"Presumption of Compromise"(妥協の推定)は、サイバーセキュリティにおける防御哲学の一つで、組織が既に攻撃者によって侵害されていると仮定するアプローチです。この考え方は、組織がセキュリティ対策を強化し、潜在的な侵害を迅速に検出して対応するための準備を整えることを目的としています。

以下に「妥協の推定」について詳しく解説します。

### 概要
「妥協の推定」は、常に攻撃者が組織のネットワークに潜んでいる可能性があると考えるアプローチです。この前提のもとで、組織はセキュリティ対策を講じ、継続的な監視と積極的な脅威ハンティングを行います。

### 背景
従来の防御アプローチは、攻撃を未然に防ぐことに重点を置いていました。しかし、攻撃者の手法が高度化し、複雑になるにつれて、完全に防ぐことは難しくなっています。そのため、組織は防御が突破される可能性を常に念頭に置き、既に内部に攻撃者がいると仮定する「妥協の推定」アプローチが生まれました。

### 主な要素
1. **継続的な監視と検出**:
  • 組織は、24時間体制でネットワークやシステムの監視を行い、異常な活動や潜在的な侵害の兆候を迅速に検出します。セキュリティ情報およびイベント管理(SIEM)システムやエンドポイント検出および対応(EDR)ツールが使用されます。

2. **積極的な脅威ハンティング**:
  • セキュリティ専門家は、攻撃者の視点からシステムを分析し、既知の攻撃手法や新たな脅威に対する調査を行います。これにより、潜在的な侵害の証拠を発見し、対応策を講じます。

3. **インシデント対応計画**:
  • 組織は、侵害が発見された場合に迅速かつ効果的に対応するためのインシデント対応計画を策定し、定期的にテストします。これには、封じ込め、根絶、復旧の手順が含まれます。

4. **ゼロトラストセキュリティモデル**:
  • 「ゼロトラスト」モデルを採用し、ネットワーク内外の全てのリソースに対してアクセス制御を強化します。信頼を前提とせず、すべてのアクセスリクエストを検証し、最小特権の原則を適用します。

5. **継続的な改善**:
  • サイバーセキュリティは動的な分野であり、新しい脅威や攻撃手法が常に現れます。組織は、セキュリティ対策を定期的に見直し、最新の情報に基づいて改善します。

### 利点
  • **迅速な侵害検出と対応**:侵害を早期に発見し、被害を最小限に抑えることができます。
  • **セキュリティの強化**:継続的な監視と脅威ハンティングにより、セキュリティ対策の効果を高め、未然に防ぐ能力が向上します。
  • **適応性**:新たな脅威に対して迅速に対応できる柔軟なセキュリティアプローチを構築します。

### 課題
  • **リソースの投入**:継続的な監視と脅威ハンティングには高度な技術とリソースが必要です。
  • **誤検知のリスク**:高頻度のアラートや誤検知が発生する可能性があり、それに対する対応が求められます。

「妥協の推定」は、攻撃者が組織に侵入する可能性が高い現代のサイバーセキュリティ環境において、より現実的で効果的な防御戦略となります。このアプローチを採用することで、組織は脅威に対する対応力を高め、セキュリティ態勢を強化することができます。
最終更新:2024年07月04日 17:47