その10

ぶたいせつめい
当SSでは、ぶっちゃけて言うと『新校舎』『グラウンド』『武道場』『芸術校舎』の四地点それぞれから始まります。
希望崎学園はたいへん広大な敷地面積を誇っており、逞しい魔人学生であれば購買部まで直線距離で向かえそうなもんですが、それだとどうにも接敵の理由が作りにくいため、独自レギュレーションとして『昨年度の地学部のポカによって学園内の本土側半分に致命的な地殻変動が発生し、現在は各施設及びそれを結ぶ道路と新校舎・職員校舎周りのみが整備され、未整備地帯には謎の七色発光円筒状ライオンが跋扈しており、足を踏み入れればまず死ぬ』ものとします。購買部の入り口はグラウンドがからが最も近いですが、だいたいポケモンのタマゴを抱えて往復する道くらいの距離があります。わからない方は「なんかそれなりにはあるけれどそれくらいしかないんだな」というニュアンスだけ受け取っていただければ幸いです。よろしくお願いします。


~これまでのあらすじ~
伝説の焼きそばパンを巡り、戦いの火蓋は切って落とされた! ”普通”の魔人生徒・上下がそうであったように、校内の魔人の七割近くがごく軽率に戦いに身を投じ、事態は大混戦を極めるかに思われたが……!?

◆◆◆


「ぐえーっ! もっ、もうだめだーっ!」
「上下ーっ!」

吹き矢にトラバサミ、落石トラップ! 新校舎ロビーは、大量の罠に絡め取られる大量の生徒、阿鼻叫喚の様相を呈していた。
今まさに上下中之が新たな罠を踏み、突如飛来した丸太に壁まで叩き飛ばされていく。彼はもうだめである。”普通”の生徒にしてはよく頑張った方だろう。

「ふひひひ。ふひ、ふひ。みれちゃんの邪魔をするなんて、だめだーめ。罠はまだいっぱいあるからどんどん踏んでいってちょ。うふ、うふひひひ」

罠の主は罠大居照子。カメラを通した視界に自在に罠を設置する、冬頭美麗を慕う『三銃士』が一人である!

「みれちゃん、みれちゃん。ふひ、いっぱい捕まえたよお。ふふひひひ」


◆◆◆


ぴ、ぽ、ぱ、ぽ。

プルルルル、プルルル。

「……ギャアーッ!!」
「う、うわああああああ!!」
「死ぬ死ぬ死ぬーっ!!」

希望の泉では、武道場組の鍔迫り合いが……いや、これもまた一方的な殲滅であった。
荘厳なる炎の怪鳥が、焼きそばパンに泡沫の夢を見た生徒たちを無慈悲に焼き払っていく。熱い!

「大丈夫大丈夫! 人間、そう簡単に死にやしないぜ。泉に飛び込んで療養してな!」

哀れな火達磨と化した被害生徒が、先を競って泉へダイブしていく。戦意は瞬刻にして焼き払われ、最早チワワじみた瞳で降参を訴えかけるのみであった。
だがどうか、惨めな彼らを責めないでいただきたい。そもそも、ノーリスクで大規模破壊能力を乱発できるこの男がいけないのだ!
男の名前は住吉弥太郎――自由と平等を求め、現実的な未来を夢見る優良男児であった。

「ワンステップでこの有様たぁ、歯応えのねぇ連中だぜ。こりゃたこ焼きはいただきかな」
「――ぃヨォガ……」

住吉の安堵も束の間、眼前の空間に突如浮遊僧が現れる! この奇怪な空間転移術は、まさしくヨガによるものであった!

「おっ、おォい! 住吉くん、お、おま……お前……なんて非道い真似を……!」
「パン崎か……仕方ねぇだろぉ。いくら殺人が許されちゃあいないとはいえ、この学園で争いなんて起こせばこうなるのは目に見えてんだ。こちとらたこ焼きがかかってる、本気でやらせてもらうさ」

パン崎努は泉を一瞥する。火消しを終えたクラスメイトたちが、襤褸と化した学ランを引き摺り、殆ど半裸で泉から這い出してくる。その中には女子の姿も少なくなかった。

「パンツが……燃え尽きた…」
「あぁ? パンがどうしたって?」
「住吉くん、僕はもう……君を人間とは思わない……!」
「ド聖人かお前! 誰も傷つけないで勝ち抜こうなんて、考えが甘すぎんだよ!!」


◆◆◆


(うう……ねえハリガネムシくん、どうしようこの状況……? まさかここまで参加者多いとは思ってなかったよ。あ、右から一人こっち来てるよ)
((了解。こりゃあちょっと誤算だったね……人が多すぎて思うように進めない。季紗季ちゃん、左側、そろそろ戦線が保たないな。崩される前にこっちから畳みかけよう。一番左の奴、下半身の反応が甘いから、そこから攻めて))

芋を洗うような大混雑。
何かと事件や暴行に事欠かない魔人学園では、生徒の戦力情報を蓄積するため迅速・入念な体力測定が行われる。そのためこの時期は特別時程で体育のコマ数が多くなり、この日の四限も、グラウンドには一年生と二年生が半数ずつ集まっていた。
購買部とグラウンドを繋ぐ道路には当然この人数を円滑に受け入れるだけの広さを持っておらず、結果、この過密戦場が生まれた。
中学では番格を張っていた千倉季紗季とハリガネムシくんは、二つの意識と優れた中距離攻撃手段を有し、豊富な戦闘経験によって十全なポテンシャルを発揮するため比較的優位を維持できてこそいるが、これだけの多勢を一挙にねじ伏せられる力は持ち合わせていなかった。
このグラウンドに、戦局を決定づける能力者はいない。そしてそれは、この場にいる全ての生徒に共通して言えることでもあった。
通常、大規模な殲滅を可能とする能力には相応のリスクがあるし、人死にを出してしまえば焼きそばパンの購入権は消滅する。全ての条件に合致する、都合良く場を掌握できるような人間はここにはいなかった。
故の大混戦、誰もが大誤算であった。
あまりにも低すぎる争奪戦参加への敷居。知らず知らずのうちに『”普通”の生徒なら参加して当然』という空気が醸成されていたことには、如何なる背景があったのだろうか。それは我々の知るところではないだろう。

「や、やっぱり私なんかじゃ無理だよね……うう……助けて……」

この少女、兵動惣佳もまた、軽いノリで参加してしまった一人である。
自身を鼓舞して臨んだ争奪戦。始まる瞬間こそ、殻を破った高揚感に今後への期待を手応えとして感じ取っていた惣佳であったが、蓋を開けてみたら完全に気のせいであった。もう完全にだめ。完全にこなけりゃよかった。惣佳は今、いつにも増して絶望的に後悔していた。
右も左も怒号と悲鳴に満ちている。後ろでは猛獣が如き学生が火花を散らしており、引き返すこともできない。時折吹き飛んでくる生徒や凶器を命からがら避け続け、目を付けられないようにとうずくまる。
怖い。
怖い怖い怖い。
事が収まるまで無事でいられる気がしない。

「た、助けてぇー……」


◆◆◆


「ケケケ、こりゃ僥倖だなぁ、おい」

臥間掏児は進む足取りをそのままに、新校舎ロビーの罠地帯を振り返る。
東海道武装強盗団の頭目を父に持つ掏児にとって、あの程度の罠は日常茶飯事。危険箇所を察知して躱していくのは、難しいことではなかった。そして、辺りは罠に身動きを封じられた学生で入れ食い状態。魔人能力『フィンガーマン』で手当たり次第にスっては捨ててを繰り返した結果、手に入れたのがこの刀である。

「なんかわからんが武器も手に入った! チャカのが好みだけど、ま、取り敢えずはコイツでいいだろ。オッシャアー!」


◆◆◆


雄叫びを上げる臥間のその後方、街路樹上を征く影がある。『希望崎学園最強のパシリ』仕橋王道だった。
より迅速、より確実、より従順なるパシリ道をひた走る仕橋にとって、狡猾に仕組まれた罠の突破も道なき道を進むことも、最早造作もないことであった。希望崎学園でパシリをこなしていれば、自然と身についていく。
それだけの実力を有していながら、臥間の先行を許すには訳があった。

(前方を行く彼の持つ刀……何故ここにある……? ……が、アレは間違いない)

二年前、仕橋が一年生の秋。
希望崎文化祭で注目を集めた一つの企画展覧会があった。それが『日進ジェット~希望崎学園生徒会の輝かしき歩み展~』である。当時三十周年を迎えていた希望崎学園の歴史を生徒会の活躍と共に振り返るという一大企画で、これがなかなかどうして評判が良く、生徒会の支持を大きく向上させた。中でも一番の目玉であった展示では、耐魔人衝撃ガラスを複層に重ねたガラスケースを使用し、10分ごとに5人を入れ替え、更には常に腕利きの生徒会魔人たちが警備に当たるという恐ろしいまでのセキュリティ体制であり、当時の仕橋が整理券を手に入れることができたのも幸運という他ない。
間近で目にしたその気高さ、美しさ、畏ろしさ。忘れようはずもなかった。

(『福本剣』……!!)

それはかつて希望崎学園随一の刀匠・福本が遺したという、振れば必中両断即殺の刀。


◆◆◆


爆発音。

爆発音、爆発音。


爆発音。


伝説の焼きそばパンは、不良生徒に購入権を認めない。
多くの生徒は『廊下は走らない』の校則の下、屁理屈じみた早歩き競争を見せていたが、制空能力に自信のある一部の生徒は教室の窓から飛び降りるという選択肢を取っていた。

そして彼らは、皆一様に鼓膜を破壊され、聴力を喪失した。

(みれちゃん、ふひ、はろはろ! 新校舎ロビー、うふっ、かなり片付いたよ。ただ、罠抜けしたのが二人。あとはみれちゃんたちの方でなんとかしてね、ぐふ)
(わかりましたわ。ありがとう照子。亜由美? 聞こえて?)
(超 聞こえ ます)

素極端役亜由美。
いかにも内気なこの少女は、他人を傷つける事を好まない。
魔人能力は戦闘能力としてまともに機能せず、この魔人学園においては取るに足らない読んで字の如くの端役である。
――と、彼女自身は思い込んでいる。

魔人能力『MiS21』は、『競歩の要領で移動すること驚異的な速力を発揮する』能力である。
しかし彼女は廊下の競歩大会に参戦することはせず、四限をサボり、普通教室真下で待機していた。全ては、冬頭美麗の伝説の焼きそばパン獲得のために。
この魔人能力の真骨頂は、単なる高速移動ではない。音速を超えた超スピードによって発生される衝撃波、即ちソニックブームこそが最大の恐ろしさであった。僅か数mの至近距離でぶつけられる音波攻撃を前に、教室を飛び出した生徒たちは為す術も無く墜落、地表に叩きつけられたのだ。
あまりにも凶悪な能力であった。入学よりの一ヶ月、狂的な自己卑下により能力が明るみになることこそなかった。しかしその実、素極端役亜由美は、紛れもなく学園内最強クラスの戦力である!

(そちらの首尾はどうかしら?)
(お姉さまの 予想 ばっちりです 窓から めちゃ飛び出してきた 動きは止めた けど 絶対 手を抜かれてる 陰でまた 笑われるんだ つらい)
(もう、そんなにいじけないの。事が済んだら満足なさるまで慰めてあげましてよ)
(やった)
(では手筈通り、次はグラウンドへ向かっていただけるかしら)
(超 承知 です)

飼い慣らされた忠犬は、更に移動を開始する。


爆発音、爆発音。

爆発音。


◆◆◆


遊歩道を走る臥間にとって、それは突然のことだった。
視界を黒い影が横切ったかと思えば、脳を揺らすような爆発音、そして静寂。地面を転がって、ようやく吹き飛ばされていたことを理解した。

「  !」

奇襲を受けた。敵はどこに――

「  ……  、          ?」

声が、――いや、そうではない。

「    ……!!」

耳が、聞こえていない。

(なんだァ今のは!? ケッ、鼓膜がイっちまったか……!!)

前方。誰もいない。
右方。誰もいない。
左方。誰もいない。
拾った刀の柄に右手を添え、後方を振り返る。
ひょろ長い青年が、一人。こちらをしかと見据えてはいるが、苦々しそうに耳を叩いている。学ランのそこかしこに枝葉が引っかかっており、上から落ちてきたものと一目で理解できた。

(コイツじゃねぇな……まあ、敵にゃあ変わりないが)

素早く周囲を警戒する臥間。爆発の犯人はやはり見当たらない。

(迷彩能力でも持って……いや、あの爆発は間違いなく魔人能力だ。二人以上のチームという線もないではないが……)

おそらくもうこの場にはいないだろう。
もう一度青年に注意を向ける。少なくとも、今ここで攻撃を仕掛ける意思はないようだ。

(めんどくせぇから、マズったらその時後悔すっか)

身を翻し、購買部への移動を再開する。
敵に背を向けることになるが、爆発使いには既に先を越されているはずだ。ここで時間を使うわけにはいかなかった。

「  !」

――ああ、耳に残らない舌打ちとは、こうもイライラするものであったか。
臥間は、無意識に舌打ちを繰り返し、後悔した。


◆◆◆


不測。
そうとしか言いようがなかった。
不意の襲撃に樹上を落下し、聴覚は奪われた。
培ったパシリ力によってなんとか受け身は取れたが、襲撃者にはおよそ人外の速度で先行されてしまったし、なにより『福本剣』の男に気取られた。
状況はすこぶる悪い。
救いは、『福本剣』が戦闘の保留を選択してくれたらしいことか。

(先程の攻撃……あの速度と併せて考えるなら、以前習った衝撃波、というやつか。魔人能力である以上、その性質が現実のそれと全く同一と考えるのも危険だが……いや、嫉妬を感じずにはいられないな)

音速移動能力者。それは、仕橋にとって最大の難敵に数えられるであろう一人であった。

(しかし、絶望するのはもう少し後でいい。残る可能性を諦めれば、それこそ王の器に程遠い)

仕橋は、臥間に続く。


◆◆◆


その時、突然の爆音が戦場を蹴散らした。

(うわっ!?)
((季紗季ちゃん、大丈夫!?))
(な、なんとか……うん、平気)
((今の音、前からだ。正体は分からないけど、多分人の壁がなかったら耳をやられてたね……。触手を耳に回そう。右側の守りが手薄になるから、気をつけてね))
(わかった)

右手親指、先程まで二名の生徒の攻撃を流していた触手が引っ込み、右耳から伸びてくる。外耳の中で渦を巻き、後頭部を回って左耳へ。即席のイヤーマフだ。

(ハリガネムシくん)
((何?))
(前に出よう)

爆音攻撃によって、どうやら戦線は停止していた。正体の知れない攻撃ではあったが、季紗季は打って出るチャンスと判断した。

((……わかった。念のため、盾に一枚この人を利用しよう。気の毒だけど))

左手触手で先程まで鍔迫り合いをしていた生徒を縛り上げ、前方に掲げる。
少し心許ないが、この混戦を一気に突破する。


◆◆◆


真っ白な顔に、黒く取られた隈取りのような化粧。頭からは大量の流血、両腕は粉砕骨折。下半身をキャタピラに換装した異様なシルエット。
芸術棟校舎を出発した闇雲希は虫の息であった。

「ち、畜生、こんなところでいつまでも倒れてたまるかよ……俺の幸福の価値は重いんだぞ……安らかな眠りを……」

“貴様の願い、叶えてやろうか……?”

急激な浮遊感。世界は色を失い、時間を失い、ただ闇雲だけが取り残されていた。
明らかに異常な事態であるのに、闇雲はその全てを差し置いて問いかけに応じていた。まるで慣れたことだとでも言うように。

「あんだよ……欲しいよ……だからこうして焼きそばパン狙ってんだろ……寄越せよ」

“じゃあまた契約成立ってことで……”

「あァ? またってなんだよ」

その瞬間、突如明滅出現した魔方陣から世にも恐ろしい悪魔が出現した!
シャープに象られた前衛的な顔面。突き上げるような赤い角、黒い翼に山羊の脚。肌の上から巻き付けられたリベットベルトに火炎放射器。モヒカン……あとトゲパッド……誰の目にも明らかである! 世にも恐ろしい悪魔が出現した!

「本日13度目の契約成立おめでとう! まったく書類の書きすぎで我輩腱鞘炎になっちゃうぜ! 何度もきたない欲望が湧き出しちゃういい子ちゃんには出血大サービスだ! 受け取りな! 伝説の焼きそばパン、そのままあげちゃうぜーっ!!」

悪魔が足下の魔方陣に両腕を突っ込む!
おお、今まさに引き摺り出されるではないか……!
伝説の焼きそばパン……!

を!

食そうという少女!その腹筋は強靱であった!

「コングラッチュレイション!!」


◆◆◆


舟行呉葉は安堵していた。
一番乗りの購買部。無事確保した伝説の焼きそばパンと、安く投げ売られた変なお茶をレジに置き、ぴったりの小銭で会計を済ませる。
ミッションコンプリート。これで舟行呉葉のめくるめく出張旅行は、調達部の安泰は守られた。

「だいたい、事実無根の虚偽広告で、一個のみの限定商品を売り出そうなんて方がおかしいんすよね。何考えてるか知らねっすけど。裁かれるべきは購買部の方ですよ、公的組織の腐敗ですよ」

愚痴の割にご機嫌な様子で、ポニーテールを右に左に店舗を出る。戦闘不能者の山が見える。もちろん、先程舟行が築いたものだ。そのひとつに腰掛けて、鼻歌交じりに封を切る。

「では、いただきまーす」

肉体労働の後の食事は格別で、併せて買った『カレー緑茶』の味のほども楽しみだ。今この時、舟行は天にも昇る心地だった。
実際に摘み上げられ天に昇りつつあったことも、決して無関係ではないだろう。

中空に出現した魔方陣は、舟行と焼きそばパンを呑み込んで。
そうして舟行は、再び戦禍の中心へ放り込まれた。
なかなか体験できない次元旅行だ! やったね!


◆◆◆


「こ、これは……!?」

突然現れた焼きそばパンと、大包丁のポニーテール少女。
コープスペイントキャタピラマンは為す術も無く吹き飛ばされ、目の色を変え飛びかかった生徒たちもみるみるうちに無力化されていった。

『三銃士』の一人・罠大居は、ロビーの戦線破壊ののち購買部のカメラ映像をジャックしていた。何か異常があればすぐに連絡が入る手筈である。しかし。

「どこからどう見ても伝説の焼きそばパンですわ……あの平たい麺は下々の食する焼きそばとは離れた形状ですが、いつもじいが作ってくれる焼きそばはあんな感じですわ……」

じいが愛知県出身であったことが災いした……!


◆◆◆


「ちょっ……もー、なんすかこれ! どういうことっすかね!」

右の敵を柄で打ち、左からの攻撃を悠々腹で流す。
思い切り身を捩り、峰でまとめて薙ぎ倒す。
一瞬にして五人あまりが意識を失った。
五尺ほどもある大振りの包丁を身体の一部であるように扱いこなしている。当然である。舟行の日常は、自然の驚異そのものとさえいえる巨躯凶暴の怪物と共にあるのだから!

「私、本来でっけーの専門なんすよ」

薙ぐ。
小さな悲鳴と共に、四名が吹き飛ばされる。

「こういう小っちゃい群体は……あんま得意じゃないっす」

薙ぐ。
背後から隙を突いたはずの二名が、背骨を粉砕される。

残るは令嬢系女子、ただ一人。


◆◆◆


じかいよこく
「いつの間にかめっちゃクレバーになってた季紗季とハリガネムシくん! 予想に反して扱いが小さくなってしまっている住吉とパン崎! 軽率に出してみた福本剣は未だ振るわれておらず! このパワーバランスを一体どのように乗り切るのか! 果たしていつか乗り切るのか! 次回!『SSRace落第篇』。おれはもうだめだすまねえ!」
最終更新:2015年05月07日 19:15