【ミケナイトの大冒険!】
第5話『VS佐渡ヶ島 貞仁』
ミケナイトは散歩が大好き。
今日も独りでお散歩するの。
独りじゃ寂しくないかって?
大丈夫。タマ太はいつでも一緒だから。
「にゃっにゃにゃ、にゃにゃにゃん、にゃにゃんにゃにゃー♪」
ご機嫌な様子で調子外れの歌を口ずさみながら藪をかき分けかき分け、森の中の獣道をミケナイトが歩いています。
明日はいよいよハルマゲドン。
ミケナイトは気合いを入れるために、初めて魔法少女に変身したあの場所へ御参りしてきた帰りです。
御供えのマタタビを自分でもちょっと嗅いだので、ほろ酔い気分で上機嫌なのです。
獣道を抜けて遊歩道に戻ると、そこには見知った顔の男子生徒がいました。
生徒会陣営に所属している佐渡ヶ島貞仁です。
(だけど……)ミケナイトは警戒しました。(どうして佐渡ヶ島くんがこんな場所に?)
「こんにちは。……馬術部のミケナイトです」
緊張しながらミケナイトは挨拶しました。
「……佐渡ヶ島……貞仁だ」
ぎろり。殺気の籠もった目で貞仁はミケナイトを睨み付けます。
その手には空気銃。
空気銃と言ってもサバイバルゲームで使うような玩具ではありません。
人を殺害するのに十分な威力を持った狩猟用の空気銃です。
しかし、この溢れ出す殺気は一体……?
(私をここで消してスタメンの座を奪うつもり……?)
ミケナイトは腰のスコップを静かに抜き、マジカルワードを唱えました。
「――狩るにゃんイクイップメント」
変身! 狩るにゃんフィールド展開!
(チッ、また俺ってば誤解されてるみたいだぜ)
貞仁は将来猟師として生活するための予行演習として、フィールドトラッキングしていて偶々ミケナイトと遭遇しただけでした。
でも、凶悪な人相と溢れ出す天然モノの殺気が物凄いので、ミケナイトが誤解したのも無理はありません。
(……降りかかる火の粉は払う)
かちゃっ。空気銃のセーフティー機構を解除して貞仁は構えました。
言い訳をしないのは男らしい態度かもしれませんが、話せば誤解は解けたんじゃないかなーとは誰もが思うことでしょう。
魔法の特大スコップを構えるミケナイト。
銃身の長い狩猟用ライフル空気銃を構える貞仁。
二人の間の距離は8m。
飛び道具を持つ貞仁の間合いですが、ミケナイトの突進力ならば一瞬で詰めることができるでしょう。
(この状況……)
貞仁は動けません。
先に発砲すれば、ミケナイトはその敏捷性で銃弾を回避して一気に接近し、必殺の狩るにゃんヴォルテックスを決めてくるでしょう。
(この勝負……)
ミケナイトも動けません。
もし自分から飛び込めば突進経路を先読みした貞仁の銃撃は正確に急所を撃ち抜いてくるはずです。
この距離でライフル空気銃が相手だと、狩るにゃんミスディレクションによる軌道攪乱は極めて僅かで役に立ちません。
二人が睨み合ったまま、動かない状態が続きます。
ざわざわざわ。
風に揺れる森の木々が不吉な囁き声をあげます。
……そんな二人の様子をこっそりと窺ってる者がいました。
観察者の視界では緑色の円が、ミケナイトと貞仁をロックオンしています。
円からは引き出し線が伸び、緑色の文字で情報が表示されています。
『Miké-Knight / Grade: 2 / Prop: 92-68-90 / Club: Equestrian / Committee: Disciplinary ...(more)』
『S.Sadogashima / Non-human [EOF]』
そして、視界の中央に大きく警告表示が現れました。
『CAUTION: 暴走特急ゆりかもめ間もなく発車いたします』
第5話+『VS百合原かもめ』
ミケナイトは思わず叫びました。
「貞仁くん後ろっ!」
罠かと疑ったために反応が一瞬遅れたことが、貞仁にとって致命的でした。
振り向いた時には既に、猛スピードで迫り来る暴走特急ゆりかもめは衝突寸前でした。
どかん! 貞仁を撥ね飛ばしたことを気にも掛けず、
百合原かもめはミケナイト目掛けて猛突進!
〔佐渡ヶ島貞仁:軽傷。気絶により戦闘継続不能〕
「ひゃああああー!?」
ミケナイトは全力で狩るにゃんレイノルズ数操作しながら必死で避けます!
ずざーっ! 狩るにゃん渦に足を掬われて、暴走特急は豪快にヘッドスライディング!
しかし不屈の百合魂ですぐに立ち上がった百合原かもめの視界内に再び警告表示!
『CAUTION: 暴走特急ゆりかもめ間もなく発車いたします』
「うわーっ! ヤバいヤバいヤバいーっ!」
身の危険を感じたミケナイトの全身が赤熱! 狩るにゃんベスティアリ!
爆発的に向上した身体能力によってミケナイトは、疾風の如き迅さで逃げ出しました!
全身から湯気を上げながら、ミケナイトは蒸気機関車のように猛ダッシュで森の中を走ります。
しかし、振り向くとそこには汗ひとつかかずに迫り来るアンドロイド少女の姿が!
「うそーっ!? なんでベスティアリについて来れるのーっ!? っりゃああーっ!」
ミケナイトは斬馬大円匙を振るいます!
狩るにゃんヴォルテックス!
ぎゅうん! ぎゅううん!! ぎゅううーん!!!
殺人的スコップが三回転!
しかし百合原かもめは三連撃をすべて回避! 速い!
「そぉーれっ!」
ヴォルテックス後の硬直時間を狙って特急タックル!
ミケナイトの腰に抱き付く百合原かもめ!
(うっわわー! やわらかーい!)
抱き心地を楽しみつつ優しくテイクダウン!
がん、がらん、がらーん!
あっ、倒れた拍子に斬馬大円匙を取り落としてしまいました!
「やめっ! やめるにゃーっ!」
ミケナイトは爪を出して引っ掻きますが、斬子さんに切断されて鈍った爪では、かもめの強靱なメカニカルボディには傷ひとつ付きません。
「悔しいにゃ……ベスティアリで体力消耗してなければこんな奴に……」
猫にとって百合は、大変危険な植物です。
百合の葉や花を食べるといけないのはもちろん、花粉を吸ったり花瓶の水を飲んだだけでも、深刻な中毒症状を起こします。
ひとたび百合中毒を起こしてしまった猫は腎臓に回復不能な破壊を受け、適切な治療を受けたとしてもほとんどが一週間程で死に至ります。
ああ、ミケナイトの運命やいかに。
「行きましょうお姉さま! 私達の、ハッピーエンドの向こう側へ!」
「そんなのいらないっ! そんにゃハッピーエンド……んにゃ、にゃっ……にゃあああーん!」
めでたしめでたし。
最終更新:2014年07月18日 23:37