第二話 路地裏の王様
「よぉ……、お前らスキルアウトの連中には毎回毎回反吐が出てんだよ。能力無しの負け犬共の癖にいっちょまえに俺達能力者に楯突くからこうなるんだぜ!」
学生とおぼしき数人の男子が一人の男を囲んでいる。囲んでいる生徒はいかにもいまどきな不良という感じであった。スキルアウトとは学区内で能力を持たない無能力者の者達であった。彼等の中には能力を持たないことで、劣等感と
無力感に苛まれ、学区内に形成されているスラムへと逃げていく者達が少なくない。そういった境遇から銃などで武装し、アメリカのギャングさながらのチームを形成する者達までいる。つい先日も”ビッグスパイダー”と呼ばれるスキル
アウトのグループが能力者狩りをして、美琴や他のジャッジメントに成敗されたばかりである。しかし、そういった与太者の類は無能力者だけがなるものではない。能力者である生徒の中にも不良はおり、その能力を悪用している輩も存在する。
「はぁはぁ……、ち、ちきしょう……!」
囲まれている男も一般の生徒とはいえない風体ではあるものの、能力者の不良共にだいぶ痛めつけられているようである。
その様子を見ていた一人の女学生が割って入る。
「も、もう充分でしょう!能力を持っているからって能力の無い人を苛めて何になるの!?」
やや震えた声だが、それでも勇気を振り絞って喋っているようだ。
この女学生は佐天涙子。柵川中学一年生であり、初春飾利の友人である。佐天自身はレベル0の無能力者であるが、以前、能力者への憧れから幻想御手(レベルアッパー)を使用し、意識不明に陥ったことがある。しかしその事を初春との友情によって乗り越え、大きな精神的成長を遂げていた。
「おやおや……、俺達はここらじゃちょっとばかし有名なんだぜ?なんなら君も少し痛い目見とくかい?」
不良能力者の一人が佐天に歩み寄る
「俺達が可愛がって……、むぐ!?」
不良の一人が佐天を掴もうとしたその時、不良の顔を大きな手が掴んだ。
「ここは俺の縄張りだ……、一時だけの間だがな。俺がいる間はこの場所で争いは起こさせんぞ」
「あ、あんたは……、スポーン」
痛めつけられていた男がそう呟く。
「な……!なんだテメエ!!俺達が誰だか分かっているんだろうな!!」
不良達は二メートルはあろうかという巨体と真紅の巨大なマントを纏ったスポーンの姿に戸惑いを見せながらも自分達は能力者だということを肝に銘じ、恐れを知らぬかのような口ぶりでスポーンを挑発する。
「怪我をしない内に帰るんだな」
まるで相手にもしていないようなスポーンの態度は不良達を怒らせるには充分だった。
「へえ、そんなに命がいらないのか?言っておくが俺はレベル2の能力者だぜ!」
そう言って、地面に転がっている大きな石を手を触れずに宙に浮かせる。念動力系の能力のようだ。
「食らえ!」
宙に浮かせた石をスポーンに向けて飛ばす。しかしその石はスポーンの纏うマントに防がれてしまう。そしてそのマントはまるで生きているかの如く不良達を絡めとる。
「ぐぁあ!?なんだ?このマント!?」
「く!苦しい!!」
不良達はスポーンのマントに締め上げられ悲鳴を上げる。
「これで帰るか?」
スポーンは不良達に質問する。
「か!帰らせていただきます!!」
「お!俺も!」
その言葉を聞くと、スポーンは不良達を締め上げていたマントの拘束を解いた。
不良達はそそくさとその場を逃げるように立ち去った。
「す……、すまねえスポーン」
「大丈夫か?」
地面に蹲っている痛めつけられていた男に、スポーンは手を差し出す。
「あ、あの……」
佐天は不良達を撃退した赤マントの大男に礼を言おうとする。自分でもよくわからないが、この男は悪い人間ではなさそうだ。
「なんだ?」
「た、助けてくれてありがとう……」
「お前さんも無事なら早くここから立ち去るといい。ここら辺りは子供の長居する場所じゃない」
「あの……、私女の子を捜しているんですけど……、霧原錬子ちゃんっていう名前の子なんです。この辺りで見かけませんでしたか?」
佐天は昨日から行方がわからなくなっているあすなろ園の置き去り(チャイルドエラー)の子について聞いた。
「知らんな」
「そうですか……、危ない所を助けていただいてありがとうございました」
佐天はペコリとスポーンにお辞儀をして足速にその場を去って行った。
◇
スポーンはクラウンに渡された四角形の物体に仕組まれていた未知の力によってこの学園都市に飛ばされていたのだ。当初は足早にこの地を離れようとしたスポーンだったが、どういうわけか魔力が使えない状態になっていた。ここはどうやら日本のようだ。魔力があればテレポートして一気にラットシティまで飛べるのだが、使えない今の状態では動きようがない。徒歩で帰るにしても距離がありすぎる。以前にも遠くに飛ばされたことはあるが、比べ物にならない距離だ。恐らくクラウンの持っていた物体のせいだろう。相手を飛ばすだけでなく魔力を封じることもできるとは。いつの間にあんな道具を手に入れたのか。
スポーンは動きようがないのでとりあえず一時的にだが学園都市に滞在することにした。ここに来て二日間学園都市を散策してみたのだが優れた科学技術が適用されている都市のようだ。ひょっとするとニューヨーク以上に発展しているのかもしれない。これだけではない。ここに入る住人の大半は学生だ。自分が学園都市で目にした中で一番の驚きは学生が超能力を使えることであった。自分の国にも超能力じみた力を使える者など山ほどいるが、住人の大半が能力者だという街は生まれて初めて見た。最も、自分は地獄という場所にも入ったことのある身だ。ここにいる学生がマレボルギアやアンジェラ以上の力を持っているとは想像できない。
「全く、魔王を打ち滅ぼした者がこうして動けないとはな」
廃ビルの屋上で夕陽を見ながらスポーンは自分の今の状況を自嘲気味に言う。
「あ、スポーン、ここにいたんですかい」
十数人のスキルアウト達がスポーンの所に集まってくる。
スポーンは隠れる場所は学園都市でも治安の悪い路地裏にすることにした。ラットシティに長くいた分、そういった世界に近い者達といた方が心が落ち着く気がしたのだ。ここに集まっているスキルアウトの連中は数日前に先程の不良能力者達に絡まれている所を助けた。喧嘩、と呼ぶには余りにも一方的すぎる展開だったからだ。能力者達が能力を使い、スキルアウト達をリンチにかけていたのだ。この学園都市では能力のある者とそうでない者に分けられている。能力を持たない者は持たない者同士で身を寄せ合っている場所がある。今自分のいる所がここだ。リンチをしていた能力者達はかつて自分が戦った白人至上主義のレイシスト共に通じる部分がある。自分の圧倒的な力を見せ付けるべく、その力の暴力を力の弱い者に向ける……。スポーンが助けたスキルアウト達は、スポーンをボスとしてくれたらしい。この者達には頼るべき者が必要ということか……。彼等が自分を慕ってくれているのは”こちら”側の人間達から好かれる自分の性(サガ)なのかと考えた。
スポーンは仮初の仲間達に囲まれながら、ラットシティのホームレス仲間達のことを思い浮かべた。
その夜も学園都市某所の廃ビルから無垢な子供の悲鳴がこだましていた。それに比例するかのように男の歌声もより高らかに響いていた。
ユー・スクリーム
アイ・スクリーム
みんなアイスを
あ・い・す
最終更新:2010年02月23日 00:55