OECDプライバシーガイドライン**(OECD Guidelines on the Protection of Privacy and Transborder Flows of Personal Data)は、経済協力開発機構(OECD)が1980年に策定した、個人情報保護に関する国際的な基準です。このガイドラインは、個人情報の取扱いに関する基本原則を提供し、国際間のデータ流通を円滑にしつつ、個人のプライバシー権を保護することを目的としています。


### 1. **背景と目的**

1970年代、コンピュータ技術の進展により、個人情報が大量に電子化され、国境を越えて流通するようになりました。このため、プライバシー保護の必要性が高まりました。特に国際間でのデータのやり取りにおいて、各国が異なるプライバシー保護規制を持つことで、貿易や国際協力に障害が生じる懸念がありました。

そこでOECDは、国際的に受け入れられるプライバシー保護の原則を定め、各国がこれを基に国内法や政策を策定することを奨励しました。

### 2. **ガイドラインの基本原則**

OECDプライバシーガイドラインには、以下の8つの基本原則が含まれています。

1. **収集制限の原則 (Collection Limitation Principle)**
  個人データの収集は、合法的で公正かつ本人の同意を得た上で行わなければならない。また、収集するデータは、必要な範囲に限られるべきです。

2. **データの質の原則 (Data Quality Principle)**
  個人データは、利用目的に対して正確かつ完全で、最新の状態に保たれるべきです。

3. **目的明確化の原則 (Purpose Specification Principle)**
  個人データを収集する際には、その利用目的を特定し、データの利用はその目的に限られるべきです。

4. **利用制限の原則 (Use Limitation Principle)**
  個人データは、あらかじめ特定された目的以外には、本人の同意がある場合、または法律で定められた場合を除いて、利用されるべきではありません。

5. **安全保護の原則 (Security Safeguards Principle)**
  個人データは、不正アクセス、改ざん、破壊、漏洩などのリスクに対して、合理的な安全保護措置が取られるべきです。

6. **公開の原則 (Openness Principle)**
  データ管理者の方針や実施されているプライバシー保護措置に関する情報は、公開されるべきです。また、個人データの存在や性質についても、容易に知ることができるべきです。

7. **個人参加の原則 (Individual Participation Principle)**
  データ主体(個人)は、自分に関するデータが存在するかどうかを確認する権利を持ち、データが不正確な場合には訂正する権利を持つべきです。

8. **責任の原則 (Accountability Principle)**
  データ管理者は、これらの原則に従ってデータを管理する責任を負うべきです。

### 3. **OECDプライバシーガイドラインの影響と展開**

このガイドラインは、1980年代以降、多くの国で個人情報保護法やプライバシー政策の基盤となりました。例えば、欧州連合のデータ保護指令やその後のGDPR(General Data Protection Regulation)に強い影響を与えました。また、各国の個人情報保護法制定の際に、このガイドラインが参照されています。

### 4. **2013年改訂版**

2013年、OECDは技術の進展と国際的なデータ流通の増加を受けて、このガイドラインを改訂しました。改訂版では、次のような点が強調されています:

  • **プライバシーマネジメントプログラムの導入**: 組織が自主的にプライバシー保護を実施するプログラムを導入し、組織内のプライバシー保護を体系的に管理することが推奨されています。

  • **個人情報の管理におけるリスク評価**: 個人データの保護に関連するリスクを評価し、それに基づいた保護対策を取ることが重要視されています。

  • **透明性と説明責任の強化**: 組織は、プライバシー保護の取り組みについて、透明性を持って説明できるようにすることが求められています。

### 5. **現代におけるOECDプライバシーガイドラインの意義**

デジタル経済が進展する現代において、OECDプライバシーガイドラインは依然として重要な指針であり、個人情報保護の国際的なベースラインとして機能しています。特に、グローバルな企業やデータ取扱事業者が異なる法的環境に対応する際、このガイドラインが基本的な指針となります。

また、プライバシー保護を強化するための国際協力や、国際間のデータ流通を安全かつ効率的に行うための基盤としても、このガイドラインは重要な役割を果たし続けています。
最終更新:2024年08月06日 09:47