### サイドチャネル攻撃とは

サイドチャネル攻撃(Side-Channel Attack)は、コンピュータシステムや暗号アルゴリズムが意図的に提供する出力(例えば、暗号文)以外の情報を利用して秘密情報を取得する攻撃手法です。この情報には、電力消費、電磁放射、時間測定、音などが含まれます。サイドチャネル攻撃は暗号学の一分野として重要視され、実際のシステムやデバイスに対する現実的な脅威とされています。

### サイドチャネル攻撃の種類

サイドチャネル攻撃にはいくつかの主要な種類があります。それぞれが異なる側面の情報を利用して攻撃を行います。

#### 1. **電力解析攻撃 (Power Analysis Attacks)**
  - **概要**: デバイスの電力消費の変動を観察することで、暗号アルゴリズムの内部動作を推測します。
  - **種類**:
    - **単純電力解析 (Simple Power Analysis, SPA)**: 電力消費の波形を直接観察し、秘密情報(例えば、暗号鍵)に関連する特徴を見つけます。
    - **差分電力解析 (Differential Power Analysis, DPA)**: 多数の電力消費データを統計的に解析することで、微細な変動から秘密情報を抽出します。

#### 2. **時間解析攻撃 (Timing Attacks)**
  - **概要**: 暗号操作に要する時間の変動を測定し、これを利用して内部情報を推測します。
  - **例**: RSA暗号のようなアルゴリズムでは、異なるビット操作が異なる時間を要することがあり、これを利用して秘密鍵を推測します。

#### 3. **電磁放射攻撃 (Electromagnetic Emanation Attacks)**
  - **概要**: デバイスが動作中に放出する電磁波を解析し、内部処理情報を取得します。
  - **例**: デバイスが動作中に放出する電磁波の変動を観察し、暗号鍵の特定に利用します。

#### 4. **音響攻撃 (Acoustic Attacks)**
  - **概要**: デバイスが動作中に発生する音響信号を利用して内部情報を推測します。
  - **例**: キーボードのタイピング音から入力内容を特定する攻撃や、ハードディスクの動作音から内部処理を推測する攻撃。

#### 5. **キャッシュ攻撃 (Cache Attacks)**
  - **概要**: キャッシュメモリの動作やアクセスパターンを利用して内部情報を取得します。
  - **種類**:
    - **タイミング攻撃**: キャッシュヒットとミスの時間差を利用して情報を推測。
    - **フラッシュ&リロード**: 特定のメモリブロックのキャッシュ状態を監視することで情報を取得。

### サイドチャネル攻撃の防御策

サイドチャネル攻撃に対する防御策は多岐にわたります。以下に主な対策を紹介します。

#### 1. **ランダム化**
  - **概要**: 処理時間や電力消費パターンをランダム化することで、一貫した情報を取得できないようにします。
  - **例**: 演算の順序をランダム化する、ランダムなダミー操作を挿入する。

#### 2. **物理的遮蔽**
  - **概要**: 電磁波や音の漏洩を物理的に遮蔽することで、外部からの観察を困難にします。
  - **例**: デバイスを電磁シールドで覆う、防音ケースを使用する。

#### 3. **タイミング均一化**
  - **概要**: 全ての操作が同じ時間を要するように設計し、タイミング情報からの推測を防ぎます。
  - **例**: コンスタントタイムアルゴリズムを使用する。

#### 4. **ノイズ挿入**
  - **概要**: 意図的にノイズを挿入して、観察される信号を混乱させます。
  - **例**: 電力消費や電磁放射にランダムなノイズを加える。

#### 5. **セキュア設計**
  - **概要**: 初期段階からセキュリティを考慮した設計を行うことで、サイドチャネル攻撃に強いシステムを構築します。
  - **例**: ハードウェアとソフトウェアの両方でサイドチャネル攻撃対策を実装する。

### 結論

サイドチャネル攻撃は、コンピュータシステムや暗号アルゴリズムに対する現実的な脅威です。攻撃者は電力消費、時間測定、電磁放射、音などのサイドチャネル情報を利用して秘密情報を取得しようとします。防御策としては、ランダム化、物理的遮蔽、タイミング均一化、ノイズ挿入、セキュア設計などがあり、これらを組み合わせて強固な防御を実現することが求められます。システムの設計段階からサイドチャネル攻撃を考慮した対策を講じることが、長期的なセキュリティの確保において重要です。
最終更新:2024年06月25日 18:46