ジャン・マリー=クロワザール エピローグSS
& ~さあさ、答え合わせと参りましょう~
文月ひさぎ フィナーレSS
突然ですが私からの挑戦状、受け取っていただけたでしょうか?
え、何のことやらわからない? まぁ、ハルマゲドンが象と大統領の尊い犠牲の上に平和裏の内に収まって、みなさん無事にお家に帰った以上、殺人事件の事なんて誰も覚えていないのが正解でしょう。
しかし「暦」の一員の義務として、今回の顛末を元当事者の視点から報告していきたいと思います。その過程の中できっと真実は明らかにされ、私が何者であるかもまた理解いただけることでしょう。
ハルマゲドンが終わってしまった――。
スズハラ機関の陰謀も、
転校生の暗躍も、すべてうっちゃって、もしかしたら象を殺すことが今回の目的ではなかったのかと言うほど、あっけない幕切れだった。
ぞう! かわいそうなぞう!
「象が死んだあ! 象が死んだあぁ!」と象係の人は嘆き悲しみ、走り回ったのでしょうか?
番長グループの人達は、餌も水も十分に与えられずに戦い半ばに手倒れた彼女の姿を見て「戦争だけはしてはならない」と悟ったのか、もしくは疲れ切ってしまったのか定かではない。
大統領は暗殺されました。
大統領が任期半ばにして副大統領に譲位する事案はそう珍しくないが、下手人が探偵と言う点は難しい。探偵とは得てして社会に特定の役割を持とうとするが、犯人たる「
・・・My捜」はその中でも稀な、叶わずして世捨て人になった人物である。
それが探偵の原初の形と言えば、それまでかも知れないが。
詳しくは専門外であるので省くが、古代より帝直属の化外の民として身分制度の枠外に外れた人々、その一派が探偵の源流と言われている。
探偵が犯人と言うのは珍しくない。
それは犯人を暴くと言う行為それ自体が加害者の傲慢さを孕んでいるかに他ならない。
殺人が緊急避難の側面があるとして変わらず断罪する、極限の探偵に被害者は慄き、呪いの言葉を吐く。
明かされなければよかった罪に加害者の家族が翻弄される、探偵さえいなければそもそも事件は起きなかった、よく聞く話である。
そして探偵は拳を傷めずにして放てる飛び道具を所持していない。作用には反作用、物理法則がある。それだけである。
そして、彼女に傲慢であろうとする意志があったかは怪しい。
確かに対象が虚しいから消滅させようと言うのは攻撃的な行為と断言していい。仮奏世界に帰って無関係の漂泊人であり続けていない時点で、そうであるかもしれない。
転校生を消滅させるという形で番長グループと言うコミュニティに貢献し、その反動で浮世より離れた彼女の生き方は、図らずも探偵としての責任の取り方であり、何より謙虚であったと信じています。
傲慢にならずして、正面から探偵の業を受け止めようとするなら何かを壊すしかないのでしょう。
変態であるか変人であるか、そのどちらかであるにしても世の間を傷つけながら、それ以上に身の内を傷つけながら進んでいく求道者、それが現代まで続く、探偵の在り方なのです。
これが、知り合いの人工探偵(フィギュア・ディテクティブ)の受け売りであることは認めますが、世界が崩壊した未来でも崩壊していない過去でも変わらずに、私達人間に尽くす姿を見ると感じいるしかないのです。
この際、大統領と言う役割はどうでも良いでしょう。
探偵が彼女と引き換えに盤面上から排除された現状、新聞部部長・古尾天災がいくら奮闘しようとミステリーの季節は過ぎ去って、黒幕の関わらないありきたりな解決編のみが探偵ならぬ身に訪れる。
ハッピーエンドの渦は関わる者すべてに例外でなく押し寄せようとしていた。
ハッピーエンドメーカーが引っ込まず、盤上に躍り込んできたのにはやはり理由があったようです。
「きゃはははははは、大笑いだねっ。……結局、僕たちはハッピーエンドを覆せなかった。神様とやらは喜劇も悲劇も同じく娯楽として楽しんでいたというのに、結末としては茶番劇がお好みだったようだ。はぁ……」
「して、どうされますか? ハッピーエンドが向こうからやってくるまでに逃げますか?」
「逃げる? 逃げるか……、僕だけのメリーバッドエンドに逃げ込むだけならできそうだけど……。例えば、こうだ。あの時の言葉を覚えているね? もし、ぱとすちゃんが僕の中で死んでいなかったら――としたら?」
口舌院ろごす、ハルマゲドンと殺人鬼がどのようなハッピーエンドを辿ったか、探偵の真似事をする以上、このジャン・マリー=クロワザールが語る紙面は残されていないでしょう。
よって省くことにいたしますが、口舌院さんは快く犯人との対決を譲っていただけました。
それだけは申し上げておきます。そして、探偵ならぬ道での解決編に死が伴うこともわかっていただけるでしょう。
「本当に、本当に、ありがとうございます」
だから、この言葉は皮肉でも何でもない感謝の言葉に他ならない。前もってメッセージを送っておいたとは言え、一対一の対決を了承いただけたのですから。
ここが、双方にとっての敵か味方かわからない「暦」の腹の内であるからこそ、かもしれませんが。
「一年前の事件、三ヶ月前の事件、口舌院さん、そして"あなた"の手前、同一犯のものであるとほぼ断言させていただきましたが、実のところ確証はなかったので半分はハッタリで、かつ保険でした。
少しでも協力者を増やして『スズハラ機関』を引きずり出すのも目的の一つであったので、その辺りでは強力な探偵の『・・・My捜』さんと強力な動機と情報を持つ古尾さんを引き入れられなかったのは痛恨でしたね
結局、転校生に因縁のある片倉さんを病院送りにされた上に、ドサクサのなし崩しでハルマゲドンを終戦にまで持ち込んだ皿ヶ嶺の手腕には恐るべきものがありますね。最初から最後まで、彼の掌の内だったのですから。
まぁ、それも済んだことです。本題に入りましょうか。
あなたも説明されるまでもなく、既に分かっておられるとは思いますが、結論はともかく経緯までは副部長と皐月さんは把握されていないでしょうから、一応言わせていただきますね――」
ここからが本番。
観衆と言う抑止力が犯人と身内であるかもしれない、と言う不利な状況で素人探偵がいつまで独壇場を演じられるか、それは殺人犯の理性と言うか細いものに頼っている。
一秒、二秒、反応はない。
十秒、二十秒。三十秒――! 早く言えと言われた、勝った!
「答えは、口舌院さんが自身にした質問にありました。ここで言う質問とは最後のもの、『姉になるか?』、『
生徒会の他のメンバーに声をかけないことへの同意の呼びかけ』など、直接呼びかけたものではないのでわかりにくいかもしれませんが、彼はちゃんと犯人の目星を付けていましたよ。
つまり。
やぁ。突然だが~
ぁ、あーあ~
僕もそれは~
だっ、それなら~
よよよ、どうしたのよ~
犯人について~
人間が無駄に多いから~
は、きゃははははは~
水を取るなら~
無い無い~
つっ――ハッピーエンドで~
きゃははは~
でもこれは転校生が~
素晴らしい推理だね!~
かー、それはね~
はぁ、よくわかるね~
てっ、正確にはハルマゲドンに~
なんとなくわかりました。僕からの質問はこれ以上ありません。
おそらく、最初は単なる遊びのつもりが、途中から切り替えたのでしょう。
流石は口舌院ですね。こちらに監視の目が入っていると知ってすぐにとは、素晴らしい。
そして、それに対する答えはこうです。つまりは『YES』と。
今となっては聞きに行くことも出来ませんが、口舌院さんもある程度犯人の目星はつけていたのでしょうね。
やぁ僕だよ犯人は水無つきで素かはてな
やぁ僕だよ犯人は水無月ですか?
はい、そうです。
ですよね。
文月ひさぎさん、いいえ。
水無月劫穉の留守中に封印されし、血塗られた別人格『水無月ひさぎ』!
あなたが一年前の『暦』大量殺人事件の犯人です!
最終更新:2014年07月26日 15:18