切が指摘したように、裏切り行為だ。
 乃木怜治が黙認しているとはいえ、黒崎に殺されても仕方ないことである。
 なのに、彼とスティールエッジは黙認する道を選んだ。いや、むしろ彼らは協力的ですらある。
 ドクターCLは不思議だった。世界などどうでもいい、といった割に黒崎の態度はおかしいのだ。
 無関心とは違う。むしろ……。
「今が辛くとも、いつか報われるときもきます。薔薇につぼみの時期があるようにね。ドクターCL、乗ってください」
 慰めてくれたらしい。本当に掴めない相手だ。
 ドクターCLは仮面の下で微笑み、弟切が残したマシンゼクトロンに乗る黒崎の後ろへ腰をおろした。


To be continued……


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最終更新:2010年02月27日 01:19
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