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十三話 PROTECT [守護] 



 岩肌が剥き出しになった地面に、風が吹いて砂埃が舞った。
 遠くで機械が稼働する音が響いて僅かに地面が振動する。
 晴れ上がった青い空の下、幼い兄妹のカルロとアロエは競争していた。
「待ってよ―、お兄ちゃん」
「ダメー」
 ハハ、と兄である少年は活発な瞳を輝かせて答えた。
 上下に青いジャケットズボンを着こなし、黒髪から汗が飛びる。
 対して妹の方は眉を八の字にしかめ、息を切らせながら兄を追っている。
 桃色のワンピースの裾と茶色の長髪が風でなびいている。どちらも八~十歳といったところか。
「ここに入っちゃ駄目だって、オジちゃんがいっていたじゃない」
「弱虫アロエ―。俺はオジちゃんなんて怖くないもんねー」
 舌を突き出し、べぇーとアロエに告げてカルロは走る。
 兄妹が訪れた鉱山は『幽霊鉱山』と呼ばれ、イレギュラーが跋扈する山だったのだ。
 そう、一年前までは。カルロが首をあげて鉱山を見上げると、足が道を踏み外す。
「うわっ!」
「お兄ちゃん!!」
 カルロは両腕をバタバタさせながら身体のバランスを取ろうとするが、無駄だった。
 段差の激しい崖下へカルロの小さな身体が乗り出した。アロエが両手で顔を覆う。
 落下する感覚にカルロは身を任せ、両目をつぶった瞬間背中に硬い感触が訪れた。
 浮遊感とともに目を開くと、カルロを抱えて跳躍するアルマジロ型のレプリロイドがいた。
 地面に着地するアルマジロ型のレプリロイドがジロリとカルロを睨む。
 ウッ、と言葉を失っているカルロをよそに、アロエが嬉しそうに彼の名を呼んだ。
「スティールオジちゃん!」
「カルロ殿、アロエ殿、ここは危ないから入ってこないように言ったでござろう」
 怒ったように告げるスティールエッジに、カルロは気まずそうに笑みを浮かべた。
 笑ってごまかそうとしているのだが、目の前の尊敬する男には通じない。
 スティールエッジの厳しくありながらも、優しさを秘めた黒眼を動かずに見つめていた。


「まったく、二人ともなんど申したと考えているでござるか?」
 カルロたち兄妹に延々と説教をしながらスティールエッジは大通りを進む。
 白銀のボディにイエローの線が入っている、非人型のフォルスロイドであるスティールエッジは目立ってしょうがない。
 幼い兄弟たちの手をつないで歩く光景は一種異様であるが、騒ぎ立てるものはいない。
 それどころか…………。
「よう、スティールエッジ。カルロまた幽霊鉱山にいっていたのか。お前のカアちゃん探していたぜ」
「やあ、スティールさん。今度ご馳走してくれたお茶のお礼をしたいのだが今暇かね? 仕事中? それは残念」
「おう、スティール! 今度の休みに力を貸してくれよ。力が強いヤツが必要なんだ。前みたいな喧嘩じゃないって」
 むしろスティールエッジは慕われていた。思わずため息をつくが、スティールエッジの表情は柔らかい。
 一人一人街の住民たちに丁寧に返しながら、兄妹の家へ歩みを再開した。
 ここに来て一年。ここまで馴染むことになるとはスティールエッジ自身も思っていなかった。
 スティールエッジは一年前の光景を思い出していた。

□

 最初に浮かんだ感想は、なんとも活気のない街だろうというものであった。
 表通りにヒトの姿はなく、からっ風が埃を舞い散らしていた。
 カラカラ、となる風見鶏がよけい街の侘しさを強調している。
 スティールエッジはその原因である鉱山に一度視線を向けて、市長との待ち合わせをした建物へ入っていった。
 アポを取っていたスティールエッジは応接間に案内され、十分ほど待たされた。
 入ってきたそこそこに恰幅のいい中年が入ってくる。目には疲れが見えていた。
 その男性にスティールエッジは直接用件を切り出す。
「この街には危険なものが埋まっている。是非とも、拙者にあの鉱山を任せていただきたい」
 ちなみにこの用件、“あの男”の身分の一つを使って話を設けている。
 ダブルホーンたちのように、現場近くのヒトビトに黙って作業を続けても文句はいわれはしない。
 ただ、スティールエッジというフォルスロイドはどこまでも生真面目であった。
「その件についてはお任せいたします」
「かたじけない」
 ゆえにあっさりと話が終わり応接間をでる。すると、ドアを開けた瞬間なにかが飛来してくるのをスティールエッジは目撃した。
 手の平で受け止めると、視線の先には敵意を向けている少年がいる。
 黒髪の活発そうな少年が空き缶を投げてきたらしい。
「こら、カルロ! お客さんになんてことを……」
「父さん、騙されるな! きっとこいつ、悪いヤツだ!!」
 少年が叫ぶのを聞き、スティールエッジはキョトンとする。
 “あの男”の目的から考えれば、少年のいっていることはあながち間違いではない。
「カル……」
「いや、構わないでござるよ」
 スティールエッジは怒鳴りつけようとする市長を止めて、カルロと呼ばれた少年の前に膝を折る。
 敵意に満ちた視線に微笑んだ表情のまま顔を合わせた。
「カルロ殿、この街は好きでござるか?」
「当たり前だろ! 最近イレギュラーが増えてこの街にみんなが寄り付かなくなった、っていっているけど絶対前みたいな街に戻る!
お前なんかの好きにはさせないぞ!」
「そうでござるか」
 カルロの言葉を受け止め、スティールエッジは頷いて立ち上がった。
 少年の視線を背中で受け止めながらも、スティールエッジは止まらない。
 道中、市長が声をかけてくる。
「申し訳ありません! カルロにはきつくいっておきますので……」
「それよりも市長、最近イレギュラーが増えたというのは本当でござるか?」
「……はい。ガーディアンやセルパンカンパニーに救援を求めようにも、通路をすべて無差別に襲いかかるイレギュラーにふせがれまして……」
 ふむ、とスティールエッジは顎に手をやり、市長の瞳を覗き込む。
 市長が不安げな表情をしているよそで、スティールエッジは破顔した。
「ならば、一週間以内に拙者がそのイレギュラーを整理してみせよう」


 イレギュラーを一掃する。
 スティールエッジがそう申し出たのはその場の思いつき、といってよかった。
 スティールエッジはこの時点では生まれて間もなかった。
 モデルHたちを積んだハイボルトらとは違い、モデル∨の欠片を動力源にした試作型である。
 フォルスロイドは新しい技術であるため、改造されたハイボルトたちとは違い、スティールエッジは一から生まれた存在だ。
 ゆえに知識と力はともかく、経験はなかった。スティールエッジは自分の行動が情というものからくるものだと、この時点では知らなかったのである。
「スティールエッジさん、イレギュラーの一掃をありがとうございました!」
「いや、市長。まだイレギュラーが固まる場所があるでござる。それに自分たちの任務を遂行するためでもあるから、お互い様でござる」
 スティールエッジは機嫌のいい市長に答えながらも、内心冷ややかであった。
 イレギュラーの大量発生は幽霊鉱山と俗称される山に、三つのモデル∨が埋まっているのが原因である。
 スティールエッジが“あの男”の技術を使ってモデル∨の稼働を抑え、その間にイレギュラーを一掃しただけだ。
 マッチポンプ、ともしも事情を知る者が存在すればそう後ろ指を指されてもしかたない。
 ゆえにスティールエッジの心の中が晴れることはなかった。
「カルロ殿は元気でござるか?」
「ええ、あいつも活気が戻ってきた街にたいへん喜んでいます」
「それはよかった」
 そう、スティールエッジの心は曇ったままだが、カルロが喜んでいるという言葉に少しだけ救われたような気がした。
 そして市長とともに周囲を確かめようとしたとき、入ってきた女性からカルロたちがいなくなったと告げられた。


「絶対突き止めてやる!」
「危ないよ、お兄ちゃん」
 小柄な身体を駆使して、誰にも悟られず幽霊鉱山に入ったカルロは指を立てて妹を注意する。
 アロエは思わず口つぐんだが、相変わらず兄を咎めるような視線だ。
「アロエもあいつはおかしいと思うだろ。あんな姿をしているうえ、こんなところに用事があるなんて絶対裏がある。兄ちゃんを信じろ!」
 一面では真実を捉えている言葉をカルロは告げて岩肌を登っていく。
 途中警戒に当たっているメカニロイドをごまかしながら、発達した運動神経を駆使して進んだ。
 ふと、カルロが後ろを振り返るとアロエが息を切らせながら追ってくる。
 邪魔だからついてくるな、といっても聞きはしない。カルロはため息をついて岩に座り、妹を待つことにした。
 すると、パラパラと細かい石がカルロに降りかかってきた。
 鬱陶しげに腕で払いながら、妹を見るとカルロの後ろに視線を向けて口をパクパクさせていた。
 驚いた表情に、相変わらず怖がりだと感想を抱きながらカルロは後ろを向く。
 瞬間、カルロの表情が固まった。
 全身が紫色の、体長十数メートルはある巨大なクモ型メカニロイドがカルロの頭上に存在している。
 モデル∨の力を取り込んだスパイダリルの進化型のメカニロイドであった。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 カルロがたまらず叫んで目をつぶった。アロエが「お兄ちゃん!」と叫ぶ声が耳に入るが、スパイダリル・ネオは止まらない。
 八本あるうちの右前方に存在する脚を動かし、カルロを狙って貫こうとする。
 カルロが身体を動かすまもなく、巨大な脚は振り下ろされた。


「お兄ちゃん!!」
 アロエの悲痛な叫びが山に響く。スパイダリル・ネオの力によって地面が振動した。
 兄は助からないのか。ペタリ、と両足をついた幼い少女は巻き起こる煙を虚しく見つめていた。
 そのアロエの予想とは違い、カルロは生きて尻餅をついている。
 スパイダリル・ネオの前脚を、刀で受け止める存在がいたのだ。
 粉塵の舞い上がるなかで白銀の装甲が映えていた。
 背や腕、脚を縁取る黄のラインが太陽光を反射する。
 刀を持ってスパイダリル・ネオの脚を受け止めたのは、アルマジロの姿をしたフォルスロイド・スティールエッジであった。
 スゥー、と息を大きく吸い込み、目を見開いてスティールエッジの怒声がスパイダリル・ネオを貫く。
「ハァッ!!」
 スティールエッジがもつ日本刀が、蜘蛛の足を一本斬り飛ばす。
 スパイダリル・ネオがバランスを崩して倒れ、スティールエッジはカルロを抱えてアロエの傍に着地した。
 カルロをおろし、アロエを見るスティールエッジの瞳をアロエは覗き込む。
 きっと怒っている。アロエはそう思ったが、スティールエッジの瞳は違った。
「無事でよかった……」
 心底安堵した声色と、優しい表情をみてアロエは確信する。
 このヒトはいいヒトだ。
 アロエがそう思っていると知らず、スティールエッジは後ろをみて二人をいきなり抱え込んだ。
 数瞬後、スティールエッジの背中の丸い装甲が爆ぜる。
 火薬の臭いがアロエの鼻腔に届き、スティールエッジは顔を顰めて痛みに耐えていた。
「なにしてんだよ、あんた!」
 カルロが取り乱したように問うが、スティールエッジはより二人を引き寄せるだけ。
 さらに数回スティールエッジの背中で爆発音が響くが、彼は一歩も退かない。
「やめろよ、お前が傷つくだけじゃないか!」
「カルロ殿……君の言う通りでござる。あれは拙者の上司の仕業でああなった。
これだけでは償いにもならない……だけど、二人の命だけは守り通す!」
 スティールエッジの宣言とともに、彼のもつ刀が電撃を帯びる。
 スティールエッジが身体を回し、アロエとカルロに光線が当たらないように胸で受けながら刀を構えた。
 全身を撃たれながらもスティールエッジは微動だせず、刀を頭部へと運んだ。

「ハァッ!!」

 空気を吐き出すと同時に刀を袈裟斬りに振り下す。
 電撃が鋭さを増して斬撃となり、光線ごとスパイダリル・ネオを縦に斬り裂いた。
 沈黙したスパイダリル・ネオを前に、爆発が巻き起こる。
 その凄さを前にしたアロエは言葉を失っている。カルロも同様だ。
 スティールエッジは振り向いて、よく見ると傷だらけの顔のまま尋ねてきた。
「二人とも、怪我はござらんか?」
 どこまでも穏やかで優しい言葉。
 アロエは溜まらず、安心して泣き出してしまった。


 この後、二人を市長夫妻のもとへ送り届けて温かく迎えられる。
 言い出しっぺのカルロはもちろん両親に説教されたらしい。
 この事件を通して、二人だけでなく街の住民たちと交流をもつようになる。
 カルロとアロエの兄妹は特に懐いてくれた。
 僅かな罪悪感を持っていたが、スティールエッジにとっては幸せな一年だった。

□

 天道総司は買い物袋をぶら下げながら、待機させていた赤いバイクへと視線を向けた。
 人通りの少ない道路で異質な雰囲気を漂わせる自車を見つめ、思わずため息をつく。
 買い物袋を後部座席に収めながら、天道は訊ねた。
「なんの用だ? 紅渡」
「今日は個人的に訪ねたいことがあったのできました」
 世界とやらに付き合うつもりはない、と天道は思考する。
 天道の守るべき世界は普通に暮らして普通に笑うヒトビトがいる日常だ。
 ディケイドとやらを始末することで、自己を守ろうとする手前勝手な『世界』とやらではない。
「『世界』とやらの計画を俺に実行させたいというなら無駄だ」
「そうではありません。アナタはこのままでは消えてしまいますよ」
「それがお前に関係あるのか? ディケイドとやら以外に」
「僕にはなくても、アナタのことを大切に想っているヒトたちにはあるに決まっているじゃないですか!」
 語気を荒くし、視線に怒りを込めた渡を見つめて天道は少し驚いた。
 始めて渡という人間の感情を見た気がする。
 もっとも、基本的に天道と接するときの渡は、ボロを出さないように必死なだけだったのだが。
 その仮面を脱ぎ捨てて、人間とファンガイアを共存させて兄を守った心優しき青年は心の中を明かす。
「このまま消えてしまっては、アナタのことを慕っているエールさんや、ガーディアンのヒトたちがかわいそうだ。
ディケイドなんて僕もどうだって……よくはないけど。アナタの場合はその前にすべきことがある。それを放り出すのは許せない」
 だから決着をつけろ。渡の瞳はそういっていた。
 なんのことはない。紅渡という青年はお人好しなのである。
 天道はここまで言われて始めて気づいた。加賀美のような馬鹿だ、と天道の表情が力を抜く。
「……大丈夫だ。ちゃんとあいつらとの別れは告げる」
「別れ? ここにいることだって……」
「それは無理だ。俺は世界を破壊した。これを見ろ」
 天道がグローブを脱ぐと、粒子が手から昇っていた。
 渡が天道の手を見ると悲痛な表情をしている。天道の様子に心を痛めているのだろう。
「気にするな。こうなるのは覚悟の上だ」
「諦めないでください。きっと手が……」
「大丈夫だ。俺は自分の不始末を片付けるまではもつ。それよりも渡、すまない」
 天道の謝罪に渡が「え?」と疑問を口にする。この謝罪は渡に対して冷酷な相手だと考えたことによるものだ。
 渡が心配しているのは世界よりも、天道がここで作った仲間のこと。それがとても嬉しかった。
「それに、頼みがある。いいか?」
「僕に出来ることでしたら」
 そう言われ、思わず天道は「お人好しめ」とつぶやく。
 渡が鼻白んでいたが、天道の言葉に嫌な響きはなかった。
 天道が渡へと向き、自分の望みを告げ始めた。


 ドクターCLとの出会いから一週間は経っていた。
 あれからプレリーに変化があったかと問われれば、より精力的に仕事に取り組むようになった、と周囲は口を揃えるだろう。
 周りはいつものプレリーよりも気合が入っていると考えているが、事情を知るものはそうはいかない。
 ガーディアンベースの廊下にて、ストローから飲み物を飲んでいるエールも事情を知る者の一人だった。
「プレリー、身体を壊さないといいんだけどな……」
「プレリー様がどうしたって?」
 エールは横から声をかけられ、ギョッとして振り向いた。
 そこには金髪のクールな青年、アランが立っている。彼はエールと同じく、訓練を終えたばかりのようだ。
「また厄介ごとか?」
「えーと……そのー……」
 エールらしくない不明瞭な態度に、アランは納得がいったように数度頷いた。
 エールの傍を離れながら会話を続ける。
「また話せないような事情があるのか。いいぜ、話せるようになってからで」
「うん、ありがとう。アラン」
「いいっこなしだ」
 そういって出て行くアランの背中に拝み倒し、感謝を示す。
 初代司令官が擬態されただけならともかく、精神もそのままに敵として存在する。
 それはガーディアンのメンバーたちにとって衝撃的な真実にほかならない。
 そう判断したプレリーとフルーブによって、ドクターCLの存在は伏せられることになった。
「なんだかなー」
 納得いかないのはエールである。理屈ではわかるのだが、どこか引っかかりがあったのだ。
 自分が入院した理由を伏せられたときも、周りは同じことを思っていたのだろうか。
『まあまあ。こればかりはみんなを混乱させるだけだからね』
「それはわかっているけどさ。ところで、モデルZは」
『しばらくの間そっとしておこう。彼は特に彼女へ思い入れが大きかったから』
 そうか、とエールは沈黙している赤いライブメタルへ想いを馳せる。
 彼には彼の事情もある。エールは天井をみて、もやもやした気持ちを抱えていた。


 プレリーはモニターを見つめて眉をしかめていた。
 金色の髪が後ろに流れる赤い船長服のガーディアンの二代目司令官は、自身の姉を擬態したワームとの出来事を胸の底に押し込んで、仕事に没頭していた。
 少なくとも忙しい間は嫌なことは忘れられる。プレリーは新しいモデル∨の反応のグラフとイレギュラーの事件がまとめられたファイルを開く。
 めぼしいところは今まで探索してきた。天道とエールの活躍もあり、候補地も減っている。
「後はここよね……」
 プレリーはある一エリアへ視線を向けて嘆息した。グラフが示すモデル∨の反応は異常なのだ。
 複数機のモデル∨が埋まっている可能性が高い。なのに今まで放置していたのは、イレギュラーの発生報告が一度もなかったからだ。
 モデル∨の反応を見つけたときは驚いたのだが、街へ調査員を向かわせるとなにもつかめず帰ってくる。
(これ以上は実際向かってみるしかないか……)
 プレリーはそう考えて現場に赴くことを決めた。
 オペレーターに天道とエールを呼んでくれるよう頼み、プレリーは頭に勝手にわいてくるドクターCLの姿と言葉を頭を振って追い払った。

□

「それで、本当にここにモデル∨の反応があったのか?」
「ええ、間違いはない……はずです」
 天道が周囲の穏やかな光景に尋ねると、プレリーが自信なさそうに頷いた。
 今までは市長に調査の申し入れを提案してきたのだが、平和な街だといわれやんわりと断られていた。
 ならば、あまり正体の知られていないガーディアンの司令官であるプレリーと天道、そしてエールが調査も兼ねてやってきたのだ。
 服装もガーディアンの証であるものはすべて外しているため、観光客にしか見えない。
 もっとも、プレリーの同行は半ば彼女のわがままでもあったのだが。
「天道、プレリー。ジュース買ってきたよ」
「ありがとう、エール」
 頼んではいないのだが、こういう気遣いができるのはエールのいいところだ。
 天道はそう思い、ジュースを受け取りながらプレリーを横目で見た。
 食生活は天道のおかげでよくなっているのだが、明らかに寝不足とわかるほど自分を追い詰めている。
 ちなみに食生活に天道が口酸っぱく干渉してきたため、若いメンバーには煙たがれているが、フルーブなどは感謝をしてくれていた。
 まあ、それはさておき。天道は確かに妙だと思う。
 この街の中央に存在する鉱山はただならぬ雰囲気をまとっている。
 なのにここに居るヒトたちはとても平和に過ごしていた。
 それはいいことなのだ。特に天道が口を出す必要もないだろう。
「ここは外れではないのか?」
「……まだわかりません。もう少し調べてみましょう」
 プレリーの表情が曇る。彼女がドクターCLのことを考えているのは一目同然。
 もともとオーバーワーク気味だったのだが、彼女の姉に擬態したワームと出会ってからは特に酷い。
 睡眠時間を削っているようだが、他人がいっても聞かないだろう。どこかで緊張の糸が切れて痛い目をみなければいいのだが。
「そっか、じゃあプレリー、アタシと一緒に行こう」
「エール、これは……」
「わかっているって、調査でしょ? 天道、そっちは任せていいかな?」
 エールが尋ねてくるが、天道の答えは決まっている。プレリーを気遣っての行動だ。
 天道は「任せろ」と告げて、エールがプレリーを引っ張っていく。
 天道は一人静かに踵を返した。


 う~ん、と声が漏れながらエールは背を伸ばす。
 日差しが温かく、活気が溢れる街のヒトビトの声が聞こえてくる。
 平和で穏やかな街だ。エールはプレリーには悪いが、ここで見つかったモデル∨の反応が外れであって欲しいと願っていた。
 戦闘になれば巻き込まれるのは力のない彼らだ。
 十一年前のイレギュラーの起こした災害に巻き込まれた過去を持つエールとしては、それだけは避けたい。
 守るための力を求めたといっても、エールはもともと平和を愛する少女だ。
 争わないですむならその方がいい、とつねづね考えていた。
 ベンチに座るプレリーに近づき、なにもないね、と話しかける。
「そうね……本当に平和で……。街の調査は今日で切り上げて、明日は鉱山に向かってみましょう」
「うん。けどまあ、こっそりいかないとね。ついてこれる?」
「エール。私はこう見えても、ガーディアンの司令官ですからね」
 プレリーがクスリ、と笑ってエールに返事する。ようやくプレリーが笑った、とエールは喜んだ。
 プレリーは可愛いのだから、もっと笑えばいいのにとエールはつねづね考えている。
 とはいえ、姉に擬態したワームと出会えばそんな余裕もなくなるのが普通だとは思うのだが。
 二人が和んでいると、道路の一角が騒がしくなる。なんだろうか、とエールたちが視線を向けた。
 エールは映った光景に唖然として、ライブメタルを掴んで地面を蹴った。
「みんな、そこをどいて! ダブルロックオン!」
 エールが叫び、赤い装甲をまとうロックマンゼクスへと変身を終えて跳躍する。
 人だかりの中央、白い装甲のアルマジロ姿のフォルスロイドへと剣先を向けた。
「アナタ……プロメテたちの仲間のフォルスロイドね!」
「いかにも。そなたは……」
 フォルスロイドが口を開く前に、エールに対してブーイングが発せられる。
 唖然としているエールへと、次々ヒトビトが文句をいってきた。
「アンタ、いきなり現れてなんだ! 危ないじゃないか!」
「スティールさんにそんなものを向けて、何様のつもりだい!」
 などと非難がエールへ向けられる。始ての出来事にエールが戸惑っていると、スゥーッとフォルスロイドが息を吸った。

「喝(カッ)!!」

 極大なフォルスロイドの声量にエールだけではなく、周囲のヒトビトも耳の機能が麻痺をする。
 コホン、とフォルスロイドが咳払いを一つして、周囲を見渡した。
 キーンと鳴る耳を抑えながら、エールはフォルスロイドを睨みつける。
 対して、フォルスロイドの方は平然としていた。
「皆さん、彼女は拙者の客でござる。暴言は謹んでいただけぬか?」
 そうフォルスロイドが宣言すると、周囲のヒトビトは戸惑いながらフォルスロイドとエールを交互に見ている。
 なにがなんだかわからないエールに、聞き覚えのある声が届いた。
「エール、変身を解け。そいつはここのヒトたちを巻き込むような真似はしない」
「天道……?」
 エールが疑問符を浮かべながら振り向くと、堂々と近寄ってくる天道総司がいた。
 彼がエールの傍に立ったとき、エールは忠告に従って変身を解除する。
「わざわざ足を運んでいただき感謝いたす。拙者はモデル∨搭載型試作フォルスロイドが一体、スティールエッジ・ザ・アルマジロイド。
エール殿、天道殿、そなたらの武勇伝は聞き及んでいる。ひとまず、拙者の基地へきていただけないでござるか?」
 スティールエッジの提案に天道が迷わず同意している。
 相変わらず罠に飛び込むのを迷わない性格だ。呆れつつも、エールは後をついていく決意をする。
 エールはこのとき避難してもらおうと思っていたプレリーが、ついてくる気であったことに気づいていなかった。


 フォルスロイドの部屋と聞かされていたゆえ、どこか偏った部屋なのかと思っていたがそうでもなかった。
 エールたちが通された部屋は畳が敷かれ木板でできた壁の、飾り気のない質素な和室であった。
 通された部屋にて三つの座布団が敷かれ、その上にエールたちは座っていた。
 エールとプレリーは始めての和室で足を崩していたが、天道は慣れているのかピシッ、と背を伸ばして正座していた。
 そのエールらに、お茶を配ってスティールエッジが対峙する。
 なにを企んでいるのだろうかとエールは警戒していると、天道とプレリーがお茶に口を出した。
「って、あんたらはもうちょっと警戒しなさいよ! 毒が入っていたらどうするの!!」
「ご、ごめんなさい、エール。つい、喉がかわいちゃって……」
「落ち着け、エール。なにか仕掛けるつもりならとっくにやっている。ふむ、いい茶葉を使っているな」
「拙者の趣味で取り寄せてもらっているのでござる」
「茶の温度も高すぎず低すぎず。茶葉のうま味を引き出している。けっこうなお点前だ」
「褒めていただけるとは……感謝いたす」
 スティールエッジが礼を告げるのを横目に、エールは変な雰囲気に置いてきぼりを食らわされた。
 たまらず、エールは核心に迫った。もともと細かいことは苦手であったのもあるが、現状はとても不可解なのだ。
「それで、アタシたちをここに呼んでいったいなんの用?」
「……それは私も聞きたい……」
 突如聞こえた、知っている声にエールが思わず立ち上がって振り向いた。
 そこには白いアーマーに横に広いヘルメットを装着した、砂時計型の女性らしいラインを持つ敵がそこにいた。
 エールは思わずその名を呼ぶ。
「パンドラ!? アナタ……どうしてここに? ううん、それはどうでもいい。モデルHたちの居場所を吐いてもらう!」
「そういわれても……もう私たちの手元にはない……。彼らは新しい適格者の……もと……」
 エールが思わずライブメタルを掴んで構えようとするが、天道が手を掴んで制止する。
 スティールエッジもパンドラ相手に首を振り、パンドラはそれに従って杖を収めた。
「スティールエッジにここで戦うつもりはない。その意志に従ってやるべきだ」
「つくづくかたじけない。それで天道殿。お主に申し出たいことがある」
 スッとスティールエッジが紙を取り出してきた。紙に注目すると、手紙であるらしいことに気づく。
 いまどき紙の手紙も珍しいが、直接相手に渡すことにもエールには不可解である。
 しかし、天道には意味は通じているようで、その手紙の意をつぶやいていた。
「果し状か」
「さよう。時間、場所の転送座標は手紙に記入しておいた。拙者と一対一、正々堂々と勝負していただきたい。
お主が勝てば我らの本拠地を明かし、モデル∨を引き渡そう。拙者が勝ったのなら、この地には手を出さないで欲しい。返答はいかに?」
「俺は逃げはしない。丁重に承ろう」
「かたじけない」
 天道があっさりと引き受け、エールが目を見開いて視線を向ける。
 プレリーもお茶を抱えたまま、ポカンとしていた。
「……勝手に決めたら……駄目……」
「このときのためにあらかじめ拙者のやり方はプロメテ殿と乃木殿の同意を得ている。
もとより拙者はなにか仕掛けを持ってはめるのは向いていないゆえ。理解して欲しい、パンドラ殿」
「確かに……プロメテは好きそう……」
 パンドラの無表情な顔に、呆れが含まれたのはエールの気のせいだろうか。
 エールも天道を咎めるように視線を向ける。もっとも、天道は相変わらず平然としているが。
「エール、プレリー。おばあちゃんがいっていた。たとえ敵でも礼を尽くしている相手は無下にしてはならない、とな。
特に相手が戦いを挑むというのなら、迎え討つのが男というものだ」
「聡明な祖母であったようだ。アナタのような方を育てたことを尊敬いたす」
「気にするな」
 もはやエールに言葉はない。二人で話を進め、決闘は決定事項となったようだ。
「立会人にこちらは我が友、黒崎殿を指定したい」
「そうか、ならばこちらはエール。頼む」
「立会人ってなに?」
「居合わせてそれぞれ不正がないように見張るだけだ。今回は見物だけでよさそうだがな」
「買いかぶりでござる。……どうした? パンドラ殿」
 くい、とスティールエッジの腕を引っ張っていたパンドラが、周囲の視線が集まるのを待っていた。
 パンドラは無表情にルビーのような赤い瞳を周囲へ向けながらボソボソと提案を始める。
「その立会人……複数いてもいいなら……私もやる……」
「構わない」
 スティールエッジが返事を戸惑っている間に、天道が了承をする。
 エールはどうにもややこしくなってきた、と思い始めていた。
 パンドラを相手にさらわれたモデルHたちの居場所を聞き出したいが、どうにも手出し無用の雰囲気だ。
 エールはしかたなく、天道に任せることにした。


「この街はスティールエッジに守られている?」
「ああ、俺がお前たちと離れて調査をしたところ、あの街は一年前まではイレギュラーが発生していたらしい。
ガーディアンやセルパンカンパニーに助けを求めれないとき、街を救ったのはあのフォルスロイド、スティールエッジということだ」
「通りでモデル∨の反応はあったのに、事件は起きていなかったということですね。なるほど……」
 ガーディアンベースへと戻る道筋ながら、天道はエールとプレリーにこの行動の意味を説いていた。
 エールはフォルスロイドであるスティールエッジを信用しきれていないが当然だ。
 たいがいが人格破綻者であるフォルスロイドを相手にした彼女が、スティールエッジを警戒するのも無理からぬこと。
 天道も実際に顔をあわせるまでは街を守る“ふり”ではないかと疑っていた。
 それは実際会って話をした今では杞憂だとわかったが。
「エール、あいつは信用できる。心から街を守る気でないと……今から俺を襲う子供のように住民に慕われない」
「食らえ! スティールオジさんに手を出させ……うわうわっ!」
「こういうふうにな。坊主、怪我はないか?」
 天道を襲おうとして、つまずいて転んだカルロを丁寧に助けて天道が声をかけた。
 後ろからは申し訳なさそうに妹が謝ってくる。
 天道が様子を見ると、エールは疑うのが馬鹿らしくなっている顔になっていた。


 スティールエッジは去っていった天道たちを見送った後、パンドラにお茶を出して一息つく。
 パンドラはそういった仕草もスティールエッジは様になるものだ、とある種感心していた。
「……本当に真正面から……戦うの?」
「拙者はそれしかできぬ」
「“あの男”が作ったのに……アナタは本当、まっすぐ……」
「生まれはさほど重要ではござらん。大切なのは生きざま、と拙者は思う」
 そういうところがフォルスロイドらしくない、とパンドラは感想を持った。
 フォルスロイドはライブメタルを動力源とするため、性格が尖っていることが多い。
 その中でこの穏やかで心優しいフォルスロイドは例外といってもいいものだろう。
「褒められるものでもござらん。結局のところ、拙者は不器用なのをごまかしているだけだ」
「あの子たちは……そう思っていない……」
 パンドラはここにくる際、交流があった兄妹のことをツッコンだ。
 魔女のお姉ちゃん、と呼び慕うカルロとアロエの兄妹は嫌いではない。
 だからこそスティールエッジに問うべきことがある。
「でも……“あの男”の目的を知っている……?」
 スティールエッジは「無論」と返答してさらに続ける。
 その顔にはなにかを決意している様子が浮かんでいた。
「世界を破壊するのが“あの方”の目的なのは充分知っている。されど、パンドラ殿。拙者はこの世界が好きだ」
「……今やっていることは……アナタが後悔すること……」
「うむ、だからこそ拙者はこの身を懸けてやることがある。そのためには、天道殿という大きな壁を乗り越えるくらいでないと、拙者にやる資格はない」
 それは反逆宣言に近い。でもパンドラはなにも言わない。
 彼は世界を愛しているがゆえに、たとえ生みの親でも“あの男”を否定するだろう。
 パンドラは違う。彼女は憎しみを持って、“あの男”を認めていなかった。
 だからだろうか。目の前のフォルスロイドが少しだけ羨ましかった。


 しばらくして天道がカルロ兄妹を連れて来た。
 決闘の話を聞いて天道を不意討ちしたということだ。
 笑い話。スティールエッジは天道に礼をいって、兄妹を家に送った。
 パンドラが少しだけ兄妹の相手をしたが、スティールエッジはそのときの穏やかなパンドラの顔を知っていた。

□

 夜も深まり人気のない鉱山にて、足を踏み入れる影が一つあった。
 雲が切れて月光が姿を照らすと、淡い光の中紫の装甲をまとったロックマンVAが街を見下ろしている。
 幽霊鉱山、という俗称に相応しい不気味さを漂わせる場所で、黙したままロックマンVAは崖を降りていった。
「チッ、静かだな」
『俺がそうした。今見つかっては面倒だ』
 ロックマンVAことペンテの不機嫌そうな声を受けながらも、モデルVAは相変わらず。
 モデルVAによって監視機械の死角をついて潜入に成功したのだ。
 戦いを避けるモデルVAにペンテは多少の不満を持っていたが、近いうちに天道たちと戦える機会があるのを知っている。
 ここで騒ぎを起こせば天道たちと戦う機会を逃す可能性があるため、ペンテはモデルVAに従っていた。
「なんでこんな面倒な真似をしているんだ?」
『なに。最近俺を呼んでうるさい奴を黙らせに向かっているだけだ』
 フン、とペンテは鼻を鳴らして曲がりくねった通路を歩く。
 ロックマンの驚異的な身体能力がなければ、バランスを崩して転がり落ちていっただろう。
 もっとも、ペンテの場合は素の場合も運動能力は高いため、あっさりと通り抜けそうだが。
 通路の先を金網が塞いでいるが、ペンテは蹴って跳ね飛ばした。
「あれか、目的の奴は?」
『フン、始めてか? あれがモデル∨……すべてのライブメタルの元祖だ』
「図体がでかすぎる。生意気だ」
 円環状の通路に、中央に三機の勾玉型の形の巨大な機械、ライブメタルモデル∨がそこに存在していた。
 モデルVAは始めて目にしたモデル∨の感想が「生意気」のペンテに思わず吹く。
「それで、あれになんの用だ? モデルVA」
『なに……少しうるさくてな。黙らせる』
 そういってモデルVAが宙に浮く。モデルVAの額が輝いて、光がモデル∨に吸い込まれていった。
 モデルVAが細かく震える。同時にモデル∨から触手がペンテに巻き付いてきた。
 ペンテは払おうと腕を上げるが、モデルVAが静止する。
『身を任せろ。直接乗り込む』
 面倒な奴だ、とペンテがつぶやくのが耳に入るが、モデルVAは構わない。
 一週間前から脳裏にうるさい声が響いてしょうがなかった。だから話をつけにいく。
 強制的に付き合わされることになったペンテは呆れているが、モデルVAは見ていない。
 割れたモデル∨の中央部に、ペンテはモデルVAとともに無音で入り込んだ。
 モデル∨がしばらく瞬き、やがて収まる。いつもと変わらない静寂が訪れた。

□

 決闘の日は訪れた。
 エールは指定の場所に天道と向かうと、すでに立会人として登場していたパンドラと黒崎を背後に、スティールエッジが佇んでいた。
 天道が「ここでいい」とエールに告げて先に進む。エールは天道の背を見届けながら、ため息をついた。
 相手であるスティールエッジは優しい性格だ。その相手に向かって天道がどこまで本気なのか、エールはつかみそこねている。
 どうも今回は緊張感に欠ける。プレリーも来たがっていたのだが、天道が止めていた。
 そんな必要もない、とエールは思ったのだが。
「わざわざ足を運んでもらって申し訳ない」
「気にするな。黒崎、俺たちの決着は……」
「わかっています。今は我が友、スティールエッジの番です」
 そういって黒崎があっさりと引き、スティールエッジが立ち上がって前にでた。
 スティールエッジは砂時計を取り出し、中央に置く。
 数メートルほど後退したスティールエッジが、黒塗りの鞘に収まった日本刀を腰だめに構えた。
 天道も両足を開き、ベルトへとカブトゼクターをセットする。
「さて、準備はいいな?」
「応」
 カブトの問い掛けにスティールエッジが応え、カブトも鎧を脱いでライダーフォームへと変わる。
 キャストオフで飛びかよう装甲は綺麗にスティールエッジやパンドラたちを避けていく。
 カブトがクナイガンを頭上に持ち上げ、自然体の構えを保っていた。
 同時にエールの肌が粟立った。二人のぶつける剣気が冷たい風となってエールの肌を撫でたのだ。
(さっきまで二人とも……仲がよさそうだったのに?)
 エールが疑問を抱いていると、砂時計の中の砂がすべて落ちる。
 刹那の間、カブトとスティールエッジの地面が爆発しクレーターを作る。
 ギィン、と盛大に刃と刃のぶつかり合う音が雷鳴のように轟いた。
 殺気が爆発し、嵐となって決闘の場に吹き荒れる。必殺の一撃。互いに急所を狙う容赦無さ。
 談笑していた姿を二人は根こそぎ削り取って、殺し合っていた。
 エールはごくり、とツバを飲み込む。
(勘違いしていた)
 緊張感に欠けることなどない。そして天道の忠告通り、プレリーを連れてこないで正解だ。
 あまりにも天道が軽く引き受け、スティールエッジの人柄もあっていつもと違い凄惨な戦いにならないと思い込んでいたのだ。
 それは間違いだと、二人が剣気をぶつけた今理解する。
 天道もスティールエッジも、自分の命以上のものを懸けて戦っている。その戦いが凄惨にならないはずがない。
 鍔迫り合いを繰り広げる二人の背中は、何倍も大きく見えた。
 この戦いは今までのフォルスロイドたちとの戦いを上回ることになりかねない。
 だから、エールや黒崎のような戦えるものを立会人に選んだのか、と気づく。
 巻き込まれても自衛できる者のみ、この戦いを見届ける資格があったのだ。
 ごくり、と緊張のままツバをもう一度飲み込む。命以上のやりとりを繰り広げる二人を前に、エールはただ目を逸らせずにいた。


To be continued……


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最終更新:2010年02月26日 23:18
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