イノシシ狩り

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 晴れた日のこと、土場藩国農村部ではいつになく大規模な演習が行われようとしていた。
第二都市ファンブルを中心に活動する、歩兵兼整備士連合と
藩の中央部分と空を守る土場空軍の誇る犬士パイロットたちが集合している。
「そっちの準備はいいかー」
犬士たちの声に、整備兵が答える。
「罠仕掛け終了!」
「こっちも準備万端ですー。」
それに答えるように歩兵たちの声がこだまする。
平和な農村部は、一気に戦闘準備という雰囲気に包まれていた。
外から子供たちが、こちらを伺うように覗いてくる。
それに愛想よく手をふる犬士たち、この国では犬士はヒーローである。
整備兵も人気だが空を飛ぶ犬士たちには負ける。

後ろの陣幕の中では、作戦隊長である犬田犬雄ほか、各中隊長などが集まり山の地図を広げて作戦を練って、いや練らずに雑談に興じていた。
一応、各兵士たちを信頼しているのだと思いたい。
急遽作られたテントの下、犬士と整備兵のトップが顔をつき合わせているのは
なかなか見られる風景ではない。今回、整備兵たちの代表であるのは女性指揮官だった。
短く切りそろえた髪のせいで年齢より少し幼く見える。余談ではあるが、少年のような、と形容されがちな体型であった。
「今回の作戦の概要は見た?」
 くるくると、指令書を見せて問いかけてくる。
「あ、見てないわ、俺」
「しおりどこいったっけ?」
 軽く頭をかかえる、この国の男どもときたら…と思うが。代表者たる藩王がアレなのである種致し方ないのかもしれない。
「・・・なになに、『犬士のみなさんへのお知らせ』」
ぱらりと命令書をめくるとキレイな字で今回の作戦の概要が書かれてある。曰く、戦争における両者の共同作戦の定義だとか、いろいろな意図が含まれた作戦であることが知れた。
共同作戦もなにも犬士と整備兵の中が悪いということはない。
まあ犬耳がついていようがいまいが、いい仲間であり、お互いに協力し合って国内の作業、主に雪合戦とか、に邁進してきた。
それを行き成り山狩りでやるといわれても、である。
きれいな字で書かれた部分は藩王代理か、彼直属の情報官が書いたものであろう。
形式的なことが多いなぁとどんどんめくっていく。
各自確認すべきことは、装備やらナニやら形式にのっとったお約束が並ぶ。
「で、今回の本来の目的は、と」
本来も何も、今回の作戦の主目的は近頃農村部に出没する害獣の駆除である。
国民を守る意義のある仕事だと言われれば、なんとなく納得がいくが
今はそれどころじゃないじゃないか、と思った。
「まあ、コレは表向きでしょ。近隣から嘆願が出てたのもあるけど。
 本来の目的はほら、ココ」
 切りそろえられた爪がトントンと書類の最後の文字を叩く。
どうやら命令書の文章とはあきらかに違う汚い字体でこうかいてった。
『冬は寒いからな。鍋にするぞ!ついでにキノコとかあるといいと思うよ!』
「えーと、キノコ」
 はて、という顔をする犬士たちに整備指揮官はため息をつく。
「つまり、みなさんの鼻が必要ってことですよ」
「ブタでも借りてきたら」
「あら、そのブタのお友達をこれから狩りに行くんでしょ?」

そう、今回の目的は「イノシシ狩り」であった。

イノシシは秋から冬にかけて木の実、自然薯、ミミズ、マムシ、沢ガニなどを食べて栄養をつけるといわれている。
冬にイノシシを狩るのはそれなりに意味があるのだ。
ついでに、農村の作物を荒らすのを止めて収穫量を増やす目的もある。

今回の作戦はこれに加え、犬士たちの鼻と感覚能力を使い自然の恵みも調達してくるという一大計画だったのである。
「総員配置についたか?」
 司令官の命令により、大きく吠え声が上がった。
 犬士部隊了解の合図である。
 これより、この山は虐殺の舞台になるというのろしでもあった。
「では、現時刻よりイノシシ狩りを始める」
 隊長の言葉と共に、山狩りが開始された。
 今回のイノシシ狩りは、整備士たちの作った罠にむけて犬士たちがイノシシを追い詰めるというもの。
 犬士たちの感覚に頼った作戦である。
 とはいっても犬士たちもそれぞれ適当にやっている。
「キノコー? シイタケとあある?」
「枯れ木にキクラゲ発見!」
「あーずりー」
「俺も俺もー」
「・・・・・・・(追い詰める…イノシシ)」
 てんでバラバラの連中ではあるが、一応食料を探しているのである。
そして彼らは基本的に気楽な人種であった。
「お、前方でイノシシ発見だってさ!」
 丁度木に登って、木苺を探していた部隊が高い位置からイノシシを発見する。
吠え声で仲間に知らせると、そのまま整備兵たちのいるポイントに追い詰めることを開始した。

一方その頃、犬士たちとの合流ポイントで整備兵たちは各自に渡された槍の調整をおこなっていた。槍は長さ2メートル、太さは5センチメートルくらいある。
相当に重いのだが、彼らは2人1組となってうまく扱うように訓練していた。
目の前にあるのは大きな倒木である。その近くに一瞬足止めできる程度の罠が張ってある。
これと同じように、山にある大きな岩の近くや、木の根元などイノシシを追い詰めやすい地形に罠を張り、その近くに整備兵が複数潜んでいる。
「あいつらが追い詰めたら」
「グサー、だな」
目と目で合図するように息を潜めて罠を見張る。
「でもさー、犬士たちやってけるのかねぇ?」
「それはさぁ…信じようぜ」
「うん」
 息を飲むと、遠くから犬士たちの吠え声が聞こえた。
「来るね…」
「だな」
 丁度そのとき、犬士に追い詰められたイノシシが姿を現した。吠え声に追い立てられるように罠にかかる。
 整備兵二人は、イノシシが足を止めた瞬間を狙って槍を刺す。
 重い槍に一突きにされてイノシシの体が跳ねる。赤い鮮血が周囲に飛び散った。
イノシシは最後の足掻きのように地面を蹴るが、やがてその力もなくなり、だらりと弛緩する。
「終了!」
「じゃあ、お前らこれ持って下山なー、俺ら罠仕掛けなおすわ」
 追い詰めた犬士としとめた整備兵が頷きあう。それから誰からともなくイノシシに手を合わせる。
 命を奪うという光景は残酷だ。だからその奪った命の分も生きようと手を合わせるのである。
そして、犬士達はイノシシを持って下山するのであった。
同様の光景が、この日一日続けられた。

十分な量のいのしし肉と、多少の自然薯やキノコを手に入れ
鍋大会が行われたという。

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