【ミケナイトの大冒険!】
第4話『VS桐谷流』
ミケナイトは散歩が大好き。
今日も独りでお散歩するの。
独りじゃ寂しくないかって?
大丈夫。タマ太はいつでも一緒だから。
「もうすぐハルマゲドンだし、工作室に行ってスコップの手入れをしよう」
ミケナイトの武器のスコップは、狩るにゃんイクイップメントで巨大化・変形して斬馬大円匙になるので基本的にはメンテナンスフリーです。
でも、騎士たる者の心得として武器の状態を良好に保つための作業は精神的に大切なのです。
ミケナイトが工作室に着くと、長い直定規にアルミホイルを巻いている女子生徒がいました。
桐谷流です。
「こんばんは。馬術部のミケナイトです」
「……」
流は、ミケナイトのことを見ると、首だけで軽く会釈をして、すぐに作業に戻りました。
でも、無口であまり愛想はよくありませんが、決して悪い子ではないのはみんな知っています。
それにしても、見れば見るほど定規にアルミホイルを巻いているだけで、殺傷力があるようには見えません。
しかし、奇妙な武器を持ってる相手ほど油断してはいけないのは魔人戦闘の常識です。
それに、ミケナイトのスコップだって、メインウェポンとして一般的とは言えませんし。
「……できた」
流がアルミホイルを巻き終えた定規を掲げます。
きらり。LED蛍光灯の光を反射した剛剣「銀時雨」が一瞬、本物の真剣に見えたのでミケナイトはぞくりとしました。
ミケナイトは、切り落とされた両手の爪を見て考えます。
刃物の切れ味を異常強化する斬子さんと、刃物でない物に刃物並みの切れ味を与える流さんのどっちが凄いのだろうか、と。
……すこし考えて、結論は「どっちもスゴイ」に落ち着きました。
「豆乳でも飲みます?」
ミケナイトは、流に黄緑色のパックを差し出しました。
「……ありがと」
流はぼそりと御礼を言ってパックを受け取りました。
「……」「……」
二人はしばらく無言で豆乳を飲みました。
ストローを啜る音だけが、工作室に響きます。
でも、それは決して気まずい沈黙ではありませんでした。
なにより、豆乳が美味しいですし!
「……もしかしたら」
流はぽつりと言いました。
「私の剣は間違っているのかもしれない」
「えっ……流さん、突然どうしたの?」
あまり胸の内を話すことがない流が、急にそんなことを言い出したのでミケナイトは驚きました。
「正義のために、私は斬って斬って斬りまくってきた……でもたまに思うんだ。本当のヒーローが歩く道は、こんな血まみれの道とは違うんじゃないかって……」
(本当の道……)
ミケナイトは、言葉に詰まりました。
ハッピーエンドメーカーは言いました。
魅羽とタマ太のエンディングは、本当のハッピーエンドではないと。
(本当って、なんだろう……?)
ぢゅーー、ごくん!
残った豆乳を一気に飲み干し、深呼吸してから、ミケナイトは力強く言いました!
「大丈夫! 流さんは正義を信じて真っ直ぐ戦って来たんです! だから流さんの道は偽物なんかじゃありません!」
そうだよね、タマ太。
「……うん」
流も小さく、でも力を込めて頷きました。
「それじゃあ景気付けに、マタタビしましょう!」
「……うん!」
そして二人はマタタビを吸って、とても良い気分になりました!
「狩るにゃん! 狩るにゃん! 狩るにゃん!」
「悪は斬るべし! 悪は斬るべし! 悪は斬るべし!」
スコップと、ホイル巻き定規を掲げてトキの声を上げます!
するとどうでしょう!
スコップが巨大化して斬馬大円匙に!
ホイル巻き定規が鋭く輝く剛剣「銀時雨」に!
「っりゃあーっ!」
「斬っ!」
気合いのこもった二人の斬撃は、工作室の頑丈な机を易々と破壊しました! スゴイ!
「コラーッ!! 机を壊すなーっ!!」
準備室にいた先生が騒ぎを聞きつけて飛び出してきました!
「やばっ! 逃げるにゃ!」
「……承知っ!」
先生を狩るにゃん渦に巻き込んで転ばせた隙に、二人はダッシュで逃げ出しました。
危ないところでした!
そして、迷いが晴れて元気なった流は、ミケナイトと共にハルマゲドンを戦い抜くことを誓ったのでした。
めでたしめでたし。
……ちなみにミケナイトは、後で話を聞いた風紀委員長の蒲郡さんからこってり説教を喰らったそうです。
最終更新:2014年07月18日 23:33