阿野次きよこプロローグSS[ 阿野次家の家庭の事情]
【AM7:30 阿野次家ダイニングキッチン】
阿野次家の朝食はたいてい洋食である。
ダイニングには二人の少女。
片方は高校生、もう片方は中学生くらいに見える年齢だ。二人は向かい合い仲良く席に座る。
今日のメニューはスクランブルエッグとベーコンにサラダ。あとは”おぐらノーラ”にミルク。
テーブルに並べられ、バターの溶けた香りとトースターでこんがり焼いたパンの美味しいそうな香りが漂う。
手際良く食器を並べ終えた小柄のほうの少女がにこやかにパンと手を叩いた。
「準備完了♪それじゃ朝ごはんの前に『先ほどの一件』もう一度確認しよましょうか?のもじちゃん」
その呼びかけに対し沈痛ともいえる面持ちで返事を返したのは、のもじちゃんと呼びかけられた
高校生くらいの見た目の少女だった。先ほどの少女と対象的に彼女のほうは何故か完全な御通夜状態である。
そこには朝の爽やかさは一片もなく断頭台の上に登る囚人のような様相であった。
、、、、、、、、、、、、、
「…ハイ、キヨコお母様」
「・・・・・。」
阿野次のもじに今”お母様”と呼びかけられた女性の名は
阿野次きよこ。
二人は親子であった。
どうみても年下にしか見えないこの人物が彼女の母親であった。まさか漫画で時々見かける類の
この設定が彼女の家庭内でも脈々と生きていようとは誰が知っていたであろうか。
この見た目ロリ子の母親は、のもじが記憶する限り昔から外見に関してはずーと”このまま”全く
変わることがなかった。この件に関し、のもじは母親がなんらの特殊な呼吸法を学んで若さを保っている、
またはどこかで古代の石仮面を被ったのではないか等と色々推測しているが、明確な回答はでていない。
とりあえず日光を浴びても平気でいるところをみると後者でないことは確かのようだが、実は既に
完全生命体への最終進化を遂げているのかもしれない。だとすれば人類にもはや未来はない。
のもじの想いを知ってか知らずか、きよこが言葉を続ける。
「のもちゃんは1か月前、三者面談のお知らせを私に持ってきました」
「アッハイ。」
―相違ありません。
「娘の将来がかかった重要な面談。お母さんはガンバって日程を調整し有給を取りました。」
「ハイ。」
―御忙しい中、誠にもってありがとうございました。
そこできよこは少し小首をかしげると、どんぐり眼で娘を覗きこむ。
「でさあ、のもじ…なんで今日のはずの面談の日程がなんの断りもなく一週間後にズレとんの?」
横目で見る母親はまるで大口をクパァと開けた大蛇の様なとても、お眩しい笑顔をしていた。
恐怖でとても直視に耐えられない。
―うっかり伝えるの忘れておりました弁解のしようもない失態でございます―
のもじは椅子の上で土下座した。
それは言葉でなく態度で全ての事情を表現した見事なDO・GE・ZAであった。
彼女は昔から妙に土下座馴れしていると思われていたが、どうやらそれは家庭環境によるところが大きかったらしい。
その娘の態度に呆れたようにきよこはいった。
「まあ済んでしまったことは仕方がないわね。のもじ今日は貴方も学校を休みなさい。」
どういう理屈で休めというのかというと
「たまの休みなのだし一日親子のスキンシップ♪に使いましょう。」
こういう理屈だった。最近こういう親御さんいらっしゃいますよね。
―きたよ。
その言葉にのもじは、ごくりと唾をのみ
自分が絞首台にある13段の階段の一歩目を踏み出したことを自覚した。
「家庭内ミッションLV2”追いかけっこ”。
時間はいつも通り朝8時出発で日没まで、逃げ切れればのもちゃんの勝ち、捕まえれば私の勝ちね。
捕まった後は私につきあってもらうわよ。ルールはどうする?」
「”ありあり”(能力ありバトルあり)でお願いします。」
母親の目が僅かばかりほそまった。
「ほう、私相手に差し勝負?いい覚悟じゃねぇか…娘が順調に成長してくれてあたしゃ嬉しいよ。
判ってると思うが堅気の皆さまに迷惑かける様なブッパな仕掛けするんじゃねーぞ。」
お、お母様、完全に”スイッチ”が入っていらっしゃられる。
のもじは母親の仕事の現場は知らないが、前結婚退職の挨拶に部下の人が来た時そんな感じだったので
たぶんずーと現場ではこういう調子なのだろう。
そんな、彼女が謳うところのスキンシップはあまりに親側の論理にたった都合のいいシロモノであった。
”追いかけっこ”は逃げる子供を親が容赦なく狩るリアル鬼ごっこシステムだったし、
そしてその後に続くのはきよこプレゼンによる数々の『公開処刑』。最後は市中引きまわしの児童虐待と
見まごうばかりのアレであった。
「アレ」だけは避けねば…いや前回の「ソレ」も酷かった。前々回に至っては明らかに性的虐待といって
過言ではないレベルではなかったか…、なにより問題なのは都合が悪くなると中学生の妹の振りして
こちらに「お姉ちゃんがー」とか全責任を振ってくる、あのカマトト母の性格の悪さである。
その凄まじさは最近まで頭の上にのってた某史ですら『オメーの母ちゃんヒデ―なオイ』とコメントを
残すほどだった。あと「メモリー☆キラ」とかいって毎回記憶媒体に一部始終を保存するのも止めてほしい。
「…。」
過去のメモリーとヒストリーの数々を思い出しちょっと涙がにじんできた
女手一つで育ててくれたことに感謝の極みで有ったし、この母親の”特殊事情”も理解しているが
この過度な可愛がりはどうにかならないかと思った。ありがた迷惑、ああ、どっとはらい。
【PM8:00 ←玄関 &ベランダ↑】
朝食をおおえたのもじは玄関で白いブーツを取り出すと丁寧に紐を結んでいく。
きよこは今朝食の片付けをしているはずだ。
哀れな獲物役に与えられた時間はわずか30分、その間に距離を稼ぐか身を隠すと有利な地点まで逃げ込むか
ともかくアドバンテージを最大に活かすことが求められる。
過去の記録は最短で2分45秒、最長でも3時間41分で有る。
だが、今回は今までとは違う。今の自分には勝利の方程式があった。
今日こそ栄光の勝利を掴むのだ。
彼女は玄関を開けると栄光の一歩を踏み出した。第一歩、その歩幅は『 20m 』。
「いつもと違う≪機動力≫のもじ・オン・ザ・フォーファルサフブーツGO~」
これで勝つる。彼女の今ははいている靴の名は『聖靴フォーファルサフブーツ』、全盛期ならひとまたぎ
10kmとも言われた伝説の聖靴である。
以前、妃芽薗学園に潜入した際に宝箱(何故か昇降口においてあった)から見つけ、あの監獄学園から
脱出するのに用いたのだ。その運行速度は平均で時速40kmに達する!
彼女は朝の交通渋滞もなんのそのすいすいと国道まで飛び出ると『目的地』に向かい、爆走し始めた。
無論、右車線通行とう交通規則は守りながらだ。交通ルールは守りましょう。
††
阿野次きよこは朝食の後片付けを終えると追跡用の着替えを行った。
窓を開け天気を確認するとベランダに布団を干す。そしてそのまま、よっこらしょと身を乗り出し、屋上に駆け上がった。
(はにゃーん)
日の光に照らされたその姿は全身くまなくぴたりと身体にあったタイツに上からフリル付きの衣装だった。
(はにゃーん)
そのロリPOPぶりはどことなくヒト昔の魔法少女を思い出させた。あれ、なんだろう幻聴が。
まあ手にあるのはファンシーなロッドではなくファンキーな「スケードボード」と「ゴーグル」ではあったのだが。
ゴーグルは彼女の能力の運用にあたり必須のアイテムといえた。
もし万が一誤って”粉末”が目に入った状態で誘爆などすると即座に大惨事となるだからだ。
皮膚の露出をさけたタイツも同じ意味合いでつくられており、どちらも『対衝撃』に対し極めて強い作り
となっている。どちらも『軍用レベル』、否、完璧に『軍用』である。
「・・・・・・・しかしあの子いつになったら気がつくのかね。」
きよこはゴーグルを装着すると備え付けのシステムを起動させた。
ゴーグルに地図が表示され、標的の現在地点がさししめされる。トレース機能というほどの大業なことではなく、
単に彼女が娘にもたせた携帯にGPS機能がついていてそれを追跡しているだけなのだが、のもじはその件に
まるで気が付いていない。毎度、自分の子がアホの子であると思い知らされる何とも微妙な瞬間でもある。
彼女は立てていたスケードボードを水平に寝転がせる。
スケボ。彼女の主な移動手段だ。
デッキの寸法は(18cm×80cm )ウィールの直径は50mm。足場は基本固定式だが、ボードを水平回転させる
ことも多いため、どちらが前後になっても問題ないようにノーズとテールは同じ形になっている。
よく見ると、片方だけアキカンのシールが貼られることが判るだろう。そちらが前だ。
デッキ表側全面には複雑な紋様の魔法式が描かれており、裏側には折りたたみ式の『ロッド』が収納されている。
最後に彼女は自身のコンディションを確認する。万全♪48時間くらいなら連続運用できそうだ。
彼女は愛用のボードに乗り、屋根を滑降すると勢いよく跳躍した。
そのまま宙を一回転、10m以上離れた『4F建てビルの屋上』へと降りたつ。
それはまるで空を蹴ったような、二段噴射で軌道に乗ったロケットの様な高く強い跳躍だった。
「”A.K.B.”GO。」
彼女はビルのフェンス上にデッキごと降り立つと視野下のルートを確認、そのまま追撃に入った。
【PM8:40 ←希望崎学園校門前:↓最寄り高速道路】
●校門前
「おはよー埴井さん」
「おはよ、光素ちゃん」
「あ、のもc」
「きーーーーーーーーーーーーーん!!」
((な、何故通過するだけ!?))
●高速道路
「行き先は希望崎学園よね。さてなにを考えてるのやら」
高速道路を疾走中の4tトラックの上で呟いたキヨコは学園本島と関東を結ぶ
大橋に向かうため、高速の交差地点を前にトラックから高架下に飛び降りた。
彼女は空中を揺れ動く落ち葉のような動きでそのまま下の道路に軟着地を決めるとサーと
何事もなかったかのように走り出した。
さて、もし貴方が優秀な魔人動体視力を持ち合わせたとするのなら、彼女がこの謎の
トリックを決めた瞬間、ボード下にしかけられたロッドから砂の粒子が飛び出ているの
に気がつくかもしれない。
そして、それこそが爆発と化し適度な浮力をボードに与えていることを、本来なら墜落死
確実ともいえる衝撃を相殺していたのだと、見破るかもしれない。
魔人能力「A.K.B」
無機質を殺傷性のない爆弾と化すその魔人能力により彼女は出力を得る。
彼女はそれにより←→の横移動だけでない、↑↓の立体機動を可能としている。
推進力を得ることからよくエンジンに例えられるが、エンジンは爆発を起こしピストン運動によって
推進力を得る仕組みであるから適正な説明とはいえない。彼女の場合、爆発自身を推進力としている
だけのより原始的な仕組みだからだ。
どのタイミングどの分量どこまでも全て彼女自身の配慮で全て己が意志でコントロールしている。
全てが彼女の腕次第であり、それが全てを決めている。
もし一瞬でも制御を誤れば先ほどの降下もただの死のダイビングとナリ果てるだろう。
それ故に彼女の属する政府組織は彼女の魔人能力”A.K.B.”をそうと名付け、その遂行能力の
高さから、皮肉交じりに彼女自身を指す言葉として今もそのまま使っている。
A:アノツギ
K:キヨコ
B:ボンバイエ だと。
【PM8:50 到着 希望崎学園森林 ←手前1km】
森の中
のもじは大きく息を吐くと『その曲』#1)を歌いだした。
遠くて近いあの歌を
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闇の中に浮かんで見える
まっくらもりはこころのめいろ
つよいはよわい
まっくらくらいくらい
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「森が暗闇に包まれていっている。」
森直前まで迫っていた、きよこが驚きのあまり呟いた。続いて出た言葉は感嘆だった。
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「森を迷宮化して立て籠る気か。なるほど私の能力は全体が有機物で覆われた森の中では使用が極端に制限される。
対して土地勘があり聴覚に優れた自分は優位に動ける。そういう腹つもりか。」
制限。
彼女の能力は有機物を爆弾化できない。それは生物全般に当てはまるし、例えば”腐葉土”とか”もみ殻”といった
生物所以の派生物ほぼ全てに当てはまる。
どんな能力でも相性がある。
母は笑った。本当にここ数カ月の娘の成長は目を見張るものがある。これも最近知り合ったクイーンさんの影響だろうか。
娘はいい師を見つけたようだ。
ただ彼女が緩めたのは、ほほだけだ。
スピードも気も一瞬も緩めることなく阿野次きよこはフルソンブリンク『常夜の森(まっくらくらいくらい)』に全力で突入した。
何故なら彼女はA.K.B.なのだ。
【PM11:40 希望崎学園 森林EXIT⇒⇒ 】
「NOぉぉぉぉぉぉぉぉ」
まっくら森に魂の叫びが木霊していた。
「ふぅ、ようやく出口か…」
「NOぉぉおおおおおおおおおおおおおおお」
まっくら森出口に現れたのは一人の疲れ顔の魔法少女、と
みのむしのようにぐるぐるのスマキにされ、魔法少女にひきづられ連行されている阿野次
のもじの姿であった。
記録8時間52分。過去最長記録を更新。
これが今回のスキンシップの結果であった。
ただ、これは残念ながらのもじが母親の魔の手から逃げ切れた記念すべき勝利とはならなかった。
「あんたねー、作るんなら脱出のことまで考えなさい。」
この母親は最後の最後に威厳を見せ、きっちり日没前に娘を捕まえたのだ。だが、そこからが
問題だった。なんと捕まえてみると作成者にも出口がどこか判らないという驚愕の事実が発覚したのだ。
さすがのきよこも作った本人が”…なんとなくあっちかな?”とかほざくとは思っていなかったのだ。
結局、現役の軍人のきよこと出口が感覚的には判ってる(よーな気がする)のもじの二人がかりで
脱出まで5時間弱の時間を有したのだった。
今や時刻は日没どころか完全にまっくらくらいくらいくらいくらいくらいゾ状態になっていた。
なんとも酷いつるべ落としだった(オチ的な意味で)
(げしげしげし)
「NOぉぉおおおおおおおおおおおおおおお~モンペアレンツゥ、マンマミーヤー!」
ドンドクライノモジ。
だがなんとか勝った。一通り娘に足蹴りをかまし、気を晴らしたキヨコは、
帰りの途へと向かう足を止めると
「…。」
「…。」
学園施設のほうを見やった。
のもじも叫びを止め、沈黙している。二人の沈黙は予想以上に長く重かった。
「のもじ。」
「はいお母様」
「あのさ、一応、確認しとくけど、あの超物騒な気配。アンタ絡みじゃないわよね。」
「いや流石に人類を革新へと導けるイデオン級物件には心当たりがないです。てーか、
うちの学園そろそろいい加減にしろって各方面からなんか言われるレベルだと思う。」
きよこはふむと頷いた。まず必要なのは情報か。相手するにしても流石に単体じゃ対応
しきれなさそうだから、それなりの組織力があるとこがバックアップに欲しい。
学園自治法でつまずいて初動遅れなければこの際どこでも、自治法…あっ、しまった洗濯モノ出しっぱなしだった。
「洗濯物…は諦めるとして。のもじ。ここの生徒会執行部の場所、判る?」
「本校舎中央2Fだったかな。あ、です。間違いありません」
OK。彼女はロッドを地面にぶっさすと何やら『生成』しはじめる。その様子から何をするか悟って、のもじの
顔が青ざめる
「あのあのお母様、御急ぎのところ恐縮ですが、せめてわたくしめの御縄をほどいてから、その”ドンして”
頂く訳にはいけないでしょうか…。」
「時間ないし、却下。三段ロケット方式で、校舎まで向かうからねー、歯くいしばっとけ♪舌噛むなよ♪
はい~☆1、2、の3でドン!」
森にどん!という何かを打ち上げる様な爆音が響いた。
【PM11:55 希望崎学園生徒会執行部】
「君はこの学園の生徒には見えないが、君はその…あれだ。手に持っている”ソレ”の関係者かね」
生徒会長、須能・ジョン・雪成の言葉に
きよこは手に持った紐の先を見る。
先にはスマキにされた学生生徒(のもじ)がいる。今は完全に目を回して伸びている。
『最近まで頭にのってたひと』のシゴキを受けてきた彼女も流石に対G訓練の経験はなかったらしい
いやあの時は意識はあったか、その後階段降りて来る間に「ガッ」だの「ゴッ」だの音して来たから
たぶんその際に意識を失ったのかもしれない。
「フッ。」
説明者不在の状態。
ならば取る手は一つ。きよこは確信した。ここはSS級げんえき・まほうしょうじょとしての実力を示す時だと
「ワタシ、来年希望崎学園に入学予定ののもじちゃん妹の阿野次きよこでーす。
あのつぎ、で、きのよこ、でいっちゃんてよんでくださいね、先輩☆」
Aアノツギ
Kキヨコ
Bブリッコ の明日はどっちだ。
【追記:PM11:56 希望崎学園生徒会執行部】
「いや今そういう人材はもとめてないので、すまない…」
「いや、うん、ごめん、今のは流石に私が悪かったわ。すべっただけにダメージもでかかったし」
その後、まどろっこしくなったので地と素性を出して緑化隊にまぜて貰いました。
阿野次きよこの一人娘。
歌ったことが現実化するという『フルソンブリング』という魔人能力の持ち主。
今回フルソンブリンク「まっくらくらいくらい」で森を迷宮化、数々のトラップで
キヨコさんの迎撃にあたるが、あえなくお母様に打ち取られる。
魔人能力仕様直後につき『フルソンブリンク』使用不可。コンディション悪化に行動不可能。
最近の口癖は「私のサイドエフェクトがそういっている」。
妃芽薗学園の何故か昇降口においてあった白い魔法の靴。
悲運のマジックアイテム。
あまりにも痛ましい事件だったため、皆一様に口が重く、当時の彼女を襲った悲劇を語る者は少ない。
最終更新:2014年08月05日 21:12