サイバーセキュリティ分野における戦術は、システムとデータを保護し、サイバー攻撃から組織を防御するための具体的な方法や手段を指します。これらの戦術は、サイバー攻撃の検出、予防、対応、および回復に焦点を当てており、組織全体のセキュリティ姿勢を強化します。以下では、サイバーセキュリティの文脈における主要な戦術について詳しく解説します。
### 1. **防御的戦術**
#### 1.1. **多層防御 (Defense in Depth)**
- **概要**: 複数の防御層を配置することで、一つの層が突破されても他の層が保護を提供します。
- **例**: ファイアウォール、侵入検知システム (IDS)、侵入防止システム (IPS)、アンチウイルスソフトウェア、暗号化、アクセス制御など。
#### 1.2. **脅威インテリジェンス**
- **概要**: 最新の脅威情報を収集・分析し、潜在的な脅威に対するプロアクティブな防御策を講じます。
- **例**: インテリジェンスフィードの購読、セキュリティインシデントの分析、攻撃者の手口や動機の調査。
#### 1.3. **脆弱性管理**
- **概要**: システムやアプリケーションの脆弱性を特定し、修正するプロセスです。
- **例**: 定期的な脆弱性スキャン、パッチ管理、セキュリティ設定の強化。
### 2. **検出的戦術**
#### 2.1. **ログとモニタリング**
- **概要**: システムログやネットワークトラフィックを継続的に監視し、異常な活動を検出します。
- **例**: セキュリティ情報およびイベント管理 (SIEM) システムの導入、リアルタイムアラート設定、ログ解析。
#### 2.2. **侵入検知システム (IDS)**
- **概要**: ネットワークやホスト上で異常な活動や既知の攻撃パターンを検出します。
- **例**: シグネチャベースのIDS、アノマリーベースのIDS、ホスト型IDS(HIDS)、ネットワーク型IDS(NIDS)。
### 3. **対応的戦術**
#### 3.1. **インシデント対応計画**
- **概要**: セキュリティインシデント発生時に迅速かつ効果的に対応するための計画を策定します。
- **例**: インシデント対応手順の作成、緊急対応チームの編成、インシデント後の分析と報告。
#### 3.2. **フォレンジック調査**
- **概要**: セキュリティインシデントの原因や影響範囲を特定するための詳細な調査を行います。
- **例**: デジタル証拠の収集と分析、攻撃経路の追跡、侵害の程度の評価。
### 4. **回復的戦術**
#### 4.1. **バックアップとリカバリ**
- **概要**: データ損失やシステム障害に備え、定期的なバックアップを実施し、迅速にシステムを復旧します。
- **例**: データバックアップのスケジュール設定、災害復旧計画の策定、復旧テストの実施。
#### 4.2. **事後対応と改善**
- **概要**: インシデント後に対応策を見直し、セキュリティ対策を強化します。
- **例**: 事後報告書の作成、教訓の共有、セキュリティポリシーの改訂。
### 5. **人間中心の戦術**
#### 5.1. **セキュリティ意識向上**
- **概要**: 全社員のセキュリティ意識を高め、サイバー攻撃に対するリスクを低減します。
- **例**: 定期的なセキュリティトレーニング、フィッシングシミュレーション、セキュリティポリシーの周知。
#### 5.2. **内部脅威対策**
- **概要**: 内部の従業員やパートナーによる悪意ある行動を防止します。
- **例**: アクセス制御の強化、内部監査、行動監視。
### 6. **技術的戦術**
#### 6.1. **暗号化**
- **概要**: データを保護するために暗号技術を使用します。
- **例**: データの静的暗号化、通信の暗号化、ディスク全体の暗号化。
#### 6.2. **アクセス制御**
- **概要**: 認証と認可を通じて、正当なユーザーのみがシステムやデータにアクセスできるようにします。
- **例**: 多要素認証 (MFA)、ロールベースアクセス制御 (RBAC)、最小権限の原則。
### まとめ
サイバーセキュリティ戦術は、多様な脅威に対処するために、複数の層と手法を組み合わせることが重要です。これにより、攻撃者が一つの防御を突破した場合でも、他の防御が機能し、全体のセキュリティを維持できます。組織はこれらの戦術を適切に実施し、定期的に見直しと改善を行うことで、サイバー攻撃からのリスクを最小限に抑えることができます。
最終更新:2024年06月25日 18:24