【創世神話】

 

 

 最初に有ったのは闇であり、闇には何もなかった。
 気の遠くなる時を経てやがて混沌が現れ、混沌からさまざまな意識が生まれる。
 意識の集合体は雨となって、地上に降りた。

 だがまだそれらは肉を持たず、最初に意識たちが作り出したのは黒い生きものたちだった。

 なぜなら彼らはそれ以外の色を知らなかったのだ。
 黒い毛皮の生き物、黒い皮膚の生き物、黒い羽毛の生きもの。
 それらは地上に増えたが知性ある生きものではなく、影同然であった。


 そんな中で、風切り羽に一筋の白を持つ黒鳥が生まれる。
 それは「寂しい」という感情を持ち、自らの羽毛から人を2人作り出した。
 彼らこそがクリスタローシュの祖、エウシェン(Eugen)ルーフェロ(Lufero)の双子であった。
 黒鳥は2人を守り、育て、やがて最後に一つの卵を産むと実体の無い混沌に戻ってしまった。


 2人はそれを悲しみ、その悲しみを混沌が聞き届けて、残された卵を二つに割ったところ、あらゆる感情があふれ出し、一瞬で肉ある生きものへと散っていった。
 ある者は喜びを知り、ある者は憎しみを知った。そしてそれらの感情は瞬く間に伝わり広がった。

 最後に出てきたのが白く輝くグウェンドリンで、彼らの妹でもあった。

 混沌は殻を天と地にわけ、黒鳥の右目を太陽に、左目を月にした。
 翼を天空に広げ雲や変化する天候を作り、風切り羽の白さを光の矢とし、昼と夜を作った。
 世界に色彩が溢れた瞬間である。
 水かきで大地にくぼみをつくり海と湖を作ると、残った赤い嘴でエウシェンたちを助けるための存在を2柱(2人の神)作った。

 一つはアコール(Achor)という『混沌の王』で、善でも悪でもなく喜びでも悲しみでもなく、そして同時にすべてである原始の存在。
****(詳細、構築中)**** (モデルはベルゼブルです)

 もう一つはルートゥアンと名づけられ、あらゆる武器を跳ね返す輝くうろこで覆われた水竜であった。(水竜だが、炎を吐き稲妻を呼ぶ。当然、水系の魔術にも長ける)

 すべての水を支配下に置き、強大かつ勇猛で冷酷無比であった。
 かつその姿は美しく、力の強大さは太陽と月をも脅かした(日食と月食)が、知性を与えられ3位の聖族として六葉の翼とともに迎えられることで(熾天使)エウシェンたちと対立することをやめる。

 しかし月と太陽を定期的に食うかわりに、世界の終わりにその身を神々に供し、再生させる役割を負わせられた。(モデルはリヴァイアサン)


 そして混沌は羽毛であらゆる種類の人々と生きものを作り、彼らに与えて治めるよう命じた。


 やがてエウシェンとルーフェロは全界の王、神々の頂点となり、アコールとルートゥアンの助けを借りて世界を統治し、妹のグウェンドリンには月を支配させた。


 月は三つの顔を持ち、新月は闇=死(ヴェネル)、満月は聖=命(ヴィータ)、上弦、下弦の月はそれぞれ人の男女と善悪を表す。
 新月を挟んだ数日はルーフェロの妻であり、満月を挟んだ数日はエウシェンの妻とも言われている。


 エウシェンが人々に言葉を与え、ルーフェロがそれらを操れるようにと文字を与え、グウェンドリンが広めるために歌を作って与えた。
 これら原始の言葉には力があり、音楽もまた同様で、それらを自在に操れることは識者であると同時に術師でもあった。
 人々は神々を讃える歌と祈りをたくさん作り、それらが捧げられると神々は信仰から力を得た。
 しかしやがて、私利私欲のためにその言葉を利用しようとする邪悪な意図を持つ人間も現れるのである。


 だがまだ死というものがなかったので、人々はどんどんと増え、争いが満ち、やがて特に秀でた者が人の上に立ち、言葉から力を得て、神と名乗る霊性を手に入れた(下級諸神の誕生)。


 今まで神々に捧げられた歌や祈りと同様、崇め、信じる人が増えれば増えるほど、彼らは力を増した。
 神々はこの状態を危惧し、原始の言葉をかき混ぜて混乱させて言葉の本来持っていた力を削いだ。



 ルーフェロはこれ以上人を増やすべきではないと主張し、エウシェンは人の善性を信じてこのような状態が続くはずがないと主張した。
 ルーフェロは生きとし生けるものに生命の終焉の時を与える、とした。つまり、『死』の誕生である。
 そして肉体の放棄によってのみ生者にはない力を与えると。それらはリュガートと呼ばれ、血を代償に生者に力を貸す存在となる。(霊には力のある霊・リュガート(善と悪)と無力なヴェガーリ(vegari:ラテン語で彷徨う)の2種がある)

 肉体と引き換えに得た力を放棄すれば、全てを忘れて新たに転生できるとされている。


 存在し続ける限り力は増すが、肉体を再び得ることはできず、肉体を再び得るには、力の放棄が必要だった。
 そのため、生者の肉体を乗っ取ろうと試みる悪しき霊と、逆に肉体を離れたばかりの魂を術に使おうとする人間が現れ、グウェンドリンは彼女に仕える戦乙女(ネロ・ヴェネリア)たちに命じて、黒鳥の引く戦車に乗って、夜を駆けて肉体から離れた魂を集めて、エウシェンが死に対抗して作った『転生の門』まで届けるように命じた。


 彼女らに集められた魂は魔術で悪用されることがないので、今でも死者に対する祈りにはネロ・ヴェネリアたちが速やかに訪れるよう、唱えられる。



 エウシェンは小さな神々を吸収し、あるいは破壊して勢力を強め、やがて『至高神』名も『ラ=ハエル』となり、「輝ける高貴な存在」としてと名乗るようになる。
 絶対的な善と愛、永遠の幸福、それらを地上に説き広め、あるときは下級神を懐柔して変わらぬ地位を約束して天使として迎え、彼らが既に持っていた影響力も利用して、至高神の存在を広めていく。


 一方、ルーフェロはそんなエウシェンのやり方に不満を持ち、物事には必ず二面性があり、生命の誕生があるならば死が、善があれば悪があるのが必然だとし、エウシェンとルーフェロはお互い譲らず、とうとうこの2人を中心にして地上全体を巻き込む戦いが起こった。


 この戦いは聖戦と呼ばれ、神々だけでなく、人々はそれぞれ信仰する神のために地上でも戦った。


 国が滅び、その国を守護していた神を信仰していた人が滅びれば、神の力も弱まっていく。


 天界の3分の1の聖族がエウシェンに、3分の1がルーフェロに、そして残りの3分の1は戦争と時代とともに忘れ去られ消滅した。


 とうとうルーフェロは彼の考えに同意し、あるいは従った諸神を率いて天界を下り、冥界の上に壮麗な魔界を作りそこの王となった。


 混沌の王アコール、水の支配者であったルートゥアンらもまたルーフェロをあるじとして定め、魔界の貴族となる。
 そして彼らが天界と魔界に居を分けてから、地上にはその影響力が著しく減った。
 だが、魔は今も見返りがあれば人の祈りに応えるので、禁断となった、あるいは忘れ去られた呪法を得るために魔物と契約を結ぶ人間は少なくない。



最終更新:2008年12月18日 14:39